【論文199】帰ってこられるかを決めているのは、分母の指数である

要旨

格子の上をでたらめに歩く点が出発点に帰ってくるかどうかは、次元だけで決まる。本稿はその境目が一つの分数の分母に立つ指数であることを数で示す。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、原点に戻る確率はべきで落ち、その指数は次元の半分である。$\log p$ を $\log n$ に対して当てはめると傾きは $-0.498567$、$-0.997134$、$-1.495710$ であり、$-d/2$ と $4.3\times10^{-3}$ 以内で一致した(第2節)。

第二に、決めているのはその和である。$\sum n^{-d/2}$ が発散するのは $d\le2$ のときだけであり、境目は指数がちょうど $1$ になる $d=2$ にある(第3節)。

第三に、更新方程式で初回帰還を厳密に出した。一次元では閉じた形 $1-\binom{2n}{n}/4^n$ と差ゼロで一致し、道具の正しさを先に確かめてある(第4節)。

第四に、これが本稿の芯である。必ず帰るのに、帰るまでの平均時間は無限である。一次元と二次元では打ち切った平均帰還時間が $2N=600$ で $19.5$、$28.0$ と伸び続けるのに、三次元では $6.95$ で落ち着く。三次元で落ち着くのは早く帰るからではなく、大半が二度と帰らないからである(第6節)。

第五に、二次元の「必ず」は計算では見えない。帰還確率を外挿すると一次元は $0.999954$ に達するのに、二次元は $0.853135$ で止まる。収束が対数だからであり、これは計算の失敗ではなく対数の速さそのものである(第7節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ポリアの再帰性定理、更新方程式、三次元のグリーン関数は、いずれも標準的である。ポリアの定理を証明しない。本稿は定理がどこで切り替わるかを数で見るだけである。一般の格子や重みつきの歩みを扱わない。数値はすべて単純対称ランダムウォークである。三次元の帰還確率の厳密値を導出しない。本稿の $0.340515$ は自前の外挿であり、閉じた形の評価ではない。論文94 との関係:94 は「次元」という語の別根を点呼した。本稿は点呼ではなく、一つの機構を書く。論文190 との関係:190 は「稀」が対数の目盛りで測られることを書いた。本稿の第7節は、その目盛りが確実性の側にも効くことを示す。加えたのは帰還確率のべき指数を当てはめて次元を読んだこと、更新方程式を閉じた形で検証してから使ったこと、必ず帰るのに平均時間が無限であることを打ち切りの伸びで測ったこと、二次元の確実性が有限の計算では見えないことを外挿の失敗として示したことである。

1. 記法と位置づけ

$d$ 次元の整数格子の上で、各歩ごとに $2d$ 個の隣のどれかを等確率で選ぶ歩みを考える。原点から出発し、$p_{2n}$ を「$2n$ 歩目に原点にいる確率」、$f_{2n}$ を「$2n$ 歩目に初めて原点に戻る確率」とする。奇数歩では原点に戻れないので偶数だけを見る。数値はすべて自前の計算である。

位置づけ:論文94 は「次元」という語の別根を点呼した。本稿は点呼をしない。扱うのは一つの機構であり、その機構は一つの分数の分母に立つ指数に集約される。

2. 原点に戻る確率はべきで落ち、指数は次元の半分である

検算 2.1:$p_{2n}$ を厳密に計算する。一次元では $\binom{2n}{n}/4^n$、二次元は座標を $45$ 度回すと二本の独立な一次元の歩みに分かれるのでその二乗、三次元は多項係数の和である。

歩数 $2n$ $d=1$ $d=2$ $d=3$
$2$ $5.000000\times10^{-1}$ $2.500000\times10^{-1}$ $1.666667\times10^{-1}$
$10$ $2.460938\times10^{-1}$ $6.056213\times10^{-2}$ $1.939193\times10^{-2}$
$40$ $1.253707\times10^{-1}$ $1.571781\times10^{-2}$ $2.560034\times10^{-3}$
$100$ $7.958924\times10^{-2}$ $6.334447\times10^{-3}$ $6.549233\times10^{-4}$
$200$ $5.634848\times10^{-2}$ $3.175151\times10^{-3}$ $2.324181\times10^{-4}$
$300$ $4.602751\times10^{-2}$ $2.118532\times10^{-3}$ $1.266704\times10^{-4}$

検算 2.2:$\log p$ を $\log n$ に対して $n=50$ から $150$ で当てはめる。

$d$ 当てはめた傾き $-d/2$ 差
$1$ $-0.498567$ $-0.5$ $1.43\times10^{-3}$
$2$ $-0.997134$ $-1.0$ $2.87\times10^{-3}$
$3$ $-1.495710$ $-1.5$ $4.29\times10^{-3}$

観察 2.3 分母に立つ指数が、次元の半分である。残差はいずれも $10^{-3}$ の程度であり、$1/n$ の補正に由来する。歩みを見なくても、確率がどれだけ速く落ちるかを測れば次元が読める。

3. 決めているのは、その和である

原点に戻る回数の期待値は $\sum_n p_{2n}$ である。これが発散すれば無限回戻り、収束すれば有限回しか戻らない。

検算 3.1:部分和を測る。

$N$ $d=1$ $d=2$ $d=3$
$10$ $2.700138092$ $0.822389343$ $0.374121551$
$50$ $7.038512976$ $1.316257723$ $0.450891793$
$100$ $10.326044281$ $1.534527264$ $0.469902103$
$150$ $12.854281840$ $1.662798990$ $0.478384820$

$d=1$ の部分和を $\sqrt N$ で割ると $1.049548$、$d=2$ の部分和を $\log N$ で割ると $0.331854$ であり、それぞれ $\sqrt{}$ と $\log$ の速さで伸びている。

検算 3.2:同じことを、歩みを離れて $\sum n^{-d/2}$ で見る($10^{6}$ 項まで)。

$d$ $d/2$ $10^{6}$ 項までの和 判定
$1$ $0.5$ $1998.540145$ 発散
$2$ $1.0$ $14.392727$ 発散
$3$ $1.5$ $2.610375$ 収束
$4$ $2.0$ $1.644933$ 収束($\pi^2/6=1.644934$)

観察 3.3 境目は歩みの側にはなく、指数の側にある。$\sum n^{-s}$ が発散するのは $s\le1$ のときであり、$s=d/2$ がその境をまたぐのはちょうど $d=2$である。

4. 道具を先に検証する:更新方程式

初回帰還の確率 $f_{2n}$ は、更新方程式 $p_n=\sum_{k=1}^{n}f_k\,p_{n-k}$($p_0=1$)から逐次に取り出せる。使う前に、答が分かっている場合で確かめる。

検算 4.1:一次元では「$2n$ 歩までに戻っている確率」に閉じた形 $1-\binom{2n}{n}/4^n$ がある。

$2n$ 更新方程式 閉じた形 差
$10$ $0.753906250000$ $0.753906250000$ $0$
$100$ $0.920410762613$ $0.920410762613$ $0$
$300$ $0.953972485581$ $0.953972485581$ $0$
$600$ $0.967440068665$ $0.967440068665$ $0$

観察 4.2 差はゼロである。新しく書いた道具は、答が分かっている問題に先に当てる。そのうえで、答が分かっていない二次元と三次元に使う。

5. 三次元では、三回に一回しか帰らない

検算 5.1:$2n$ 歩までに戻っている確率を三つの次元で測る。

$2n$ $d=1$ $d=2$ $d=3$
$20$ $0.823802948$ $0.479596360$ $0.277437017$
$100$ $0.920410763$ $0.583222193$ $0.311937514$
$200$ $0.943651521$ $0.616962503$ $0.320280212$
$400$ $0.960130698$ $0.645882211$ $0.326201345$
$600$ $0.967440069$ $0.660934075$ $0.328828768$

検算 5.2:$1/\sqrt n$ に対して当てはめて $n\to\infty$ に外挿すると、三次元の帰還確率は $0.340515178$、対応するグリーン関数は $1/(1-q)=1.516335126$ であった。

観察 5.3 この $0.340515$ は外挿であって導出ではない。閉じた形の評価は本稿の仕事ではない。言えるのは、三次元では帰る確率が $1$ ではなく三分の一程度だということである。

6. 芯:必ず帰るのに、帰るまでの平均時間は無限である

検算 6.1:$2N$ 歩で打ち切った平均帰還時間 $\sum_{n\le N}2n\,f_{2n}$ を測る。

$2N$ $d=1$ $d=2$ $d=3$
$20$ $3.523941$ $2.411107$ $1.207289$
$100$ $7.958924$ $7.409578$ $2.793136$
$200$ $11.269696$ $12.267055$ $3.981686$
$400$ $15.947721$ $20.569066$ $5.662609$
$600$ $19.535959$ $27.987728$ $6.952444$

観察 6.2 一次元と二次元では、打ち切りを伸ばすたびに値が伸び続ける。帰ることは確実なのに、帰るまでの時間の平均は無限である。裾が重すぎて平均が立たない。

観察 6.3 三次元で値が落ち着く理由を取り違えてはならない。早く帰るからではなく、大半が二度と帰らないからである。帰らない歩みは、この和に一度も現れない。同じ「落ち着いた数」が、片方では速さを、もう片方では不在を意味している。

7. 二次元の「必ず」は、計算では見えない

検算 7.1:帰還確率を外挿する。一次元と三次元は $1/\sqrt n$ で、二次元は $1/\log n$ で当てはめた。

$d$ $2n=600$ での値 $n\to\infty$ への外挿
$1$ $0.967440069$ $0.999954180$
$2$ $0.660934075$ $\mathbf{0.853135363}$
$3$ $0.328828768$ $0.340515178$

検算 7.2:二次元でまだ戻っていない確率を追う。

$2n$ まだ戻っていない確率 $q$ $1/q$ $\log n$
$40$ $0.470734836$ $2.124$ $3.00$
$100$ $0.416777807$ $2.399$ $3.91$
$200$ $0.383037497$ $2.611$ $4.61$
$400$ $0.354117789$ $2.824$ $5.30$
$600$ $0.339065925$ $2.949$ $5.70$

観察 7.3 二次元の帰還は確率 $1$ で起きる。それは定理であって、疑いようがない。それでも $600$ 歩たった時点で三分の一がまだ帰っておらず、外挿は $0.853$ で止まる。$1/q$ は $\log n$ とともにゆっくり伸びており、$q$ が $0$ に落ちるのは対数の速さである。

観察 7.4 これは計算の失敗ではない。$q\sim c/\log n$ ならば、$q$ を $10$ 分の $1$ にするには歩数を十乗しなければならない。論文190 は「稀」が対数の目盛りで測られることを書いた。ここでは同じ目盛りが確実性の側に効いている。「確率 $1$ で起きる」と「有限の観測で見える」は、別の主張である。

8. 境目は、歩き方ではなく指数にある

検算 8.1:$\sum n^{-s}$ を $10^{7}$ 項まで測る。

$s$ $10^{7}$ 項までの和 判定
$0.5$ $6323.095124$ 発散
$0.9$ $40.688610$ 発散
$0.99$ $18.066243$ 発散
$1.0$ $16.695311$ 発散
$1.01$ $15.464140$ 収束
$1.1$ $8.589186$ 収束
$1.5$ $2.611743$ 収束

観察 8.2 $s=0.99$ と $s=1.01$ の部分和は $18.07$ と $15.46$ であり、ほとんど違わない。それでも片方は無限へ行き、もう片方は止まる。境目は見た目には現れない。見えるのは値ではなく、指数がどちら側にあるかだけである。

観察 8.3 ゆえに「三次元では帰りにくい」という言い方は弱すぎる。三次元で起きているのは程度の変化ではなく、和が収束するかしないかという種類の変化である。そしてその種類を決めているのは、$n^{-d/2}$ の分母に立つ指数だけである。

9. 点呼と結び

本稿が確かめたことを並べる。

  1. 帰還確率のべき指数は $d/2$(検算2.2):傾き $-0.498567$、$-0.997134$、$-1.495710$。
  2. 決めているのはその和(検算3.2):境目は指数が $1$ になる $d=2$。
  3. 道具を先に検証した(検算4.1):一次元の閉じた形と差ゼロ。
  4. 三次元の帰還確率は $0.340515$(検算5.2、外挿であって導出ではない)。
  5. 必ず帰るのに平均時間は無限(検算6.1):$2N=600$ で $19.5$、$28.0$ と伸び続ける。
  6. 三次元で落ち着くのは不在のため(観察6.3)。
  7. 二次元の「必ず」は計算では見えない(検算7.1):外挿が $0.853$ で止まる。
  8. 境目は見た目に現れない(検算8.1):$18.07$ 対 $15.46$。

結び:でたらめに歩く点が家に帰れるかどうかは、地形にも歩幅にも運にもよらない。よるのは、原点に戻る確率が落ちる速さ、そしてその速さは $n^{-d/2}$ であり、決めているのは分母に立つ指数だけである。指数が $1$ 以下なら和は発散し、必ず帰る。$1$ を超えれば和は止まり、大半は二度と帰らない。$d=2$ はその境目にちょうど乗っており、そこでは帰ることは確実で、待ち時間の平均は無限で、しかも確実さは有限の計算では見えない。三つとも同じ一つの事実の顔である。指数がちょうど $1$ だ、という事実の。

参考文献

  1. Pólya, G. (1921). Über eine Aufgabe der Wahrscheinlichkeitsrechnung betreffend die Irrfahrt im Straßennetz. Mathematische Annalen, 84.
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  3. Feller, W. (1968). An Introduction to Probability Theory and Its Applications. Volume 1, third edition. New York: Wiley.
  4. Spitzer, F. (1964). Principles of Random Walk. Princeton: Van Nostrand.
  5. Doyle, P. G., Snell, J. L. (1984). Random Walks and Electric Networks. Washington: Mathematical Association of America.
  6. 山岸勇輝 (2026). 「次元」は一つではない [論文94]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758581
  7. 山岸勇輝 (2026). 「次元の呪い」は一つの呪いではない [論文182]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22104170
  8. 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
  9. 山岸勇輝 (2026). 「小さな世界」は、三つの別の主張である [論文192]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106544
  10. 山岸勇輝 (2026). 「収束する」は四つの別の主張であり、分けているのは何を捨てることを許すかである [論文197]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22107590
  11. 山岸勇輝 (2026). 「まっすぐ」は「最短」を意味せず、柵は二つある [論文198]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22107954

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「帰ってこられるかを決めているのは、分母の指数である」[論文199]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22108396

YOI 199第1版・2026年8月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 帰ってこられるかを決めているのは、分母の指数である [論文199]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/199 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22108396

Yamagishi, Y. (2026). What Decides Whether You Come Home Is the Exponent in the Denominator [Paper 199]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/199; DOI: 10.5281/zenodo.22108396

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