要旨
「マグニチュード」は一つではない。$M_L$・$m_b$・$M_S$・$M_w$ の四つがあり、$M_w$ 以外は大地震で頭打ちになる。本稿が問うのは、頭打ちになっているのは地震か、尺度かである。答は、尺度である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、四つの尺度は測る周期が違う。$M_L$ が $0.1$ 秒、$m_b$ が $1$ 秒、$M_S$ が $20$ 秒、$M_w$ は周期を選ばない(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。$m_b$ は $M\simeq6.5$ で頭打ちになるので、$M_w=9.0$ の東北地震を測るとエネルギーを $\mathbf{5623}$ 分の一に見積もる(第3節)。
第三に、$M_S$ でも $7.94$ 倍足りない。$M_S=8.4$ と $M_w=9.0$ の差 $0.6$ は、エネルギーでは $\mathbf{7.9433}$ 倍である(第3節)。
第四に、小さい地震では起きない。$1995$ 年兵庫県南部では差が $0.10$、エネルギーで $1.41$ 倍にとどまる(第4節)。
第五に、原因は破壊の継続時間である。東北の破壊は $\mathbf{150}$ 秒続き、$M_S$ の見る $20$ 秒の $\mathbf{7.5}$ 倍である(第5節)。
第六に、分離子は「震源時間が観測周期を超えるか」である。$M_w$ だけが飽和しないのは、周期を選ばず $M_0$ を直接測るからである(第6節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。$M_w=\frac{2}{3}\log_{10}M_0-6.07$、$\log_{10}E=1.5M+4.8$、各尺度の飽和値、東北地震の破壊継続時間は、いずれも標準的である。地震学を作らない。使うのは二つの一次式と、一つの割り算だけである。地震を予知しない。発生時期も場所も規模も一切扱わない。震源過程を論じない。破壊の伝播も、すべりの分布も扱わない。継続時間を代表値として置くだけである。飽和値の精度を主張しない。$M_L\simeq6.8$、$m_b\simeq6.5$、$M_S\simeq8.5$ はおおよその値であり、観測網と手続きによって $\pm0.3$ 程度動く。$\omega^{-2}$ 模型を主張しない。第5節の $1.7501$ は模型が与える上限であって、実測の $0.60$ を説明しきる値ではない。模型と実測の差そのものを、本稿は説明しない。$M_w$ が完全だと言わない。$M_w$ にも $M_0$ の推定誤差があり、飽和しないというだけである。個別の地震の値を主張しない。表の $M_w$・$M_S$ は文献で広く用いられている代表値であり、機関によって $\pm0.1$ 程度異なる。既刊との関係:論文117 はグーテンベルク=リヒターの冪則を扱った。あちらは地震の個数と大きさの関係であり、本稿は尺度そのものの構成である。同じ地震を材料にしているが、問いが違う。論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿も対数目盛りの上で $0.6$ という差が $7.94$ 倍になることを扱う。論文255 は「精度」が二つあり較正で消えるのは一方だけだと分けた。本稿の飽和は較正で消えない側であり、尺度の構成に由来する。論文140 は対称性が比を決め力学が尺度を決めると分けた。本稿は尺度の側が壊れる場合を扱う。加えたのは四つの尺度を観測周期で並べたこと、$m_b$ が東北地震のエネルギーを $5623$ 分の一に見積もると計算したこと、同じ手続きが小さい地震では $1.41$ 倍しかずれないと確かめたこと、破壊継続時間と観測周期の比 $7.5$ を分離子として書いたことである。
1. 記法と位置づけ
使う式は二つだけである。
$$M_w=\tfrac23\log_{10}M_0-6.07,\qquad \log_{10}E=1.5M+4.8$$
ここで $M_0$ は地震モーメント($\mathrm{N m}$)、$E$ はエネルギー($\mathrm{J}$)である。
検算 1.1:$M_w=9.0$ を代入する。
| 量 | 値 |
|---|---|
| $M_0=10^{(9.0+6.07)\times1.5}$ | $\mathbf{4.0272\times10^{22}}$ $\mathrm{N m}$ |
| $E=10^{1.5\times9.0+4.8}$ | $1.9953\times10^{18}$ J |
観察 1.2 $M$ が $1$ 増えると、エネルギーは $\mathbf{31.6228}$ 倍になる。$2$ 増えると $\mathbf{1000}$ 倍ちょうどである。$0.1$ の差でも $1.41$ 倍であり、小数第一位が効く。
問い:$M_L$・$m_b$・$M_S$ は大地震で頭打ちになる。頭打ちになっているのは地震か、尺度か。
2. 四つの尺度は、測る周期が違う
検算 2.1:それぞれが何を見ているかを並べる。
| 尺度 | 測る周期 | 飽和する値 |
|---|---|---|
| $M_L$(リヒター・局所) | $0.1$ 秒 | $M\simeq6.8$ |
| $m_b$(実体波) | $1$ 秒 | $M\simeq\mathbf{6.5}$ |
| $M_S$(表面波) | $20$ 秒 | $M\simeq8.5$ |
| $M_w$(モーメント) | 周期を選ばない | 飽和なし |
観察 2.2 飽和する値の順序が、測る周期の順序と一致している。$0.1$ 秒 $\to6.8$、$1$ 秒 $\to6.5$、$20$ 秒 $\to8.5$、長い周期を見る尺度ほど、遅く頭打ちになる。
観察 2.3 $M_w$ だけが列の外にある。$M_w$ はどの周期の波の振幅も見ていない。見ているのは $M_0=\mu A \bar{d}$、すなわち剛性率・破壊面積・平均すべり量である。
観察 2.4 $M_L$ の飽和($6.8$)が $m_b$($6.5$)より遅いのは、周期の順序と食い違う。正直に書けば、飽和値は周期だけで決まるのではなく、観測網と手続きにも依る。本稿は周期を主要因として扱うが、唯一の要因だとは主張しない。
3. 芯:$m_b$ は東北地震を $5623$ 分の一に見積もる
設定:$2011$ 年東北地震は $M_w=9.0$、$E=1.9953\times10^{18}$ J である。飽和した尺度で測ると、いくつになるか。
検算 3.1:
| 尺度 | 与える値 | $E$ の見積り | 真値に対する割合 |
|---|---|---|---|
| $m_b$ | $6.5$ | $3.5481\times10^{14}$ J | $\mathbf{1/5623.4}$ |
| $M_L$ | $6.8$ | $1.0000\times10^{15}$ J | $1/1995.3$ |
| $M_S$ | $8.4$ | $2.5119\times10^{17}$ J | $\mathbf{1/7.9433}$ |
| $M_w$ | $9.0$ | $1.9953\times10^{18}$ J | $1$ |
観察 3.2 $m_b$ で測ると、エネルギーを $\mathbf{5623}$ 分の一に見積もる。$m_b=6.5$ という数字は「中規模の地震」を意味する。同じ地震を、$m_b$ は中規模だと言い、$M_w$ は史上第四位だと言う。
観察 3.3 $M_S$ でも $\mathbf{7.9433}$ 倍足りない。$M_S=8.4$ と $M_w=9.0$ の差は $0.6$ にすぎないが、対数目盛りの上の $0.6$ である。論文190 が書いたとおり、差ではなく比で読まねばならない。
検算 3.4:他の巨大地震でも同じことが起きているかを見る。
| 地震 | $M_w$ | $M_S$ | 差 | $E$ の過小評価 |
|---|---|---|---|---|
| $1960$ チリ | $9.5$ | $8.5$ | $+1.00$ | $\mathbf{31.6228}$ 倍 |
| $1964$ アラスカ | $9.2$ | $8.4$ | $+0.80$ | $15.8489$ 倍 |
| $2004$ スマトラ | $9.1$ | $8.8$ | $+0.30$ | $2.8184$ 倍 |
| $2011$ 東北 | $9.0$ | $8.4$ | $+0.60$ | $7.9433$ 倍 |
観察 3.5 $M_w$ が大きいほど差が大きい。ただし単調ではない。$2004$ スマトラは $M_w=9.1$ で差が $0.30$ しかない。$M_w$ だけでは決まらず、破壊の継続時間が効いている(第5節)。
4. 小さい地震では、起きない
検算 4.1:飽和値より小さい地震を同じ表に入れる。
| 地震 | $M_w$ | $M_S$ | 差 | $E$ の過小評価 |
|---|---|---|---|---|
| $1995$ 兵庫県南部 | $6.9$ | $6.8$ | $+0.10$ | $\mathbf{1.4125}$ 倍 |
| $1906$ サンフランシスコ | $7.9$ | $7.8$ | $+0.10$ | $\mathbf{1.4125}$ 倍 |
| $2011$ 東北 | $9.0$ | $8.4$ | $+0.60$ | $7.9433$ 倍 |
観察 4.2 $M_S$ の飽和値 $8.5$ より下では、差は $0.1$ 程度にとどまる。$M_S$ は壊れているのではなく、範囲の外で使われている。尺度に罪はない。
観察 4.3 これは論文255 の区別と身分が違う。論文255 の系統誤差は較正で消えるが、この飽和は較正では消えない。尺度の構成そのものが、大きい地震を見られないようにできている。
観察 4.4 したがって「$M_S$ に補正をかけて $M_w$ にする」ことはできない。補正すべき量が観測されていないからである。$20$ 秒の波は、$150$ 秒の破壊の一部しか運んでいない。
5. 原因は、破壊の継続時間である
設定:地震は瞬間ではない。断層は端から端まで裂けるのに時間がかかる。
検算 5.1:東北地震について、二つの時間を比べる。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 破壊の継続時間 | 約 $\mathbf{150}$ 秒 |
| $M_S$ が測る波の周期 | $20$ 秒 |
| 比 | $\mathbf{7.5}$ 倍 |
観察 5.2 $20$ 秒の波は、$150$ 秒かけて起きた出来事の一部しか見ていない。断層の端が裂けている頃には、始めの方はもう終わっている。同時に足し合わされない。
検算 5.3:周波数で書き直す。
| 量 | 値 |
|---|---|
| コーナー周波数 $f_c=1/150$ | $0.006667$ Hz |
| $M_S$ の観測周波数 $1/20$ | $0.050000$ Hz |
| $f/f_c$ | $\mathbf{7.50}$ |
| $\omega^{-2}$ 模型での振幅比 $(f/f_c)^{-2}$ | $1/\mathbf{56.25}$ |
| マグニチュード単位に直すと | $\mathbf{1.7501}$ |
観察 5.4 模型は $1.7501$ のずれを与え、実測は $0.60$ である。模型は上限を与えているにすぎない。$M_S$ の手続きには周期の帯があり、単一周波数ではないからである。
観察 5.5 正直に書くべき点、本稿は $1.7501$ と $0.60$ の差を説明しない。示せるのは向きと桁であって、値ではない。模型が正しい向きに、十分な大きさのずれを予言するという点だけである。
6. 分離子と、同じ一語が覆う幅
観察 6.1 分離子、何を動かすと、飽和するかしないかが変わるか。震源の継続時間が、尺度の観測周期を超えるかどうかである。
観察 6.2 $M_w$ だけが飽和しない理由が、これで分かる。$M_w$ はどの周期の波も見ていない。見ているのは $M_0$ そのものであり、比べるべき周期を持たない。
検算 6.3:「マグニチュード」という一語が覆う幅を測る。
| $M$ | $E$ | |
|---|---|---|
| 実験室の微小破壊 | $-2.0$ | $63.096$ J |
| $1960$ チリ | $9.5$ | $1.1220\times10^{19}$ J |
| 比 | $11.5$ | $\mathbf{1.7783\times10^{17}}$ 倍 |
観察 6.4 同じ一語が $\mathbf{1.78\times10^{17}}$ 倍を覆っている。これだけの幅を一本の尺度で測るのは無理であり、四つに分かれているのは自然なことである。問題は分かれていることではなく、どれで測ったかを言わないことである。
観察 6.5 論文117 は、地震の個数と大きさの間に冪則があることを扱った。本稿は大きさを測る道具の側を扱う。同じ地震を材料にして、問いが直交している。
7. 点呼と結び
- $M$ が $1$ で $31.6228$ 倍(観察1.2):$2$ で $1000$ 倍ちょうど。
- 四つの尺度の観測周期(検算2.1):$0.1$/$1$/$20$ 秒/選ばない。
- $m_b$ は $5623$ 分の一(検算3.1):東北を中規模だと言う。
- $M_S$ でも $7.9433$ 倍(検算3.1):差 $0.6$ の正体。
- 四つの巨大地震で同じ(検算3.4):ただし単調ではない。
- 小さい地震では $1.4125$ 倍(検算4.1):範囲の内側なら壊れない。
- 較正では消えない(観察4.3):構成に由来する。
- 破壊 $150$ 秒 対 周期 $20$ 秒(検算5.1):比 $7.5$。
- 模型は $1.7501$、実測は $0.60$(検算5.3):上限を与えるのみ。
- 一語が $1.78\times10^{17}$ 倍を覆う(検算6.3):$M=-2$ から $9.5$ まで。
結び:大地震でマグニチュードが頭打ちになるのは、地震が頭打ちになっているのではない。$2011$ 年東北地震を $m_b$ で測ると $6.5$、すなわちエネルギーを $\mathbf{5623}$ 分の一に見積もる。同じ地震を、$m_b$ は中規模だと言い、$M_w$ は史上第四位だと言う。$M_S$ でも $\mathbf{7.9433}$ 倍足りない。差は $0.6$ にすぎないが、対数目盛りの上の $0.6$ だからである。そして小さい地震では起きない。$1995$ 年兵庫県南部では $1.4125$ 倍にとどまる。尺度は壊れているのではなく、範囲の外で使われている。原因は破壊の継続時間である。東北の破壊は $\mathbf{150}$ 秒続き、$M_S$ の見る $20$ 秒の $\mathbf{7.5}$ 倍だった。$20$ 秒の波は、$150$ 秒の出来事の一部しか運ばない。分けるものは一つ、震源の継続時間が、その尺度の観測周期を超えているかどうか。超えていれば、どんなに較正しても飽和は消えない。超えていなければ、四つの尺度はよく一致する。$M_w$ だけが飽和しないのは優れているからではなく、比べるべき周期を持たないからである。
参考文献
- Kanamori, H. (1977). The Energy Release in Great Earthquakes. Journal of Geophysical Research, 82(20).
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- Brune, J. N. (1970). Tectonic Stress and the Spectra of Seismic Shear Waves from Earthquakes. Journal of Geophysical Research, 75(26).
- Gutenberg, B. and Richter, C. F. (1956). Magnitude and Energy of Earthquakes. Annali di Geofisica, 9.
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- 山岸勇輝 (2026). スケール不変性は、四通りに指数を選ぶ [論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
- 山岸勇輝 (2026). 対称性は比を決め、力学は尺度を決める [論文140]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22081997
- 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
- 山岸勇輝 (2026). 「精度」は二つあり、較正で消えるのは一方だけ [論文255]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168883
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「飽和するのは地震ではなく、尺度である」[論文282]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22171087
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 飽和するのは地震ではなく、尺度である [論文282]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/282 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171087
Yamagishi, Y. (2026). What Saturates Is Not the Earthquake but the Scale [Paper 282]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/282; DOI: 10.5281/zenodo.22171087
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