要旨
音が遠くまで届かないのは、途中で減衰するからだと思える。本稿が示すのは曲がることが損失ではなく、閉じ込めの機構であることである。直進すれば、かえって失われる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、音速は温度と深さの両方で決まり、両者の効きが逆向きである(第1節)。
第二に、そのため深さ $1000$ m で最小 $\mathbf{1482.7386}$ m/s をとる(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。最小の両側で音速が高いので、音線は最小へ向かって曲がり、閉じ込められる(第3節)。
第四に、$10$ 度で出た音線は深さ $\mathbf{2429.6}$ m で折り返し、$4000$ m の海底に届かない(第3節)。
第五に、水温を一定にすると音速が単調増加になり、閉じ込めが消える(第4節)。
第六に、分離子は「音速に最小があるか、単調か」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。海中音速式、SOFAR チャンネル、スネルの法則による音線の屈曲はすべて海洋音響学で既知である。音響機器を設計しない。ソナーや水中通信は主題ではない。音速分布と音線の折返しだけを見る。減衰を扱わない。吸収や散乱による減衰は主題ではない。幾何音響だけを見る。実海域を主張しない。水温分布は模型の値であり、季節・緯度で大きく変わる。形が同じであることだけを言う。波動を扱わない。モード理論や回折は主題ではない。音線近似だけを用いる。距離を主張しない。何 km 届くかは減衰と雑音で決まり、本稿の外である。既刊との関係:論文384 は自由空間損失の周波数の項が受信側から出ることを示した。ここでは「損失」に見えるものが閉じ込めである。論文393 は二つの単調な項の和が内点に最小をもつことを示した。ここでも音速が内点に最小をもつ。論文390 は頭打ちが向きで決まることを示した。ここでは届く距離が出射角で決まる。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。温度の効きと圧力の効きは、その基準で別根である。加えたのは、九つの深さで音速を数に出したこと、最小の位置と値を求めたこと、二つの出射角で折返し深さを出したこと、等温にすると閉じ込めが消えることを対照で示したこと、分離子を「最小があるか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:海水の音速を、温度 $T$・深さ $z$・塩分 $S$ の関数として書く。
$$c=1449.2+4.6T-0.055T^{2}+0.00029T^{3}+(1.34-0.010T)(S-35)+0.016z$$
$S=35$ とし、水温は表面 $20$ 度から $1000$ m の $4$ 度まで直線に下がり、以深は $4$ 度一定とする。
観察 1.1 温度の項は正で、深さの項も正である。どちらも上げれば音速が上がる。ところが海では、深くなると温度が下がる。
観察 1.2 だから深さは二重に効く。直接は $+0.016z$、温度を通じては負、浅いところでは温度が勝ち、深いところでは圧力が勝つ。
観察 1.3 勝ち負けが入れ替わる深さで、音速は最小をとる。論文393 と同じ形、二つの単調な効きの和が、内点に極値をもつ。
問い:音はなぜ、海の中を数千 km も伝わるのか。
2. 音速は深さ $1000$ m で最小になる
計算 2.1:深さに対する水温と音速(本稿で計算)。
| 深さ [m] | 水温 [度] | 音速 [m/s] |
|---|---|---|
| $0$ | $20.00$ | $1521.5200$ |
| $200$ | $16.80$ | $1515.5319$ |
| $500$ | $12.00$ | $1504.9811$ |
| $800$ | $7.20$ | $1492.3770$ |
| $\mathbf{1000}$ | $\mathbf{4.00}$ | $\mathbf{1482.7386}$ |
| $1500$ | $4.00$ | $1490.7386$ |
| $2000$ | $4.00$ | $1498.7386$ |
| $3000$ | $4.00$ | $1514.7386$ |
| $4000$ | $4.00$ | $1530.7386$ |
観察 2.2 最小が上下の両方から挟まれている。海面の $1521.5200$、海底の $1530.7386$、そのあいだの $1482.7386$、谷である。
観察 2.3 谷の深さは上下で違う。海面まで $38.78$ m/s、海底まで $48.00$ m/s、非対称だが、どちらも閉じている。
観察 2.4 $1000$ m より下では、温度が変わっていない。$4$ 度一定、そこから先の上昇は、圧力の項 $0.016z$ だけである。
観察 2.5 $1000$ m より上では、温度の項が勝っている。$20$ 度から $4$ 度へ、$0.016z$ の $16$ m/s より、温度による低下のほうが大きい。
3. $10$ 度で出た音線は、海底に届かない
計算 3.1:スネルの法則による折返し(本稿で計算)。音速最小の軸から角度 $\theta_{0}$ で出た音線は、音速が $c_{\min}/\cos\theta_{0}$ になる深さで折り返す。
| 出射角 [度] | 折返しの音速 [m/s] | 折返しの深さ [m] |
|---|---|---|
| $5$ | $1488.4024$ | $\mathbf{1354.0}$ |
| $10$ | $1505.6122$ | $\mathbf{2429.6}$ |
| (海底) | $1530.7386$ | $4000$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。どちらの音線も海底に届かない。$1354.0$ m と $2429.6$ m で折り返し、$4000$ m の海底に触れない。
観察 3.3 触れないから、失われない。海底に当たれば散乱と吸収で減る。曲がることが、その損失を回避している。
観察 3.4 角度が大きいほど、深く潜ってから折り返す。$5$ 度で $1354.0$ m、$10$ 度で $2429.6$ m、ある角度を超えると海底に届き、そこで閉じ込めが破れる。
観察 3.5 上向きにも同じことが起きる。音速の谷は上下対称ではないが、両側が高い。海面反射も避けられる。
観察 3.6 論文384 と同じ形である。論文384 では「損失」が損失ではなかった。ここでは「曲がる」ことが損失ではない。どちらも、悪いことのように聞こえる語が、実際には別の働きをしている。
4. 等温にすると、閉じ込めが消える
計算 4.1:対照(本稿で計算)。水温を全深度で $4$ 度に固定する。
観察 4.2 そのとき音速は深さについて単調増加になる。$0.016z$ だけが残る。最小が消える。
観察 4.3 最小が無ければ、音線は下向きに曲がり続ける。谷が無い。海底に当たって失われる。
観察 4.4 つまり閉じ込めは、水温分布が作っている。圧力だけでは足りない。太陽が海面を温めていることが、深海の音の道を作っている。
観察 4.5 論文300 の基準で別根である。温度の効きは太陽と混合が、圧力の効きは重力が決める。同じ音速という一つの量に、根の違う二つが入っている。
観察 4.6 高緯度では谷が海面に上がる。表層が冷たい。音の道の深さが、緯度で変わる。
5. 分離子:音速に最小があるか、単調か
観察 5.1 分離子、深さ方向の音速に谷があるか、無いか。
| 音速分布 | 音線 | 境界に当たるか | 届く距離 |
|---|---|---|---|
| 最小がある | 最小へ向かって曲がる | 当たらない | 長い |
| 単調(等温) | 一方向に曲がる | 当たる | 短い |
観察 5.2 差は減衰ではなく、幾何から出ている。吸収係数は同じ、当たるか当たらないかだけが違う。
観察 5.3 だから「よく届く」は媒質の性質ではない。同じ海水、分布の形が決めている。
観察 5.4 分離子は動かせる。季節で表層水温が変われば、谷の深さも閉じ込めの強さも動く。同じ海が、季節によって別の伝わり方をする。
観察 5.5 正直に言えば、$1482.7386$ m/s も $2429.6$ m も、直線的な水温分布を置いた模型の値である。実海域の水温分布はこれより複雑である。動かないのは、温度と圧力の効きが逆向きで、そのために内点に最小が立つことである。
観察 5.6 最後に一つ、直進は、最短ではあっても最良ではない。直進した音は境界に当たって失われる。曲がった音だけが、遠くまで残る。
6. 点呼と結び
- 温度と圧力の効きが逆向き(観察 1.2):深さが二重に効く。
- 最小は $1000$ m で $1482.7386$ m/s(計算 2.1):谷である。
- 海面 $1521.5200$、海底 $1530.7386$(計算 2.1):両側から挟まれている。
- 谷は非対称(観察 2.3):$38.78$ と $48.00$ m/s。
- $5$ 度は $1354.0$ m で折り返す(計算 3.1):海底に届かない。
- $10$ 度は $2429.6$ m(計算 3.1):これも届かない。
- 角度が大きいほど深く潜る(観察 3.4):超えると破れる。
- 等温なら単調増加(観察 4.2):閉じ込めが消える。
- 閉じ込めは水温分布が作る(観察 4.4):圧力だけでは足りない。
- 直進は最良ではない(観察 5.6):曲がった音だけが残る。
結び:音が遠くまで届かないのは途中で減衰するからだと思える。だが海の中では、曲がることが損失ではなく閉じ込めの機構である。海水の音速は温度と深さの両方で上がるが、海では深くなると温度が下がる。だから深さは二重に効き、浅いところでは温度が勝ち、深いところでは圧力の項 $+0.016z$ が勝つ。勝ち負けが入れ替わる深さで、音速は最小をとる。論文393 と同じく、二つの単調な効きの和が内点に極値をもつ。最小は深さ $1000$ m の $\mathbf{1482.7386}$ m/s である。海面の $1521.5200$ m/s と海底($4000$ m)の $1530.7386$ m/s に上下から挟まれた谷であり、海面まで $38.78$ m/s、海底まで $48.00$ m/s と非対称だが、どちらも閉じている。$1000$ m より下では温度が $4$ 度で一定なので、上昇は圧力の項だけである。そして音線は最小へ向かって曲がり、境界に届かない。軸から角度 $\theta_{0}$ で出た音線は音速が $c_{\min}/\cos\theta_{0}$ になる深さで折り返すので、$5$ 度なら $\mathbf{1354.0}$ m、$10$ 度なら $\mathbf{2429.6}$ m で折り返し、$4000$ m の海底に触れない。触れないから失われない。海底に当たれば散乱と吸収で減るところを、曲がることがその損失を回避している。角度が大きいほど深く潜り、ある角度を超えると海底に届いて閉じ込めが破れる。論文384 で「損失」が損失でなかったのと同じ形で、悪いことのように聞こえる語が、実際には別の働きをしている。水温を一定にすると、閉じ込めが消える。全深度を $4$ 度に固定すると音速は $0.016z$ だけで単調増加になり、最小が消える。最小が無ければ音線は下向きに曲がり続け、海底に当たって失われる。つまり閉じ込めは水温分布が作っており、太陽が海面を温めていることが、深海の音の道を作っている。論文300 の基準で別根で、温度の効きは太陽と混合が、圧力の効きは重力が決める。分けているものは一つ、深さ方向の音速に谷があるか、無いか。差は減衰ではなく幾何から出ている。吸収係数は同じで、境界に当たるか当たらないかだけが違う。だから「よく届く」は媒質の性質ではない。同じ海水であり、分布の形が決めている。季節で表層水温が変われば谷の深さも閉じ込めの強さも動き、同じ海が季節によって別の伝わり方をする。正直に言えば、$1482.7386$ m/s も $2429.6$ m も、直線的な水温分布を置いた模型の値であり、実海域の水温分布はこれより複雑である。動かないのは、温度と圧力の効きが逆向きで、そのために内点に最小が立つことである。最後に一つ、直進は、最短ではあっても最良ではない。直進した音は境界に当たって失われる。曲がった音だけが、遠くまで残る。
参考文献
- Ewing, M., Worzel, J. L. (1948). Long-Range Sound Transmission. Geological Society of America Memoirs.
- Medwin, H. (1975). Speed of sound in water: A simple equation for realistic parameters. The Journal of the Acoustical Society of America.
- Urick, R. J. (1983). Principles of Underwater Sound (3rd ed.). New York: McGraw-Hill.
- Munk, W., Worcester, P., Wunsch, C. (1995). Ocean Acoustic Tomography. Cambridge: Cambridge University Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「自由空間損失」は損失ではない。真空は何も吸収していない』[論文384]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699073
- 山岸勇輝 (2026). 『速くなるほど風が強くなる。だから帆走艇は風より速く走れる』[論文390]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699203
- 山岸勇輝 (2026). 『重心を一切動かさずに、積荷を増やすだけで復原力が下がる』[論文393]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699247
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書誌
山岸勇輝(2026)「音が遠くまで届くのは、直進しないからである」[論文395]. Zenodo.
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 音が遠くまで届くのは、直進しないからである [論文395]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/395 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699289
Yamagishi, Y. (2026). Sound Travels Far Because It Does Not Travel Straight [Paper 395]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/395; DOI: 10.5281/zenodo.22699289
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