要旨
遺伝暗号は $64$ 通りのコドンで $20$ 種のアミノ酸を指定する。本稿が示すのは余った分が均等に配られていないことである。同じ一文字の誤りが、位置によって $15.75$ 倍違う。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、終止を除く $61$ コドンに対し、各位置で $\mathbf{183}$ 通りの一塩基置換がある(第2節)。
第二に、アミノ酸が変わらないのは、第 $1$ 位で $8$ 件、第 $3$ 位で $126$ 件である(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。第 $2$ 位はちょうど $\mathbf{0}$ 件、$183$ 通りすべてがアミノ酸を変える(第2節)。
第四に、比は $126/8=\mathbf{15.75}$ で、ちょうどの分数になる(第2節)。
第五に、黙って済む誤り $134$ 件のうち $\mathbf{94.03}$ パーセントが第 $3$ 位に集まっている(第3節)。
第六に、分離子は「誤りがどの位置に起きたか」であって、何塩基変わったかではない(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。標準遺伝暗号表、縮重、ゆらぎ仮説、誤りに対する頑健性はすべて分子生物学で既知である。起源を論じない。暗号がなぜこの形になったか(凍結事故説・共進化説・最適化説)は主題ではない。現在の表の数だけを数える。最適性を主張しない。「この暗号が最良である」とは言わない。ランダムな暗号との比較は行わない。変異率を扱わない。実際の変異が位置ごとに等確率かどうかは主題ではない。置換の場合の数だけを数える。標準暗号だけを見る。ミトコンドリアなどの変異暗号は主題ではない。翻訳を扱わない。tRNA・リボソーム・ゆらぎ塩基対の分子機構には立ち入らない。既刊との関係:論文379 は「二倍の温度」に三つの答があることを示した。ここでは「一塩基の誤り」に三つの重さがある。論文391 は有義波高が平均でも最大でもないことを示した。ここでは「変異率」が平均で語られて位置を隠す。論文388 は二つの別の量が同じ定数へ行くことを示した。ここでは同じ操作が位置で別の量になる。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。三つの位置は、その基準で別根である。加えたのは、位置ごとに置換を全数え上げしたこと、第 $2$ 位がちょうど $0$ 件であることを示したこと、比が $126/8=15.75$ とちょうどの分数になることを示したこと、黙って済む誤りの $94.03$ パーセントが第 $3$ 位に集まることを出したこと、分離子を「位置」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:標準遺伝暗号表を取り、終止コドン(UAA・UAG・UGA)を除く $61$ のコドンを考える。 各コドンの各位置について、他の $3$ 塩基への置換を数える。
$$61\times3=183\quad\text{(各位置での置換の総数)},\qquad 183\times3=549\quad\text{(全体)}$$
観察 1.1 $64$ 通りで $21$ 種($20$ アミノ酸+終止)を指定している。余りが $43$ 通り、どこかに冗長がある。
観察 1.2 冗長は「保険」として働く。誤っても同じアミノ酸なら、蛋白質は変わらない。どこに保険を掛けたかが問題である。
観察 1.3 均等に配ることもできたはずである。三つの位置に三分の一ずつ、実際にそうなっているかを数える。
問い:一文字の誤りは、どれくらい重いのか。
2. 第 $2$ 位は、ちょうど $0$ 件である
計算 2.1:位置ごとの一塩基置換と同義率(本稿で数え上げ)。
| 位置 | 置換の総数 | 同義(アミノ酸が変わらない) | 同義率 |
|---|---|---|---|
| 第 $1$ 位 | $183$ | $\mathbf{8}$ | $0.043716$ |
| 第 $2$ 位 | $183$ | $\mathbf{0}$ | $\mathbf{0.000000}$ |
| 第 $3$ 位 | $183$ | $\mathbf{126}$ | $\mathbf{0.688525}$ |
| 合計 | $\mathbf{549}$ | $\mathbf{134}$ | $0.244080$ |
観察 2.2 これが本稿の芯である。第 $2$ 位の同義が、ちょうど $0$ 件である。$183$ 通りの置換すべてがアミノ酸を変える。ここには保険が一件も掛かっていない。
観察 2.3 第 $3$ 位では $68.85$ パーセントが何も変えない。$126$ 件、三分の二以上が黙って通る。
観察 2.4 比は $126/8=15.75$ である。割り切れる。同じ分母 $183$ を約せば、ちょうどの分数になる。
観察 2.5 第 $1$ 位の $8$ 件も、ゼロではないが小さい。$4.37$ パーセント、ロイシンとアルギニンの $6$ 重縮重に由来する。
観察 2.6 全体では $549$ 通りのうち $134$ 件、$24.41$ パーセントが同義である。四分の一、この平均値は、三つの位置のどれにも当てはまらない。
3. 黙って済む誤りの $94.03$ パーセントが、一箇所に集まっている
計算 3.1:同義置換の位置別の内訳(本稿で計算)。
| 位置 | 同義置換の件数 | 全 $134$ 件に占める割合 |
|---|---|---|
| 第 $1$ 位 | $8$ | $5.97$ % |
| 第 $2$ 位 | $0$ | $0.00$ % |
| 第 $3$ 位 | $\mathbf{126}$ | $\mathbf{94.03}$ % |
観察 3.2 冗長が一箇所に集められている。$94.03$ パーセント、均等なら $33.3$ パーセントずつのはずである。
観察 3.3 $61$ の意味コドンのうち $32$ は、第 $3$ 位が四重に縮重している。$4$ 塩基のどれでも同じアミノ酸、他に二重が $24$、三重が $3$、縮重なしが $2$ である。
観察 3.4 つまり半分以上のコドンで、第 $3$ 位は情報を運んでいない。$32/61$、三文字のうち一文字が、しばしば自由である。
観察 3.5 論文391 と同じ形である。論文391 では「波の高さ」の平均が代表になっていなかった。ここでは「変異率 $24.41$ パーセント」がどの位置にも当てはまらない。平均が三つを覆い隠している。
観察 3.6 論文300 の基準で別根である。三つの位置は、tRNA の読み取りにおいて役割が違う。同じ「一塩基置換」という語が、根の違う三つを指している。
4. 変えてしまった場合の、変え方の重さ
計算 4.1:非同義になった置換のうち、極性の類(非極性・極性・荷電)が変わらない割合(本稿で計算)。
| 位置 | 非同義の件数 | 極性の類を保つ割合 |
|---|---|---|
| 第 $1$ 位 | $166$ | $0.469880$ |
| 第 $2$ 位 | $\mathbf{176}$ | $\mathbf{0.375000}$ |
| 第 $3$ 位 | $50$ | $0.440000$ |
観察 4.2 第 $2$ 位は、変えるだけでなく、変え方も最も荒い。$0.375000$ で三位置中いちばん低い。同義がゼロで、なおかつ性質を保つ割合も最低である。
観察 4.3 それでも $37.5$ パーセントは類を保つ。完全に無防備ではない。第一段の保険が無い代わりに、第二段が残っている。
観察 4.4 第 $3$ 位は非同義が $50$ 件しかない。$183$ 中、そもそも変えることが少ない。
観察 4.5 二段構えになっている。第一段は「変えない」、第二段は「変えても近いものに」、位置ごとに、どちらの段が効くかが違う。
5. 分離子:誤りがどの位置に起きたか
観察 5.1 分離子、何塩基変わったかではなく、どの位置が変わったか。
| 位置 | 同義率 | 極性を保つ割合 | 全体としての重さ |
|---|---|---|---|
| 第 $1$ 位 | $0.0437$ | $0.4699$ | 中 |
| 第 $2$ 位 | $\mathbf{0.0000}$ | $\mathbf{0.3750}$ | 最も重い |
| 第 $3$ 位 | $\mathbf{0.6885}$ | $0.4400$ | 最も軽い |
観察 5.2 二列が同じ向きに並んでいる。同義率が低い位置は、極性を保つ割合も低い。偶然なら逆向きもありえたはずである。
観察 5.3 だから「変異が一つ入った」という記述は、情報として足りない。位置を言わなければ重さが決まらない。$15.75$ 倍の幅がある。
観察 5.4 これは検証できる分離子である。実際の配列で、第 $3$ 位の置換だけが種間で蓄積しているか、同義置換率と非同義置換率を分けて数えれば分かる。
観察 5.5 正直に言えば、$15.75$ も $94.03$ パーセントも、置換が等確率という仮定の下での場合の数である。実際の変異は塩基の種類で偏る。動かないのは、第 $2$ 位の同義がちょうど $0$ であることと、$126/8$ が割り切れることである。
観察 5.6 最後に一つ、三文字という長さは、$20$ 種を指定するには一文字ぶん余っている。$4^{2}=16<20\le64=4^{3}$、余りは捨てられず、誤りに対する余白として、一箇所にまとめて置かれている。
6. 点呼と結び
- 各位置に $183$ 通り、全体で $549$ 通り(第1節):終止を除く $61$ コドン。
- 第 $1$ 位は $8$ 件(計算 2.1):$4.37$ パーセント。
- 第 $2$ 位はちょうど $0$ 件(計算 2.1):保険が一件も無い。
- 第 $3$ 位は $126$ 件(計算 2.1):$68.85$ パーセント。
- 比は $126/8=15.75$(観察 2.4):割り切れる。
- 全体では $24.41$ パーセント(観察 2.6):どの位置にも当てはまらない。
- 黙って済む誤りの $94.03$ パーセントが第 $3$ 位(計算 3.1):均等なら $33.3$ パーセント。
- $61$ 中 $32$ が四重縮重(観察 3.3):半分以上。
- 第 $2$ 位は極性の保存も最低(観察 4.2):$0.375000$。
- 二段構え(観察 4.5):変えない/近いものに。
結び:遺伝暗号は $64$ 通りのコドンで $20$ 種のアミノ酸を指定し、$43$ 通りが余っている。その余りは、均等に配られていない。終止を除く $61$ コドンについて、各位置に $183$ 通り、全体で $549$ 通りの一塩基置換がある。そのうちアミノ酸を変えないのは、第 $1$ 位で $\mathbf{8}$ 件、第 $2$ 位で $\mathbf{0}$ 件、第 $3$ 位で $\mathbf{126}$ 件である。第 $2$ 位はちょうどゼロである。$183$ 通りの置換すべてがアミノ酸を変え、ここには保険が一件も掛かっていない。一方、第 $3$ 位では $68.85$ パーセントが何も変えず、三分の二以上が黙って通る。比は $126/8=\mathbf{15.75}$ で、同じ分母 $183$ を約せばちょうどの分数になる。第 $1$ 位の $8$ 件はゼロではないが小さく($4.37$ パーセント)、ロイシンとアルギニンの $6$ 重縮重に由来する。冗長は一箇所に集められている。黙って済む誤り $134$ 件のうち $\mathbf{94.03}$ パーセントが第 $3$ 位に集まっており、均等なら $33.3$ パーセントずつのはずである。$61$ の意味コドンのうち $32$ は第 $3$ 位が四重に縮重しており(二重が $24$、三重が $3$、縮重なしが $2$)、半分以上のコドンで第 $3$ 位は情報を運んでいない。論文391 で「波の高さ」の平均が代表になっていなかったのと同じ形で、「変異率 $24.41$ パーセント」という平均が三つの位置のどれにも当てはまらない。変えてしまった場合の、変え方にも差がある。非同義になった置換のうち極性の類を保つ割合は、第 $2$ 位が $\mathbf{0.375000}$ で三位置中いちばん低い。同義がゼロで、なおかつ性質を保つ割合も最低である。それでも $37.5$ パーセントは類を保つので完全に無防備ではなく、第一段の保険が無い代わりに第二段が残っている。つまり二段構えで、第一段は「変えない」、第二段は「変えても近いものに」であり、位置ごとにどちらの段が効くかが違う。分けているものは一つ、何塩基変わったかではなく、どの位置が変わったか。同義率と極性の保存率が同じ向きに並んでおり、偶然なら逆向きもありえたはずである。だから「変異が一つ入った」という記述は情報として足りない。位置を言わなければ重さが決まらず、$15.75$ 倍の幅がある。論文300 の基準で三つの位置は別根であり、tRNA の読み取りにおいて役割が違う。正直に言えば、$15.75$ も $94.03$ パーセントも、置換が等確率という仮定の下での場合の数であり、実際の変異は塩基の種類で偏る。動かないのは、第 $2$ 位の同義がちょうど $0$ であることと、$126/8$ が割り切れることである。最後に一つ、三文字という長さは、$20$ 種を指定するには一文字ぶん余っている($4^{2}=16<20\le64=4^{3}$)。余りは捨てられず、誤りに対する余白として、一箇所にまとめて置かれている。
参考文献
- Crick, F. H. C. (1966). Codon-anticodon pairing: The wobble hypothesis. Journal of Molecular Biology.
- Nirenberg, M., Leder, P. (1964). RNA Codewords and Protein Synthesis. Science.
- Woese, C. R. (1965). On the evolution of the genetic code. Proceedings of the National Academy of Sciences.
- Freeland, S. J., Hurst, L. D. (1998). The Genetic Code Is One in a Million. Journal of Molecular Evolution.
- 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「二倍の温度」には三つの答があり、比が 2 になるのは一つだけである』[論文379]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22698802
- 山岸勇輝 (2026). 『候補が百万人でも、最良を当てる確率は 0.3679 のまま落ちない』[論文388]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699147
- 山岸勇輝 (2026). 『有義波高は、平均でもなければ最大でもない』[論文391]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699212
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「同じ一文字の誤りが、位置によって 15.75 倍違う」[論文398]. Zenodo.
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ一文字の誤りが、位置によって 15.75 倍違う:第 2 位はちょうど 0 である [論文398]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/398 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699326
Yamagishi, Y. (2026). The Same One-Letter Typo Costs 15.75 Times More at One Position Than Another, and at the Second It Is Exactly 0 [Paper 398]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/398; DOI: 10.5281/zenodo.22699326
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