【論文398】同じ一文字の誤りが、位置によって 15.75 倍違う

要旨

遺伝暗号は $64$ 通りのコドンで $20$ 種のアミノ酸を指定する。本稿が示すのは余った分が均等に配られていないことである。同じ一文字の誤りが、位置によって $15.75$ 倍違う。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、終止を除く $61$ コドンに対し、各位置で $\mathbf{183}$ 通りの一塩基置換がある(第2節)。

第二に、アミノ酸が変わらないのは、第 $1$ 位で $8$ 件、第 $3$ 位で $126$ 件である(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。第 $2$ 位はちょうど $\mathbf{0}$ 件、$183$ 通りすべてがアミノ酸を変える(第2節)。

第四に、比は $126/8=\mathbf{15.75}$ で、ちょうどの分数になる(第2節)。

第五に、黙って済む誤り $134$ 件のうち $\mathbf{94.03}$ パーセントが第 $3$ 位に集まっている(第3節)。

第六に、分離子は「誤りがどの位置に起きたか」であって、何塩基変わったかではない(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。標準遺伝暗号表、縮重、ゆらぎ仮説、誤りに対する頑健性はすべて分子生物学で既知である。起源を論じない。暗号がなぜこの形になったか(凍結事故説・共進化説・最適化説)は主題ではない。現在の表の数だけを数える。最適性を主張しない。「この暗号が最良である」とは言わない。ランダムな暗号との比較は行わない。変異率を扱わない。実際の変異が位置ごとに等確率かどうかは主題ではない。置換の場合の数だけを数える。標準暗号だけを見る。ミトコンドリアなどの変異暗号は主題ではない。翻訳を扱わない。tRNA・リボソーム・ゆらぎ塩基対の分子機構には立ち入らない。既刊との関係:論文379 は「二倍の温度」に三つの答があることを示した。ここでは「一塩基の誤り」に三つの重さがある。論文391 は有義波高が平均でも最大でもないことを示した。ここでは「変異率」が平均で語られて位置を隠す。論文388 は二つの別の量が同じ定数へ行くことを示した。ここでは同じ操作が位置で別の量になる。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。三つの位置は、その基準で別根である。加えたのは、位置ごとに置換を全数え上げしたこと、第 $2$ 位がちょうど $0$ 件であることを示したこと、比が $126/8=15.75$ とちょうどの分数になることを示したこと、黙って済む誤りの $94.03$ パーセントが第 $3$ 位に集まることを出したこと、分離子を「位置」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:標準遺伝暗号表を取り、終止コドン(UAA・UAG・UGA)を除く $61$ のコドンを考える。 各コドンの各位置について、他の $3$ 塩基への置換を数える。

$$61\times3=183\quad\text{(各位置での置換の総数)},\qquad 183\times3=549\quad\text{(全体)}$$

観察 1.1 $64$ 通りで $21$ 種($20$ アミノ酸+終止)を指定している。余りが $43$ 通り、どこかに冗長がある。

観察 1.2 冗長は「保険」として働く。誤っても同じアミノ酸なら、蛋白質は変わらない。どこに保険を掛けたかが問題である。

観察 1.3 均等に配ることもできたはずである。三つの位置に三分の一ずつ、実際にそうなっているかを数える。

問い:一文字の誤りは、どれくらい重いのか。

2. 第 $2$ 位は、ちょうど $0$ 件である

計算 2.1:位置ごとの一塩基置換と同義率(本稿で数え上げ)。

位置 置換の総数 同義(アミノ酸が変わらない) 同義率
第 $1$ 位 $183$ $\mathbf{8}$ $0.043716$
第 $2$ 位 $183$ $\mathbf{0}$ $\mathbf{0.000000}$
第 $3$ 位 $183$ $\mathbf{126}$ $\mathbf{0.688525}$
合計 $\mathbf{549}$ $\mathbf{134}$ $0.244080$

観察 2.2 これが本稿の芯である。第 $2$ 位の同義が、ちょうど $0$ 件である。$183$ 通りの置換すべてがアミノ酸を変える。ここには保険が一件も掛かっていない。

観察 2.3 第 $3$ 位では $68.85$ パーセントが何も変えない。$126$ 件、三分の二以上が黙って通る。

観察 2.4 比は $126/8=15.75$ である。割り切れる。同じ分母 $183$ を約せば、ちょうどの分数になる。

観察 2.5 第 $1$ 位の $8$ 件も、ゼロではないが小さい。$4.37$ パーセント、ロイシンとアルギニンの $6$ 重縮重に由来する。

観察 2.6 全体では $549$ 通りのうち $134$ 件、$24.41$ パーセントが同義である。四分の一、この平均値は、三つの位置のどれにも当てはまらない。

3. 黙って済む誤りの $94.03$ パーセントが、一箇所に集まっている

計算 3.1:同義置換の位置別の内訳(本稿で計算)。

位置 同義置換の件数 全 $134$ 件に占める割合
第 $1$ 位 $8$ $5.97$ %
第 $2$ 位 $0$ $0.00$ %
第 $3$ 位 $\mathbf{126}$ $\mathbf{94.03}$ %

観察 3.2 冗長が一箇所に集められている。$94.03$ パーセント、均等なら $33.3$ パーセントずつのはずである。

観察 3.3 $61$ の意味コドンのうち $32$ は、第 $3$ 位が四重に縮重している。$4$ 塩基のどれでも同じアミノ酸、他に二重が $24$、三重が $3$、縮重なしが $2$ である。

観察 3.4 つまり半分以上のコドンで、第 $3$ 位は情報を運んでいない。$32/61$、三文字のうち一文字が、しばしば自由である。

観察 3.5 論文391 と同じ形である。論文391 では「波の高さ」の平均が代表になっていなかった。ここでは「変異率 $24.41$ パーセント」がどの位置にも当てはまらない。平均が三つを覆い隠している。

観察 3.6 論文300 の基準で別根である。三つの位置は、tRNA の読み取りにおいて役割が違う。同じ「一塩基置換」という語が、根の違う三つを指している。

4. 変えてしまった場合の、変え方の重さ

計算 4.1:非同義になった置換のうち、極性の類(非極性・極性・荷電)が変わらない割合(本稿で計算)。

位置 非同義の件数 極性の類を保つ割合
第 $1$ 位 $166$ $0.469880$
第 $2$ 位 $\mathbf{176}$ $\mathbf{0.375000}$
第 $3$ 位 $50$ $0.440000$

観察 4.2 第 $2$ 位は、変えるだけでなく、変え方も最も荒い。$0.375000$ で三位置中いちばん低い。同義がゼロで、なおかつ性質を保つ割合も最低である。

観察 4.3 それでも $37.5$ パーセントは類を保つ。完全に無防備ではない。第一段の保険が無い代わりに、第二段が残っている。

観察 4.4 第 $3$ 位は非同義が $50$ 件しかない。$183$ 中、そもそも変えることが少ない。

観察 4.5 二段構えになっている。第一段は「変えない」、第二段は「変えても近いものに」、位置ごとに、どちらの段が効くかが違う。

5. 分離子:誤りがどの位置に起きたか

観察 5.1 分離子、何塩基変わったかではなく、どの位置が変わったか。

位置 同義率 極性を保つ割合 全体としての重さ
第 $1$ 位 $0.0437$ $0.4699$ 中
第 $2$ 位 $\mathbf{0.0000}$ $\mathbf{0.3750}$ 最も重い
第 $3$ 位 $\mathbf{0.6885}$ $0.4400$ 最も軽い

観察 5.2 二列が同じ向きに並んでいる。同義率が低い位置は、極性を保つ割合も低い。偶然なら逆向きもありえたはずである。

観察 5.3 だから「変異が一つ入った」という記述は、情報として足りない。位置を言わなければ重さが決まらない。$15.75$ 倍の幅がある。

観察 5.4 これは検証できる分離子である。実際の配列で、第 $3$ 位の置換だけが種間で蓄積しているか、同義置換率と非同義置換率を分けて数えれば分かる。

観察 5.5 正直に言えば、$15.75$ も $94.03$ パーセントも、置換が等確率という仮定の下での場合の数である。実際の変異は塩基の種類で偏る。動かないのは、第 $2$ 位の同義がちょうど $0$ であることと、$126/8$ が割り切れることである。

観察 5.6 最後に一つ、三文字という長さは、$20$ 種を指定するには一文字ぶん余っている。$4^{2}=16<20\le64=4^{3}$、余りは捨てられず、誤りに対する余白として、一箇所にまとめて置かれている。

6. 点呼と結び

  1. 各位置に $183$ 通り、全体で $549$ 通り(第1節):終止を除く $61$ コドン。
  2. 第 $1$ 位は $8$ 件(計算 2.1):$4.37$ パーセント。
  3. 第 $2$ 位はちょうど $0$ 件(計算 2.1):保険が一件も無い。
  4. 第 $3$ 位は $126$ 件(計算 2.1):$68.85$ パーセント。
  5. 比は $126/8=15.75$(観察 2.4):割り切れる。
  6. 全体では $24.41$ パーセント(観察 2.6):どの位置にも当てはまらない。
  7. 黙って済む誤りの $94.03$ パーセントが第 $3$ 位(計算 3.1):均等なら $33.3$ パーセント。
  8. $61$ 中 $32$ が四重縮重(観察 3.3):半分以上。
  9. 第 $2$ 位は極性の保存も最低(観察 4.2):$0.375000$。
  10. 二段構え(観察 4.5):変えない/近いものに。

結び:遺伝暗号は $64$ 通りのコドンで $20$ 種のアミノ酸を指定し、$43$ 通りが余っている。その余りは、均等に配られていない。終止を除く $61$ コドンについて、各位置に $183$ 通り、全体で $549$ 通りの一塩基置換がある。そのうちアミノ酸を変えないのは、第 $1$ 位で $\mathbf{8}$ 件、第 $2$ 位で $\mathbf{0}$ 件、第 $3$ 位で $\mathbf{126}$ 件である。第 $2$ 位はちょうどゼロである。$183$ 通りの置換すべてがアミノ酸を変え、ここには保険が一件も掛かっていない。一方、第 $3$ 位では $68.85$ パーセントが何も変えず、三分の二以上が黙って通る。比は $126/8=\mathbf{15.75}$ で、同じ分母 $183$ を約せばちょうどの分数になる。第 $1$ 位の $8$ 件はゼロではないが小さく($4.37$ パーセント)、ロイシンとアルギニンの $6$ 重縮重に由来する。冗長は一箇所に集められている。黙って済む誤り $134$ 件のうち $\mathbf{94.03}$ パーセントが第 $3$ 位に集まっており、均等なら $33.3$ パーセントずつのはずである。$61$ の意味コドンのうち $32$ は第 $3$ 位が四重に縮重しており(二重が $24$、三重が $3$、縮重なしが $2$)、半分以上のコドンで第 $3$ 位は情報を運んでいない。論文391 で「波の高さ」の平均が代表になっていなかったのと同じ形で、「変異率 $24.41$ パーセント」という平均が三つの位置のどれにも当てはまらない。変えてしまった場合の、変え方にも差がある。非同義になった置換のうち極性の類を保つ割合は、第 $2$ 位が $\mathbf{0.375000}$ で三位置中いちばん低い。同義がゼロで、なおかつ性質を保つ割合も最低である。それでも $37.5$ パーセントは類を保つので完全に無防備ではなく、第一段の保険が無い代わりに第二段が残っている。つまり二段構えで、第一段は「変えない」、第二段は「変えても近いものに」であり、位置ごとにどちらの段が効くかが違う。分けているものは一つ、何塩基変わったかではなく、どの位置が変わったか。同義率と極性の保存率が同じ向きに並んでおり、偶然なら逆向きもありえたはずである。だから「変異が一つ入った」という記述は情報として足りない。位置を言わなければ重さが決まらず、$15.75$ 倍の幅がある。論文300 の基準で三つの位置は別根であり、tRNA の読み取りにおいて役割が違う。正直に言えば、$15.75$ も $94.03$ パーセントも、置換が等確率という仮定の下での場合の数であり、実際の変異は塩基の種類で偏る。動かないのは、第 $2$ 位の同義がちょうど $0$ であることと、$126/8$ が割り切れることである。最後に一つ、三文字という長さは、$20$ 種を指定するには一文字ぶん余っている($4^{2}=16<20\le64=4^{3}$)。余りは捨てられず、誤りに対する余白として、一箇所にまとめて置かれている。

参考文献

  1. Crick, F. H. C. (1966). Codon-anticodon pairing: The wobble hypothesis. Journal of Molecular Biology.
  2. Nirenberg, M., Leder, P. (1964). RNA Codewords and Protein Synthesis. Science.
  3. Woese, C. R. (1965). On the evolution of the genetic code. Proceedings of the National Academy of Sciences.
  4. Freeland, S. J., Hurst, L. D. (1998). The Genetic Code Is One in a Million. Journal of Molecular Evolution.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『「二倍の温度」には三つの答があり、比が 2 になるのは一つだけである』[論文379]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22698802
  7. 山岸勇輝 (2026). 『候補が百万人でも、最良を当てる確率は 0.3679 のまま落ちない』[論文388]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699147
  8. 山岸勇輝 (2026). 『有義波高は、平均でもなければ最大でもない』[論文391]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699212

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「同じ一文字の誤りが、位置によって 15.75 倍違う」[論文398]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699326

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 同じ一文字の誤りが、位置によって 15.75 倍違う:第 2 位はちょうど 0 である [論文398]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/398 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699326

Yamagishi, Y. (2026). The Same One-Letter Typo Costs 15.75 Times More at One Position Than Another, and at the Second It Is Exactly 0 [Paper 398]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/398; DOI: 10.5281/zenodo.22699326

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