要旨
正直に言うかどうかは、人柄の問題だと思われている。本稿が示すのは、規則の側で決まる場合があることである。支払う額の決め方を一つ変えるだけで、正直が最適になる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、これが本稿の芯である。二位価格では、$90$・$100$・$110$・$140$ のどれで入札しても利得は $\mathbf{20.0000}$ で同じである(第2節)。
第二に、その利得は評価額と他者の最高との差 $\mathbf{20.0000}$ と一致する。逆算しても同じ値になる(第2節)。
第三に、評価額を下回ると取り逃し、利得はちょうど $\mathbf{0}$ になる。境目の反対側である(第2節)。
第四に、他者の最高が評価額を上回る場面では、超過入札の利得が $\mathbf{-20.0}$ になる。正直がその損を防ぐ(第3節)。
第五に、一位価格では正直な入札の利得がちょうど $\mathbf{0}$ で、$90$ に下げると $\mathbf{10.0000}$ になる(第4節)。
第六に、分離子は「自分の入札額が支払額を決めるか」である(第4節)。
キーワード:二位価格入札、ヴィックリー・オークション、耐戦略性、メカニズムデザイン、収入同値定理。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。二位価格入札、耐戦略性、収入同値定理はすべて既知である($1961$ 年以来)。定理を証明しない。正直が支配戦略であることの一般証明は行わない。一つの場面で数を入れるだけである。制度を推奨しない。どちらの方式を使うべきかは主題ではない。共謀と談合を扱わない。入札者どうしの結託、売り手による偽の入札は主題ではなく、それらがあれば結論は変わる。価値の共通部分を扱わない。各人の評価額が独立に決まっている場合だけを扱う。落札してから価値が分かる場合は別の議論が要る。収入を比べない。売り手の受け取る額がどちらで大きいかは主題ではない。既刊との関係:論文435 は各項が一定でも合計が決まらないことを示した。そこでは規則が全体を決めなかった。ここでは規則が個人の最適を決める。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「正直な人だから正直に言う」と「正直が得だから正直に言う」は、その基準で別根である。論文422 は核心と名指された条件が結果を動かさないことを示した。そこでは効くはずのものが効かなかった。ここでは効かないはずの操作が効く。論文423 は表が当たっていても売買が負けることを示した。そこでも、規則の細部が結果を裏返した。加えたのは、五つの入札額で二方式の利得を並べたこと、正直な入札の利得が差と一致することを逆算で確かめたこと、下回った場合をちょうど $0$ として境目の反対側に置いたこと、超過入札が負になる場面を別に置いたこと、一位価格で下げた方が得になることを数に出したこと、分離子を「入札額が支払額を決めるか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:ある品に対し、自分の評価額を $v$、自分の入札額を $b$、他者の最高入札を $m$ とする。 二位価格では、最高値を入れた者が落札し、支払うのは二番目の額である。
$$\text{利得}=\begin{cases}v-m & (b>m)\\ 0 & (b<m)\end{cases}$$
一位価格では、支払うのは自分の入札額である。
$$\text{利得}=\begin{cases}v-b & (b>m)\\ 0 & (b<m)\end{cases}$$
以下 $v=100$ とする。
観察 1.1 入札では、本当の値打ちを言わない方が得だと思われている。高く言えば取れるが払いすぎる。低く言えば安いが取り逃す。
観察 1.2 だからみな、いくら下げるかを考える。相手の出方を読む、読み合いが始まる。
問い:その読み合いは、規則の必然なのか。
2. 二位価格では、正直が最適になる
計算 2.1:$v=100$、$m=80$ として、五つの入札額で利得を出す。
| 入札額 | 二位価格の利得 | 一位価格の利得 |
|---|---|---|
| $60$ | $0.0000$ | $0.0000$ |
| $90$ | $\mathbf{20.0000}$ | $\mathbf{10.0000}$ |
| $100$ | $\mathbf{20.0000}$ | $0.0000$ |
| $110$ | $\mathbf{20.0000}$ | $-10.0000$ |
| $140$ | $\mathbf{20.0000}$ | $-40.0000$ |
観察 2.2 二位価格の列は、落札できる限りすべて $\mathbf{20.0000}$ である。$90$ でも $140$ でも同じ、支払額が自分の入札額に依らないからである。
観察 2.3 その値は $v-m=100-80=\mathbf{20.0000}$ と一致する。逆算しても同じ、自分の入札額は、落札するかどうかだけを決めている。
観察 2.4 評価額を下回ると取り逃す。$60$ で入札すると利得はちょうど $\mathbf{0}$、境目の反対側であり、得られたはずの $20$ を丸ごと失う。
観察 2.5 つまり正直な $100$ は、最大の利得を与える手の一つである。同点はあるが、下回ることは無い。読み合いをしても、これより良くはならない。
3. 超過入札が損になる場面
計算 3.1:他者の最高が評価額を上回る場面を置く。$m=120$ とする。
| 入札額 | 落札するか | 利得 |
|---|---|---|
| $100$(正直) | しない | $0.0$ |
| $140$(超過) | する | $\mathbf{-20.0}$ |
観察 3.2 超過入札で負の利得になる。$\mathbf{-20.0}$、$v-m=100-120$ と一致する。
観察 3.3 正直なら、その損を回避できる。落札しないので利得はちょうど $0$、取り逃すのではなく、取らない方が良い場面である。
観察 3.4 だから正直は、上にも下にも守っている。下げれば取り逃し、上げれば損をする。両側から挟まれて、評価額が残る。
観察 3.5 この性質は、相手の出方を知らなくても成り立つ。$m$ がいくつであっても、$b=v$ が最悪にならない。だから読み合いが要らない。
4. 分離子
分離子:自分の入札額が、支払額を決めるか。
観察 4.1 一位価格では、入札額が支払額を決める。高く言えばそのまま高く払う。だから下げる誘因が生まれる。
計算 4.2:一位価格で、正直な $100$ と、下げた $90$ を比べる。
正直な $100$ の利得はちょうど $\mathbf{0}$、$90$ に下げると $\mathbf{10.0000}$ になる。
観察 4.3 一位価格では、正直は最適でない。下げた方が明らかに得である。ただし下げすぎると取り逃すので、$60$ では $0$ に戻る。
観察 4.4 二位価格では、入札額が支払額を決めない。支払うのは他者の額である。だから下げる誘因が消える。
観察 4.5 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「正直に言った」と呼ばれる。一方は人の性質、一方は規則の帰結である。
観察 4.6 正直に言えば、共謀があれば結論は変わる。入札者どうしの結託、売り手が偽の入札を入れる場合、本稿はそれらを扱っておらず、独立に決まった評価額の場合だけを見ている。
観察 4.7 最後に一つ、正直を求めるなら、正直を得にすればよい。人を変えるのではなく、支払額の決め方を一つ変える。変えたのは規則であって、人ではない。
5. 点呼と結び
- 二位価格は $90$〜$140$ で全部 $20.0000$(計算 2.1):本稿の芯。
- その値は $v-m=20.0000$(観察 2.3):逆算で一致。
- $60$ では利得ちょうど $0$(観察 2.4):境目の反対側。
- 取り逃した分は $20$ 全部(観察 2.4):下げすぎの代償。
- $m=120$ で超過入札は $-20.0$(計算 3.1):$v-m$ と一致。
- 正直ならその損を回避(観察 3.3):ちょうど $0$。
- 相手を知らなくても成り立つ(観察 3.5):読み合いが要らない。
- 一位価格の正直は $0$(計算 4.2):最適でない。
- $90$ に下げると $10.0000$(計算 4.2):下げる誘因。
- 分離子は入札額が支払額を決めるか(観察 4.5):論文300 の基準で別根。
結び:入札では、本当の値打ちを言わない方が得だと思われている。高く言えば取れるが払いすぎ、低く言えば安いが取り逃すので、みないくら下げるかを考え、読み合いが始まる。だがその読み合いは、規則の必然ではない。二位価格では、正直が最適になる。評価額 $100$、他者の最高 $80$ のとき、$90$・$100$・$110$・$140$ のどれで入札しても利得は $\mathbf{20.0000}$ で同じである。支払額が自分の入札額に依らないからで、その値は $v-m=100-80=\mathbf{20.0000}$ と一致する。自分の入札額は、落札するかどうかだけを決めている。$60$ に下げると取り逃して利得はちょうど $\mathbf{0}$、得られたはずの $20$ を丸ごと失う。そして上げすぎても損をする。他者の最高が $120$ の場面で $140$ と入札すると利得は $\mathbf{-20.0}$ で、$v-m$ と一致する。正直なら落札しないので利得はちょうど $0$ で、その損を回避できる。下げれば取り逃し、上げれば損をするので、両側から挟まれて評価額が残る。しかもこの性質は相手の出方を知らなくても成り立つので、読み合いが要らない。分けているものは一つ、自分の入札額が、支払額を決めるか。一位価格では入札額がそのまま支払額なので下げる誘因が生まれ、正直な $100$ の利得はちょうど $\mathbf{0}$、$90$ に下げれば $\mathbf{10.0000}$ になる。ただし下げすぎれば取り逃して $0$ に戻る。二位価格では支払うのが他者の額なので、下げる誘因そのものが消える。論文300 の基準で別根であり、どちらも「正直に言った」と呼ばれるが、一方は人の性質、一方は規則の帰結である。正直に言えば、共謀があれば結論は変わる。入札者どうしの結託や、売り手が偽の入札を入れる場合は扱っておらず、独立に決まった評価額の場合だけを見ている。最後に一つ、正直を求めるなら、正直を得にすればよい。人を変えるのではなく、支払額の決め方を一つ変える。変えたのは規則であって、人ではない。
参考文献
- Vickrey, W. (1961). Counterspeculation, Auctions, and Competitive Sealed Tenders. Journal of Finance.
- Myerson, R. B. (1981). Optimal Auction Design. Mathematics of Operations Research.
- Krishna, V. (2009). Auction Theory (2nd ed.). Amsterdam: Academic Press.
- Milgrom, P. (2004). Putting Auction Theory to Work. Cambridge: Cambridge University Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『規則の核心と名指された条件を外しても、成績が動かない』[論文422]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700081
- 山岸勇輝 (2026). 『表は当たっているのに、売買は負ける』[論文423]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700114
- 山岸勇輝 (2026). 『どの順位でも一定なのに、合計は決まらない』[論文435]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22709070
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「支払う額の決め方を変えるだけで、正直が最適になる」[論文436]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22709288
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 支払う額の決め方を変えるだけで、正直が最適になる [論文436]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/436 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22709288
Yamagishi, Y. (2026). Change How the Price Is Set and Honesty Becomes the Best Move [Paper 436]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/436; DOI: 10.5281/zenodo.22709288
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