【論文438】どちらも 7.2446 倍になり、比は動かなかった

要旨

改良を重ねれば、有利になると思われている。本稿が示すのは、相手も同じだけ改良すれば、何も変わらないことである。そして、それでも走らなければ大きく落ちる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、年 $2$ パーセントずつ改良すると、$100$ 年後の能力は $\mathbf{7.2446}$ 倍になる(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。両者が同じだけ改良すると、$100$ 年後の比はちょうど $\mathbf{1.000000000}$ のままである(第2節)。

第三に、勝率もちょうど $\mathbf{0.500000000}$ で動かない(第2節)。

第四に、改良率を $2$ から $10$ パーセントへ $5$ 倍にしても、双方同じなら比は $\mathbf{1}$ のままである(第2節)。

第五に、片方が止まると、$100$ 年で勝率が $0.5$ から $\mathbf{0.878803}$ へ、$\mathbf{0.378803}$ 動く(第3節)。

第六に、分離子は「絶対の能力か、相手との比か」である(第4節)。

キーワード:赤の女王仮説、共進化、軍拡競争、相対適応度。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。赤の女王仮説、共進化、相対適応度の考え方はすべて既知である($1973$ 年以来)。生物学の主張をしない。有性生殖の起源、寄生と宿主の共進化、絶滅率の一定性という具体的な仮説は主題ではない。改良率の値を主張しない。年 $2$ パーセントは説明のための代表値であり、どの分野の値でもない。勝敗の模型を一つに固定する。勝率を能力の比で書く形を使う。他の形なら数は変わるが、比が動かないという結論は変わらない。最適化を論じない。どれだけ投資すべきかという問いは主題ではない。時間の非対称を扱わない。追いつく側と逃げる側で改良の難しさが違う場合は扱わない。既刊との関係:論文437 は各自の最善が全体の最悪になることを示した。そこでは選択が互いに影響した。ここでは改良が互いに打ち消し合う。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「能力が上がった」と「有利になった」は、その基準で別根である。論文424 は割ると分母の動きが分子の出来事になることを示した。そこでは分母が動いた。ここでは分子と分母が同じだけ動いて商が動かない。論文434 は安くしているのが時間でなく累積であることを示した。そこでも、動いている量と効いている量が違った。加えたのは、四つの時点で能力と比を並べたこと、比と勝率がちょうど動かないことを $9$ 桁で示したこと、改良率を $5$ 倍にしても比が変わらないことを確かめたこと、片方が止まった場合の勝率の動きを $0.378803$ と出したこと、絶対の増加を $7.2446$ 倍と出して「走ってはいる」ことを示したこと、分離子を「絶対か比か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:二者の能力を $a(t)$、$b(t)$ とし、年率 $r$ で改良するとする。

$$a(t)=a_0(1+r)^t,\qquad b(t)=b_0(1+r)^t$$

勝率は能力の比で決まるとし、次で書く。

$$p=\frac{a}{a+b}$$

以下 $a_0=b_0=1$、$r=0.02$ とする。

観察 1.1 改良を重ねれば有利になる、と思われている。速くなり、強くなり、上手くなる。努力が報われる形である。

観察 1.2 だが有利かどうかは、相手との比で決まる。絶対の能力ではない。相手も改良していれば、話が変わる。

問い:両者が同じだけ改良したら、何が残るのか。

2. 7.2446 倍になり、比は 1 のまま

計算 2.1:両者が年 $2$ パーセントで改良した場合の能力と比を出す。

年 甲の能力 乙の能力 比 甲の勝率
$0$ $1.0000$ $1.0000$ $1.000000$ $0.500000$
$10$ $1.2190$ $1.2190$ $1.000000$ $0.500000$
$50$ $2.6916$ $2.6916$ $1.000000$ $0.500000$
$100$ $\mathbf{7.2446}$ $\mathbf{7.2446}$ $\mathbf{1.000000}$ $\mathbf{0.500000}$

観察 2.2 能力は大きく増えている。$100$ 年で $\mathbf{7.2446}$ 倍、走ってはいる。

観察 2.3 それでも比はちょうど $\mathbf{1.000000000}$ である。$9$ 桁まで動かない。同じ因子を掛けているので、商から消える。

観察 2.4 勝率もちょうど $\mathbf{0.500000000}$ である。比が動かないので勝率も動かない。$100$ 年かけて、何も変わっていない。

計算 2.5:改良率を $5$ 倍の $10$ パーセントにする。

$100$ 年後の能力は $13780.6$ 倍になるが、比はやはりちょうど $\mathbf{1.000000000}$ である。

観察 2.6 速さを変えても、双方同じなら結果は同じである。どれだけ速く走っても、相対位置は動かない。これが「走り続けても同じ場所」という言い方の中身である。

3. 片方が止まると、大きく落ちる

計算 3.1:乙だけが改良をやめた場合の勝率を出す。

年 甲の能力 乙の能力 甲の勝率
$10$ $1.2190$ $1.0000$ $0.549291$
$50$ $2.6916$ $1.0000$ $0.729116$
$100$ $7.2446$ $1.0000$ $\mathbf{0.878803}$

観察 3.2 止まった側の勝率は $0.5$ から $0.121197$ へ落ちる。甲の側から見れば $\mathbf{0.878803}$、$\mathbf{0.378803}$ 動いた。

観察 3.3 つまり走ることには意味がある。走っても有利にならないが、止まれば不利になる。二つは別の主張である。

観察 3.4 $10$ 年ではまだ $0.549291$ である。差は小さい。止まったことの影響は、時間とともに複利で開く。

観察 3.5 だから短期で見ると、止まっても損に見えない。$10$ 年で $0.05$ しか動かない。ここが判断を誤らせる。

4. 分離子

分離子:絶対の能力か、相手との比か。

観察 4.1 絶対の能力は上がっている。$7.2446$ 倍、これは疑いようがない。

観察 4.2 相手との比は動いていない。ちょうど $1$、これも疑いようがない。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「進歩した」と呼ばれる。一方は自分だけを見た量、一方は二者を見た量である。

観察 4.4 そして測る量が違えば、答も違う。どちらも正しい。「進歩したのに何も変わらない」は矛盾ではなく、二つの物差しの併記である。

観察 4.5 論文424 と同じ形が出ている。そこでは分母だけが動いて商が動いた。ここでは分子と分母が同じだけ動いて商が動かない。どちらも、割った量が二つの独立な量の関数だからである。

観察 4.6 正直に言えば、勝率を能力の比で書く形を一つ固定した。他の形なら数は変わる。変わらないのは、双方が同じ因子で改良すれば比が動かないという点である。

観察 4.7 最後に一つ、「努力が無駄だ」とは言っていない。走っても有利にならないが、止まれば $0.378803$ 落ちる。走る理由は、追い越すためではなく、落ちないためである。

5. 点呼と結び

  1. $100$ 年で能力は $7.2446$ 倍(計算 2.1):走ってはいる。
  2. 比はちょうど $1.000000000$(観察 2.3):$9$ 桁まで。
  3. 勝率もちょうど $0.500000000$(観察 2.4):何も変わらない。
  4. 改良率 $5$ 倍でも比は $1$(計算 2.5):速さは効かない。
  5. その場合の能力は $13780.6$ 倍(計算 2.5):絶対値だけ増える。
  6. 片方が止まると勝率 $0.878803$(計算 3.1):$100$ 年で。
  7. 動いた幅は $0.378803$(観察 3.2):大きい。
  8. $10$ 年では $0.549291$(計算 3.1):まだ小さい。
  9. 影響は複利で開く(観察 3.4):短期では見えない。
  10. 分離子は絶対か比か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。

結び:改良を重ねれば有利になる、と思われている。速くなり、強くなり、上手くなる。だが有利かどうかは絶対の能力ではなく相手との比で決まるので、相手も改良していれば話が変わる。両者が同じだけ改良すると、何も変わらない。年 $2$ パーセントで $100$ 年走ると能力は $\mathbf{7.2446}$ 倍になるのに、比はちょうど $\mathbf{1.000000000}$、勝率もちょうど $\mathbf{0.500000000}$ のままである。$9$ 桁まで動かないのは、同じ因子を掛けているので商から消えるからである。改良率を $5$ 倍の $10$ パーセントにすれば $100$ 年後の能力は $13780.6$ 倍になるが、比はやはりちょうど $\mathbf{1}$ である。どれだけ速く走っても、双方同じなら相対位置は動かない。それでも、止まれば落ちる。片方だけが改良をやめると、$100$ 年で勝率は $0.5$ から $\mathbf{0.878803}$ へ、$\mathbf{0.378803}$ 動く。走っても有利にならないが、止まれば不利になる。この二つは別の主張である。ただし $10$ 年ではまだ $0.549291$ で差は小さく、影響は複利で開くので、短期で見ると止まっても損に見えない。ここが判断を誤らせる。分けているものは一つ、絶対の能力か、相手との比か。絶対の能力は $7.2446$ 倍に上がっており、相手との比はちょうど $1$ のまま動いていない。どちらも疑いようがない。論文300 の基準で別根であり、どちらも「進歩した」と呼ばれるが、一方は自分だけを見た量、一方は二者を見た量である。測る量が違えば答も違うので、「進歩したのに何も変わらない」は矛盾ではなく、二つの物差しの併記である。論文424 と同じ形で、そこでは分母だけが動いて商が動き、ここでは分子と分母が同じだけ動いて商が動かない。どちらも、割った量が二つの独立な量の関数だからである。正直に言えば、勝率を能力の比で書く形を一つ固定した。他の形なら数は変わるが、双方が同じ因子で改良すれば比が動かないという点は変わらない。最後に一つ、「努力が無駄だ」とは言っていない。走っても有利にならないが、止まれば $\mathbf{0.378803}$ 落ちる。走る理由は、追い越すためではなく、落ちないためである。

参考文献

  1. Van Valen, L. (1973). A New Evolutionary Law. Evolutionary Theory.
  2. Dawkins, R., & Krebs, J. R. (1979). Arms Races Between and Within Species. Proceedings of the Royal Society B.
  3. Hamilton, W. D., Axelrod, R., & Tanese, R. (1990). Sexual Reproduction as an Adaptation to Resist Parasites. PNAS.
  4. Liow, L. H., Van Valen, L., & Stenseth, N. C. (2011). Red Queen: From Populations to Taxa and Communities. Trends in Ecology & Evolution.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『割ると、分母の動きが分子の出来事になる』[論文424]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700141
  7. 山岸勇輝 (2026). 『安くしているのは、時間ではなく累積である』[論文434]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22708735
  8. 山岸勇輝 (2026). 『各自が最善を選ぶと、二人とも最悪に着く』[論文437]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22709472

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「どちらも 7.2446 倍になり、比は動かなかった」[論文438]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22732350

YOI 438第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/438・DOI 10.5281/zenodo.22732350・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). どちらも 7.2446 倍になり、比は動かなかった [論文438]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/438 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22732350

Yamagishi, Y. (2026). Both Improved 7.2446-Fold and the Ratio Never Moved [Paper 438]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/438; DOI: 10.5281/zenodo.22732350

@misc{yamagishi2026yoi438,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {Both Improved 7.2446-Fold and the Ratio Never Moved},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/438},
  doi = {10.5281/zenodo.22732350},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
e2cca3e5579bc927d3c17381db46403c7db33ad6cbe50d14d9be219bc71bd43e yamagishi_yoi438_v1_jp.pdf
3fdea4ddccd0b1c25007455ea72fdc91ee59e298f6ec12e43e4c4e6775f8aaa3 yamagishi_yoi438_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。