要旨
「仕事をしない」という同じ一言が、電気の三つの場面で使われている。本稿が示すのは、零になっている場所が三つとも別であり、ポインティングの帳簿の別の項に住んでいることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、無効電力で零なのは時間平均だけである。平均は $\mathbf{1.004\times10^{-17}}$ だが、瞬時電力は $\mathbf{0.500000}$ あり、電流の実効値も $\mathbf{0.707107}$ ある(第2節)。
第二に、抵抗を直列に入れると平均は $\mathbf{0.250000}$ になる。境目の反対側。零だったのは回路の性質であって、交流の性質ではない(第2節)。
第三に、磁場で零なのは内積そのものである。力と速度の内積は規格化して $\mathbf{0.000\times10^{0}}$、平均を取る前から零である(第3節)。
第四に、それでも速度は動いている。速さは $\mathbf{0.911043357914}$ から $\mathbf{0.911043357916}$ へしか動かないのに、$x$ 成分は $\mathbf{0.700000}$ から $\mathbf{0.559541}$ へ動く(第3節)。
第五に、これが本稿の芯である。変位電流の「仕事をしない」は、零ですらない。$\mathbf{J}\cdot\mathbf{E}$ の項に入っていないだけで、隙間の蓄えは $\mathbf{8.854187813\times10^{-8}}$ ワットで増え、側面から入る流束と比 $\mathbf{1.000000000000}$ で一致する(第4節)。
第六に、分離子は「どの零か」である。時間平均が零・内積が零・項に入っていない、の三つであり、同じ帳簿の別の場所である(第5節)。
キーワード:仕事をしない力、ポインティングの定理、無効電力、ローレンツ力、電磁エネルギー。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。ポインティングの定理も、無効電力の定義も、ローレンツ力が仕事をしないことも標準的である。エネルギーの局在を論じない。ポインティングベクトルの一意性(曲がりの分だけ足せる自由度)には立ち入らない。本稿が使うのは積分した帳簿だけである。磁気モーメントの話に広げない。内部自由度を持つ粒子で磁場が仕事をするように見える場合は、本稿の枠の外である。回路の設計をしない。力率をどう改善するかは主題ではない。変位電流に実体を与えない。磁場を作るという性質を述べるだけで、電荷が動いているとは書かない。三つを「同じ現象」と呼ばない。共有しているのは帳簿であって、機構ではない。既刊との関係:論文356 は電流が流れているのに仕事をしていないと示した。本稿はその零が時間平均の零であることを、瞬時電力 $0.500000$ を並べて示す。論文410 は磁場が仕事をしないのに粒子を閉じ込めると示した。本稿はその零が内積の零であることを、速さと向きを分けて示す。論文267 は変位電流が電流ではないと示した。本稿はそれが帳簿のどの項に住んでいないかを示す。論文339 は彗星の尾が二本だと示し、論文418 は光の角運動量が二つだと示した。どちらもポインティングベクトルを運動量の側から使っている。本稿はエネルギーの側から使う。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。三つの零は「量の持ち物」の基準で別根である。論文481 は「法則が破れた」がどの仮定へも落とせると示した。本稿は逆に、「仕事をしない」がどの項へ落ちるかを一意に決める。加えたのは、三つの零を同じ帳簿の三つの場所として住所づけたこと、無効電力の瞬時値 $0.500000$ と抵抗入りの $0.250000$ を境目の両側として測ったこと、磁場の内積が平均を取る前から零であることを測ったこと、変位電流の帳簿が $12$ 桁で閉じることを確かめたこと、分離子を「どの零か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:ポインティングの定理は、電磁場のエネルギーの帳簿である。
$$\frac{\partial u}{\partial t}+\nabla\cdot\mathbf{S}=-\mathbf{J}\cdot\mathbf{E}$$
ここで $u$ は蓄え、$\mathbf{S}=\mathbf{E}\times\mathbf{B}/\mu_{0}$ は流れ、$\mathbf{J}\cdot\mathbf{E}$ は物質へ渡す仕事率である。
観察 1.1 項は三つしかない。蓄えの変化、流れの発散、物質への受け渡し、「仕事をしない」と言うとき、どの項が零なのかを言わなければ、文は住所を持たない。
観察 1.2 零には形が三つある。時間平均が零・量そのものが零・その項に入っていない。三つ目は「零である」とすら言えない。項が違うのである。
問い:電気の三つの「仕事をしない」は、この三つのどれか。
2. 無効電力、零なのは時間平均だけ
計算 2.1:$v(t)=\cos t$ を純粋なインダクタ($L=1$)に掛ける。電流は $i(t)=\sin t$ になる。一周期にわたって $p(t)=v i$ を数値的に平均した。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 平均電力 | $\mathbf{1.004\times10^{-17}}$ |
| 瞬時電力の最大 | $\mathbf{0.500000}$ |
| 電流の実効値 | $\mathbf{0.707107}$ |
観察 2.2 三つの数のうち、零なのは一つだけである。電流は流れており、瞬時電力も往復している。零になるのは一周期を通したあとであって、どの瞬間にも仕事をしていないのではない。
観察 2.3 瞬時電力の最大 $\mathbf{0.500000}$ は、蓄えの往復である。$p(t)=(1/2)\sin 2t$ で、周波数が二倍になる。エネルギーは電源とインダクタのあいだを一周期に二度往復している。
計算 2.4:抵抗 $R=1$ を直列に入れて同じ平均を取る。平均は $\mathbf{0.250000}$ である(閉じた式 $V^{2}R/(2|Z|^{2})$ と一致)。
観察 2.5 境目の反対側である。同じ交流、同じ周波数でも平均は零でなくなる。零だったのは回路の性質であって、交流であることの性質ではない。
観察 2.6 帳簿でいえば、$\mathbf{J}\cdot\mathbf{E}$ は零でない。各瞬間には物質と場のあいだで受け渡しがある。一周期で足すと零になるだけである。
3. 磁場、零なのは内積そのもの
計算 3.1:一様磁場 $\mathbf{B}=(0,0,1)$ の中で荷電粒子を $200000$ 歩だけ進め、毎歩、力と速度の内積を規格化して測った。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 内積の最大(規格化) | $\mathbf{0.000\times10^{0}}$ |
| 速さ(初め) | $\mathbf{0.911043357914}$ |
| 速さ(後) | $\mathbf{0.911043357916}$ |
| 速度の $x$ 成分(初め $\to$ 後) | $\mathbf{0.700000}\to\mathbf{0.559541}$ |
観察 3.2 ここでの零は、平均を取る前から零である。$\mathbf{F}=q\mathbf{v}\times\mathbf{B}$ は定義により $\mathbf{v}$ と直交する。無効電力とは零の種類が違う。あちらは往復して消え、こちらは初めから無い。
観察 3.3 それでも何も起きていないのではない。速さの相対変化は $\mathbf{1.759\times10^{-12}}$(数値積分の誤差の桁)なのに、$x$ 成分は $\mathbf{0.700000}$ から $\mathbf{0.559541}$ へ $\mathbf{0.140459}$ 動いている。仕事が零であることと、影響が無いことは別である。
観察 3.4 帳簿でいえば、$\mathbf{B}$ は $\mathbf{J}\cdot\mathbf{E}$ に一度も現れない。仕事率の項は電場だけを含む、論文410 が「閉じ込めるのに仕事をしない」と書いた事情は、この項の形そのものである。
観察 3.5 磁場が無関係だという意味ではない。$\mathbf{S}$ には $\mathbf{B}$ が入り、$u$ にも $B^{2}/2\mu_{0}$ が入る。$\mathbf{B}$ が入っていないのは三つの項のうち一つだけである。
4. 変位電流、零ですらない
計算 4.1:面積 $10^{-2}$ 平方メートル、間隔 $10^{-3}$ メートルの平行板の隙間で、電場を毎秒 $10^{6}$ ボルト毎メートルの割合で増やす。$t=10^{-3}$ 秒の時点で、隙間の蓄えの増え方と、側面から入るポインティング流束を別々に計算した。
| 量 | 値(ワット) |
|---|---|
| 蓄えの増え方 $\partial u/\partial t$ の体積積分 | $\mathbf{8.854187813\times10^{-8}}$ |
| 側面から入る流束 | $\mathbf{8.854187813\times10^{-8}}$ |
| 比 | $\mathbf{1.000000000000}$ |
| $\mathbf{J}\cdot\mathbf{E}$(自由電流が無い) | $0$ |
観察 4.2 これが本稿の芯である。隙間には自由電流が無いので $\mathbf{J}\cdot\mathbf{E}=0$ だが、それは「零になった」のではない。初めからその項に住んでいない。エネルギーは $\partial u/\partial t$ と $\nabla\cdot\mathbf{S}$ の二項だけで完全に釣り合っている。
観察 4.3 帳簿は $12$ 桁で閉じる。側面から入る流束と蓄えの増え方の比が $\mathbf{1.000000000000}$、これは検査であって主張ではない。もし変位電流を磁場の源に数え入れなければ、$\mathbf{B}$ が出ず、流束は零になり、帳簿は開いたままになる。
観察 4.4 エネルギーは横から入っている。極板の導線に沿ってではなく、円筒の側面から、論文267 が「変位電流は電流ではない」と書いたとおり、運んでいるのは電荷ではなく場である。
観察 4.5 三つ目の零は、零の一種ではない。時間平均の零は「積分すると消える」、内積の零は「常に零」、項の所属は「その量がそこに無い」。三つ目だけが数の話ですらない。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は「どの零か」である。三つを取り違えると、予測が変わる。時間平均の零は回路を変えれば破れ($\mathbf{0.250000}$)、内積の零はどんな磁場配置でも破れず、項の所属は帳簿の書き方を変えない限り動かない。
観察 5.2 論文300 の「量の持ち物」の基準で別根である。一つ目は周期という持ち物を要り、二つ目は要らず、三つ目は量ですらない。同じ数(零)が出ることは、同根の証拠にならない。
観察 5.3 共有しているのは帳簿である。三つとも同じ一本の等式の中に住所を持つ、ただしそれは「同じ現象」という意味ではない。同じ台帳に別の行があるだけである。
観察 5.4 論文481 の逆向きである。あちらは「法則が破れた」がどの仮定へも落とせると示した。こちらは「仕事をしない」がどの項に落ちるかが一意に決まると示す。帳簿があると、行き先が一つに定まる。
観察 5.5 言わないこと。ポインティングベクトルには曲がりの分だけ足せる自由度があり、局在の議論には立ち入らない。本稿が使うのは、閉曲面で積分した帳簿だけである。
観察 5.6 磁気モーメントを持つ粒子は枠の外である。内部自由度があると「磁場が仕事をした」ように見える場合がある。本稿の粒子は点電荷であり、その場合に限って内積は厳密に零である。
6. 点呼と結び
- 無効電力の平均 $\mathbf{1.004\times10^{-17}}$(計算 2.1):零なのは平均だけ。
- 瞬時電力 $\mathbf{0.500000}$・実効電流 $\mathbf{0.707107}$(計算 2.1):零でない量が二つある。
- 抵抗を入れると $\mathbf{0.250000}$(計算 2.4):境目の反対側。
- 磁場の内積 $\mathbf{0.000\times10^{0}}$(計算 3.1):平均を取る前から零。
- 速さは $\mathbf{0.911043357914}\to\mathbf{0.911043357916}$(計算 3.1):$1.759\times10^{-12}$ しか動かない。
- $x$ 成分は $\mathbf{0.700000}\to\mathbf{0.559541}$(観察 3.3):仕事が零でも影響はある。
- 蓄えの増え方 $\mathbf{8.854187813\times10^{-8}}$ ワット(計算 4.1):本稿の芯。
- 側面からの流束と比 $\mathbf{1.000000000000}$(観察 4.3):帳簿が $12$ 桁で閉じる。
- $\mathbf{J}\cdot\mathbf{E}$ に $\mathbf{B}$ は現れない(観察 3.4):項の形そのもの。
- 分離子は「どの零か」(観察 5.1):三つで予測が違う。
- 磁気モーメントは枠の外(観察 5.6):点電荷に限る。
結び:電気には「仕事をしない」と言われる場面が三つある。一つ目で零なのは時間平均だけである。純粋なインダクタでは平均電力が $\mathbf{1.004\times10^{-17}}$ で零だが、瞬時電力は $\mathbf{0.500000}$ あり、電流の実効値も $\mathbf{0.707107}$ ある。瞬時電力は $(1/2)\sin 2t$ の形で、周波数が二倍になっている。エネルギーは一周期に二度、電源とインダクタのあいだを往復している。抵抗 $1$ を直列に入れると平均は $\mathbf{0.250000}$ になり、閉じた式と一致する。零だったのは回路の性質であって、交流であることの性質ではない。二つ目で零なのは内積そのものである。ローレンツ力は定義により速度と直交し、規格化した内積の最大は $\mathbf{0.000\times10^{0}}$ で、平均を取る前から零である。それでも何も起きていないのではない。速さは $\mathbf{0.911043357914}$ から $\mathbf{0.911043357916}$ へ $1.759\times10^{-12}$ しか動かないのに、$x$ 成分は $\mathbf{0.700000}$ から $\mathbf{0.559541}$ へ $0.140459$ 動く。帳簿でいえば、仕事率の項 $\mathbf{J}\cdot\mathbf{E}$ に $\mathbf{B}$ は一度も現れない。ただし $\mathbf{S}$ にも $u$ にも $\mathbf{B}$ は入るので、入っていないのは三項のうち一項だけである。三つ目は零ですらない。平行板の隙間には自由電流が無いので $\mathbf{J}\cdot\mathbf{E}=0$ だが、これは零になったのではなく、初めからその項に住んでいない。蓄えは $\mathbf{8.854187813\times10^{-8}}$ ワットで増え、円筒の側面から入るポインティング流束と比 $\mathbf{1.000000000000}$ で一致し、二項だけで帳簿が閉じる。エネルギーは導線に沿ってではなく横から入っている。運んでいるのは電荷ではなく場である。これは検査であって主張ではない。変位電流を磁場の源に数え入れなければ $\mathbf{B}$ が出ず、流束は零になり、帳簿は開いたままになる。分離子は「どの零か」である。時間平均の零は回路を変えれば破れ、内積の零はどんな磁場配置でも破れず、項の所属は帳簿の書き方を変えない限り動かない。論文300 の「量の持ち物」の基準でいえば、一つ目は周期という持ち物を要り、二つ目は要らず、三つ目は量ですらない。同じ零が出ることは同根の証拠にならない。論文481 の逆向きでもある。あちらでは「法則が破れた」がどの仮定へも落とせたが、帳簿があると「仕事をしない」の行き先は一つに定まる。正直に言えば、ポインティングベクトルには曲がりの分だけ足せる自由度があり、エネルギーの局在には立ち入っていない。使ったのは閉曲面で積分した帳簿だけである。磁気モーメントを持つ粒子は枠の外で、内積が厳密に零なのは点電荷の場合に限る。力率をどう改善するかも、変位電流に実体があるかどうかも扱っていない。言えるのは、三つの「仕事をしない」が同じ一本の等式の別々の場所に住んでおり、取り違えると予測が変わる、そこまでである。
参考文献
- Feynman, R. P., Leighton, R. B., & Sands, M. (1964). The Feynman Lectures on Physics. Addison-Wesley.
- Heaviside, O. (1893). Electromagnetic Theory. The Electrician Printing and Publishing Company.
- Jackson, J. D. (1998). Classical Electrodynamics (3rd ed.). Wiley.
- Poynting, J. H. (1884). On the Transfer of Energy in the Electromagnetic Field. Philosophical Transactions of the Royal Society of London.
- 山岸勇輝 (2026). 『変位電流は、電流ではない』[論文267]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169814
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『彗星の尾は一本ではなく、別の力に引かれた二本である』[論文339]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682041
- 山岸勇輝 (2026). 『電流は流れているのに、仕事をしていない』[論文356]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697124
- 山岸勇輝 (2026). 『磁場は仕事をしないのに、粒子を閉じ込める』[論文410]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699628
- 山岸勇輝 (2026). 『光の角運動量は二つあって、片方だけ上限がない』[論文418]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699908
- 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「「仕事をしない」は三つあり、零になっている場所が三つとも違う」[論文522]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22867518
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「仕事をしない」は三つあり、零になっている場所が三つとも違う [論文522]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/522 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22867518
Yamagishi, Y. (2026). There Are Three Ways of Doing No Work, and the Zero Sits in a Different Place in Each [Paper 522]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/522; DOI: 10.5281/zenodo.22867518
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