要旨
迷路では右手を壁に付けて進めば必ず出られる、と言われる。本稿は、その約束がどこで崩れるかを、壁を取り除いた迷路で数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、閉路の無い迷路では、必ず着く。すべての部屋が一本の道でつながる $15\times15$ の迷路で、無作為な出発点と目的地の $120$ 回すべてに着いた(第2節)。
第二に、壁を取り除くと、着けない回が出る。内側の壁を $2$ 枚取り除くと $0.883333$、$10$ 枚で $\mathbf{0.541667}$、$40$ 枚で $0.233333$ しか着かない(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。崩すのは閉路ではなく、外周とつながらない壁の塊である。塊が $0$ 個の回では一度も着けなかったことが無く、着けなかった回はすべて塊のある迷路で起きた(第3節)。
第四に、壁を取り除くと、閉路と塊の両方が増える。閉路の数(道の数 $-$ 部屋の数 $+1$)はすべての回で取り除いた枚数に等しく、外周とつながらない塊は $40$ 枚で平均 $\mathbf{25.866667}$ 個だった(第3節)。
第五に、着いても、近道はしない。閉路の無い迷路で着いたときの歩数は、最短の道の $\mathbf{5.728101}$ 倍だった(第2節)。
第六に、分離子は、道が閉路を持つかを問うか、壁が外周とつながっているかを問うかである。右手が伝うのは壁であり、壁が一続きなら道に閉路があっても外周をたどる(第4節)。
キーワード:迷路、壁伝い、閉路、外周とつながらない壁、単連結。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。壁が一続きの迷路では片手を壁に付けて進めばたどり着くこと、壁から離れた島があるとその保証が崩れること、閉路の数が辺の数 $-$ 点の数 $+1$ で数えられることは、いずれも既知である。実在の迷路を扱わない。庭園の迷路や建物の避難路は主題ではない。ほかの解き方に入らない。通った道に印を付ける方法など、壁伝い以外の解き方は扱わない。証明しない。迷路を乱数で作り、$120$ 回ずつ試した数だけを見る。既刊との関係:論文331 は、面積という連続量が二種類の点を数えるだけで厳密に出ることを示し、射程注記で穴のある領域を扱わなかった。本稿はその隣に置く。あちらでは穴が一つ入ると数え方の前提が崩れるので、穴を外した。ここでは壁の側の穴、つまり外周とつながらない壁の塊が、壁伝いの約束を崩すことを数える。加えたのは、取り除く壁の枚数ごとに着く割合を測ったこと、閉路の数と外周とつながらない塊を別々に数えたこと、塊が $0$ 個の回では着けなかったことが無いと確かめたこと、分離子を「閉路か、壁のつながりか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:$15\times15$ の部屋を壁で仕切り、乱数で一か所ずつ壁を壊して、すべての部屋が一本の道でつながる(閉路の無い)迷路を作る。そこから内側の壁を $r$ 枚取り除いて道に閉路を足す。右手を壁に付けて進む方法は、右・前・左・後ろの順に、壁の無い向きへ一部屋進む。同じ部屋に同じ向きで二度来たら、着けないと数える。
$$\text{閉路の数}=\text{道の数}-\text{部屋の数}+1,\qquad
\text{着く割合}=\frac{\text{着いた回}}{120}$$
壁の線分を格子点で結び、外周とつながらない壁の塊の数を数えた。出発点と目的地は、回ごとに無作為に選んだ。
問い:右手を壁に付けて進めば、どんな迷路でも必ず着くのか。
2. 取り除いた壁と、着く割合
計算 2.1:取り除く壁の枚数ごとに $120$ 回ずつ試し、着く割合、外周とつながらない壁の塊、着いたときの歩数を最短の道の長さで割った値を出した。
| 取り除いた壁 | 着く割合 | 外周とつながらない塊(平均・最大) | 歩数 $\div$ 最短 |
|---|---|---|---|
| $0$ | $1.000000$ | $0.000000$・$0$ | $5.728101$ |
| $2$ | $0.883333$ | $1.475000$・$2$ | $8.159115$ |
| $5$ | $0.733333$ | $3.675000$・$5$ | $7.061306$ |
| $10$ | $0.541667$ | $7.233333$・$10$ | $7.925349$ |
| $20$ | $0.366667$ | $14.333333$・$19$ | $7.729748$ |
| $40$ | $0.233333$ | $25.866667$・$35$ | $6.686513$ |
観察 2.2 閉路の無い迷路では必ず着き、壁を取り除くと着けない回が出る。壁を $0$ 枚のときは $120$ 回すべて着き、$10$ 枚取り除くと $120$ 回中 $65$ 回、$40$ 枚では $0.233333$ に下がる。着いたときも、閉路の無い迷路で歩数は最短の $5.728101$ 倍で、行き止まりに入っては戻ってくる。壁伝いは着くことを約束しても、速さは約束しない。
3. 崩すのは何か
計算 3.1:すべての回で、閉路の数と取り除いた壁の枚数、外周とつながらない塊の数と着けたかどうかを突き合わせた。
観察 3.2 これが本稿の芯である。崩すのは閉路ではなく、外周とつながらない壁の塊である。外周とつながらない塊が $0$ 個の回では、どの枚数でも一度も着けなかったことが無かった。着けなかった回は、すべて塊のある迷路で起きた。右手は壁を伝うので、外周から離れた塊のまわりを回り続けると、目的地のある壁に移れない。
観察 3.3 壁を取り除くと、閉路と塊の両方が増える。閉路の数(道の数 $-$ 部屋の数 $+1$)は、すべての回で取り除いた枚数に等しかった。外周とつながらない塊は、$2$ 枚で平均 $1.475000$ 個、$40$ 枚で平均 $25.866667$ 個(最大 $35$)で、取り除いた枚数を超えなかった。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、道が閉路を持つかを問うか、壁が外周とつながっているかを問うかである。道の側から見れば、壁を取り除くと閉路が増える。壁の側から見れば、外周とつながらない塊が生まれる。右手が伝うのは壁なので、約束を決めるのは壁の側のつながりである。
観察 4.2 論文331 の隣に置く。331 は、面積が二種類の点を数えるだけで出ることを示し、穴のある領域を外した。あちらでは穴が一つ入ると数え方の前提が崩れた。ここでは壁の側の穴、つまり外周とつながらない塊が一つでもあると、壁伝いの約束が崩れる。
観察 4.3 言わないこと。実在の迷路や避難路も、通った道に印を付ける方法も、定理の証明も扱わない。示したのは、壁伝いが必ず着くのは壁が外周と一続きのときだけだということである。
5. 点呼と結び
- 右・前・左・後ろの順に進む(第1節):右手を壁に付ける。
- 閉路なしで $120$ 回すべて着く(計算 2.1):約束が守られる。
- $2$ 枚で $0.883333$(計算 2.1):崩れ始める。
- $10$ 枚で $\mathbf{0.541667}$(計算 2.1):$120$ 回中 $65$ 回。
- $40$ 枚で $0.233333$(計算 2.1):さらに下がる。
- 塊 $0$ 個なら着けない回は無い(観察 3.2):本稿の芯。
- 閉路の数 $=$ 取り除いた枚数(観察 3.3):すべての回。
- $40$ 枚で塊 $\mathbf{25.866667}$ 個(観察 3.3):外周とつながらない。
- 歩数は最短の $\mathbf{5.728101}$ 倍(観察 2.2):速さは約束しない。
- 閉路か、壁のつながりか(観察 4.1):分離子・論文331。
結び:右手を壁に付けて進めば必ず着くのは、壁が外周と一続きのときだけである。閉路の無い $15\times15$ の迷路では $120$ 回すべて着くが、内側の壁を $10$ 枚取り除くと $0.541667$、$40$ 枚では $0.233333$ しか着かない。右手が伝うのは壁で、外周から離れた壁の塊のまわりを回り続けると、目的地のある壁に移れないからである。外周とつながらない塊が $0$ 個の回では、一度も着けなかったことが無かった。崩すのは道の閉路そのものではなく、壁の側のつながりである。既刊との位置:論文331 が面積の数え方から外した穴の隣に、壁の側の穴が壁伝いの約束を崩すことを置いた。正直に言えば、迷路は $15\times15$ の一つの大きさで、枚数ごとに $120$ 回試しただけである。
参考文献
- Even, S. (2011). Graph Algorithms (2nd ed.). Cambridge University Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『面積という連続量が、二種類の点を数えるだけで厳密に出る』[論文331]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/331 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22681503
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「右手を壁に付けて進めば必ず着くのは、壁が外周と一続きのときだけである」[論文876]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/876
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/876・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 右手を壁に付けて進めば必ず着くのは、壁が外周と一続きのときだけである [論文876]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/876
Yamagishi, Y. (2026). Keeping a Hand on the Wall Always Reaches the Goal Only When the Walls Are All Joined to the Outer Wall [Paper 876]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/876
@misc{yamagishi2026yoi876,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Keeping a Hand on the Wall Always Reaches the Goal Only When the Walls Are All Joined to the Outer Wall},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/876},
note = {Preprint, edition 1}
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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