
YOI(山岸オブジェクト識別子)とタイムスタンプで、置き場所が変わっても迷子にならない論文の残し方
論文を千本以上書いてきて、置き場所は何度でも変わりうると分かってきた。そこで、変わらない住所を自分のドメインの中に作り、書いた日付はブロックチェーンに刻むことにした。住所と日付と本体を、別々の場所に分けて持つ仕組みである。
第1章 置き場所が変わっても、番号は変わらない
1-1 論文の住所は、借りものだった
私はこれまで、書いた論文を Zenodo という公開の場に置いてきた。上げた論文には DOI という番号が付き、その番号をたどれば、どこからでも論文にたどり着ける。論文の住所のようなものである。
この仕組みはとてもありがたいが、住所を発行しているのは私ではない。番号を出すのも、番号の先にある棚を守るのも、借りている場所の側である。
借りている場所には、その場所の方針がある。方針は時とともに変わることがあり、変わったときに私が口を出せる余地はほとんどない。棚の並べ方が変われば、私が外に配ったリンクのいくつかは、迷子になるかもしれない。

自分の記事のサーバーも同じで、いつか引っ越すかもしれないし、フォルダの作りを変えるかもしれない。そのたびに、論文の URL は変わってしまう。
そう考えると、論文の住所を一つの置き場所に結びつけておくのは、少し危うい。置き場所はこれからも変わりうる。だから、置き場所とは別に、変わらない住所を一つ持っておきたいと思った。
1-2 YOI という、自分で持つ住所
そこで考えたのが YOI である。Yamagishi Object Identifier の頭文字で、日本語にすれば山岸オブジェクト識別子になる。AI との雑談の中で冗談半分に出てきた名前だが、中身はいたって実用的である。
しくみは単純で、自分のドメインの中に、論文ごとの変わらない住所を作る。たとえば論文1077 なら、住所は yamagishiyuuki.com/yoi/1077 のようにする。この住所を開くと、サーバーがその時点の本当の置き場所へ、自動で案内する。
案内の先が記事のページでも、PDF の倉庫でも、外の公開の場でもかまわない。置き場所が変わったら、手元の対応表の一行を書き換えるだけでよい。外に配った YOI のリンクは、そのまま生き続ける。

こうした「変わらない入口から、今の置き場所へ案内する」住所は、永続 URL と呼ばれる考え方で、昔から使われてきた。YOI は、それを自分の論文のために、自分のドメインの中で持つものである。
ドメインは私が持っているので、住所の発行も、案内の先の書き換えも、誰かに頼まずに自分でできる。住所の持ち主が自分であること。それが、借りものの住所との一番の違いである。
1-3 番号の付け方の決まり
番号は、新しく作らないことにした。論文の題名の最後に付いている[論文1077]の番号を、そのまま YOI に使う。覚える番号を増やさないためである。
桁は決めない。1077 なら 1077、いつか一万本目を書けば 10000 になる。前にゼロを付けて 01077 のように桁をそろえることもしない。
これには理由がある。昔、年を下二桁で持っていたせいで、2000年に困ったことがあった。私の手元でも、論文が千本目に届いたとき、番号を三桁までと決めて読んでいた道具が、1000 番を黙って飛ばしたことがある。桁を決めると、いつか必ずあふれる。
一度出した番号は、使い回さない。私の体系には、内容を別の論文にまとめたため欠番になった番号がある。その番号の YOI は、まとめた先の論文へ案内する説明につなぐ。
医療や統計の論文には、M などの頭の文字を付けた別の番号がある。これは頭の文字ごと YOI にする。版ごとの住所(第2版だけを指すもの)は、必要になったら後から足せるようにしておく。
第1章 まとめ
- 論文の住所を借りている場所に結びつけておくと、置き場所が変わったときに迷子になる
- YOI は自分のドメインに作る変わらない住所で、開くと今の置き場所へ案内する
- 番号は論文番号そのままで、桁を決めず、使い回さない
第2章 書いた日付は、ブロックチェーンに刻む
2-1 住所だけでは、いつ書いたかは言えない
YOI で住所は自分の手に戻る。だが、住所が言えるのは「どこにあるか」だけで、「いつ書いたか」は言えない。
自分のサーバーに置いたファイルの日付は、自分で書き換えられる。だから「この日に書いた」と自分のサーバーの上で言っても、ほかの人にとっては証拠にならない。
これまでは、公開の場に上げた日付が、その証拠の役をしてくれていた。上げた日付は運営の側が記録していて、私には書き換えられないからである。
ただ、それも借りている場所の記録である。もし棚そのものが動いたら、日付の記録も一緒に動くかもしれない。住所を自分の手に戻すなら、日付も、誰の手も借りずに示せる形で残しておきたい。
必要なのは、私が書き換えられず、しかも特定の運営に頼らない日付である。それを探していて見つけたのが、OpenTimestamps という仕組みだった。

2-2 OpenTimestamps のしくみ
OpenTimestamps は、ファイルの指紋をビットコインのブロックチェーンに刻む、無料の仕組みである。刻まれた記録は、誰でも確かめられる。
指紋というのは、ファイルの中身から計算した短い文字列(SHA-256 のハッシュ)のことである。中身が一文字でも変われば、指紋はまったく別のものになる。指紋から中身を元に戻すことはできない。
たくさんのファイルを刻むときは、手元の道具が指紋を一本の木(マークルツリー)にまとめ、その根だけを外へ送る。送られた根は、いくつかの受付を通って、ビットコインの記録に入る。
刻むと、ファイルごとに .ots という小さな証明のファイルができる。最初はまだ記録に入る前の仮のもので、数時間おいて確定の操作をすると、どのブロックに入ったかまで書き込まれる。
あとで確かめたい人は、元のファイルと .ots の二つを持って、OpenTimestamps の道具で照らし合わせる。指紋が合い、そのブロックが確かにその時刻に記録されていれば、そのファイルはその時刻より前に存在した、と言える。
2-3 2026年10月1日に刻んだもの
私は2026年10月1日に、手元のすべての論文の原稿(LaTeX のファイル)と、論文番号と DOI の対応表を一つの zip にまとめ、その指紋を刻んだ。中に入れたファイルの一覧も、別に刻んだ。
同じ日のうちに確定の操作をすると、二つとも、ビットコインのブロック 969358 と 969359 の記録に入ったことが分かった。.ots に書かれた指紋は、手元の zip と一覧の指紋とも一致していた。
これで言えるようになったのは、この zip の中身が、そのブロックの時刻より前に存在した、ということである。どの論文の原稿が、その日にその形であったかを、私の手を離れて示せる。
逆に、言えないこともある。刻み始めた日より前のことは、刻んで証明することはできない。それより前の日付は、公開の場の DOI と、ウェブの保存サービスに残した写しが証拠になる。
もう一つ大事なのは、刻むのは指紋だけで、中身は預けていないことである。証明を生かすには、刻んだファイルを 1 バイトも変えずに持ち続けなければならない。その控えは、自分の手元と別の場所の両方に置いてある。
第2章 まとめ
- YOI が言えるのは場所だけで、自分のサーバーの日付は証拠にならない
- OpenTimestamps はファイルの指紋をビットコインの記録に刻み、誰でも確かめられる証明を残す
- 2026年10月1日に全論文の原稿を刻み、刻んだファイルは 1 バイトも変えずに持ち続ける
第3章 住所と日付と本体を、別々の場所に置く
3-1 三つの役割を分ける
ここまでの話をまとめると、論文には三つのものが要る。読むための入口と、変わらない住所と、書いた日付の証拠である。私はこれを、別々の場所に分けて持つことにした。
読むための入口は、今の WordPress の記事である。論文の本文をそのまま載せていて、検索から来る人はまずここに着く。
本体の PDF と .ots は、記事とは別の、倉庫用のサーバーに置く。PDF は重く、ウェブを巡回するプログラムがまとめて取りに来ることもある。倉庫を分けておけば、そのときも記事のサーバーは重くならない。
そして住所は YOI である。YOI の転送は自分のドメインの中で動かし、案内の先を記事にするか倉庫の PDF にするかは、対応表で決める。
三つを分けておけば、どれか一つの場所が変わっても、ほかの二つはそのまま残る。倉庫を引っ越しても、YOI の表を直せば住所は生きる。記事のサーバーが止まっても、倉庫の PDF と .ots は手つかずで残る。

3-2 PDF と .ots を並べて置く
倉庫には、PDF と .ots を隣どうしに置く。たとえば 1077 の PDF の隣に、その .ots を同じ名前で並べる。読む人は PDF を開き、確かめたい人は二つとも取って照らし合わせればよい。
ここで気をつけるのは、刻んだときのファイルを、そのまま置くことである。同じ原稿から PDF を作り直すと、作った日時などがファイルの中に書き込まれて、指紋が変わってしまう。そうなると、手元の .ots とは合わなくなる。
だから、刻んだ PDF は作り直さない。直したくなったら、それは新しい版として別のファイルにし、新しい版はまた刻む。古い版のファイルと .ots は、そのまま残しておく。
確かめる手順は、誰でも同じである。PDF と .ots を手元に取り、OpenTimestamps の道具で照らし合わせる。私に問い合わせる必要も、私を信用してもらう必要もない。
倉庫のページそのものも、ウェブの保存サービスに写しを残していく。PDF の住所を保存しておけば、倉庫が消えた日にも、その日の写しが別の場所に残る。
3-3 DOI をやめるわけではない
最後に書いておくと、YOI は DOI の代わりではない。公開の場の DOI は、著者にお金がかからず、論文の目録や検索の仕組みも DOI を読む。YOI は、そうした目録からは DOI として扱われない。
YOI は、自分の城の中の住所である。外の世界の住所である DOI と並べて持ち、どちらか一方が使えなくなっても、もう一方で論文にたどり着けるようにする。
そのために、記事の最後には、その論文の YOI と DOI を並べて書いておく。読んだ人は、どちらの住所を控えてもよい。引用するときは、DOI を先に、YOI を添えて書いてもらえれば、なおありがたい。
YOI がいつまでも続くかは、私がドメインを持ち続けるかに懸かっている。だから、ドメインは自動で更新されるようにして、長めの年数で契約しておく。それが、この住所の土台になる。
住所は自分の手に、日付はブロックチェーンに、写しはウェブの保存サービスに置く。どれも、一つの運営の方針に全部を預けないための工夫である。
置き場所に悩む時間を減らして、そのぶん書くことに時間を使いたい。YOI とタイムスタンプは、そのための、地味だが頑丈な土台である。
第3章 まとめ
- 読む入口は記事、本体の PDF と .ots は倉庫、住所は YOI と、三つを別々の場所に置く
- 刻んだ PDF は作り直さず、.ots と並べて置けば、誰でも私を信用せずに確かめられる
- YOI は DOI の代わりではなく、ドメインを持ち続ける限り生きる、自分の城の中の住所である

YOI の転送は、これから順に用意していくもので、この記事を書いた時点ではまだすべての論文に用意できているわけではない。ビットコインのブロックの番号(969358 と 969359)は、2026年10月1日に OpenTimestamps の道具(ots info)で確定した証明から読んだ。OpenTimestamps の説明は公式の説明(ファイルのハッシュを刻むこと、ビットコインを使うこと、無料であること、証明が .ots のファイルになること)による。永続 URL は一般的な考え方として書いた。DOI の目録での扱いは一般的な形で、サービスごとに細かな違いがある。