【M031】「いちばん多いがん」は部位の束ね方で替わる

要旨

本稿が問うのは、「いちばん多いがん」がどの部位かは、部位をどう束ねるか、上皮内がんを含めるかで変わるか、である。全国がん登録の 2023 年の罹患数を、束ねた部位(大腸・子宮)、分けた部位(結腸・直腸・子宮頸部・子宮体部)、ICD-10 の 3 桁、4 桁の四つの並べ方で数え、上皮内がんを含めた数(表 1-B)と、同じ年の死亡数(人口動態統計 第5.24表)も並べた。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、表どうしの足し算はそろっている。大腸 = 結腸 + 直腸、ICD の 4 桁の行の和 = その 3 桁の行(69 の 3 桁すべて)、表 1-B の全部位 − 表 1-A の全部位 = 上皮内がんの計 121,173 である(第3節)。

第二に、これが本稿の芯である。男女計の罹患数の 1 位は、大腸と束ねれば大腸(154,039)、結腸と直腸に分ければ肺(123,989)、ICD の 3 桁でも肺(C34・123,903)、ICD の 4 桁では前立腺(C61・102,094)である。 前立腺は ICD の 4 桁の行を持たないが、肺・乳房・胃・結腸は 4 桁で 6〜10 の行に分かれる(第4節)。

第三に、上皮内がんを含めると、男性の 1 位は前立腺(102,094)から大腸(112,375)に替わり、男女計の分けた部位の 1 位は肺から結腸(133,721)に替わる。 上皮内がんで足される数は、肺の 3,204 から結腸の 31,285 まで部位で大きく違う(第5節)。

第四に、女性の罹患の 1 位は、どの並べ方でも乳房である(ICD の 4 桁では乳房の上外側の区画・43,647)。束ね方で替わるのは、2 位以下である(第4節)。

第五に、死亡でも同じことが起きる。女性の死亡の 1 位は、大腸と束ねれば大腸(25,195)、結腸と直腸に分ければ肺(22,854)である。 男性と男女計の死亡の 1 位は、どちらでも肺である(第6節)。

第六に、分けているのは、束ね方と含め方である。「いちばん多いがん」は部位の性質ではなく、数え方に部位の性質を掛けたものである。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。罹患数と死亡数は全国がん登録と人口動態統計が公表している数で、本稿はそれを並べ方を変えて数え直すだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 どの並べ方が正しいかを決めない。束ね方は、何を知りたいかで選ぶものである。上皮内がんを含めるべきかを論じない。 部位ごとの重さ(治りやすさ・亡くなりやすさ)を順位から読まない。 一人のなりやすさではない。地域を比べない。 データについて:e-Stat の全国がん登録と人口動態統計は政府標準利用規約(第2.0版)に従って使い、本稿の順位・比・差は加工して作成した。加えたのは、同じ年の同じ罹患数から、四つの並べ方と上皮内の含め方で 1 位が大腸・肺・前立腺・結腸と替わることを数えたこと、女性の罹患の 1 位だけがどの並べ方でも替わらないことを示したこと、死亡でも束ね方で女性の 1 位が替わることを並べたことである。

1. 記法と問い

  • 束ねた部位:表 1-A の部位の行のうち、大腸(結腸・直腸)と子宮を一つに数え、その内訳を使わない並べ方(21 部位)。
  • 分けた部位:大腸と子宮の代わりに、結腸・直腸・子宮頸部・子宮体部を使う並べ方(23 部位)。
  • ICD の 3 桁:表 a1 の C00〜C96 の 3 桁の行(87 行)。
  • ICD の 4 桁:表 a6 の 4 桁の行と、4 桁の行を持たない 3 桁の行(450 行)。
  • 上皮内を含む:表 1-B に行のある 10 部位を 1-B の数に置き換え、ほかの部位は表 1-A のままにした並べ方。

問い:「いちばん多いがん」は、部位をどう束ねても同じか。上皮内がんを含めると替わるか。死亡ではどうか。

観察 1.1:M024 はがんの死亡を部位ごとに並べた。本稿は同じ死亡の表(第5.24表)と、全国がん登録の罹患の表を、部位の束ね方を変えて並べる。

2. 下見と設計

正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。

中身
罹患数 全国がん登録 2023 年 表 1-A(悪性新生物)・表 1-B(上皮内がんを含む)・表 a1(ICD の 3 桁)・表 a6(ICD の 4 桁)
死亡数 人口動態統計 第5.24表の 2023 年の列(死因簡単分類・罹患と同じ年)
並べ方 束ねた部位・分けた部位・ICD の 3 桁・ICD の 4 桁、と上皮内を含む二つ
見込みと、測ったこと 下見の前は、1 位が替わるのは男女計で大腸を分けたときだけと見込んでいた。測ると、ICD の 4 桁では前立腺が、上皮内を含めると男性でも大腸が 1 位になり、女性の死亡でも替わった

3. データと、その確かめ

計算 3.1 取得したファイル 5 本を SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。

  • 表 1-A の行は 26、表 1-B は 11、表 a1 は 122、表 a6 は 637。
  • 表 1-A の大腸 = 結腸 + 直腸(総数・男・女)、子宮 = 子宮頸部 + 子宮体部 + 子宮部位不明(表 a1 の C55・336 人)。
  • 表 a1 の 3 桁の行の和は、総数では悪性新生物の計 = 表 1-A の全部位(993,469)に一致する。男女別の和は男で 3、女で 2 少なく、それは C51 外陰の「総数 − 女」(3)と C62 精巣の「総数 − 男」(2)に一致する(表には理由が書かれていない)。
  • 表 a6 の 3 桁の行 = 表 a1 の 3 桁の行。4 桁の行(432)の和 = その 3 桁の行(4 桁を持つ 69 の 3 桁すべて)。4 桁を持たない 3 桁の行は 18。
  • 表 1-B の全部位 − 表 1-A の全部位 = 表 a1 の上皮内がん(D00-D09)の計 121,173(総数・男・女)。
  • 第5.24表の 2023 年の大腸(再掲)= 結腸 + 直腸(総数・男・女)。

4. 並べ方ごとの 1 位

計算 4.1 並べ方ごとの罹患数の 1 位と 2 位(2023 年)

並べ方・性 1 位 人数 2 位 人数 1 位 ÷ 2 位
束ねた部位(表 1-A)・総数 大腸 154,039 肺 123,989 1.242
束ねた部位(表 1-A)・男 前立腺 102,094 大腸 85,208 1.198
束ねた部位(表 1-A)・女 乳房 102,592 大腸 68,830 1.491
分けた部位(表 1-A)・総数 肺 123,989 胃 104,864 1.182
分けた部位(表 1-A)・男 前立腺 102,094 肺 81,381 1.255
分けた部位(表 1-A)・女 乳房 102,592 結腸 49,441 2.075
ICD の 3 桁(表 a1)・総数 C34 気管支および肺 123,903 C16 胃 104,864 1.182
ICD の 3 桁(表 a1)・男 C61 前立腺 102,094 C34 気管支および肺 81,327 1.255
ICD の 3 桁(表 a1)・女 C50 乳房 102,592 C18 結腸 49,441 2.075
ICD の 4 桁(表 a6)・総数 C61 前立腺 102,094 C341 肺・上葉 58,043 1.759
ICD の 4 桁(表 a6)・男 C61 前立腺 102,094 C341 肺・上葉 38,415 2.658
ICD の 4 桁(表 a6)・女 C504 乳房・上外側 43,647 C502 乳房・上内側 24,252 1.800
束ねた部位・上皮内を含む(表 1-B)・総数 大腸 197,066 肺 127,193 1.549
束ねた部位・上皮内を含む(表 1-B)・男 大腸 112,375 前立腺 102,094 1.101
束ねた部位・上皮内を含む(表 1-B)・女 乳房 115,720 大腸 84,689 1.366
分けた部位・上皮内を含む(表 1-B)・総数 結腸 133,721 肺 127,193 1.051
分けた部位・上皮内を含む(表 1-B)・男 前立腺 102,094 肺 82,664 1.235
分けた部位・上皮内を含む(表 1-B)・女 乳房 115,720 結腸 61,177 1.892

ICD の 4 桁の部位名は、表 a6 の名前を短くした(例:「気管支及び肺の悪性新生物,上葉,気管支又は肺」→「C341 肺・上葉」)。

観察 4.2:男女計の 1 位は、束ねた部位で大腸、分けた部位で肺、ICD の 3 桁で肺、ICD の 4 桁で前立腺である。 大腸は 154,039 だが、結腸(102,436)と直腸(51,603)に分けると、どちらも肺(123,989)に届かない。ICD の 4 桁では、肺は上葉(58,043)・下葉(45,286)などに分かれ、4 桁の行を持たない前立腺(102,094)が 1 位になる。

観察 4.3:女性の 1 位は、どの並べ方でも乳房である。 ICD の 4 桁では乳房の上外側の区画(43,647)が 1 位で、2 位も乳房の上内側の区画(24,252)である。男性の 1 位は、上皮内を含めて束ねたときだけ大腸で、ほかはすべて前立腺である。「束ねた部位」と 1 位の名前が違うのは、ほかの 5 つの並べ方 × 3 つの性の 15 組のうち 5 組である。

計算 4.4 男女計の上位 5 部位(並べ方ごと)

並べ方 上位 5 部位(人数)
束ねた部位(表 1-A) 大腸 154,039・肺 123,989・胃 104,864・乳房 103,424・前立腺 102,094
分けた部位(表 1-A) 肺 123,989・胃 104,864・乳房 103,424・結腸 102,436・前立腺 102,094
ICD の 3 桁(表 a1) C34 気管支および肺 123,903・C16 胃 104,864・C50 乳房 103,424・C18 結腸 102,436・C61 前立腺 102,094
ICD の 4 桁(表 a6) C61 前立腺 102,094・C341 肺・上葉 58,043・C162 胃・胃体部 50,931・C343 肺・下葉 45,286・C504 乳房・上外側 43,768
束ねた部位・上皮内を含む(表 1-B) 大腸 197,066・肺 127,193・乳房 116,619・胃 104,864・前立腺 102,094
分けた部位・上皮内を含む(表 1-B) 結腸 133,721・肺 127,193・乳房 116,619・胃 104,864・前立腺 102,094

観察 4.5:前立腺(C61)は、表 a6 で 4 桁の行を持たない。肺(C34)は 6、乳房(C50)は 9、胃(C16)は 9、結腸(C18)は 10 の 4 桁の行に分かれる。細かく分けるほど、分けられない部位が上に来る。

図1 並べ方ごとの上位 5 部位

図1:男女計の罹患数の上位 5 部位(2023 年)。左上から、束ねた部位・分けた部位・ICD の 3 桁・ICD の 4 桁。橙が 1 位。

5. 芯、上皮内がんを含めると

計算 5.1 上皮内がんを含めると足される人数(表 1-B − 表 1-A・2023 年)

部位 総数で足される人数 表 1-A → 表 1-B 倍率 男 女
食道 +2,639 25,889 → 28,528 1.102 +1,999 +640
大腸 +43,027 154,039 → 197,066 1.279 +27,167 +15,859
結腸 +31,285 102,436 → 133,721 1.305 +19,549 +11,736
直腸 +11,742 51,603 → 63,345 1.228 +7,618 +4,123
肺 +3,204 123,989 → 127,193 1.026 +1,283 +1,921
皮膚 +7,087 27,353 → 34,440 1.259 +3,055 +4,032
乳房 +13,195 103,424 → 116,619 1.128 +67 +13,128
子宮 +23,128 30,738 → 53,866 1.752 +0 +23,127
子宮頸部 +23,128 10,457 → 33,585 3.212 +0 +23,127
膀胱 +21,538 23,970 → 45,508 1.899 +17,477 +4,061

表 1-B が部位に足した上皮内がんは、総数で 113,818、男で 51,048、女で 62,768 である。上皮内がんの計(121,173・55,706・65,466)から引いた残りの 7,355・4,658・2,698 は、表 1-B が部位に割り当てていない。

観察 5.2:上皮内がんを含めると、男性の大腸は 85,208 から 112,375 になり、前立腺(102,094)を超えて 1 位になる。男女計の分けた部位では、結腸が 102,436 から 133,721 になり、肺(123,989 → 127,193)を超えて 1 位になる。 足される数は、肺の 3,204(1.026 倍)から結腸の 31,285(1.305 倍)まで部位で大きく違い、子宮頸部は 3.212 倍になる。

観察 5.3:表 1-B が部位に割り当てていない上皮内がんを、1 位でない部位にすべて足しても、どの性・どちらの並べ方でも 1 位は変わらない(男性の束ねた部位で足したときの最大は 106,752 で、大腸の 112,375 に届かない)。

図2 上皮内がんで足される人数

図2:上皮内がんを含めると足される人数(男女計・2023 年)。青が悪性新生物(表 1-A)、橙が上皮内がんで足される分(表 1-B − 表 1-A)。

6. 死亡でも替わる

計算 6.1 死亡数の上位 4 部位(人口動態統計 第5.24表・2023 年)

並べ方・性 上位 4 部位(死亡数)
束ねた部位・総数 気管,気管支及び肺 75,762・大腸 53,131・膵 40,175・胃 38,771
束ねた部位・男 気管,気管支及び肺 52,908・大腸 27,936・胃 25,325・膵 19,859
束ねた部位・女 大腸 25,195・気管,気管支及び肺 22,854・膵 20,316・乳房 15,629
分けた部位・総数 気管,気管支及び肺 75,762・膵 40,175・胃 38,771・結腸 37,394
分けた部位・男 気管,気管支及び肺 52,908・胃 25,325・膵 19,859・結腸 18,146
分けた部位・女 気管,気管支及び肺 22,854・膵 20,316・結腸 19,248・乳房 15,629

観察 6.2:女性の死亡の 1 位は、大腸と束ねれば大腸(25,195)、結腸と直腸に分ければ肺(22,854)である。 分けると、2 位は膵(20,316)、3 位は結腸(19,248)になる。束ねた大腸は、肺の 1.102 倍である。男性と男女計の死亡の 1 位は、どちらの並べ方でも肺である。

7. 限界

  1. どの並べ方が正しいかは決めない。 束ね方は、何を知りたいかで選ぶものである。
  2. 上皮内がんを含めるべきかは論じない。 表 1-B は 10 部位にしか上皮内がんを足していない。
  3. 順位から部位の重さを読まない。 数が多いことと、治りにくいこと・亡くなりやすいことは別である。
  4. 死亡の部位の分け方(死因簡単分類)は、罹患の表の部位と同じではない。
  5. 一人のなりやすさではない。 地域を比べない。

結び

2023 年の同じ罹患数から、男女計の「いちばん多いがん」は、大腸と束ねれば大腸、結腸と直腸に分ければ肺、ICD の 4 桁では前立腺、上皮内がんを含めて分ければ結腸になった。男性でも、上皮内がんを含めて束ねると 1 位は前立腺から大腸に替わり、女性の死亡の 1 位も、束ねれば大腸、分ければ肺だった。どの並べ方でも替わらなかったのは、女性の罹患の 1 位の乳房だけである。

分けるものは一つ、束ね方と含め方、である。

「いちばん多いがんは○○」と聞いたときは、部位をどう束ね、上皮内がんを含めたかを、一緒に確かめる。

データと再現

データ 全国がん登録 2023 年 表 1-A・表 1-B・表 a1・表 a6、人口動態統計 令和6年 上巻 第5.24表(2023 年の列)(e-Stat・2026 年 9 月 25〜26 日に取得)
利用条件 e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠。本稿の順位・比・差は、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない
範囲 日本・2023 年
検算 検算/M031.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M031_output.txt から取っている
生データ data/ に取得したファイル 5 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・利用条件・言葉と計算の置き方)
図 図/M031_zu1・図/M031_zu2(png・svg・英語版)

参考文献

  • 厚生労働省. 全国がん登録 全国がん登録罹患数・率 2023年 表 1-A・表 1-B・表 a1・表 a6. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 厚生労働省. 人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.24表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 山岸勇輝 (2026). がんで亡くなる人は増え、年齢調整の率は下がった。年齢構成の押し上げは、部位で乳房の 1.433 倍から前立腺の 2.918 倍まで違う [M024]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22968432

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「いちばん多いがん」は部位の束ね方で替わる」[M031]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22972431

YOI M031医療統計ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「いちばん多いがん」は部位の束ね方で替わる [M031]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M031 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22972431

Yamagishi, Y. (2026). Which Cancer Is “Most Common” Changes with How Sites Are Grouped [M031]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M031; DOI: 10.5281/zenodo.22972431

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  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {Which Cancer Is "Most Common" Changes with How Sites Are Grouped},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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