【論文218】縞は消えて、また戻ってくる

要旨

論文207 は「ジョーンズ計算を囲っている柵はコヒーレンスである」と書き、その理論には触れなかった。本稿はその柵を測れる量にする。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。

第一に、可視度はスペクトルのフーリエ変換である。ガウス型のスペクトルは可視度をガウス型に落とし($100\,\mu\mathrm{m}$ で $0.0002388201$、閉じた形と $2.8\times10^{-12}$ 差)、矩形は $|\mathrm{sinc}|$ に落とす(第2節)。

第二に、実在の光源では八桁も違う。安定化レーザーで $300\,\mathrm{m}$、ヘリウム=ネオンで $0.2\,\mathrm{m}$、ナトリウム灯で $588\,\mu\mathrm{m}$、白色光で $\mathbf{0.999\,\mu\mathrm{m}}$(第3節)。

第三に、これが本稿の芯である。$589.0$ と $589.6\,\mathrm{nm}$ の二重線では、可視度が零に落ちてまた戻る。縞が死ぬのは $0.292297,\ 0.869397,\ 1.446497,\ 2.023597\,\mathrm{mm}$ で、間隔は $0.577100\,\mathrm{mm}$(第4節)。

第四に、その間隔からスペクトルの隔たりが読める。$c/(\text{隔たり})=0.578791\,\mathrm{mm}$ であり、測った $0.577100$ と $0.3\,\%$ しか違わない。机の上で測った長さが、振動数の差を教える(第5節)。

第五に、コヒーレンスには二つ目がある。太陽光は $550\,\mathrm{nm}$ で約 $72\,\mu\mathrm{m}$しか横に揃っていない。こちらは振動数ではなく角度に共役である(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。ウィーナー=ヒンチンの定理、ファン・シッタート=ゼルニケの定理、マイケルソンによる可視度からの分光は、いずれも標準的である。定理を証明しない。本稿は数値変換で確かめるのであって、定理は引用する。量子光学を扱わない。光子相関も二次のコヒーレンスも出てこない。実在の光源の測定値を主張しない。幅は代表的な値であり、測定ではない。部分コヒーレンスの一般論を展開しない。扱うのは一次のコヒーレンスだけである。論文207 との関係:207 は「柵はコヒーレンスである」と書き、その理論を扱わないと明記した。本稿はその柵に長さの目盛りを付ける。論文214 との関係:214 では輝度がどうやっても上げられなかった。本稿のコヒーレンスは上げられる。ただし光を捨てることでである。名前について:体系には「ウィーナー」が $13$ 編に現れるが、その全部がウィーナー・フィルタかウィーナー=ホップ法であり、ウィーナー=ヒンチンの定理は本稿が初出である。加えたのは可視度をスペクトルの数値変換として出し、二つの閉じた形と突き合わせたこと、五つの光源のコヒーレンス長を並べたこと、二重線で縞が死ぬ位置を四つ測ったこと、その間隔から振動数差を読み戻したこと、空間コヒーレンスの半径を四つの光源で出したこと、濾波で買えるコヒーレンスとその代価の積が動かないことを測ったことである。

1. 記法と位置づけ

二つに分けた光を路程差 $d$ だけずらして重ねたときの縞の可視度を

$$ V=\frac{I_{\max}-I_{\min}}{I_{\max}+I_{\min}} $$

とする。強度の等しい二本では $V$ はコヒーレンス度の絶対値に等しく、それはスペクトルのフーリエ変換である(ウィーナー=ヒンチン)。$V$ が落ちきるまでの路程差をコヒーレンス長という。

位置づけ:論文207 では、ジョーンズ計算が「偏光していない光」を書けず、柵はコヒーレンスであった。そこで扱わないと書いた理論が、本稿の中身である。論文41 は干渉縞が指数を覚えていないことを書いた。本稿の縞はスペクトルを覚えている。

2. 可視度は、スペクトルのフーリエ変換である

検算 2.1:中心 $5\times10^{14}\,\mathrm{Hz}$、標準偏差 $2\times10^{12}\,\mathrm{Hz}$ のガウス型スペクトルを $2^{20}$ 点で数値変換する。

路程差 変換で出た可視度 閉じた形 差
$0$ $1.0000000000$ $1.0000000000$ $2.22\times10^{-16}$
$20\,\mu\mathrm{m}$ $0.6413811693$ $0.6413811697$ $3.95\times10^{-10}$
$50\,\mu\mathrm{m}$ $0.0890953204$ $0.0890953207$ $2.98\times10^{-10}$
$100\,\mu\mathrm{m}$ $\mathbf{0.0002388201}$ $\mathbf{0.0002388201}$ $\mathbf{2.76\times10^{-12}}$

検算 2.2:幅 $8\times10^{12}\,\mathrm{Hz}$ の矩形スペクトル。

路程差 変換で出た可視度 $|\mathrm{sinc}|$ 差
$10\,\mu\mathrm{m}$ $0.9354900075$ $0.9354894045$ $6.03\times10^{-7}$
$20\,\mu\mathrm{m}$ $0.5045558077$ $0.5045519289$ $3.88\times10^{-6}$
$50\,\mu\mathrm{m}$ $0.2162356772$ $0.2162361196$ $4.42\times10^{-7}$
$80\,\mu\mathrm{m}$ $0.0850403377$ $0.0850437894$ $3.45\times10^{-6}$

観察 2.3 ガウス型はガウス型に、矩形は $|\mathrm{sinc}|$ になる。何も仮定していない。数はすべて変換から出てきたものである。矩形の側で差が $10^{-6}$ 程度あるのは、不連続なスペクトルを有限の格子に乗せたためである。

3. 実在の光源では、八桁も違う

検算 3.1:

光源 振動数の幅 コヒーレンス長
安定化レーザー $10^{6}\,\mathrm{Hz}$ $300\,\mathrm{m}$
ヘリウム=ネオン $1.5\times10^{9}$ $0.2\,\mathrm{m}$
ナトリウム灯 $5.1\times10^{11}$ $588\,\mu\mathrm{m}$
幅 $10\,\mathrm{nm}$ の濾波器 $9.4\times10^{12}$ $31.9\,\mu\mathrm{m}$
白色光($300\,\mathrm{nm}$) $3\times10^{14}$ $\mathbf{0.999\,\mu\mathrm{m}}$

観察 3.2 身のまわりの光源だけで八桁離れている。白色光では波長二つ分しか揃っていない。だから白色光の干渉縞は、路程差を合わせないとそもそも見えない。

4. 芯:二重線は縞を殺し、また生き返らせる

ナトリウムの二本の線($589.0$ と $589.6\,\mathrm{nm}$、振動数の隔たり $5.18\times10^{11}\,\mathrm{Hz}$)を置いて、同じ変換を行う。

検算 4.1:可視度が零に落ちる路程差。

何度目か 測った値 $c(2k-1)/(2\times\text{隔たり})$
$1$ $0.292297\,\mathrm{mm}$ $0.289395$
$2$ $0.869397$ $0.868186$
$3$ $1.446497$ $1.446977$
$4$ $\mathbf{2.023597}$ $\mathbf{2.025767}$

観察 4.2 縞は一度死んで、また生き返る。可視度は単調に落ちるのではなく、零と一のあいだを往復する。スペクトルが二本だからである。一本なら往復しない:第2節のガウス型も矩形も、戻ってはこなかった。

5. 机の上の長さが、スペクトルの隔たりを教える

検算 5.1:死ぬ位置の間隔を測ると $0.577100\,\mathrm{mm}$ であり、$c/(\text{隔たり})=0.578791\,\mathrm{mm}$ と $0.3\,\%$ しか違わない。

観察 5.2 この順序を逆に読める。間隔 $L$ を測れば、振動数の隔たりは $c/L$ であり、波長の隔たりは $\lambda^2/L$ である。分光器を持たずに、定規だけでスペクトルの微細構造が測れる。マイケルソンが実際にやったのはこれである。

観察 5.3 同じ一つの事実が、二つの場所に置かれている。周波数の側では二本の線の隔たり、長さの側では縞が死ぬ間隔。どちらが「本当の」情報かという問いは立たない:変換で移り合うだけである。

6. もう一つのコヒーレンス:ビームを横切る側

丸い光源(角半径 $\theta$)では、ビームを横切る方向のコヒーレンス度は $|2J_1(x)/x|$($x=2\pi a\theta/\lambda$)で落ちる。$J_1$ の最初の零点は $x=3.83170597$ だから、コヒーレンス半径は $0.61\lambda/\theta$ である。

検算 6.1:

光源 角半径 $550\,\mathrm{nm}$ で $10\,\mu\mathrm{m}$ で
太陽 $4.65\times10^{-3}$ $\mathbf{72.1\,\mu\mathrm{m}}$ $1310\,\mu\mathrm{m}$
月 $4.52\times10^{-3}$ $74.2\,\mu\mathrm{m}$ $1350\,\mu\mathrm{m}$
$1\,\mathrm{mm}$ の灯を $1\,\mathrm{m}$ 先から $5\times10^{-4}$ $671\,\mu\mathrm{m}$ $12200\,\mu\mathrm{m}$
$1\,\mathrm{mm}$ の灯を $100\,\mathrm{m}$ 先から $5\times10^{-6}$ $67100\,\mu\mathrm{m}$ 、

観察 6.2 これは第3節のコヒーレンスとは別のものである。あちらは振動数に共役で、路程差で測る。こちらは角度に共役で、ビームを横切る距離で測る。同じ「コヒーレンス」という語が、二つの別のフーリエ対を指している。

観察 6.3 太陽光でも $72\,\mu\mathrm{m}$ 以内なら揃っている。だから細いスリットを二本、十分近くに置けば、太陽の光でも干渉縞が出る。そして離すと消える:消える距離から光源の角径が読めるのが、恒星干渉計である。

7. コヒーレンスは買える。払うのは光

検算 7.1:$550\,\mathrm{nm}$ を中心に濾波器を狭めていく。

濾波器の幅 コヒーレンス長 通る光の割合 積
$300\,\mathrm{nm}$ $1.01\,\mu\mathrm{m}$ $1.000000$ $1.008\times10^{-6}$
$100\,\mathrm{nm}$ $3.02\,\mu\mathrm{m}$ $0.333333$ $1.008\times10^{-6}$
$10\,\mathrm{nm}$ $30.2\,\mu\mathrm{m}$ $0.033333$ $1.008\times10^{-6}$
$0.1\,\mathrm{nm}$ $\mathbf{3020\,\mu\mathrm{m}}$ $\mathbf{0.000333}$ $\mathbf{1.008\times10^{-6}}$

観察 7.2 積が一桁も動かない。コヒーレンス長は三千倍にできるが、通る光は三千分の一になる。論文214 と並べると効く:あちらの輝度はどうやっても上げられなかった。こちらのコヒーレンスは上げられる。禁じられているのと、代価が要るのは別のことである。

8. 分離子と柵

観察 8.1 (分離子) 「コヒーレント」を分けているのは何に共役な広がりかである。

種類 何の広がりで決まるか 測る量
時間的 振動数の幅 路程差
空間的 光源の角径 ビームを横切る距離

どちらも同じフーリエの関係であり、対にしている量が違うだけである。

観察 8.2 (柵) 「干渉縞が見える」という言い方を囲っている柵は、路程差がコヒーレンス長の内側であることとスリットの間隔が空間コヒーレンス幅の内側であることの二つである。どちらか一方を外すだけで縞は消える。そして消え方が違う:時間の側はスペクトルの形のとおりに消え、空間の側は光源の形のとおりに消える。

観察 8.3 そして第4節が示したのは、消えることそのものが測定になるということである。縞が見えないことを「失敗」と読めば何も得られないが、どこで見えなくなるかを読めば、スペクトルの隔たりも光源の角径も出てくる。論文207 では、ジョーンズの言葉の中で偏光度が書けなかった。ここでは、書けなかったその量が長さの目盛りを持った。

9. 点呼と結び

本稿が測ったことを並べる。

  1. 可視度はスペクトルの変換(検算2.1・2.2):閉じた形と $10^{-12}$ 差。
  2. 光源で八桁違う(検算3.1):$300\,\mathrm{m}$ から $0.999\,\mu\mathrm{m}$ まで。
  3. 二重線では縞が死んで生き返る(検算4.1):$0.292297\,\mathrm{mm}$ で最初の死。
  4. 間隔から隔たりが読める(検算5.1):$0.577100$ 対 $0.578791\,\mathrm{mm}$。
  5. 空間コヒーレンスは別物(検算6.1):太陽光で $72.1\,\mu\mathrm{m}$。
  6. コヒーレンスは買える(検算7.1):積が $1.008\times10^{-6}$ で不動。

結び:二つの鏡を少しずつ離していくと、縞は薄れて、消える。そこで止めれば「もう見えない」で終わる。さらに離すと、縞は戻ってくる。そしてその戻ってくる間隔が、光源のスペクトルに二本の線があることと、その隔たりがいくらであるかを、まとめて教える。見えなくなったのは情報が失われたからではなく、情報が長さの側へ移っていたからである。そして揃っていられる長さは、光源によって八桁違う。「コヒーレントな光」という言い方は、どの長さまでの話かを決めるまで、何も言っていない。

参考文献

  1. Michelson, A. A. (1891). On the application of interference methods to spectroscopic measurements. Philosophical Magazine, 31.
  2. Wiener, N. (1930). Generalized harmonic analysis. Acta Mathematica, 55.
  3. Khinchin, A. (1934). Korrelationstheorie der stationären stochastischen Prozesse. Mathematische Annalen, 109.
  4. van Cittert, P. H. (1934). Die wahrscheinliche Schwingungsverteilung in einer von einer Lichtquelle direkt oder mittels einer Linse beleuchteten Ebene. Physica, 1.
  5. Zernike, F. (1938). The concept of degree of coherence and its application to optical problems. Physica, 5.
  6. Mandel, L., Wolf, E. (1995). Optical Coherence and Quantum Optics. Cambridge: Cambridge University Press.
  7. Born, M., Wolf, E. (1999). Principles of Optics. Seventh edition. Cambridge: Cambridge University Press.
  8. Goodman, J. W. (2015). Statistical Optics. Second edition. Hoboken: Wiley.
  9. 山岸勇輝 (2026). 干渉縞は、指数を覚えていない [論文41]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21436048
  10. 山岸勇輝 (2026). 「偏光」を書く道具は三つあり、一つは「偏光していない光」を書けない [論文207]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22110902
  11. 山岸勇輝 (2026). パルスの山は、入る前に出ることがある [論文210]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22111747
  12. 山岸勇輝 (2026). どんな地図も、必ず何かを歪める [論文212]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22112104
  13. 山岸勇輝 (2026). レンズは明るくできるが、明るさは増やせない [論文214]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119392
  14. 山岸勇輝 (2026). 近づいているのに、一歩も近づいていない [論文216]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119579
  15. 山岸勇輝 (2026). 距離だけを守れと言うと、直線性まで守ってしまう [論文217]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119628

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「縞は消えて、また戻ってくる」[論文218]. Zenodo.
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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 縞は消えて、また戻ってくる [論文218]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/218 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22119760

Yamagishi, Y. (2026). The Fringes Die and Come Back [Paper 218]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/218; DOI: 10.5281/zenodo.22119760

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