要旨
論文214 では「明るさ」が四つの別の量であった。本稿が扱うのは一つの量であり、それでもピークの位置が一つに決まらない。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。
第一に、方程式が三つある。$(x-5)e^x+5=0$ の根は $4.965114231744276$、$(x-4)e^x+4=0$ は $3.920690394872886$、$(x-3)e^x+3=0$ は $2.821439372122079$、$5,4,3$ は三つの密度に立つ $x$ の冪である(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。太陽($5772\,\mathrm{K}$)のスペクトルは、波長あたりで見れば $\mathbf{502.039\,\mathrm{nm}}$(緑)、対数あたりで見れば $\mathbf{635.777\,\mathrm{nm}}$(橙)、振動数あたりで見れば $\mathbf{883.479\,\mathrm{nm}}$(赤外)にピークを持つ、三つとも同じ一つのスペクトルである(第3節)。
第三に、比は温度に依らない。振動数と波長の比は $1.759780586$、対数と波長の比は $1.266387736$ であり、太陽でも電球でも人体でも宇宙背景放射でも同じであった(第3節)。
第四に、何が不変かも測れる。$400$ から $700\,\mathrm{nm}$ に入る仕事率の割合は、波長で積分しても振動数で積分しても $\mathbf{0.36638317138174}$ で、差は $0$であった(第6節)。
第五に、最大が動く理由も数で出る。変数を換えると掛かる因子 $\lambda^2/c$ が、この範囲で $5.34\times10^{-22}$ から $4.80\times10^{-21}$ へ九倍に増え、最大を引きずっていく(第7節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。プランクの法則、ウィーンの変位則、シュテファン=ボルツマンの法則、そして「ウィーンのピークはどこか」という問いは、いずれも標準的である。プランクの法則を導かない。本稿は与えられた式を測るだけである。実在の太陽を測定しない。$5772\,\mathrm{K}$ の理想黒体として扱い、大気も吸収線も入れない。視覚の応答を扱わない。「緑に見える」ことの説明はしない。どの変数が「正しい」かを判定しない。書くのは選ぶと何が変わるかだけである。論文214 との関係:214 では「明るさ」が四つの別の量であった。本稿は一つの量についてであり、それでもピークが三つになる。別根はもっと手前にある。論文220 との関係:220 では検査を通ったことが検査についての報せであった。ここでは、ピークの位置が変数についての報せである。加えたのは三つの根を十六桁で出したこと、四つの温度で三つのピークを並べて比が温度に依らないことを見たこと、方程式ではなく曲線そのものを最大化して十桁一致を得たこと、二つのウィーン定数とシュテファン=ボルツマン定数を出して表値と突き合わせたこと、固定した帯の割合が変数に依らないことを測ったこと、ヤコビ因子が九倍動くことを表にしたことである。
1. 記法と位置づけ
黒体の放射は密度である。「波長あたり」の密度 $B_\lambda$ と「振動数あたり」の密度 $B_\nu$ は同じスペクトルの二つの書き方であり、$B_\lambda\,d\lambda=B_\nu\,d\nu$ で結ばれる。第三の書き方として「対数あたり」($\lambda B_\lambda$)も取る。$x=hc/(\lambda kT)$ と置く。
位置づけ:論文214 では「明るさ」が四つの別の量であり、逆二乗に従うのは一つだけであった。本稿はさらに手前で、一つの量についてさえ位置が定まらないことを見る。論文221 では「固有値」がどの行列について言うかで二つに割れた。ここでは「ピーク」がどの変数で数えるかで三つに割れる。
2. 三つの方程式、三つの根
検算 2.1:三つの密度は $x$ の冪が違うので、最大の条件も違う。
| 何あたりの密度か | 最大の条件 | 根 |
|---|---|---|
| 波長あたり | $(x-5)e^x+5=0$ | $4.965114231744276$ |
| 対数あたり | $(x-4)e^x+4=0$ | $3.920690394872886$ |
| 振動数あたり | $(x-3)e^x+3=0$ | $2.821439372122079$ |
観察 2.2 $5,4,3$ は、それぞれの密度に立っている $x$ の冪である。式が違うのは分母の $\lambda$ が五乗か、四乗か、三乗かという一点だけであり、それが根を丸ごと動かす。
3. 芯:同じスペクトルが、三か所でピークを持つ
検算 3.1:
| 物体 | $T\,(\mathrm{K})$ | 波長あたり | 対数あたり | 振動数あたり |
|---|---|---|---|---|
| 太陽 | $5772$ | $\mathbf{502.039\,\mathrm{nm}}$ | $\mathbf{635.777\,\mathrm{nm}}$ | $\mathbf{883.479\,\mathrm{nm}}$ |
| 白熱電球 | $2800$ | $1034.92\,\mathrm{nm}$ | $1310.61\,\mathrm{nm}$ | $1821.23\,\mathrm{nm}$ |
| 人 | $310$ | $9347.65\,\mathrm{nm}$ | $11837.8\,\mathrm{nm}$ | $16449.8\,\mathrm{nm}$ |
| 宇宙背景放射 | $2.725$ | $1.0634\,\mathrm{mm}$ | $1.34668\,\mathrm{mm}$ | $1.87136\,\mathrm{mm}$ |
比は、振動数 $\div$ 波長 が $1.759780586$、対数 $\div$ 波長 が $1.266387736$。
観察 3.2 太陽のスペクトルは、緑にも橙にも赤外にもピークを持つ。三つとも同じ一つのスペクトルについての、正しい答である。「太陽のピークは緑」と「太陽のピークは近赤外」は、どちらも教科書に書かれている。
観察 3.3 比は温度にまったく依らない。$5772\,\mathrm{K}$ でも $2.725\,\mathrm{K}$ でも、三つのピークの並び方は同じである。ずれは物体の性質ではなく、書き方の性質だからである。
4. 方程式ではなく、曲線そのものを最大化して確かめる
検算 4.1:$T=5772\,\mathrm{K}$ のプランク曲線を、三分探索で直に最大化する。
| 最大化したもの | 数値で得た位置 | 方程式から出した位置 |
|---|---|---|
| 波長あたりの密度 | $502.0394933\,\mathrm{nm}$ | $502.0394933\,\mathrm{nm}$ |
| 対数あたりの密度 | $635.7766571\,\mathrm{nm}$ | $635.7766571\,\mathrm{nm}$ |
| 振動数あたりの密度 | $883.4793537\,\mathrm{nm}$ | $883.4793537\,\mathrm{nm}$ |
観察 4.2 十桁まで一致した。三つの位置は式の変形の産物ではなく、実際の曲線の本当の最大である。
5. 出てくる定数
検算 5.1:
| 定数 | 本稿の値 | 表の値 |
|---|---|---|
| ウィーン(波長) | $2.89777195519\times10^{-3}\,\mathrm{m\,K}$ | $2.897771955\times10^{-3}$ |
| ウィーン(振動数) | $5.87892575765\times10^{10}\,\mathrm{Hz/K}$ | $5.878925757\times10^{10}$ |
| シュテファン=ボルツマン | $5.67037441918\times10^{-8}$ | $5.670374419\times10^{-8}$ |
曲線を全域で積分すると $62938592.4708\,\mathrm{W/m^2}$、$\sigma T^4$ は $62938592.4703$、比は $1.0000000000074$ であった。
観察 5.2 ウィーンの定数が二つあることに注意、$2.898\times10^{-3}$ と $5.879\times10^{10}$ は互いに変換できない。一方、総量 $\sigma T^4$ は一つであり、どの変数で積分しても同じ数である。
6. 何が不変か:あらかじめ決めた帯の中のエネルギー
検算 6.1:$400$ から $700\,\mathrm{nm}$ に入る仕事率の割合を、二通りに計算する。
| どう積分したか | 割合 |
|---|---|
| 波長で積分 | $0.36638317138174$ |
| 振動数で積分 | $0.36638317138174$ |
| 差 | $\mathbf{0}$ |
観察 6.2 全桁一致する。変数を換えて動くのは最大の位置であり、動かないのは、あらかじめ決めた帯に入るエネルギーである。前者は密度の値を比べており、後者は積分である。積分は変数変換で不変であり、密度の値は不変でない。
7. なぜ最大が動くのか
密度には「何あたり」が付いている。波長から振動数へ移ると $|d\lambda/d\nu|=\lambda^2/c$ が掛かり、この因子自身が急峻なので、最大を引きずる。
検算 7.1:
| 波長 | 波長あたりの密度 | $\times\ \lambda^2/c$ | $=$ 振動数あたりの密度 |
|---|---|---|---|
| $400\,\mathrm{nm}$ | $2.2913188\times10^{13}$ | $5.3370255\times10^{-22}$ | $1.2228827\times10^{-8}$ |
| $502\,\mathrm{nm}$ | $\mathbf{2.6239591\times10^{13}}$ | $8.4059486\times10^{-22}$ | $2.2056865\times10^{-8}$ |
| $636\,\mathrm{nm}$ | $2.3185429\times10^{13}$ | $1.3492534\times10^{-21}$ | $3.128302\times10^{-8}$ |
| $883\,\mathrm{nm}$ | $1.4019471\times10^{13}$ | $2.6007626\times10^{-21}$ | $\mathbf{3.6461316\times10^{-8}}$ |
| $1200\,\mathrm{nm}$ | $6.8551652\times10^{12}$ | $4.803323\times10^{-21}$ | $3.2927573\times10^{-8}$ |
観察 7.2 左の欄は $502$ で、右の欄は $883$ で最大になる。その差を作っているのは真ん中の欄だけで、それは範囲内で $5.34\times10^{-22}$ から $4.80\times10^{-21}$ へ、九倍に増える。どの数も間違っていない。二つの別の密度を、一つの曲線であるかのように並べたのである。
8. 分離子と柵
観察 8.1 (分離子) 「ピーク」を分けているのは何を単位として数えるかである。波長あたりか、対数あたりか、振動数あたりか。そして単調な変数変換のどれを取っても別の答が出る:三つは代表にすぎない。
観察 8.2 (柵) 「黒体のピークはここにある」という言い方を囲っている柵は、どの密度について言うかを決めていることである。柵の外では、この文は偽ですらなく、空である。220 で「独立を確かめた」が空であったのと同じ形である。
観察 8.3 そして不変な量はちゃんとある:総仕事率 $\sigma T^4$ と、固定した帯に入る割合である。どちらも積分であり、密度の値そのものではない。「どこが一番強いか」は変数の性質、「どれだけ入っているか」はスペクトルの性質である。
観察 8.4 論文214 では「明るさ」が四つの別の量であった。本稿では量は一つであり、それでもピークが三つになる。別根は量の名前より手前、「何あたり」という助詞のところにあった。
9. 点呼と結び
本稿が測ったことを並べる。
- 三つの根(検算2.1):$4.9651$、$3.9207$、$2.8214$。
- 太陽は三か所でピークを持つ(検算3.1):$502$、$636$、$883\,\mathrm{nm}$。
- 比は温度に依らない(検算3.1):$1.759780586$ と $1.266387736$。
- 曲線を直に最大化しても同じ(検算4.1):十桁一致。
- 定数は表値と一致(検算5.1):$\sigma$ の積分比 $1.0000000000074$。
- 帯の割合は不変(検算6.1):$0.36638317138174$、差 $0$。
- ヤコビ因子が九倍(検算7.1)。
結び:「太陽の放射は緑で最も強い」と書かれた本と、「近赤外で最も強い」と書かれた本がある。どちらも正しい。前者は波長あたりで数え、後者は振動数あたりで数えているだけである。同じスペクトルであり、同じ温度であり、同じ物理である。動いているのは太陽ではなく、数える単位のほうである。そして動かない量もちゃんとある:総量と、あらかじめ決めた帯に入る割合。前者は密度の値であり、後者は積分である。変数を換えて壊れるのは値のほうで、積分は壊れない。「どこが一番強いか」という問いは、答える前に、何あたりで数えるかを言わねばならない。
参考文献
- Stefan, J. (1879). Über die Beziehung zwischen der Wärmestrahlung und der Temperatur. Sitzungsberichte der Kaiserlichen Akademie der Wissenschaften in Wien, 79.
- Boltzmann, L. (1884). Ableitung des Stefanschen Gesetzes. Annalen der Physik, 258.
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- Soffer, B. H., Lynch, D. K. (1999). Some paradoxes, errors, and resolutions concerning the spectral optimization of human vision. American Journal of Physics, 67.
- Heald, M. A. (2003). Where is the Wien peak? American Journal of Physics, 71.
- 山岸勇輝 (2026). パルスの山は、入る前に出ることがある [論文210]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22111747
- 山岸勇輝 (2026). レンズは明るくできるが、明るさは増やせない [論文214]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119392
- 山岸勇輝 (2026). 縞は消えて、また戻ってくる [論文218]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119760
- 山岸勇輝 (2026). 平らな板が、焦点を結ぶ [論文219]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119788
- 山岸勇輝 (2026). 「独立」は四つあり、たがいに何も言わない [論文220]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119838
- 山岸勇輝 (2026). 最後の桁を一つ変えると、固有値が 0.16 動く [論文221]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22120012
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「太陽は、緑にも橙にも赤外にも輝いている」[論文222]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22120199
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 太陽は、緑にも橙にも赤外にも輝いている [論文222]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/222 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22120199
Yamagishi, Y. (2026). The Sun Peaks in the Green, in the Orange and in the Infrared [Paper 222]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/222; DOI: 10.5281/zenodo.22120199
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