【論文240】「質量」は七つあり、そのうち一つは負になり、一つは押す向きで変わる

要旨

本体系は「質量」という語を $75$ 編・$540$ 回使っている。ところがこの語の点呼は一度もしていない。論文165 が等価原理の三別根を数えただけである。本稿はその点呼であり、単位系の定数を一つも引かずに、定義だけで数える。新しい物理法則も新しい数学定理も主張しない。

第一に、不変質量は足し算ではない。エネルギー $E$ の光子二個の系の質量は、角度だけで $0\to0.0174530709967479E\to1.0E\to1.41421356237E\to2.0E$ と変わる。部品はどちらも質量ゼロである(第2節)。

第二に、慣性質量は一つの数ではない。進行方向へ押すと $\gamma^3m$、横へ押すと $\gamma m$ で抵抗する。$v=0.9c$ で $12.074512309$ 対 $2.29415733871$、$v=0.999c$ で $\mathbf{11188.7303863}$ 対 $22.3662720421$(比 $500.25$)(第3節)。

第三に、換算質量を持つ物体は存在しない。$\mu$ はつねに両方より小さく、$m_1=1,\ m_2=1000$ でも $0.999000999001$ である(第4節)。

第四に、これが本稿の芯である。有効質量は正から無限を通って負になる。一次元バンドで $ka$ を動かすと $0.5\to28.6493442493\to$ 発散 $\to-28.6493442493\to-0.5$、バンドの上端では、右へ押すと左へ加速する(第5節)。

第五に、体系の出発点に戻る。論文02 の $m=4\pi$ は、$k$ を置いたときだけ質量になる。そしてそのことを論文02 自身が単位系の注記に書いている(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい物理法則も新しい数学定理も主張しない。不変質量の定義、縦質量と横質量、換算質量、バンドの有効質量、ADM 質量とボンディ質量は、いずれも標準的である。測定値を引かない。本稿の数はすべて$c=1$ の単位で定義から計算したものであり、物理定数も核データも使っていない。等価原理を扱わない。慣性質量と重力質量の一致は論文165 に譲る。質量の起源を論じない。ヒッグス機構も閉じ込めも扱わない。一般相対論を計算しない。第7節の ADM とボンディは名指すだけで、一行も計算しない。繰り込みを論じない。裸の質量も名指すだけである。論文02 を訂正しない。第6節が引くのは論文02 が自分で書いた注記であり、本稿はそれを一般化するだけである。既刊との関係:論文02 は $\rho=r^{-2}$ の総質量が立体角 $4\pi$ に一致することを示し、単位系の注記でその柵を立てた。本稿は同じ問いを、物理に出てくるすべての $m$ に当てる。論文165 は「等価原理」の三別根を数えた。本稿はそのうち二つの質量を、他の五つと並べる。論文196 は「圧力」の四別根を数え、単位が同じことは何も保証しないと示した。本稿はその質量版である。論文210 は「光の速さ」を名乗る量が四つあることを示した。同じ形である。加えたのは二光子系の質量が角度だけで $0$ から $2E$ まで動くことを示したこと、縦と横の抵抗の比を六段で測ったこと、換算質量がつねに両方より小さいことを並べたこと、有効質量が正・無限・負を通ることを九点で追ったこと、論文02 の $4\pi$ に $k$ と $R$ を戻して次元を確かめたことである。

1. 記法と位置づけ

問い:物理で「質量 $m$」と書いたとき、それは何に対する抵抗を測った数か。

本体系はこの語を $75$ 編・$540$ 回使っているが、点呼をしていない。語の内訳を数えると、相対論的質量・有効質量・縦質量・裸の質量・質量欠損・ADM 質量・換算質量は、いずれも本文に一度も現れない。

単位:以下すべて $c=1$ とし、定義だけから計算する。物理定数も測定値も引かない。引かなくても、七つは分かれる。

2. 不変質量は、足し算ではない

定義 2.1 系の不変質量を $M^2=E^2-|\mathbf{p}|^2$ で定める。

検算 2.2:エネルギー $E$ の光子二個が角 $\theta$ をなすとき $M^2=2E^2(1-\cos\theta)$ である。

$\theta$(度) $M/E$ 部品それぞれの質量
$0$ $0$ $0$
$1$ $0.0174530709967479$ $0$
$60$ $1.0$ $0$
$90$ $1.4142135623731$ $0$
$180$ $\mathbf{2.0}$ $\mathbf{0}$

観察 2.3 質量ゼロの部品二つから、質量を持つ系ができる。しかもその質量は角度だけで決まる。したがって質量は部分の質量の和ではない。

観察 2.4 同じ理由で、束縛系の質量は部分の和より小さい。本稿は核データを引かないので、値は挙げない。言えるのは定義からの帰結だけである。

3. 慣性質量は、一つの数ではない

検算 3.1:速さ $v$ で動く物体に力 $F$ を加える。加速度は進行方向で $F/(\gamma^3m)$、横方向で $F/(\gamma m)$ である。

$v$ $\gamma$ 縦:$\gamma^3$ 横:$\gamma$ 比
$0$ $1.0$ $1.0$ $1.0$ $1.0$
$0.5$ $1.154700538$ $1.53960071784$ $1.15470053838$ $1.333333333$
$0.9$ $2.294157339$ $12.074512309$ $2.29415733871$ $5.263157895$
$0.99$ $7.08881205$ $356.221711059$ $7.08881205008$ $50.25125628$
$0.999$ $22.36627204$ $\mathbf{11188.7303863}$ $22.3662720421$ $\mathbf{500.2501251}$

観察 3.2 同じ物体が、押す向きによって別の抵抗を返す。$v=0.999$ では、縦は横の $500$ 倍重い。したがって「速く動くと質量が増える」という言い方には、どちらの向きにかが省かれている。

観察 3.3 「相対論的質量」が使われなくなったのは、それが一つの数ではないからである。$F=ma$ を保とうとすると向きごとに別の $m$ が要る。現在の書き方は $m$ を不変量に固定し、$\gamma$ を運動量の側に置く。これは発見ではなく、規約の選択である。

4. 換算質量:それを持つ物体は存在しない

検算 4.1:二体問題の換算質量 $\mu=m_1m_2/(m_1+m_2)$ を測る。

$m_1$ $m_2$ $\mu$
$1$ $1$ $0.5$
$1$ $10$ $0.909090909091$
$1$ $1000$ $\mathbf{0.999000999001}$
$5$ $5$ $2.5$

観察 4.2 $\mu$ はつねに両方より小さい。そしてその質量を持つ物体は、問題のどこにも存在しない。$\mu$ は物ではなく、関係を代理する架空の物体の質量である。「質量」という語が、ここでは物の属性ですらない。

5. 芯:有効質量は、負になる

検算 5.1:一次元バンド $E(k)=-2t\cos(ka)$ で、有効質量 $m^{*}=\hbar^2/\big(2ta^2\cos(ka)\big)$ を測る($\hbar=t=a=1$)。

$ka$(度) $m^{*}$ 符号
$0$ $0.5$ 正
$80$ $2.87938524157$ 正
$89$ $28.6493442493$ 正
$90$ 発散 バンドの変曲点
$91$ $-28.6493442493$ 負
$135$ $-0.707106781187$ 負
$180$ $\mathbf{-0.5}$ 負

観察 5.2 同じ電子が、同じバンドの中で、正・無限・負の質量を持つ。バンドの上端では右へ押すと左へ加速する。格子が押し返しているのであって、電子が軽くなったのでも重くなったのでもない。

観察 5.3 ここでの「質量」は物の属性ではなく、分散関係の曲率である。$m^{*}=\hbar^2/(d^2E/dk^2)$ という定義は、曲率の逆数をそう呼んでいるだけである。論文224 が「曲率」の別根を数えたのと同じ場所に立っている。

6. 立体角としての質量、論文02 が自分で立てた柵

論文02 は $\rho=r^{-2}$ の単位球内の総質量が立体角 $4\pi$ に一致することを示した。そして同じ論文の中で、こう書いている。

$\rho=r^{-2}$ は次元的には $[L^{-2}]$ であり、密度として扱うには $[M/L]$ の次元を持つ定数 $k$ を伴って $\rho=k/r^2$ と書かれるべきである。$m=4\pi$ という表示は $k=1$ かつ半径 $1$ という単位の選択のもとで成立する。

検算 6.1:その $k$ と半径 $R$ を戻す。$m=4\pi kR$ である。

$k$ $R$ $m=4\pi kR$
$1$ $1$ $12.566370614359$
$1$ $2$ $25.132741228718$
$3$ $1$ $37.699111843078$
$0.5$ $4$ $25.132741228718$

観察 6.2 $4\pi$ は立体角である。それが質量になるのは $k$ を置いたときであり、$k$ が $[M]$ を運んでいる。したがって第七の別根は、$[M]$ を定数から借りている質量である。

観察 6.3 これは論文02 の訂正ではない。論文02 は自分でこの柵を立てていた。本稿がしたのは、同じ柵が他の六つにも要ると示したことだけである。体系は最初の一歩で、すでにこの規律を持っていた。

検算 6.4:ついでに、論文01・02 のモジュール階段 $m(n)=4\pi/(3-n)$ を測る。

$n$ $m(n)$ 備考
$0$ $4.1887902047864$
$1$ $6.2831853071796$
$2$ $\mathbf{12.566370614359}$ 立体角に一致
$2.5$ $25.132741228718$
$2.9$ $125.66370614359$

$n=2$ は動径積分をちょうど $1$ にする唯一の指数である。(証明終)

7. 名指すだけのもの

以下は本稿では計算しない。名を挙げ、住所を書くだけである。

  1. 重力質量(受動・能動)、慣性質量との一致は論文165 に譲る。
  2. 裸の質量と繰り込まれた質量、観測されるのは後者だけであり、前者は正則化の取り方に依存する。本稿は繰り込みを論じない。
  3. ADM 質量とボンディ質量、前者は初期面の全体で、後者は放射が出て行ったあとで測る。二つは一般に一致しない。そして重力場のエネルギーには局所密度が無い。つまり「ここにどれだけの質量があるか」が原理的に書けない場合がある。本稿は一行も計算しない。

8. 分離子と柵

観察 8.1 (点呼) 

名 何に対する抵抗か 効く事実
不変質量 エネルギーと運動量の不変量 足し算でない
慣性質量 力に対する加速のしにくさ 向きで変わる
重力質量 重力への結合 論文165
換算質量 二体の相対運動 持つ物体が無い
有効質量 分散関係の曲率 負になる
裸/繰り込まれた質量 正則化の取り方 観測は後者だけ
立体角としての質量 置いた定数 $k$ 論文02 の注記

観察 8.2 (分離子) 七つを分けているのは何に対する抵抗として測るかである。記号 $m$ はそのどれとも書いていない。論文233 の $f’$、論文234 の $d(x,y)$、論文235 の $-u”$、論文236 の「=0」、論文239 の $\sum a_n$ と同じ形である。

観察 8.3 (柵) 柵は三つある。第一に、足し算できるか、不変質量はできない(第2節)。第二に、一つの数か、慣性質量は向きで変わる(第3節)。第三に、$[M]$ をどこから得ているか、立体角は $k$ から借りている(第6節)。三つとも、記号 $m$ には書かれていない。

観察 8.4 論文196 は「単位が同じことは何も保証しない」と書いた。質量ではさらに強い。単位が同じどころか、負にもなり、持ち主が存在しないこともある。

9. 点呼と結び

本稿が測ったことを並べる。

  1. 二光子の質量が角度だけで $0$ から $2E$(検算2.2)。
  2. 縦と横の比が $500.25$(検算3.1):$v=0.999$。
  3. $\mu$ はつねに両方より小さい(検算4.1)。
  4. 有効質量が $0.5\to$ 発散 $\to-0.5$(検算5.1)。
  5. $m=4\pi kR$、$[M]$ は $k$ から来る(検算6.1)。
  6. $m(n)=4\pi/(3-n)$、$n=2$ で立体角に一致(検算6.4)。

結び:本体系は「質量」を $75$ 編・$540$ 回使いながら、一度も数えていなかった。数えると七つあり、足し算にならないものがあり、押す向きで変わるものがあり、負になるものがあり、それを持つ物体が存在しないものがある。分けているのは何に対する抵抗として測るかであり、記号 $m$ はそれを書いていない。そして最後の一つは、この体系自身の出発点である。論文02 の $m=4\pi$ は立体角であり、質量になるのは $k$ を置いたときである。そしてそのことを論文02 は、自分で単位系の注記に書いていた。本稿はその注記を訂正したのではない。同じ注記が、他の六つにも要ると示しただけである。体系は、最初の一歩ですでにこの規律を持っていた。今回の点呼は、それを二百三十八編ぶん遅れて追いかけたことになる。

参考文献

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  2. Okun, L. B. (1989). The concept of mass. Physics Today, 42.
  3. Ashcroft, N. W., Mermin, N. D. (1976). Solid State Physics. New York: Holt, Rinehart and Winston.
  4. Arnowitt, R., Deser, S., Misner, C. W. (1962). The dynamics of general relativity. In: L. Witten (ed.), Gravitation: An Introduction to Current Research. New York: Wiley.
  5. Bondi, H., van der Burg, M. G. J., Metzner, A. W. K. (1962). Gravitational waves in general relativity, VII. Proceedings of the Royal Society A, 269.
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  7. 山岸勇輝 (2026). 球対称密度分布における $n=2$ の唯一性定理 [論文01]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21403186
  8. 山岸勇輝 (2026). $4\pi$ 質量相殺定理 [論文02]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21403931
  9. 山岸勇輝 (2026). 「等価原理」は三つある [論文165]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092957
  10. 山岸勇輝 (2026). 「圧力」は四つの別の量であり、単位が同じことは何も保証しない [論文196]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22107518
  11. 山岸勇輝 (2026). パルスの山は、入る前に出ることがある [論文210]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22111747
  12. 山岸勇輝 (2026). どこを触っても平らで、それでも合計は $4\pi$ である [論文224]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22120836
  13. 山岸勇輝 (2026). 「発散する」は四つあり、そのうち一つは別の距離で収束する [論文239]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22129461

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「質量」は七つあり、そのうち一つは負になり、一つは押す向きで変わる」[論文240]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22129765

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「質量」は七つあり、そのうち一つは負になり、一つは押す向きで変わる [論文240]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/240 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22129765

Yamagishi, Y. (2026). “Mass” Is Seven Things, One of Which Goes Negative and One of Which Depends on the Direction of the Push [Paper 240]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/240; DOI: 10.5281/zenodo.22129765

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