【論文286】陽子の質量の 99.04% は、ヒッグスではない

要旨

「ヒッグス粒子は物に質量を与える」と言われる。本稿が問うのは、その「物」の何割かである。答は、陽子については $0.96\%$である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、クォークの静止質量を足す。陽子は $uud$ なので $2\times2.16+4.67=\mathbf{8.99}$ MeV である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。陽子の質量は $938.27209$ MeV なので、ヒッグス由来は $\mathbf{0.9581\%}$、すなわち$\mathbf{99.0419\%}$ はヒッグス由来ではない(第2節)。

第三に、電子は $100\%$ ヒッグス由来である。同じ「質量」という一語の中で、$\mathbf{104.37}$ 倍の違いがある(第3節)。

第四に、真空期待値を $0$ にしても陽子はほぼそのままである。$938.27$ MeV が $929.28$ MeV になるだけ、一方で電子は完全に消える(第4節)。

第五に、素朴な数え上げが失敗する場所がある。中性子と陽子の差 $1.29333$ MeV に対し、クォーク質量差は $2.51$ MeV で$\mathbf{194\%}$ 行き過ぎる(第5節)。

第六に、分離子は「質量が何から来るか」である。湯川結合と閉じ込めのエネルギーは別の圏であり、量が $\mathbf{103.37}$ 倍違う(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。クォーク質量の PDG 値、陽子・中性子の質量、ヒッグス機構による質量生成、閉じ込めによる質量生成は、いずれも標準的である。量子色力学を作らない。使うのは三つの足し算と、四つの割り算だけである。閉じ込めを説明しない。なぜクォークが閉じ込められるかも、質量ギャップも一切扱わない。結果としての質量だけを数える。ヒッグス機構を導出しない。自発的対称性の破れにも、湯川結合の値の起源にも立ち入らない。格子計算をしない。$99.04\%$ という数は引き算の結果であって、第一原理計算ではない。クォーク質量の定義に前提がある。$m_u=2.16$、$m_d=4.67$ MeV は$\overline{\mathrm{MS}}$ スキーム・繰り込み点 $2$ GeVでの値である。スキームと点を変えれば値が変わるので、$0.9581\%$ という数字はこの規約に依存する。$99\%$ の内訳を分けない。閉じ込めによる質量はクォークの運動エネルギー・グルーオン場のエネルギー・カイラル凝縮などに分かれるが、本稿はそれらを一括して「非ヒッグス」と呼ぶ。中性子・陽子差を説明しない。第5節の $194\%$ は素朴な数え上げが破れることを示すだけであり、電磁的寄与の値を主張しない。既刊との関係:論文240 は「質量」が七つあることを数え、その射程で「質量の起源を論じない(ヒッグス機構も閉じ込めも扱わない」と明記した)本稿はその明示的に譲られた土地に入り、二つの起源の量を数で比べる。論文35・51 は陽子質量を数値として用いた。本稿はその内訳を問う。論文112 は「同じ韻の別根」を数えた。本稿の「質量」も一語の下に二つの別根を持つ。論文274 はドルーデが二つの誤差の打ち消しで当たったと示した。本稿の第5節も符号の逆な二つが打ち消す場合である。加えたのは陽子の非ヒッグス割合を $99.0419\%$ と計算したこと、電子との対照を $104.37$ 倍と書いたこと、真空期待値を $0$ にする思考実験で $929.28$ MeV が残ると示したこと、中性子・陽子差でクォーク質量差が $194\%$ 行き過ぎることを、素朴な数え上げの限界として記録したことである。

1. 記法と位置づけ

ヒッグス機構は、素粒子の質量を湯川結合 $y$ と真空期待値 $v$ の積 $m=yv/\sqrt2$ として与える。クォークもレプトンも、この機構で質量を持つ。

一方、陽子はクォーク三個からできている。したがって陽子の質量は、クォークの質量の和であるように見える。

問い:和はいくつか。

観察 1.1 論文240 は「質量」が七つあることを数え、その射程注記で「質量の起源を論じない。ヒッグス機構も閉じ込めも扱わない」と明記した。本稿はその譲られた土地に入る。起源を説明するのではなく、二つの起源の量を数える。

観察 1.2 使うクォーク質量は $m_u=2.16$ MeV、$m_d=4.67$ MeV($\overline{\mathrm{MS}}$、$2$ GeV)である。この値はスキームと繰り込み点に依存する。以下の百分率は、この規約の上での数である。

2. 芯:$99.0419\%$ はヒッグス由来ではない

検算 2.1:クォークの静止質量を足す。

粒子 中身 静止質量の和
陽子 $uud$ $2\times2.16+4.67=\mathbf{8.9900}$ MeV
中性子 $udd$ $2.16+2\times4.67=\mathbf{11.5000}$ MeV
$\pi^+$ $u\bar d$ $2.16+4.67=6.8300$ MeV

検算 2.2:実際の質量と比べる。

粒子 質量 [MeV] クォーク和 ヒッグス由来 非ヒッグス
陽子 $938.27209$ $8.9900$ $0.9581\%$ $\mathbf{99.0419\%}$
中性子 $939.56542$ $11.5000$ $1.2240\%$ $98.7760\%$
$\pi^+$ $139.57039$ $6.8300$ $4.8936\%$ $95.1064\%$
電子 $0.51099895$ 、 $\mathbf{100\%}$ $\mathbf{0\%}$

観察 2.3 これが本稿の芯である。陽子の質量の $\mathbf{99.0419\%}$ は、ヒッグスから来ていない。陽子はクォーク和の $\mathbf{104.3684}$ 倍重い。

観察 2.4 最下段だけ $100\%$ である。電子は複合粒子ではないので、質量はまるごと湯川結合から来る。同じ「質量」という語の中で、$0.96\%$ と $100\%$ が並んでいる。

観察 2.5 パイ中間子は $4.89\%$ とやや高い。カイラル対称性の破れの南部=ゴールドストーン粒子なので質量が特別に軽い。分母が小さいので割合が上がるのであって、ヒッグスが強く効いているのではない。

3. 電子との対照は $104.37$ 倍

検算 3.1:

粒子 ヒッグス由来の割合
電子 $100.0000\%$
陽子 $0.9581\%$
比 $\mathbf{104.37}$ 倍

観察 3.2 「ヒッグスが質量を与える」という一文が、電子には完全に当てはまり、陽子にはほとんど当てはまらない。どちらも「質量を持つ粒子」である。一つの説明が、$104$ 倍の精度差で当たっている。

検算 3.3:身の回りの物質で数える。水素原子は陽子一個と電子一個である。

量 値
水素原子の質量に陽子が占める割合 $99.9456\%$
水素原子の質量のうち非ヒッグス起源 $\mathbf{98.9879\%}$

観察 3.4 目に見える物質の質量の $\mathbf{99\%}$ は、ヒッグスではなく閉じ込めから来ている。体重も、机の重さも、$99\%$ は核子の中で場が持っているエネルギーである。$E=mc^2$ の左辺のほうが本体である。

4. 真空期待値を $0$ にする

設定:思考実験として、ヒッグスの真空期待値 $v$ を $0$ にする。すべての湯川質量が消える。

検算 4.1:

粒子 現在 $v=0$ のとき 減る割合
陽子 $938.27$ MeV $\mathbf{929.28}$ MeV $\mathbf{0.9581\%}$
電子 $0.511$ MeV $\mathbf{0}$ MeV $\mathbf{100\%}$

観察 4.2 陽子は $\mathbf{1\%}$ も軽くならない。閉じ込めはヒッグスと無関係に働く。核子は $v=0$ の世界でもほぼ同じ重さで存在する。

観察 4.3 一方、電子は完全に消える。質量零の電子は光速で走るので原子核に束縛されない。原子は存在しなくなるが、核子は残る。

観察 4.4 正直に書くべき点、これは厳密な予言ではない。$v=0$ ではカイラル対称性の破れの様相も変わり、核子質量も多少動く。本稿が示すのは「桁が変わらない」ことであって、$929.28$ MeV という値ではない。

5. 素朴な数え上げが失敗する場所

設定:ここまでは「クォーク質量を足す」という素朴な数え上げがうまく働いた。働かない場所を一つ示す。

検算 5.1:中性子と陽子の質量差を、クォークの質量差で説明できるかを見る。

量 値
中性子 $-$ 陽子(実測) $\mathbf{1.29333}$ MeV
クォーク和の差 $(u+2d)-(2u+d)=m_d-m_u$ $\mathbf{2.5100}$ MeV
説明できる割合 $\mathbf{194.07\%}$

観察 5.2 $194\%$、すなわち行き過ぎている。クォーク質量差だけを見ると、中性子は実際の約二倍重くなるはずである。足りないのではなく、余る。

観察 5.3 余りを埋めるのは電磁的な寄与である。陽子は電荷 $+1$ を持つので自己エネルギーで重くなり、差を縮める。符号が逆向きの二つが打ち消し合っている(論文274 と同じ構図)。

観察 5.4 したがって第2節の $99.04\%$ は、どの問いにも使える数ではない。総質量については素朴な数え上げが $1\%$ の精度で効き、質量差については $2$ 倍外れる。同じ量を、違う問いに使ってはいけない。

6. 分離子:二つの起源は別の圏である

観察 6.1 分離子、何を動かすと、この二つは入れ替わるか。入れ替わらない。二つは別の圏である。

由来 量
ヒッグス由来 湯川結合 $\times$ 真空期待値 $8.9900$ MeV
閉じ込め由来 場と運動のエネルギー $\mathbf{929.2821}$ MeV
比 $\mathbf{103.3684}$ 倍

観察 6.2 一行目は定数への結合であり、二行目は力学の帰結である。前者はラグランジアンに書き込まれ、後者は解いてはじめて出る。同じ MeV で測れるが、身分が違う。

観察 6.3 論文112 は「同じ韻を踏む六つの別根」を数えた。本稿はその一例であり、しかも量が測れる場合である。一つの語(質量)の下に、二つの別根が、$103$ 倍の比で同居している。

観察 6.4 そして片方は $0.96\%$ しか占めていないのに、説明として広く語られているのはそちらである。これは誤りではない。電子については $100\%$ 正しい。ただし、どちらの粒子の話かを言わねばならない。

7. 点呼と結び

  1. 陽子のクォーク和 $8.9900$ MeV(検算2.1):$uud$。
  2. 非ヒッグス $99.0419\%$(検算2.2):クォーク和の $104.3684$ 倍。
  3. 電子は $100\%$ ヒッグス(検算2.2):複合粒子ではない。
  4. 対照は $104.37$ 倍(検算3.1):同じ「質量」の語の中で。
  5. 水素原子で $98.9879\%$(検算3.3):身の回りの物質。
  6. $v=0$ で陽子は $929.28$ MeV(検算4.1):$1\%$ も減らない。
  7. $v=0$ で電子は消える(検算4.1):原子は存在しない。
  8. 中性子差でクォークは $194.07\%$(検算5.1):行き過ぎる。
  9. 電磁的寄与が打ち消す(観察5.3):論文274 と同じ構図。
  10. 二つの起源の比 $103.3684$(観察6.1):別の圏。

結び:「ヒッグスが物に質量を与える」は、電子については $100\%$ 正しく、陽子については $0.9581\%$ しか正しくない。陽子は $uud$ で、クォークの静止質量の和は $\mathbf{8.99}$ MeV にすぎない。実際の $938.27$ MeV はその $\mathbf{104.3684}$ 倍であり、$\mathbf{99.0419\%}$ はヒッグス由来ではない。真空期待値を $0$ にする思考実験がそれを見せる。陽子は $929.28$ MeV になるだけ、電子は完全に消える。身の回りの物質で数えれば、水素原子の質量の $\mathbf{98.9879\%}$ が非ヒッグス起源である。ただしこの素朴な数え上げには限界がある。中性子と陽子の差を同じやり方で説明しようとすると、$\mathbf{194.07\%}$ と行き過ぎる。分けるものは一つ、その質量が、ラグランジアンに書き込まれた結合から来るのか、解いてはじめて出る力学の帰結なのか。前者は湯川結合、後者は閉じ込めであり、量は $\mathbf{103.37}$ 倍違う。どちらも MeV で測れるが、身分は違う。だから「ヒッグスが質量を与える」と言うときは、どちらの粒子の話かを言わねばならない。

参考文献

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  2. Wilczek, F. (2012). Origins of Mass. Central European Journal of Physics, 10(5).
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  7. 山岸勇輝 (2026). 山岸万有引力定数解凍理論、第3版:$4\pi G$ に含まれる二つの $4\pi$ と、単位の選択にできないこと [論文35]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21430118
  8. 山岸勇輝 (2026). 割り当てられた領域と、その中の自由、同じ韻を踏む六つの別根のセンサス [論文112]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21962834
  9. 山岸勇輝 (2026). 「質量」は七つあり、そのうち一つは負になり、一つは押す向きで変わる [論文240]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22129765
  10. 山岸勇輝 (2026). ドルーデが当たったのは、二つの間違いが打ち消し合った結果である [論文274]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22170012

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「陽子の質量の 99.04% は、ヒッグスではない」[論文286]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22171199

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 陽子の質量の 99.04% は、ヒッグスではない [論文286]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/286 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171199

Yamagishi, Y. (2026). 99.04% of the Proton’s Mass Is Not the Higgs [Paper 286]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/286; DOI: 10.5281/zenodo.22171199

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