【論文306】「基本」単位の個数は、約束である

要旨

SI には基本単位が七つある。「基本」という語は、それ以上分解できないことを意味するように聞こえる。本稿が問うのは、七という数はどこから来たかである。答は、約束からである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、単位系によって基本次元の数が変わる。SI で $7$、ガウス単位系で $3$、プランク単位系で $\mathbf{0}$ である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。同じ物理が、$7$ から $0$ まで基本次元の数を変える。変わったのは書き方だけである(第2節)。

第三に、$7$ つのうち二つは論理的に独立でない。モルは数であり、カンデラはワットに $683$ を掛けたものである(第3節)。

第四に、一つだけ人間の生理から来ている。$683$ lm/W は波長 $555$ nmでの値で、人間の目の感度が最大の点である(第3節)。

第五に、$4\pi$ の居場所も約束で動く。クーロンの法則で、$4\pi$ は SI に出て、ガウスで消え、ヘヴィサイドで場の式から消える(第4節)。

第六に、分離子は「測定の順序か、論理的独立性か」である(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。SI の七つの基本単位、ガウス単位系、自然単位系、プランク単位系、$2019$ 年の定義改定は、いずれも標準的である。計量学を作らない。使うのは次元の数え上げと、一つの波長だけである。単位系の優劣を論じない。どれが正しいかも、どれを使うべきかも扱わない。数え方が変わることだけを示す。次元解析を作らない。バッキンガムの $\Pi$ 定理には立ち入らない。それは論文117 の側である。SI を批判しない。七つという選択は実務的に合理的である。論理的独立性が唯一の基準ではない。カンデラを不要だと言わない。測光は放射測定と別の実務であり、$683$ を規約として固定する意味はある。本稿が言うのは、その数の出どころが他の六つと違うということだけである。プランク単位系を推奨しない。基本次元が $0$ であることは長所でも短所でもない。数えられることを示すために置いた。既刊との関係:論文95 は規約と事実を分け、$c$ の定義値を扱った。本稿はその規約が七つあり、個数自体も規約だと数える。論文295 は炭素 $12$ のモル質量がもう $12$ ちょうどではないと示した。本稿はそのモルが、そもそも次元を持つ必要があるかを問う。論文116 は $c$ の冪が何を数えているかを扱い、$4\pi$ の非一意性に触れた。本稿の第4節はその非一意性を単位系の側から見る。論文02・258・290 は $4\pi$ の出どころを扱った。本稿は$4\pi$ が単位系によって居場所を変えることを並べる。加えたのは基本次元の数を五つの単位系で $7,3,3,1,0$ と数えたこと、$7$ つのうち二つが論理的に独立でないと示したこと、$683$ が人間の生理から来る唯一の数だと指摘したこと、$4\pi$ の居場所が三通りに動くと並べたことである。

1. 記法と問い

事実:SI には七つの基本単位がある。メートル、キログラム、秒、アンペア、ケルビン、モル、カンデラ。

問い:七という数は、どこから来たか。自然が七を要求しているのか。

観察 1.1 「基本」という語は、それ以上分解できないことを意味するように聞こえる。本稿はそれを正確でないと見る。分解できないのではなく、分解しないと決めたのである。

2. 芯:同じ物理が、$7$ から $0$ まで変わる

検算 2.1:

単位系 基本次元の数 基本量
SI $\mathbf{7}$ m, kg, s, A, K, mol, cd
ガウス単位系(CGS) $\mathbf{3}$ cm, g, s
ヘヴィサイド=ローレンツ $3$ cm, g, s
自然単位系($\hbar=c=1$) $\mathbf{1}$ エネルギーのみ
プランク単位系 $\mathbf{0}$ すべて無次元

観察 2.2 これが本稿の芯である。同じ物理が、$\mathbf{7}$ から $\mathbf{0}$ まで基本次元の数を変える。変わったのは書き方だけであり、現象は何も変わらない。

検算 2.3:減らす階段を書く。

何をするか 残る基本次元
SI(そのまま) $7$
mol と cd を外す $5$
A を力学量に還元する(ガウス) $3$
$\hbar=c=1$ と置く $1$
さらに $G=1$ と置く(プランク) $\mathbf{0}$

観察 2.4 各段で何かを規約として固定している。$c=1$ と置くことは長さと時間を同じ次元にするという約束である。自然が要求したのではなく、こちらが決めた。

検算 2.5:プランク単位系の中身を数で見る。

量 値
プランク長 $1.616255\times10^{-35}$ m
プランク時間 $5.391246\times10^{-44}$ s
プランク質量 $2.176434\times10^{-8}$ kg
プランク温度 $1.416784\times10^{32}$ K

観察 2.6 これらを $1$ と置けば、基本次元は $0$ 個になる。すべての量がただの数になる。そして物理は何も変わらない。

3. $7$ つのうち二つは、論理的に独立でない

観察 3.1 モルは数である。$N_A=6.02214076\times10^{23}$ は個数であり、$2019$ 年以降はちょうどこの値と定義されている(論文295)、個数に次元を与えるかどうかは、約束である。

観察 3.2 カンデラはワットに定数を掛けたものである。光度 $[\mathrm{cd}]=683\times$ 放射強度 $[\mathrm{W/sr}]\times V(\lambda)$、新しい次元を導入していない。

検算 3.3:$2019$ 年以降、七つとも定数で定義されている。

単位 固定した定数 値 出どころ
秒 Cs-133 の超微細遷移 $9192631770$ Hz 物理
メートル $c$ $299792458$ m/s 物理
キログラム $h$ $6.62607015\times10^{-34}$ J s 物理
アンペア $e$ $1.602176634\times10^{-19}$ C 物理
ケルビン $k$ $1.380649\times10^{-23}$ J/K 物理
モル $N_A$ $6.02214076\times10^{23}$ /mol 物理
カンデラ $K_{cd}$ $\mathbf{683}$ lm/W 人間の生理

観察 3.4 右端の列で、最下段だけが違う。$683$ lm/W は波長 $\mathbf{555}$ nmでの発光効率であり、$555$ nm は人間の明所視感度が最大になる波長である。七つのうち一つだけが、人間から来ている。

観察 3.5 $683$ という値も歴史から来た。旧定義(白金の凝固点における黒体の $1/60\ \mathrm{cm^2}$)との連続性を保つために選ばれた。物理的な必然はどこにも無い。

観察 3.6 したがって「基本単位」は論理的独立性で選ばれていない。選ばれた基準は測定の実務である。どれを直接測り、どれを組み立てるかという順序。

観察 3.7 正直に書くべき点、これは SI の欠陥ではない。測光は放射測定と別の実務であり、$683$ を規約として固定する意味はある。本稿が言うのは、その数の身分が他の六つと違うということだけである。

4. $4\pi$ の居場所も、約束で動く

設定:クーロンの法則を三つの単位系で書く。

検算 4.1:

単位系 クーロンの法則 $4\pi$ は
SI $F=\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{q_1q_2}{r^2}$ 力の式に出る
ガウス $F=\dfrac{q_1q_2}{r^2}$ 消える
ヘヴィサイド=ローレンツ $F=\dfrac{q_1q_2}{4\pi r^2}$ 場の式から消える

観察 4.2 同じ物理で、$4\pi$ の居場所が三通りある。ガウス単位系では力の式から消え、ヘヴィサイド単位系ではガウスの法則の側へ移る。消えたのではなく、移った。

観察 4.3 論文02 は逆二乗場に純粋立体角 $4\pi$ が現れることを示し、論文258 はそれが源が点のときだけだと書いた。論文290 では $4\pi$ が二度立って約分された。本稿はさらに単位系を変えると居場所が動くことを並べる。

観察 4.4 したがって $4\pi$ には二つの身分がある。

出どころ 単位系で動くか
幾何の $4\pi$ 球面の立体角 動かない
規約の $4\pi$ 単位系の取り方 動く

観察 4.5 見分け方は簡単である。単位系を変えて消えるなら規約、残るなら幾何。論文31 の判定基準(変数を動かす)と同じ形である。ここで動かす変数が、単位系である。

5. 分離子:測定の順序か、論理的独立性か

観察 5.1 分離子、何を動かすと、基本次元の数が変わるか。何を規約として固定するかである。

「基本」の意味 何を数えるか SI での答
測定の順序 直接測る量の個数 $\mathbf{7}$
論理的独立性 還元できない次元の個数 $\mathbf{5}$ 以下
規約を最大化 固定できる定数を全部固定 $\mathbf{0}$

観察 5.2 三行が三つとも正しい。「基本単位はいくつか」という問いに、$7$ とも $5$ とも $0$ とも答えられる。どの意味で問うたかを言わねば、答が決まらない。

観察 5.3 論文95 は規約と事実を分けた。本稿が加えるのは規約の個数もまた規約であるという一段、足場の高さを決めるのも、足場である。

観察 5.4 論文295 は $2019$ 年の改定で等号が定義から経験則へ移ったことを示した。本稿はその改定の別の側面を見る。七つとも数で定義されたことで、「基本」の意味が測定の順序へ純化した。

観察 5.5 $2019$ 年より前は、キログラムが物体(国際キログラム原器)だった。いまは七つとも数である。「基本単位」の一覧に、物はもう一つも無い。

観察 5.6 正直に書くべき点、本稿は $7$ を減らすべきだとは言わない。実務では測る順序が意味を持つ、言えるのは、その $7$ が自然の要求ではないということだけである。

6. 点呼と結び

  1. SI で $7$、ガウスで $3$(検算2.1):プランクで $0$。
  2. 減らす階段は $7,5,3,1,0$(検算2.3):各段で何かを固定する。
  3. プランク長 $1.616255\times10^{-35}$ m(検算2.5):$1$ と置けば無次元。
  4. モルは数である(観察3.1):次元を与えるかは約束。
  5. カンデラはワット $\times683$(観察3.2):新しい次元でない。
  6. $683$ は $555$ nm での値(観察3.4):人間の目の感度の最大点。
  7. $683$ は歴史から来た(観察3.5):旧定義との連続性。
  8. $4\pi$ の居場所は三通り(検算4.1):消えたのではなく移った。
  9. 単位系で消えるなら規約(観察4.5):論文31 と同じ判定。
  10. $7$ とも $5$ とも $0$ とも答えられる(観察5.2):どの意味かによる。

結び:SI に基本単位が七つあるのは、自然が七を要求しているからではない。同じ物理を、ガウス単位系なら $\mathbf{3}$、自然単位系なら $\mathbf{1}$、プランク単位系なら $\mathbf{0}$ 個の基本次元で書ける。変わったのは書き方だけであり、現象は何も変わらない。しかも七つのうち二つは論理的に独立でない。モルは数であり、カンデラはワットに $\mathbf{683}$ を掛けたものである。そして一つだけが人間から来ている。$683$ lm/W は波長 $\mathbf{555}$ nmでの値であり、人間の明所視感度が最大になる波長である。他の六つ(Cs、$c$、$h$、$e$、$k$、$N_A$)は物理定数だが、これだけが生理から来ている。$4\pi$ の居場所も同じように動く。SI では力の式に出て、ガウスでは消え、ヘヴィサイドでは場の式へ移る。消えたのではなく、移ったのである。分けるものは一つ、「基本」を測定の順序と読むか、論理的独立性と読むか。前者なら $\mathbf{7}$、後者なら $\mathbf{5}$ 以下、規約を最大化すれば $\mathbf{0}$ である。三つとも正しく、どの意味で問うたかを言わねば答が決まらない。

参考文献

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  2. Gauss, C. F. (1832). Intensitas vis magneticae terrestris ad mensuram absolutam revocata. Commentationes Societatis Regiae Scientiarum Gottingensis Recentiores, 8.
  3. Planck, M. (1899). Uber irreversible Strahlungsvorgange. Sitzungsberichte der Koniglich Preussischen Akademie der Wissenschaften, 5.
  4. Jackson, J. D. (1998). Classical Electrodynamics. New York: Wiley.
  5. Duff, M. J., Okun, L. B. and Veneziano, G. (2002). Trialogue on the Number of Fundamental Constants. Journal of High Energy Physics, 2002(03).
  6. Commission Internationale de l’Eclairage (1926). Proceedings of the 6th Session. Geneva: CIE.
  7. 山岸勇輝 (2026). $4\pi$ 質量相殺定理、逆二乗場における純粋立体角の出現と無摩擦平衡(Zero-Tension)の数理構造 [論文02]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21403931
  8. 山岸勇輝 (2026). 次元を持たない $\pi$ [論文31]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22090430
  9. 山岸勇輝 (2026). 規約と事実を分ける。ポアンカレの規約主義と、体系の「足場」($c$ の定義値・単位の約束) [論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
  10. 山岸勇輝 (2026). $c$ の冪は、何を数えているか、プランク還元の指数公式、$\varepsilon$=質量次元、$4\pi$ の非一意性、そして分母に座っていた $n=d-1$ [論文116]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22003794
  11. 山岸勇輝 (2026). $4\pi$ が出るのは、源が点のときだけである [論文258]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169011
  12. 山岸勇輝 (2026). 炭素 $12$ のモル質量は、もう $12$ ちょうどではない [論文295]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171659

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書誌

山岸勇輝(2026)「「基本」単位の個数は、約束である」[論文306]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22172149

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「基本」単位の個数は、約束である [論文306]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/306 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22172149

Yamagishi, Y. (2026). How Many “Base” Units There Are Is a Promise [Paper 306]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/306; DOI: 10.5281/zenodo.22172149

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