【論文320】カオスへの道は、写像が持っていない数を持っている

要旨

論文289 は、予報の限界を決めているのが誤差の二重時間という一つの数だと示した。本稿が問うのは、そのカオスにどうやって入るのかである。答は、周期を二倍にし続けて入るであり、その刻みには写像に無い数がある。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、周期が二倍ずつ増える。$r=2.999913835$ で $2$、$3.449455935$ で $4$、$3.544076323$ で $8$(第2節)。

第二に、刻みは加速して詰まる。比は $4.751007\to4.655336\to\mathbf{4.666483}$(第3節)。

第三に、これが本稿の芯である。正弦曲線でも同じ数が出る。$4.470421\to4.627798\to\mathbf{4.658764}$(第4節)。

第四に、式の形はどこにも残らない。放物線か正弦曲線かは答に入らない(第4節)。

第五に、論文289 とは別のものを測っている。289 はカオスの中の代価、本稿はカオスへの入口(第5節)。

第六に、分離子は「山が一つで、頂上が滑らかか」である(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ロジスティック写像、周期倍化分岐、ファイゲンバウム定数とその普遍性、一山写像の分類は、いずれも標準的である。力学系を作らない。使うのは二つの写像と、一つの比だけである。普遍性を証明しない。くりこみ群による説明には立ち入らない。二つの写像で同じ数が出ることを、数値で示すだけである。定数の値を主張しない。本稿が出したのは $4.666483$ と $4.658764$ であり、これは収束途中の値である。公表値 $4.669201609$ は引くだけである。カオスの定義を論じない。リアプノフ指数や位相的推移性の定義には立ち入らない。他の経路を扱わない。間欠性やクライシスなど、周期倍化以外のカオスへの道は扱わない。既刊との関係:論文289 は「予報の限界を決めているのは誤差の二重時間という一つの数である」と示した。289 はカオスの中に入ったあとの代価を測り、本稿はカオスに入る手前の刻みを測る。同じ現象の、前と後である。論文271 は平均場が次元を見ないのに外れ方は次元だけで決まると示した。普遍性という同じ言葉が使われる場所であり、本稿の $4.669$ も細部を落とした先に残る数である。論文264 は格子で変わる数と変わらない数が同居すると示した。本稿は写像で変わる数(分岐点)と変わらない数(比)を並べる。論文316 は同じ整数を三つの数え方が返すと示した。本稿は同じ定数を二つの写像が返すという、同じ型である。論文180 は「古典極限」が一つの極限ではないと示した。本稿の極限(分岐点の集積)も、一つの極限である。加えたのはロジスティック写像の分岐点を五つ自前で求めたこと、比を $4.751007\to4.655336\to4.666483$ と出したこと、正弦写像でも同じ計算をして $4.658764$ を得たこと、分離子を「山が一つで頂上が滑らか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:$x_{n+1}=r x_n(1-x_n)$ を考える。$x$ は $0$ と $1$ のあいだ、$r$ は $0$ から $4$ まで。

観察 1.1 式は二次式一つである。掛け算が二回あるだけで、どこにも複雑さが無い。それでも $r$ を上げていくと、予言できなくなる。

問い:どうやって、そこへ入るのか。

観察 1.2 答は周期を二倍にし続けて入るである。そしてその刻みには、この式に書かれていない数がある。

2. 周期が、二倍ずつ増える

検算 2.1:$r$ ごとの軌道を、$20000$ 回まわしたあとで見る(本稿で計算)。

$r$ 周期 軌道の先頭
$2.80$ $1$ $0.642857$
$3.20$ $2$ $0.799455, 0.513045$
$3.50$ $4$ $0.874997, 0.382820, 0.826941, 0.500884$
$3.56$ $8$ $0.889892, 0.348824, 0.808639, 0.550881$
$3.90$ 見つからず $0.166950, 0.542403, 0.967988, 0.120852$

観察 2.2 $1\to2\to4\to8$ と倍々に増える。$3$ や $5$ や $6$ はこの道では現れない。増え方が決まっている。

検算 2.3:分岐が起きる $r$ を二分法で求める(本稿で計算)。

周期 始まる $r$
$2$ $\mathbf{2.999913835}$
$4$ $\mathbf{3.449455935}$
$8$ $\mathbf{3.544076323}$
$16$ $\mathbf{3.564401469}$
$32$ $\mathbf{3.568757029}$

観察 2.4 刻みが急速に詰まっている。$0.4495\to0.0946\to0.0203\to0.0044$、$r$ の残りが尽きる。

3. 刻みは、加速して詰まる

検算 3.1:連続する刻みの比を取る。

比 値
$(b_2-b_1)/(b_3-b_2)$ $4.751007$
$(b_3-b_2)/(b_4-b_3)$ $4.655336$
$(b_4-b_3)/(b_5-b_4)$ $\mathbf{4.666483}$
公表値 $\delta$ $4.669201609$

観察 3.2 一定の比に近づいている。$4.751007\to4.655336\to4.666483$、行き過ぎて戻りながら、$4.669$ に寄っている。

観察 3.3 比が一定ということは、等比数列だということである。だから和が有限になる。無限回の分岐が、有限の $r$ の中に収まる。

観察 3.4 正直に書くべき点、$4.666483$ は収束途中の値である。もっと先の分岐まで取れば $4.669201609$ に近づく。本稿は定数の値を主張せず、近づいていることだけを示す。

4. 芯:正弦曲線でも、同じ数が出る

設定:形の違う写像 $x_{n+1}=r\sin(\pi x_n)$ で、同じ計算をする。二次式ですらない。

検算 4.1:

周期 始まる $r$(正弦写像) 参考:ロジスティック
$2$ $0.719941554$ $2.999913835$
$4$ $0.833257388$ $3.449455935$
$8$ $0.858605301$ $3.544076323$
$16$ $0.864082617$ $3.564401469$
$32$ $0.865258319$ $3.568757029$

検算 4.2:比を取る。

比 正弦写像 ロジスティック
第一 $4.470421$ $4.751007$
第二 $4.627798$ $4.655336$
第三 $\mathbf{4.658764}$ $\mathbf{4.666483}$

観察 4.3 これが本稿の芯である。分岐点は一つも一致していない。$0.7199$ 対 $2.9999$、$0.8333$ 対 $3.4495$。それなのに比だけが同じ数に向かう。

観察 4.4 式の形は、答のどこにも残っていない。放物線か正弦曲線か、$r$ の範囲が $4$ までか $1$ までか、どれも比には入らない。

観察 4.5 論文264 は「格子で変わる数と変わらない数が同居している」と書いた。ここでも同居している。分岐点は写像で変わり、比は変わらない。

観察 4.6 論文271 は「平均場は次元を見ないが、外れ方は次元だけで決まる」と書いた。同じ「普遍性」という語である。細部を捨てた先に、捨てられない数が残る。

5. 論文289 とは、別のものを測っている

検算 5.1:

何を測るか いつの話か
論文289 誤差の二重時間 $\tau_d$ カオスの中
本稿 分岐の刻みの比 $\delta$ カオスに入る手前

観察 5.2 二つは同じ現象の前と後である。$\delta$ はどうやって入ったかを言い、$\tau_d$ は入ったあと何がいくらかかるかを言う。片方が分かっても他方は出ない。

観察 5.3 論文300 の判定基準を当てる。

基準 結果
恒等性を保つ対応があるか いいえ。$\delta$ から $\tau_d$ は出ない
同じ量が入っているか いいえ。径数の刻み 対 時間
普遍か 片方だけ。$\delta$ は普遍、$\tau_d$ は系ごと

観察 5.4 三行目が一番はっきりしている。$\delta$ はどの一山写像でも同じだが、$\tau_d$ は大気なら $1.5$ 日、別の系なら別の値、普遍なものと、系に属するものが分かれている。

6. 分離子:山が一つで、頂上が滑らかか

観察 6.1 分離子、写像が一山で、その頂上が二次で丸いかどうか。

写像の性質 $\delta$ は 理由
一山・頂上が二次 $4.669201609$ 同じ普遍クラス
一山・頂上が四次 別の値 クラスが変わる
山が二つ以上 この道に乗らない 別の分岐の仕方をする

観察 6.2 効いているのは頂上の形だけである。放物線も $\sin$ も頂上のまわりでは二次であり、そこだけが一致している。一致しているのは関数ではなく、頂上の次数である。

観察 6.3 だから「同じ数が出た」は偶然ではない。論文300 は「数値の一致だけでは同根と見なさない」と書いた。本稿はその基準を満たす。一致の理由(頂上の次数)が特定できており、しかも動かせば壊れるからである。

観察 6.4 正直に書くべき点、本稿は普遍性を証明していない。二つの写像で数が近づくことを示しただけで、なぜそうなるかはくりこみ群の議論に属する。本稿はそこに立ち入らない。

観察 6.5 最後に一つ、$4.669201609$ は、どの式にも書かれていない。$r x(1-x)$ にも $r\sin(\pi x)$ にも、この数は現れない。式が持っていない数を、その式の振る舞いが持っている。数は式の中だけに住んでいるのではない。

7. 点呼と結び

  1. 周期は $1\to2\to4\to8$(検算2.1):$3$ も $5$ も現れない。
  2. 分岐は $2.999913835$ から(検算2.3):五つ求めた。
  3. 刻みが詰まる(観察2.4):$0.4495\to0.0044$。
  4. 比は $4.666483$ へ(検算3.1):公表値 $4.669201609$。
  5. 無限回が有限の $r$ に収まる(観察3.3):等比だから。
  6. 正弦写像でも $4.658764$(検算4.2):別の関数、同じ数。
  7. 分岐点は一つも一致しない(観察4.3):$0.7199$ 対 $2.9999$。
  8. 289 とは前と後(検算5.1):入口と、中の代価。
  9. 普遍なのは $\delta$ だけ(観察5.4):$\tau_d$ は系ごと。
  10. 効くのは頂上の次数(観察6.2):関数ではない。

結び:論文289 は、予報の限界を決めているのが誤差の二重時間という一つの数だと示した。本稿はその手前を測る。カオスには周期を二倍にし続けて入る。$x_{n+1}=r x_n(1-x_n)$ という掛け算二回の式で、周期は $1\to2\to4\to8$ と倍々に増え、$3$ も $5$ も現れない。分岐は $r=\mathbf{2.999913835}, 3.449455935, 3.544076323, 3.564401469, 3.568757029$ で起き、刻みは $0.4495$ から $0.0044$ へ急速に詰まる。刻みの比は $4.751007\to4.655336\to\mathbf{4.666483}$、一定の比に近づくから等比数列であり、だから無限回の分岐が有限の $r$ に収まる。そして正弦曲線 $r\sin(\pi x)$ でも、同じ数が出る。分岐点は $0.7199$ 対 $2.9999$ と一つも一致しないのに、比は $4.470421\to4.627798\to\mathbf{4.658764}$ と同じ場所へ向かう。式の形は答のどこにも残っていない。論文289 とは同じ現象の前と後である。$\delta$ はどうやって入ったか、$\tau_d$ は入ったあとの代価を言い、$\delta$ は普遍で $\tau_d$ は系ごとである。分けるものは一つ、写像が一山で、頂上が二次で丸いかどうか。放物線も $\sin$ も頂上のまわりでは二次であり、一致しているのは関数ではなく頂上の次数である。だからこれは数値の偶然ではない。論文300 の「数値の一致だけでは同根と見なさない」に対し、一致の理由が特定でき、動かせば壊れるという答を返せる。最後に一つ、$4.669201609$ は、どの式にも書かれていない。式が持っていない数を、その式の振る舞いが持っている。数は式の中だけに住んでいるのではない。

参考文献

  1. Feigenbaum, M. J. (1978). Quantitative Universality for a Class of Nonlinear Transformations. Journal of Statistical Physics, 19(1).
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  4. Strogatz, S. H. (2015). Nonlinear Dynamics and Chaos, 2nd edition. Boulder: Westview Press.
  5. Lanford, O. E. (1982). A Computer-Assisted Proof of the Feigenbaum Conjectures. Bulletin of the American Mathematical Society, 6(3).
  6. 山岸勇輝 (2026). 「古典極限」は一つの極限ではない [論文180]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22099046
  7. 山岸勇輝 (2026). 同じ現象の中に、格子で変わる数と変わらない数が同居している [論文264]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169720
  8. 山岸勇輝 (2026). 平均場は次元を見ないが、外れ方は次元だけで決まる [論文271]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169925
  9. 山岸勇輝 (2026). 予報の限界を決めているのは、たった一つの数である [論文289]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171367
  10. 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  11. 山岸勇輝 (2026). 同じ整数を、三つの別の数え方が返す [論文316]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208229

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「カオスへの道は、写像が持っていない数を持っている」[論文320]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22209089

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). カオスへの道は、写像が持っていない数を持っている [論文320]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/320 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22209089

Yamagishi, Y. (2026). The Road into Chaos Carries a Number the Map Does Not [Paper 320]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/320; DOI: 10.5281/zenodo.22209089

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