要旨
恒星は一年かけて空に小さな楕円を描く。本稿が問うのは、その楕円は一種類かである。答は、二種類あり、位相で見分けられるである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、光行差は $\mathbf{20.49552}$ 秒角である(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。光行差は距離に依らず、視差は距離に反比例する(第3節)。
第三に、最も近い恒星でも $\mathbf{26.6442}$ 倍ひらく。$1$ キロパーセクなら $\mathbf{20495}$ 倍(第3節)。
第四に、振幅では分けられない場合がある。ある距離では二つが同じ大きさになる(第3節)。
第五に、位相が四分の一ずれている。ブラッドリーはそれで見分けた(第4節)。
第六に、分離子は「位置で決まるか、速度で決まるか」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。光行差、年周視差、ブラッドリーの $1728$ 年の観測、光行差定数の定義はいずれも標準的である。天体力学を作らない。使うのは二つの角度と、その位相差だけである。相対論的な扱いをしない。光行差の相対論的公式には立ち入らない。$v/c$ の一次までで足りる場面だけを見る。固有運動を扱わない。恒星自身の運動は周期的でないので、本稿の二つとは分けられる。触れるにとどめる。測定の歴史を裁定しない。誰が最初に何を見たかの帰属には立ち入らない。距離はしごを扱わない。視差より遠い段は論文297 の射程である。既刊との関係:論文297 は宇宙の距離が七段のはしごで、直接測られているのは一段目だけだと示した。その一段目が視差であり、本稿はその隣に立つもう一つの楕円を見る。論文325 は虹の角度に半径が入らないと示した。同じ型であり、ここでは光行差に距離が入らない。論文300 は同根か別根かは判定できると示した。本稿は「同じ形をしていても別根」の実例であり、判定に使ったのは値ではなく位相である。論文327 は二つの曲線が $0.083$ パーセントしか違わないと示した。そこでは見た目が同じで別物、ここでは大きさが同じでも別物である。論文313 は体系が「同期」を複数の意味で使ってきたと示した。位相という語がここでも判定の道具になっている。加えたのは光行差定数を単純計算と文献値の両方で示し、その差を明示したこと、距離ごとの比を三桁にわたって出したこと、二つが同じ振幅になる距離を求めたこと、分離子を位置と速度の別に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:恒星を一年間観測すると、空の上で小さな楕円を描く。その楕円には、二つの原因がありうる。
| 名前 | 何のせいか |
|---|---|
| 年周視差 | 地球の位置が変わるから |
| 光行差 | 地球の速度が変わるから |
観察 1.1 どちらも一年周期で、どちらも楕円である。形では区別がつかない。何かほかの手がかりが要る。
問い:二つは、何によって見分けられるのか。
2. 光行差は $20.49552$ 秒角である
設定:雨の中を走ると、雨が前から降ってくるように見える。光でも同じことが起きて、傾きは $\tan\alpha=v/c$ である。
検算 2.1:地球の公転速度から計算する(本稿で計算)。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 公転速度 $v$ | $29784.8$ m/s |
| $v/c$ | $9.935140\times10^{-5}$ |
| 単純計算 $\arctan(v/c)$ | $20.492697$ 秒角 |
| 文献値(光行差定数 $\kappa$) | $\mathbf{20.49552}$ 秒角 |
| 差 | $0.002823$ 秒角($0.0138\%$) |
観察 2.2 正直に書くべき点、本稿の単純計算は文献値と $0.0138$ パーセント違う。定数 $\kappa$ は軌道の離心率などを含む定義であり、円軌道の平均速度から出した値ではない。本稿が使うのは文献値 $20.49552$ 秒角で、単純計算は桁を見るための値である。
観察 2.3 $20$ 秒角は小さい。満月の見かけの直径の約 $1/88$、肉眼では絶対に見えない。
観察 2.4 この式に恒星までの距離が入っていない。$\tan\alpha=v/c$ に現れるのは観測者の速度と光速だけである。見ている相手の情報が、一つも入らない。
3. 芯:片方は距離に依り、片方は依らない
検算 3.1:距離ごとに、二つの角度を並べる。視差は $1/d$($d$ はパーセク、視差は秒角)。
| 恒星 | 距離 [pc] | 視差 [秒角] | 光行差 [秒角] | 比 |
|---|---|---|---|---|
| プロキシマ | $1.30$ | $0.769231$ | $20.49552$ | $\mathbf{26.6442}$ |
| $10$ パーセク | $10.00$ | $0.100000$ | $20.49552$ | $204.9552$ |
| $100$ パーセク | $100.00$ | $0.010000$ | $20.49552$ | $2049.5520$ |
| $1$ キロパーセク | $1000.00$ | $0.001000$ | $20.49552$ | $\mathbf{20495.5200}$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。右の列は一度も動かない。光行差は、どの恒星についても同じ $20.49552$ 秒角である。
観察 3.3 最も近い恒星ですら、$\mathbf{26.6442}$ 倍ひらいている。一番有利な相手でこれである。視差を探しているとき、視差より $27$ 倍大きい別の効果が常に乗っている。
観察 3.4 二つが同じ大きさになる距離を求めると
$$\frac{1}{d}=20.49552\quad\Rightarrow\quad d=0.048791\ \text{pc}=0.159135\ \text{光年}$$
そんな恒星は存在しない。最も近いプロキシマでも $4.2$ 光年である。つまり振幅の大小では、常に光行差が勝つ。
観察 3.5 論文325 は「虹の角度に水滴の大きさが入っていない」と書いた。同じ型である。そこでは大きさが、ここでは距離が、答に入らない。
観察 3.6 そして入らない理由も同じ形をしている。虹では球がどの大きさでも相似だから、光行差では速度の合成が相手の位置を見ないから、どちらも「相手の情報が式に入る道が無い」。
4. 位相が四分の一ずれている
設定:振幅では分けられないなら、いつ最大になるかを見る。
検算 4.1:一年を十二ヶ月として、変位の位相を並べる。
| 経過 | 視差の変位 | 光行差の変位 |
|---|---|---|
| $0$ ヶ月 | $+1.0000$ | $0.0000$ |
| $3$ ヶ月 | $0.0000$ | $+1.0000$ |
| $6$ ヶ月 | $-1.0000$ | $0.0000$ |
| $9$ ヶ月 | $0.0000$ | $-1.0000$ |
観察 4.2 ちょうど $90$ 度、三ヶ月ずれている。視差は地球の位置で決まり、光行差は地球の速度で決まる。円運動では、速度は位置の四分の一周期先を向く。
観察 4.3 ブラッドリーは $1728$ 年に、これで見分けた。視差を探していて楕円は見つかったが、季節がずれていた。探していたものではないと、位相が告げた。
観察 4.4 振幅が合わないことは、証拠として弱い。距離を知らないので、視差の予想値が立たないからである。位相は距離を知らなくても予想できる。
観察 4.5 これは「別根の判定に、値ではなく構造を使った」例である。論文300 の基準に当てる。
| 基準 | 結果 |
|---|---|
| 恒等式を保つ対応があるか | 無い。片方に $d$ が入り、片方に入らない |
| 同じ量が現れるか | 現れない。$v/c$ と $1/d$ |
| 変数を動かして一致し続けるか | しない。$d$ を動かすと片方だけ動く |
観察 4.6 三行とも別根を指している。そして位相の四分の一ずれが、それを観測で示している。判定基準と観測が、同じ答を出している。
5. 分離子:位置で決まるか、速度で決まるか
観察 5.1 分離子、その効果が、観測者の位置で決まるか、速度で決まるか。
| 決めるもの | 距離への依存 | 位相 | |
|---|---|---|---|
| 年周視差 | 位置 | $1/d$ | 基準 |
| 光行差 | 速度 | 無し | $90$ 度先 |
観察 5.2 三つの列が、全部同じ一点から出ている。位置か速度かが決まれば、距離依存も位相も自動的に決まる。独立に見えた三つの違いが、一つの違いである。
観察 5.3 地球を止めれば、片方だけが消える。速度が零なら光行差は消え、位置は依然として太陽の反対側にある。分離子は動かせる。
観察 5.4 正直に書くべき点、実際の観測には第三の動きが乗っている。恒星自身の固有運動である。ただしこれは周期的でないので、一年で戻ってこないことで分けられる。
観察 5.5 論文297 との位置関係。297 は距離のはしごの一段目が視差だと書いた。本稿は、その一段目のすぐ隣に、距離を一切含まない同じ形の楕円が乗っていることを言う。はしごの一段目は、単独では立っていない。
観察 5.6 最後に一つ、ブラッドリーは探していたものを見つけられず、探していなかったものを見つけた。そしてそれは光速の測定になった。$20$ 秒角という角度から、$v/c$ が読めるからである。見つからなかったことが、別のものの物差しになった。
6. 点呼と結び
- 光行差は $20.49552$ 秒角(検算2.1):単純計算との差 $0.0138$ パーセントは明記した。
- 満月の $1/88$(観察2.3):肉眼では見えない。
- 式に距離が入らない(観察2.4):$v$ と $c$ だけ。
- プロキシマで $26.6442$ 倍(検算3.1):最も有利な相手で。
- $1$ キロパーセクで $20495.5200$ 倍(検算3.1):視差は $1/d$。
- 同じ大きさになる距離は $0.159135$ 光年(観察3.4):そんな恒星は無い。
- 位相が $90$ 度ずれる(検算4.1):位置と速度の関係。
- ブラッドリーは $1728$ 年(観察4.3):季節がずれていた。
- 位相は距離を知らなくても予想できる(観察4.4):振幅は立たない。
- はしごの一段目は単独で立たない(観察5.5):297 の隣。
結び:恒星は一年かけて空に小さな楕円を描き、その原因は二つありうる。地球の位置が変わるからの年周視差と、地球の速度が変わるからの光行差である。どちらも一年周期の楕円で、形では区別がつかない。光行差は $\tan\alpha=v/c$ から出て $\mathbf{20.49552}$ 秒角、満月の見かけの直径の約 $1/88$ である。(本稿の単純計算 $20.492697$ は文献値と $0.0138$ パーセント違い、$\kappa$ は離心率を含む定義なので、本稿が使うのは文献値である)。そしてこの式には、恒星までの距離が入っていない。現れるのは観測者の速度と光速だけで、見ている相手の情報が一つも入らない。最も近いプロキシマですら視差の $\mathbf{26.6442}$ 倍、$1$ キロパーセクでは $\mathbf{20495.5200}$ 倍ひらく。二つが同じ大きさになる距離は $0.159135$ 光年で、そんな恒星は存在しない。振幅の大小では、常に光行差が勝つ。分けたのは振幅ではなく、位相である。円運動では速度は位置の四分の一周期先を向くので、二つの楕円はちょうど三ヶ月ずれる。ブラッドリーは $1728$ 年、視差を探していて楕円を見つけ、季節がずれていることで探し物ではないと知った。振幅が合わないことは証拠として弱い。距離を知らなければ視差の予想値が立たないからで、位相は距離を知らなくても予想できる。分けるものは一つ、その効果が観測者の位置で決まるか、速度で決まるか。それが決まれば距離依存も位相も自動的に決まり、独立に見えた三つの違いが一つの違いになる。論文297 は距離のはしごの一段目が視差だと書いた。本稿はその一段目のすぐ隣に、距離を一切含まない同じ形の楕円が乗っていることを言う。はしごの一段目は、単独では立っていない。最後に一つ、ブラッドリーは探していたものを見つけられず、探していなかったものを見つけた。そしてそれは光速の測定になった。$20$ 秒角という角度から $v/c$ が読めるからである。見つからなかったことが、別のものの物差しになった。
参考文献
- Bradley, J. (1728). A Letter from the Reverend Mr. James Bradley… Giving an Account of a New Discovered Motion of the Fix’d Stars. Philosophical Transactions of the Royal Society, 35(406).
- Bessel, F. W. (1838). Bestimmung der Entfernung des 61sten Sterns des Schwans. Astronomische Nachrichten, 16(365).
- International Astronomical Union (1976). IAU System of Astronomical Constants. Resolution of the XVIth General Assembly, Grenoble.
- Gaia Collaboration (2021). Gaia Early Data Release 3: Summary of the Contents and Survey Properties. Astronomy and Astrophysics, 649.
- 山岸勇輝 (2026). 宇宙の距離は七段のはしごで、直接測られているのは一段目だけである [論文297]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171788
- 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 体系は「同期」を四つの意味で使ってきて、五つ目だけが閾値を持つ [論文313]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22174953
- 山岸勇輝 (2026). 虹の角度に、水滴の大きさは入っていない [論文325]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209848
- 山岸勇輝 (2026). 二つの曲線は 0.083 パーセントしか違わず、それでも別物である [論文327]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22210286
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「同じ楕円が三ヶ月ずれていたことが、原因が別だという証拠になった」[論文328]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22210340
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ楕円が三ヶ月ずれていたことが、原因が別だという証拠になった [論文328]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/328 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22210340
Yamagishi, Y. (2026). That the Same Ellipse Was Three Months Out Was the Evidence of a Different Cause [Paper 328]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/328; DOI: 10.5281/zenodo.22210340
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