要旨
整合をとれば最適である、と教わる。本稿が問うのは何の最適かである。答えは電力の最適であって、効率の最適ではない。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、起電力 $12$ V・内部抵抗 $0.5$ $\Omega$ のとき、負荷の電力は $R=r=0.5$ $\Omega$ で最大 $\mathbf{72.0000}$ W になる(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。そのときの効率はちょうど $\mathbf{50}$ パーセントである(第2節)。
第三に、効率は $R$ を大きくするほど単調に上がる(第3節)。
第四に、$R=50$ $\Omega$ で効率は $\mathbf{99.0099}$ パーセントだが、電力は最大の $\mathbf{0.0392}$ 倍しかない(第3節)。
第五に、$R=10r$ なら効率 $\mathbf{90.9091}$ パーセントで電力は最大の $\mathbf{0.3306}$ 倍。ここが実用の折り合いである(第4節)。
第六に、分離子は「何を最大化するか」であって、回路の側は一つも変わらない(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。最大電力伝送の定理・内部抵抗・整合はすべて既知である。回路理論を作らない。交流の複素インピーダンス整合や分布定数回路には立ち入らない。名前を挙げるにとどめる。電池を作らない。内部抵抗の電気化学的な起源や、放電に伴う変化は主題ではない。$r$ は定数として扱う。熱を扱わない。内部抵抗での発熱による温度上昇と、それによる $r$ の変化は主題ではない。機器を設計しない。具体的な電源回路の設計指針は与えない。非線形を扱わない。負荷は純抵抗とし、定電力負荷などは主題ではない。既刊との関係:論文353 は最適値が端ではなく中間にあることを示した。そこでは山が一つだった。ここでは山と単調増加が同時にあり、最適が二つに割れる。論文356 は流れている量と働いている量が別であることを示した。そこでも同じ回路で二つの量が分かれた。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「最大電力」と「最大効率」は、その基準で別根である。論文313 は一語が複数の意味で使われていたことを示した。「最適」も同じ形をしている。加えたのは、電力と効率を八点で同時に数に出したこと、最大電力点での効率がちょうど $50$ パーセントであることを示したこと、最大効率点での電力が最大の $0.0392$ 倍であることを示したこと、$R=10r$ を折り合いの点として数で置いたこと、分離子を「何を最大化するか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:起電力 $E=12.0$ V、内部抵抗 $r=0.5$ $\Omega$ の電源に、抵抗 $R$ の負荷をつなぐ。
$$I=\frac{E}{R+r},\qquad P_R=I^2R,\qquad \eta=\frac{R}{R+r}$$
観察 1.1 $R$ を小さくすると電流は増える。だが電圧降下も内部で増える。$P_R=I^2R$ は $R$ が小さすぎても大きすぎても小さくなる。
観察 1.2 効率のほうは形が違う。$\eta=R/(R+r)$ は $R$ について単調増加である。山がない。
観察 1.3 この二つの形の違いが本稿の全部である。一方は山、他方は単調増加、最大値の場所が一致するはずがない。
問い:「最適な負荷」とは何の最適か。
2. 電力と効率を並べる
計算 2.1:負荷抵抗に対する電流・電力・効率(本稿で計算)。
| 負荷 $R$ [$\Omega$] | 電流 [A] | 負荷の電力 [W] | 効率 [パーセント] |
|---|---|---|---|
| $0.10$ | $20.0000$ | $40.0000$ | $16.6667$ |
| $0.25$ | $16.0000$ | $64.0000$ | $33.3333$ |
| $\mathbf{0.50}$ | $12.0000$ | $\mathbf{72.0000}$ | $\mathbf{50.0000}$ |
| $1.00$ | $8.0000$ | $64.0000$ | $66.6667$ |
| $2.00$ | $4.8000$ | $46.0800$ | $80.0000$ |
| $5.00$ | $2.1818$ | $23.8017$ | $90.9091$ |
| $10.00$ | $1.1429$ | $13.0612$ | $95.2381$ |
| $50.00$ | $0.2376$ | $2.8233$ | $\mathbf{99.0099}$ |
観察 2.2 これが本稿の芯である。電力が最大の $72.0000$ W になる $R=0.50$ $\Omega$ で、効率はちょうど $\mathbf{50}$ パーセントである。近似ではない。$R=r$ なら $\eta=R/(2R)=1/2$ が厳密に出る。
観察 2.3 つまり最大電力点では、半分を電源が自分で食っている。内部抵抗が負荷と同じだけ発熱する。「最適」と呼ばれる点が、同時に「半分捨てる」点である。
観察 2.4 山の両側は対称ではない。$R=0.25$ と $R=1.00$ はどちらも $64.0000$ W だが、効率は $33.3333$ と $66.6667$ である。同じ電力なら、大きいほうの $R$ を選ぶのが常に得である。
観察 2.5 この非対称が実務の指針になる。整合点から外すなら、必ず $R$ を大きい側へ外す。電力の損は同じで、効率だけが二倍違う。
3. 効率のほうは端で最大になる
観察 3.1 効率は $R$ とともに単調に上がる。$16.6667$ から $99.0099$ パーセントまで、中間に最大点はない。
観察 3.2 だが効率 $99.0099$ パーセントのところで電力は $2.8233$ W しかない。最大の $72.0000$ W に対して $\mathbf{0.0392}$ 倍、ほとんど何も取り出せていない。
観察 3.3 効率を上げる操作は、電力を減らす操作でもある。$R$ を上げれば電流が減るからである。二つの目的が同じ一つのつまみを反対向きに引いている。
観察 3.4 極限では効率 $100$ パーセントで電力 $0$ になる。$R\to\infty$ で $\eta\to1$、$P_R\to0$、「最も効率のよい使い方は、使わないこと」という退化した答である。
観察 3.5 内部抵抗をゼロにすれば矛盾は消える。$r=0$ なら効率は $R$ によらず $100.0000$ パーセントである。つまり対立の源は $r$ そのものである。式が効いていることの確認になる。
4. 折り合いは十倍あたりにある
計算 4.1:$R=10r$ での両者(本稿で計算)。
| 点 | 効率 [パーセント] | 電力(最大に対する比) |
|---|---|---|
| $R=r$(最大電力) | $50.0000$ | $\mathbf{1.0000}$ |
| $\mathbf{R=10r}$ | $\mathbf{90.9091}$ | $\mathbf{0.3306}$ |
| $R=100r$ | $99.0099$ | $0.0392$ |
観察 4.2 $R=10r$ は効率を $50$ から $90.9091$ へ上げ、電力を $0.3306$ 倍に落とす。効率は $1.82$ 倍になり、電力は三分の一になる。どちらを重く見るかで、この交換の是非が決まる。
観察 4.3 さらに十倍しても効率は $8.1$ ポイントしか上がらない。$90.9091$ から $99.0099$ へ、その代わり電力は $0.3306$ から $0.0392$ へ、八分の一以下に落ちる。得るものが減り、失うものが増える。
観察 4.4 だから実務では $R=10r$ 前後が使われる。電池を電源として使うときの目安である。整合をとるのは、電力そのものが目的の場合(無線の受信など)に限られる。
観察 4.5 正直に言えば、$R=10r$ に何か理論的な特別さがあるわけではない。単調な二つの量の交換点は、重みの付け方で動く。ここで示したのは選択肢の数値であって、答ではない。
5. 分離子:何を最大化するか
観察 5.1 分離子、最大化する対象であって、回路の側は一つも変わらない。
| 最大化するもの | 最適な $R$ | 効率 | 電力 |
|---|---|---|---|
| 負荷の電力 | $\mathbf{R=r}$ | $\mathbf{50.0000}$ | $\mathbf{72.0000}$ W |
| 効率 | $R$ を最大に | $\mathbf{100}$ に漸近 | $\mathbf{0}$ に漸近 |
観察 5.2 同じ電池、同じ内部抵抗、同じ式である。変えたのは「何を最大にするか」だけ、それだけで最適な $R$ が $0.5$ $\Omega$ から無限大へ飛ぶ。
観察 5.3 論文353 との違いはここにある。論文353 では山が一つで、最適が中間にあった。ここでは山と単調増加が同時にあり、最適が二つに割れる。「最適」という語が二つを指す。
観察 5.4 分離子は動かせる。目的関数を $P_R\eta$(電力と効率の積)にすれば、最適は厳密に $R=2r$、つまり $1.0$ $\Omega$ という第三の点になる。何を最大化するかを書かないかぎり、「最適」は決まらない。
観察 5.5 正直に言えば、$72.0000$ W も $99.0099$ パーセントも、$E=12$ V・$r=0.5$ $\Omega$ と明示した条件の上での値である。別の電源なら別の数が出る。動かないのは、最大電力点での効率がちょうど $50$ パーセントであることだけである。これは $E$ にも $r$ にもよらない。
観察 5.6 最後に一つ、「最適化した」という言葉は、目的関数を書かないかぎり内容をもたない。同じ回路が二つの最適解をもち、その二つは $R$ にして百倍離れている。最適化の結果を疑う前に、何を最大化したのかを見るとよい。
6. 点呼と結び
- 最大電力は $R=r=0.50$ $\Omega$ で $72.0000$ W(計算 2.1):山の頂上。
- そこでの効率はちょうど $50$ パーセント(観察 2.2):$E$ にも $r$ にもよらない。
- $R=0.25$ と $R=1.00$ はどちらも $64.0000$ W(観察 2.4):効率は $33.3333$ と $66.6667$。
- 外すなら大きい側(観察 2.5):電力の損は同じで効率は二倍。
- 効率は $99.0099$ パーセントまで単調に上がる(観察 3.1):中間に最大点なし。
- そこでの電力は最大の $0.0392$ 倍(観察 3.2):$2.8233$ W。
- $R\to\infty$ で効率 $100$・電力 $0$(観察 3.4):退化した答。
- $r=0$ なら効率は常に $100.0000$(観察 3.5):対立の源は $r$。
- $R=10r$ で $90.9091$ パーセント・$0.3306$ 倍(計算 4.1):実用の折り合い。
- さらに十倍で効率 $+8.1$ ポイント・電力は八分の一以下(観察 4.3):交換率が悪化する。
結び:整合をとれば最適である、と教わる。だが「何の最適か」を書かないかぎり、その言葉は内容をもたない。起電力 $12$ V・内部抵抗 $0.5$ $\Omega$ の電源で、負荷の電力は $R=r=0.5$ $\Omega$ のとき最大 $\mathbf{72.0000}$ W になる。そしてそのときの効率はちょうど $\mathbf{50}$ パーセントである。近似ではなく、$R=r$ なら $\eta=R/(2R)=1/2$ が厳密に出る。最適と呼ばれる点が、同時に「半分を電源が自分で食う」点である。効率のほうは形が違う。$\eta=R/(R+r)$ は単調増加で、中間に最大点がない。$R=50$ $\Omega$ で効率は $\mathbf{99.0099}$ パーセントに達するが、そこでの電力は $2.8233$ W、最大の $\mathbf{0.0392}$ 倍しかない。極限では効率 $100$ パーセントで電力 $0$ という、「最も効率のよい使い方は使わないこと」という退化した答になる。山の両側は対称ではない。$R=0.25$ と $R=1.00$ はどちらも $64.0000$ W だが、効率は $33.3333$ と $66.6667$ である。だから整合点から外すなら必ず $R$ を大きい側へ外す。電力の損は同じで、効率だけが二倍違う。折り合いは十倍あたりにある。$R=10r$ なら効率 $\mathbf{90.9091}$ パーセント、電力は最大の $\mathbf{0.3306}$ 倍。さらに十倍しても効率は $8.1$ ポイントしか上がらず、電力は八分の一以下に落ちる。得るものが減り、失うものが増える。ただし $R=10r$ に理論的な特別さがあるわけではなく、ここで示したのは選択肢の数値であって答ではない。分けているものは一つ、何を最大化するかであって、回路の側は一つも変わらない。同じ電池、同じ内部抵抗、同じ式で、変えたのは目的だけ。それだけで最適な $R$ が $0.5$ $\Omega$ から無限大へ飛ぶ。内部抵抗をゼロにすれば効率は $R$ によらず $100.0000$ パーセントになるから、対立の源は $r$ そのものである。正直に言えば、$72.0000$ W も $99.0099$ パーセントも $E=12$ V・$r=0.5$ $\Omega$ の上での値であり、別の電源なら別の数が出る。動かないのは、最大電力点での効率がちょうど $50$ パーセントであることだけで、これは $E$ にも $r$ にもよらない。最後に一つ、「最適化した」という言葉は、目的関数を書かないかぎり内容をもたない。同じ回路が二つの最適解をもち、その二つは $R$ にして百倍離れている。最適化の結果を疑う前に、何を最大化したのかを見るとよい。
参考文献
- Jacobi, M. H. (1840). Über die Anwendung der Elektromagnetismus zum Bewegen von Maschinen. Potsdam.
- Thévenin, L. (1883). Sur un nouveau théorème d’électricité dynamique. Comptes Rendus de l’Académie des Sciences.
- Desoer, C. A., Kuh, E. S. (1969). Basic Circuit Theory. New York: McGraw-Hill.
- Horowitz, P., Hill, W. (2015). The Art of Electronics (3rd ed.). Cambridge: Cambridge University Press.
- Harrison, M. J. (2013). Physical collapse of the maximum power transfer theorem. American Journal of Physics.
- 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『本体系は「同期」を四つの意味で使ってきた。閾値をもつのは第五の意味だけである』[論文313]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22174953
- 山岸勇輝 (2026). 『雑音を足すと検出が良くなる場合がある。ただし「多いほどよい」ではない』[論文353]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22696835
- 山岸勇輝 (2026). 『電流は流れているのに、仕事をしていない』[論文356]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697124
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「最大の電力と最大の効率は、同じ点にない」[論文357]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22697180
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 最大の電力と最大の効率は、同じ点にない [論文357]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/357 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22697180
Yamagishi, Y. (2026). Maximum Power and Maximum Efficiency Are Not the Same Point [Paper 357]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/357; DOI: 10.5281/zenodo.22697180
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