【論文357】最大の電力と最大の効率は、同じ点にない

要旨

整合をとれば最適である、と教わる。本稿が問うのは何の最適かである。答えは電力の最適であって、効率の最適ではない。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、起電力 $12$ V・内部抵抗 $0.5$ $\Omega$ のとき、負荷の電力は $R=r=0.5$ $\Omega$ で最大 $\mathbf{72.0000}$ W になる(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。そのときの効率はちょうど $\mathbf{50}$ パーセントである(第2節)。

第三に、効率は $R$ を大きくするほど単調に上がる(第3節)。

第四に、$R=50$ $\Omega$ で効率は $\mathbf{99.0099}$ パーセントだが、電力は最大の $\mathbf{0.0392}$ 倍しかない(第3節)。

第五に、$R=10r$ なら効率 $\mathbf{90.9091}$ パーセントで電力は最大の $\mathbf{0.3306}$ 倍。ここが実用の折り合いである(第4節)。

第六に、分離子は「何を最大化するか」であって、回路の側は一つも変わらない(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。最大電力伝送の定理・内部抵抗・整合はすべて既知である。回路理論を作らない。交流の複素インピーダンス整合や分布定数回路には立ち入らない。名前を挙げるにとどめる。電池を作らない。内部抵抗の電気化学的な起源や、放電に伴う変化は主題ではない。$r$ は定数として扱う。熱を扱わない。内部抵抗での発熱による温度上昇と、それによる $r$ の変化は主題ではない。機器を設計しない。具体的な電源回路の設計指針は与えない。非線形を扱わない。負荷は純抵抗とし、定電力負荷などは主題ではない。既刊との関係:論文353 は最適値が端ではなく中間にあることを示した。そこでは山が一つだった。ここでは山と単調増加が同時にあり、最適が二つに割れる。論文356 は流れている量と働いている量が別であることを示した。そこでも同じ回路で二つの量が分かれた。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「最大電力」と「最大効率」は、その基準で別根である。論文313 は一語が複数の意味で使われていたことを示した。「最適」も同じ形をしている。加えたのは、電力と効率を八点で同時に数に出したこと、最大電力点での効率がちょうど $50$ パーセントであることを示したこと、最大効率点での電力が最大の $0.0392$ 倍であることを示したこと、$R=10r$ を折り合いの点として数で置いたこと、分離子を「何を最大化するか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:起電力 $E=12.0$ V、内部抵抗 $r=0.5$ $\Omega$ の電源に、抵抗 $R$ の負荷をつなぐ。

$$I=\frac{E}{R+r},\qquad P_R=I^2R,\qquad \eta=\frac{R}{R+r}$$

観察 1.1 $R$ を小さくすると電流は増える。だが電圧降下も内部で増える。$P_R=I^2R$ は $R$ が小さすぎても大きすぎても小さくなる。

観察 1.2 効率のほうは形が違う。$\eta=R/(R+r)$ は $R$ について単調増加である。山がない。

観察 1.3 この二つの形の違いが本稿の全部である。一方は山、他方は単調増加、最大値の場所が一致するはずがない。

問い:「最適な負荷」とは何の最適か。

2. 電力と効率を並べる

計算 2.1:負荷抵抗に対する電流・電力・効率(本稿で計算)。

負荷 $R$ [$\Omega$] 電流 [A] 負荷の電力 [W] 効率 [パーセント]
$0.10$ $20.0000$ $40.0000$ $16.6667$
$0.25$ $16.0000$ $64.0000$ $33.3333$
$\mathbf{0.50}$ $12.0000$ $\mathbf{72.0000}$ $\mathbf{50.0000}$
$1.00$ $8.0000$ $64.0000$ $66.6667$
$2.00$ $4.8000$ $46.0800$ $80.0000$
$5.00$ $2.1818$ $23.8017$ $90.9091$
$10.00$ $1.1429$ $13.0612$ $95.2381$
$50.00$ $0.2376$ $2.8233$ $\mathbf{99.0099}$

観察 2.2 これが本稿の芯である。電力が最大の $72.0000$ W になる $R=0.50$ $\Omega$ で、効率はちょうど $\mathbf{50}$ パーセントである。近似ではない。$R=r$ なら $\eta=R/(2R)=1/2$ が厳密に出る。

観察 2.3 つまり最大電力点では、半分を電源が自分で食っている。内部抵抗が負荷と同じだけ発熱する。「最適」と呼ばれる点が、同時に「半分捨てる」点である。

観察 2.4 山の両側は対称ではない。$R=0.25$ と $R=1.00$ はどちらも $64.0000$ W だが、効率は $33.3333$ と $66.6667$ である。同じ電力なら、大きいほうの $R$ を選ぶのが常に得である。

観察 2.5 この非対称が実務の指針になる。整合点から外すなら、必ず $R$ を大きい側へ外す。電力の損は同じで、効率だけが二倍違う。

3. 効率のほうは端で最大になる

観察 3.1 効率は $R$ とともに単調に上がる。$16.6667$ から $99.0099$ パーセントまで、中間に最大点はない。

観察 3.2 だが効率 $99.0099$ パーセントのところで電力は $2.8233$ W しかない。最大の $72.0000$ W に対して $\mathbf{0.0392}$ 倍、ほとんど何も取り出せていない。

観察 3.3 効率を上げる操作は、電力を減らす操作でもある。$R$ を上げれば電流が減るからである。二つの目的が同じ一つのつまみを反対向きに引いている。

観察 3.4 極限では効率 $100$ パーセントで電力 $0$ になる。$R\to\infty$ で $\eta\to1$、$P_R\to0$、「最も効率のよい使い方は、使わないこと」という退化した答である。

観察 3.5 内部抵抗をゼロにすれば矛盾は消える。$r=0$ なら効率は $R$ によらず $100.0000$ パーセントである。つまり対立の源は $r$ そのものである。式が効いていることの確認になる。

4. 折り合いは十倍あたりにある

計算 4.1:$R=10r$ での両者(本稿で計算)。

点 効率 [パーセント] 電力(最大に対する比)
$R=r$(最大電力) $50.0000$ $\mathbf{1.0000}$
$\mathbf{R=10r}$ $\mathbf{90.9091}$ $\mathbf{0.3306}$
$R=100r$ $99.0099$ $0.0392$

観察 4.2 $R=10r$ は効率を $50$ から $90.9091$ へ上げ、電力を $0.3306$ 倍に落とす。効率は $1.82$ 倍になり、電力は三分の一になる。どちらを重く見るかで、この交換の是非が決まる。

観察 4.3 さらに十倍しても効率は $8.1$ ポイントしか上がらない。$90.9091$ から $99.0099$ へ、その代わり電力は $0.3306$ から $0.0392$ へ、八分の一以下に落ちる。得るものが減り、失うものが増える。

観察 4.4 だから実務では $R=10r$ 前後が使われる。電池を電源として使うときの目安である。整合をとるのは、電力そのものが目的の場合(無線の受信など)に限られる。

観察 4.5 正直に言えば、$R=10r$ に何か理論的な特別さがあるわけではない。単調な二つの量の交換点は、重みの付け方で動く。ここで示したのは選択肢の数値であって、答ではない。

5. 分離子:何を最大化するか

観察 5.1 分離子、最大化する対象であって、回路の側は一つも変わらない。

最大化するもの 最適な $R$ 効率 電力
負荷の電力 $\mathbf{R=r}$ $\mathbf{50.0000}$ $\mathbf{72.0000}$ W
効率 $R$ を最大に $\mathbf{100}$ に漸近 $\mathbf{0}$ に漸近

観察 5.2 同じ電池、同じ内部抵抗、同じ式である。変えたのは「何を最大にするか」だけ、それだけで最適な $R$ が $0.5$ $\Omega$ から無限大へ飛ぶ。

観察 5.3 論文353 との違いはここにある。論文353 では山が一つで、最適が中間にあった。ここでは山と単調増加が同時にあり、最適が二つに割れる。「最適」という語が二つを指す。

観察 5.4 分離子は動かせる。目的関数を $P_R\eta$(電力と効率の積)にすれば、最適は厳密に $R=2r$、つまり $1.0$ $\Omega$ という第三の点になる。何を最大化するかを書かないかぎり、「最適」は決まらない。

観察 5.5 正直に言えば、$72.0000$ W も $99.0099$ パーセントも、$E=12$ V・$r=0.5$ $\Omega$ と明示した条件の上での値である。別の電源なら別の数が出る。動かないのは、最大電力点での効率がちょうど $50$ パーセントであることだけである。これは $E$ にも $r$ にもよらない。

観察 5.6 最後に一つ、「最適化した」という言葉は、目的関数を書かないかぎり内容をもたない。同じ回路が二つの最適解をもち、その二つは $R$ にして百倍離れている。最適化の結果を疑う前に、何を最大化したのかを見るとよい。

6. 点呼と結び

  1. 最大電力は $R=r=0.50$ $\Omega$ で $72.0000$ W(計算 2.1):山の頂上。
  2. そこでの効率はちょうど $50$ パーセント(観察 2.2):$E$ にも $r$ にもよらない。
  3. $R=0.25$ と $R=1.00$ はどちらも $64.0000$ W(観察 2.4):効率は $33.3333$ と $66.6667$。
  4. 外すなら大きい側(観察 2.5):電力の損は同じで効率は二倍。
  5. 効率は $99.0099$ パーセントまで単調に上がる(観察 3.1):中間に最大点なし。
  6. そこでの電力は最大の $0.0392$ 倍(観察 3.2):$2.8233$ W。
  7. $R\to\infty$ で効率 $100$・電力 $0$(観察 3.4):退化した答。
  8. $r=0$ なら効率は常に $100.0000$(観察 3.5):対立の源は $r$。
  9. $R=10r$ で $90.9091$ パーセント・$0.3306$ 倍(計算 4.1):実用の折り合い。
  10. さらに十倍で効率 $+8.1$ ポイント・電力は八分の一以下(観察 4.3):交換率が悪化する。

結び:整合をとれば最適である、と教わる。だが「何の最適か」を書かないかぎり、その言葉は内容をもたない。起電力 $12$ V・内部抵抗 $0.5$ $\Omega$ の電源で、負荷の電力は $R=r=0.5$ $\Omega$ のとき最大 $\mathbf{72.0000}$ W になる。そしてそのときの効率はちょうど $\mathbf{50}$ パーセントである。近似ではなく、$R=r$ なら $\eta=R/(2R)=1/2$ が厳密に出る。最適と呼ばれる点が、同時に「半分を電源が自分で食う」点である。効率のほうは形が違う。$\eta=R/(R+r)$ は単調増加で、中間に最大点がない。$R=50$ $\Omega$ で効率は $\mathbf{99.0099}$ パーセントに達するが、そこでの電力は $2.8233$ W、最大の $\mathbf{0.0392}$ 倍しかない。極限では効率 $100$ パーセントで電力 $0$ という、「最も効率のよい使い方は使わないこと」という退化した答になる。山の両側は対称ではない。$R=0.25$ と $R=1.00$ はどちらも $64.0000$ W だが、効率は $33.3333$ と $66.6667$ である。だから整合点から外すなら必ず $R$ を大きい側へ外す。電力の損は同じで、効率だけが二倍違う。折り合いは十倍あたりにある。$R=10r$ なら効率 $\mathbf{90.9091}$ パーセント、電力は最大の $\mathbf{0.3306}$ 倍。さらに十倍しても効率は $8.1$ ポイントしか上がらず、電力は八分の一以下に落ちる。得るものが減り、失うものが増える。ただし $R=10r$ に理論的な特別さがあるわけではなく、ここで示したのは選択肢の数値であって答ではない。分けているものは一つ、何を最大化するかであって、回路の側は一つも変わらない。同じ電池、同じ内部抵抗、同じ式で、変えたのは目的だけ。それだけで最適な $R$ が $0.5$ $\Omega$ から無限大へ飛ぶ。内部抵抗をゼロにすれば効率は $R$ によらず $100.0000$ パーセントになるから、対立の源は $r$ そのものである。正直に言えば、$72.0000$ W も $99.0099$ パーセントも $E=12$ V・$r=0.5$ $\Omega$ の上での値であり、別の電源なら別の数が出る。動かないのは、最大電力点での効率がちょうど $50$ パーセントであることだけで、これは $E$ にも $r$ にもよらない。最後に一つ、「最適化した」という言葉は、目的関数を書かないかぎり内容をもたない。同じ回路が二つの最適解をもち、その二つは $R$ にして百倍離れている。最適化の結果を疑う前に、何を最大化したのかを見るとよい。

参考文献

  1. Jacobi, M. H. (1840). Über die Anwendung der Elektromagnetismus zum Bewegen von Maschinen. Potsdam.
  2. Thévenin, L. (1883). Sur un nouveau théorème d’électricité dynamique. Comptes Rendus de l’Académie des Sciences.
  3. Desoer, C. A., Kuh, E. S. (1969). Basic Circuit Theory. New York: McGraw-Hill.
  4. Horowitz, P., Hill, W. (2015). The Art of Electronics (3rd ed.). Cambridge: Cambridge University Press.
  5. Harrison, M. J. (2013). Physical collapse of the maximum power transfer theorem. American Journal of Physics.
  6. 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 『本体系は「同期」を四つの意味で使ってきた。閾値をもつのは第五の意味だけである』[論文313]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22174953
  8. 山岸勇輝 (2026). 『雑音を足すと検出が良くなる場合がある。ただし「多いほどよい」ではない』[論文353]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22696835
  9. 山岸勇輝 (2026). 『電流は流れているのに、仕事をしていない』[論文356]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697124

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「最大の電力と最大の効率は、同じ点にない」[論文357]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22697180

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 最大の電力と最大の効率は、同じ点にない [論文357]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/357 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22697180

Yamagishi, Y. (2026). Maximum Power and Maximum Efficiency Are Not the Same Point [Paper 357]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/357; DOI: 10.5281/zenodo.22697180

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