【論文384】「自由空間損失」は損失ではない

要旨

電波は距離が伸びると「損失」を受ける、と説明される。本稿が問うのは何が失われているのかである。答えは何も失われておらず、失われたように見えるのは受信側の都合である。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、自由空間損失は $1$ km・$1$ GHz で $\mathbf{92.4478}$ dB である(第2節)。

第二に、距離を二倍にすると $\mathbf{6.0206}$ dB 増える。これは $20\log_{10}2$ である(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。周波数を二倍にしても、まったく同じ $\mathbf{6.0206}$ dB 増える(第2節)。

第四に、だが真空は周波数によらず何も吸収しない。放射の電力密度は周波数に依存しない(第3節)。

第五に、周波数の項は、等方性アンテナの実効面積が $\lambda^2/(4\pi)$ であることから出る。$10$ GHz では $\mathbf{100}$ 分の $1$ になる(第3節)。

第六に、分離子は「媒質が吸うか、受信面が小さいか」であって、どちらも同じ dB で書ける(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。フリスの伝達公式・自由空間損失・実効面積はすべて既知である。電磁気学を作らない。アンテナの放射抵抗や指向性の理論には立ち入らない。名前を挙げるにとどめる。大気を扱わない。降雨減衰・水蒸気吸収・電離層は主題ではない。真空中の伝搬だけを計算する。アンテナを設計しない。開口面アンテナの利得と面積の関係は使うが、設計法は与えない。雑音を扱わない。受信機雑音や $G/T$ は主題ではない。多重路を扱わない。反射・回折・散乱は主題ではない。既刊との関係:論文356 は電流が流れていても仕事をしないことを示した。そこでも「損失」という語が二つを指していた。論文343 は穴の大きさが応力集中に入らないことを示した。ここでは周波数が空間には入らない。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。媒質による吸収と幾何による希薄化は、その基準で別根である。論文379 は目盛が比を決めることを示した。ここでは基準アンテナが「損失」を決める。加えたのは、六つの条件で損失を数に出したこと、距離と周波数がまったく同じ $6.0206$ dB を与えることを示したこと、周波数の項が実効面積の $\lambda^2$ から出ることを面積の比で確かめたこと、静止衛星の $205.1575$ dB を出したこと、分離子を「媒質か受信面か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:等方性アンテナ間の自由空間損失を dB で書く。

$$L_{\text{dB}}=20\log_{10}d+20\log_{10}f+20\log_{10}\frac{4\pi}{c}$$

$d$ は距離 [m]、$f$ は周波数 [Hz]、$c$ は光速である。

観察 1.1 式に距離と周波数が同じ形で入っている。どちらも $20\log_{10}$、二倍にすれば同じだけ増える。

観察 1.2 だが二つの由来は違う。距離は球面に広がるから、周波数は……、周波数のほうには、真空の側に理由が無い。

観察 1.3 真空は何も吸収しない。どの周波数でも透明である。では周波数の項はどこから来るのか。本稿はそれを数で示す。

問い:「自由空間損失」で、何が失われているのか。

2. 距離と周波数が、同じ $6.0206$ dB を与える

計算 2.1:条件に対する自由空間損失(本稿で計算)。

距離 [km] 周波数 [GHz] 損失 [dB]
$\mathbf{1}$ $\mathbf{1}$ $\mathbf{92.4478}$
$2$ $1$ $98.4684$
$1$ $2$ $98.4684$
$10$ $1$ $112.4478$
$1$ $10$ $112.4478$
$\mathbf{36000}$ $\mathbf{12}$ $\mathbf{205.1575}$

観察 2.2 これが本稿の芯である。二行目と三行目が、小数点以下まで同じ $98.4684$ dB である。距離を二倍にしても、周波数を二倍にしても、増える量が同じ $6.0206$ dB になる。

観察 2.3 $6.0206$ は $20\log_{10}2$ である。偶然の一致ではない。式の中で両者が同じ係数をもつからである。

観察 2.4 十倍でも同じことが起きる。四行目と五行目がともに $112.4478$ dB、距離を十倍にするのと、周波数を十倍にするのが、同じ効果をもつ。

観察 2.5 $1$ km・$1$ GHz の $92.4478$ dB は通説と一致する。独立に知られた値、式も定数も外していない。

観察 2.6 静止衛星では $205.1575$ dB になる。$36000$ km・$12$ GHz、$10^{20.5}$ 分の $1$、つまり $3\times10^{20}$ 分の $1$ に薄まる。

3. 周波数の項は、受信面から来ている

計算 3.1:等方性アンテナの実効面積(本稿で計算)。

周波数 波長 [m] 実効面積 $\lambda^2/(4\pi)$ [m$^2$]
$1$ GHz $0.299792$ $7.152066\times10^{-3}$
$10$ GHz $0.029979$ $7.152066\times10^{-5}$
比 、 $\mathbf{0.01}$(ちょうど $100$ 分の $1$)

観察 3.2 面積の比がちょうど $100$ 分の $1$ である。周波数十倍で $\lambda$ が十分の一、面積は $\lambda^2$、$-10\log_{10}(0.01)=20$ dB で、計算 2.1 の周波数の項と厳密に一致する。

観察 3.3 つまり周波数の項の出所が特定された。空間ではなく、受信アンテナである。同じ場所に届いている電力密度は、周波数によらない。

観察 3.4 距離の項だけが本当の希薄化である。球面に広がるので $1/d^2$、こちらは受信機を変えても消えない。

観察 3.5 だから周波数の項は消せる。開口面が一定のアンテナ(パラボラなど)を使えばよい。そのとき高い周波数のほうがむしろ有利になる。等方性アンテナを基準に取っていることが、$f^2$ を生んでいる。

観察 3.6 論文379 と同じ形である。論文379 では目盛が比を決めた。ここでは基準アンテナが「損失」を決める。どちらも、測る側の約束が数を作っている。

4. 同じ dB が、二つの物理を書いている

観察 4.1 本当の吸収も dB で書ける。降雨減衰や水蒸気吸収、こちらはエネルギーが熱になって消えている。

観察 4.2 自由空間損失では、エネルギーは消えていない。広がっただけである。全球面で積分すれば、送信電力がそのまま残っている。

観察 4.3 二つは同じ単位で書かれ、足し算もできる。リンクバジェットではそうする。だから区別がつかなくなる。

観察 4.4 区別は、受信機を変えたときに出る。吸収は受信機を大きくしても減らない。自由空間損失の周波数の項は、開口を固定すれば消える。

観察 4.5 論文300 の基準で別根である。吸収は媒質が、希薄化は幾何が、周波数の項は基準アンテナが決める。三つとも「損失 dB」と呼ばれるが、根が三つある。

5. 分離子:媒質が吸うか、受信面が小さいか

観察 5.1 分離子、エネルギーが熱になったか、広がったか、受け止める面が小さいか。

項 何が起きているか 由来 受信機を変えると
距離 $20\log d$ 球面に広がる 幾何 消えない
周波数 $20\log f$ 何も起きていない 基準アンテナ 消える
吸収(別項) 熱になる 媒質 消えない

観察 5.2 二行目だけが「何も起きていない」である。電波の側には何の変化も無い。それでも同じ dB で書かれ、同じ式に足される。

観察 5.3 右端の列が判定になる。受信機を変えて消えるかどうか、消える項は、媒質の性質ではない。

観察 5.4 分離子は動かせる。開口面積一定のアンテナに変えれば、周波数の項が消えるどころか符号が変わる。高い周波数のほうが有利になる。衛星通信が高い周波数を使う理由の一つである。

観察 5.5 正直に言えば、$92.4478$ dB も $205.1575$ dB も、等方性アンテナを基準にした値である。実際のリンクでは利得を足す。動かないのは、真空が何も吸収しないという事実だけである。

観察 5.6 最後に一つ、「損失」という語は、何が失われたかを言っていない。同じ dB が、熱になった分と、広がった分と、受け止め損ねた分を並べている。足し算ができることは、同じ種類であることを意味しない。

6. 点呼と結び

  1. $1$ km・$1$ GHz で $92.4478$ dB(計算 2.1):通説と一致。
  2. 距離二倍で $6.0206$ dB(観察 2.2):$20\log_{10}2$。
  3. 周波数二倍でも同じ $6.0206$ dB(観察 2.2):小数点以下まで同じ。
  4. 十倍でも同じ $112.4478$ dB(観察 2.4):同じ効果。
  5. 静止衛星で $205.1575$ dB(計算 2.1):$3\times10^{20}$ 分の $1$。
  6. 実効面積は $\lambda^2/(4\pi)$(計算 3.1):$1$ GHz で $7.152066\times10^{-3}$ m$^2$。
  7. 十倍でちょうど $100$ 分の $1$(観察 3.2):周波数の項と厳密に一致。
  8. 電力密度は周波数によらない(観察 3.3):空間は関係ない。
  9. 開口を固定すれば周波数の項が消える(観察 3.5):むしろ有利になる。
  10. 足し算ができても同種ではない(観察 5.6):根が三つある。

結び:電波は距離が伸びると「損失」を受ける、と説明される。だが真空は何も吸収していない。式には距離と周波数が同じ形で入っている。$L_{\text{dB}}=20\log_{10}d+20\log_{10}f+20\log_{10}(4\pi/c)$ で、$1$ km・$1$ GHz なら $\mathbf{92.4478}$ dB(通説と一致する)。距離を二倍にすると $\mathbf{6.0206}$ dB 増え、周波数を二倍にしても、小数点以下までまったく同じ $\mathbf{6.0206}$ dB 増える。$6.0206$ は $20\log_{10}2$ で、偶然ではなく、式の中で両者が同じ係数をもつからである。だが、周波数のほうには真空の側に理由が無い。真空はどの周波数でも透明で、同じ場所に届いている電力密度は周波数によらない。周波数の項は、等方性アンテナの実効面積が $\lambda^2/(4\pi)$ であることから出ている。$1$ GHz で $7.152066\times10^{-3}$ m$^2$、$10$ GHz で $7.152066\times10^{-5}$ m$^2$、ちょうど $\mathbf{100}$ 分の $1$ で、$-10\log_{10}(0.01)=20$ dB は計算 2.1 の周波数の項と厳密に一致する。出所は空間ではなく、受信アンテナである。だから周波数の項は消せる。開口面積が一定のアンテナ(パラボラなど)を使えばよく、そのとき高い周波数のほうがむしろ有利になる。$f^2$ を生んでいるのは、等方性アンテナを基準に取ったという約束である。論文379 で目盛が比を決めたのと同じ形で、測る側の約束が数を作っている。一方、距離の項は本当の希薄化である。球面に広がるので $1/d^2$ であり、受信機を変えても消えない。ただしエネルギーは消えておらず、全球面で積分すれば送信電力がそのまま残っている。分けているものは一つ、エネルギーが熱になったか、広がったか、受け止める面が小さいか。周波数の項だけが「電波の側には何の変化も起きていない」項でありながら、同じ dB で書かれ、同じ式に足される。判定は受信機を変えて消えるかどうかで、消える項は媒質の性質ではない。論文300 の基準で三つとも別根であって、吸収は媒質が、希薄化は幾何が、周波数の項は基準アンテナが決める。正直に言えば、$92.4478$ dB も $205.1575$ dB も等方性アンテナを基準にした値であり、実際のリンクでは利得を足す。動かないのは、真空が何も吸収しないという事実だけである。最後に一つ、「損失」という語は、何が失われたかを言っていない。同じ dB が、熱になった分と、広がった分と、受け止め損ねた分を並べている。足し算ができることは、同じ種類であることを意味しない。

参考文献

  1. Friis, H. T. (1946). A Note on a Simple Transmission Formula. Proceedings of the IRE.
  2. Balanis, C. A. (2016). Antenna Theory: Analysis and Design (4th ed.). Hoboken: Wiley.
  3. Shaw, J. A. (2013). Radiometry and the Friis transmission equation. American Journal of Physics.
  4. Kraus, J. D., Marhefka, R. J. (2002). Antennas for All Applications (3rd ed.). New York: McGraw-Hill.
  5. ITU-R (2019). Calculation of free-space attenuation, Recommendation ITU-R P.525-4.
  6. 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 『穴の大きさは、応力集中に入っていない』[論文343]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682218
  8. 山岸勇輝 (2026). 『電流は流れているのに、仕事をしていない』[論文356]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697124
  9. 山岸勇輝 (2026). 『「二倍の温度」には三つの答があり、比が 2 になるのは一つだけである』[論文379]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22698802

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「自由空間損失」は損失ではない」[論文384]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699073

YOI 384第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「自由空間損失」は損失ではない:真空は何も吸収していない [論文384]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/384 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699073

Yamagishi, Y. (2026). “Free-Space Loss” Is Not a Loss: The Vacuum Absorbs Nothing [Paper 384]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/384; DOI: 10.5281/zenodo.22699073

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