【論文392】沸点は物質の性質ではない

要旨

「水の沸点は $100$ 度」は、物質の表に載っている数である。本稿が示すのはそれが一つの規約の下でだけ成り立つことである。水を一切変えずに、沸点を $50.2932$ 度動かせる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、アントワン式で $1$ 気圧の沸点を計算すると $\mathbf{99.9968}$ 度になる(第2節)。

第二に、富士山頂で $\mathbf{87.5727}$ 度、エベレストで $\mathbf{70.2315}$ 度、圧力鍋で $\mathbf{120.5247}$ 度である(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。幅は $\mathbf{50.2932}$ 度ある。水は一度も変わっていない(第2節)。

第四に、$6.2599$ kPa まで下げれば、体温 $37$ 度で沸く(第3節)。

第五に、三重点 $611.657$ Pa より下では、沸騰という現象そのものが存在しない(第3節)。

第六に、分離子は「物質だけで決まるか、物質と環境の対で決まるか」である(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。蒸気圧曲線、アントワン式、クラウジウス・クラペイロンの関係、三重点はすべて既知である。熱力学を作らない。相平衡の理論には立ち入らない。一つの経験式で数を出すだけである。アントワン式の精度を主張しない。定数は $1$〜$100$ 度の範囲に合わせられている。$120$ 度は外挿であり、小数第一位までを保証しない。高度と気圧の関係を作らない。標高に対応する気圧は標準大気の代表値を用いる。実際の気圧は天候で動く。過熱を扱わない。核生成が無いと液体は沸点を超える。本稿は平衡だけを見る。混合物を扱わない。溶質による沸点上昇や共沸は主題ではない。純水だけを見る。既刊との関係:論文379 は「二倍の温度」に三つの答があることを示した。ここでは一つの「沸点」が圧力ごとに違う。論文386 は溶解度が物質と溶媒と温度で決まることを示した。ここでは沸点が物質と圧力で決まる。論文384 は自由空間損失の周波数の項が受信側から出ることを示した。どちらも、物の性質だと思われていた量が対の性質だった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。融点と沸点は、その基準で別根である。加えたのは、四つの圧力で沸点を数に出したこと、幅が $50.2932$ 度になることを示したこと、体温で沸く圧力 $6.2599$ kPa を出したこと、三重点より下では沸騰が存在しないことを境目として示したこと、分離子を「物質か、物質と環境の対か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:沸騰は、液体の蒸気圧が周囲の圧力に等しくなったときに起きる。水の蒸気圧をアントワン式で書く。

$$\log_{10}P=A-\frac{B}{C+T},\qquad A=8.07131,\ B=1730.63,\ C=233.426$$

$P$ は mmHg、$T$ は摂氏である。沸点は $T=B/(A-\log_{10}P)-C$ で求まる。

観察 1.1 式に周囲の圧力が入っている。沸点は $P$ の関数、$P$ を決めなければ、沸点という数は決まらない。

観察 1.2 $A$・$B$・$C$ が物質の側である。水を変えればこの三つが変わる。$P$ は水の側ではない。

観察 1.3 つまり沸点は、二つのものの対に付く数である。物質と、環境、片方だけでは決まらない。

問い:「水の沸点は $100$ 度」は、何についての言明か。

2. 同じ水が、$70$ 度でも $120$ 度でも沸く

計算 2.1:圧力に対する水の沸点(本稿で計算)。

場所 圧力 [mmHg] 沸点 [度]
エベレスト $8848$ m($314$ hPa) $235.52$ $\mathbf{70.2315}$
富士山頂 $3776$ m($638$ hPa) $478.54$ $\mathbf{87.5727}$
海面($1$ 気圧) $760.00$ $\mathbf{99.9968}$
圧力鍋($2$ 気圧) $1520.00$ $\mathbf{120.5247}$
幅 、 $\mathbf{50.2932}$

観察 2.2 これが本稿の芯である。上端と下端で $50.2932$ 度違う。四行とも純水であり、水の側は一つも変わっていない。

観察 2.3 $1$ 気圧の $99.9968$ 度は通説と一致した。独立に知られた $100$ 度、式も定数も外していない。

観察 2.4 逆算も通る。$100$ 度の蒸気圧を計算すると $760.0864$ mmHg、往復して元に戻る。

観察 2.5 エベレストの $70.2315$ 度では、卵が茹だらない。蛋白質の変性温度に届かない。「沸いている」ことと「熱い」ことは別である。

観察 2.6 圧力鍋は $120.5247$ 度で、これが調理を速くしている。沸かす力ではなく、沸点そのものを上げている。火を強くしても $1$ 気圧では $100$ 度を超えない。

3. 体温で沸き、三重点より下では沸かない

計算 3.1:二つの極(本稿で計算)。

条件 値
体温 $37$ 度で沸く圧力 $\mathbf{46.9533}$ mmHg $=\mathbf{6.2599}$ kPa
三重点の圧力 $611.657$ Pa $=4.587804$ mmHg
その圧力での沸点 $\mathbf{0.1366}$ 度
それより下 液体が存在せず、沸騰という現象が無い

観察 3.2 $6.2599$ kPa は、地球の大気の約 $16$ 分の $1$ である。高高度では実際にこの圧力になる。与圧しなければ、体内の水が体温で沸く。

観察 3.3 三重点では沸点と融点が出会う。$0.1366$ 度、二つの曲線が一点で交わる。

観察 3.4 それより下では、氷が直接気体になる。昇華、「沸点」を問うこと自体ができなくなる。

観察 3.5 つまり沸点は、ある圧力より下では未定義である。値が変わるのではなく、無い。物質の表に一つの数として載る量ではない。

観察 3.6 火星の平均気圧は約 $610$ Pa で、三重点のすぐ下である。偶然この境目の近く。液体の水が安定に存在できるかどうかが、この一点で分かれている。

4. 融点は動きにくく、沸点は動きやすい

観察 4.1 融点も圧力で動く。ただし桁が違う。$1$ 気圧の変化で融点は $0.0075$ 度ほどしか動かない。

観察 4.2 差は体積変化の大きさから来る。クラペイロンの式で $dT/dP=T\Delta V/\Delta H$、気化では体積が千倍以上変わり、融解ではほとんど変わらない。

観察 4.3 だから「融点」は物質の表に載せてよい。実用上は物質の性質、「沸点」は載せると誤解を生む。

観察 4.4 論文300 の基準で別根である。融点は結晶の結合が、沸点は蒸気圧と外圧の釣り合いが決める。どちらも「相が変わる温度」だが、根が違う。

観察 4.5 論文386 と同じ形である。論文386 では溶解度が物質と溶媒と温度の組で決まった。ここでは沸点が物質と圧力の組で決まる。どちらも、一つの物の性質ではない。

5. 分離子:物質だけで決まるか、対で決まるか

観察 5.1 分離子、環境を変えて数が動くか、動かないか。

量 決めるもの $1$ 気圧変えると 表に載せてよいか
沸点 物質+圧力 約 $20$ 度動く 条件を書けば
融点 物質+圧力 約 $0.0075$ 度 実用上よい
分子量 物質だけ 動かない よい

観察 5.2 三行目だけが本当に物質の性質である。上二つは対の性質、同じ表に並べると、区別が消える。

観察 5.3 区別は程度の問題ではない。融点も対の性質である。動きが小さいから見えないだけで、種類は沸点と同じである。

観察 5.4 これは検証できる分離子である。圧力を変えて測るだけ、動けば対の性質である。

観察 5.5 正直に言えば、$120.5247$ 度はアントワン式の外挿である。定数は $1$〜$100$ 度に合わせられている。動かないのは、沸点が圧力の関数であることと、三重点より下では未定義になることである。

観察 5.6 最後に一つ、「$100$ 度」という数は、$1$ 気圧という約束を省略した書き方である。省略が長く続くと、約束のほうが忘れられる。そして忘れられた約束は、山の上で初めて思い出される。

6. 点呼と結び

  1. 沸点は $P$ の関数(第1節):$P$ を決めなければ決まらない。
  2. $1$ 気圧で $99.9968$ 度(計算 2.1):通説と一致。
  3. エベレストで $70.2315$ 度(計算 2.1):卵が茹だらない。
  4. 圧力鍋で $120.5247$ 度(計算 2.1):沸点そのものを上げている。
  5. 幅は $50.2932$ 度(計算 2.1):水は変わっていない。
  6. $6.2599$ kPa で体温で沸く(計算 3.1):大気の $16$ 分の $1$。
  7. 三重点で $0.1366$ 度(計算 3.1):沸点と融点が出会う。
  8. それより下では未定義(観察 3.5):値が無い。
  9. 融点は $0.0075$ 度しか動かない(観察 4.1):体積変化の差。
  10. 融点も対の性質(観察 5.3):程度の問題ではない。

結び:「水の沸点は $100$ 度」は物質の表に載っている数である。だがそれは、一つの規約の下でだけ成り立つ。沸騰は蒸気圧が周囲の圧力に等しくなったときに起きる。アントワン式 $\log_{10}P=A-B/(C+T)$ で、$A$・$B$・$C$ が物質の側、$P$ は物質の側ではない。沸点は二つのものの対に付く数であり、片方だけでは決まらない。同じ水が、$70$ 度でも $120$ 度でも沸く。エベレスト($314$ hPa)で $\mathbf{70.2315}$ 度、富士山頂($638$ hPa)で $\mathbf{87.5727}$ 度、海面で $\mathbf{99.9968}$ 度、圧力鍋($2$ 気圧)で $\mathbf{120.5247}$ 度、幅は $\mathbf{50.2932}$ 度。四行とも純水であり、水の側は一つも変わっていない。$1$ 気圧の $99.9968$ 度は通説の $100$ 度と一致し、逆に $100$ 度の蒸気圧を計算すると $760.0864$ mmHg で往復して戻る。エベレストの $70.2315$ 度では蛋白質の変性温度に届かず卵が茹だらない。「沸いている」ことと「熱い」ことは別である。逆に圧力鍋が調理を速くするのは、火を強くしているのではなく沸点そのものを上げているからである。下げれば体温で沸き、もっと下げれば沸騰そのものが無くなる。$\mathbf{6.2599}$ kPa($46.9533$ mmHg)まで下げれば $37$ 度で沸く。これは地球の大気の約 $16$ 分の $1$ で、与圧しなければ体内の水が体温で沸く。三重点 $611.657$ Pa では沸点が $\mathbf{0.1366}$ 度で融点と出会い、それより下では氷が直接気体になって、「沸点」を問うこと自体ができなくなる。つまり沸点は、ある圧力より下では値が変わるのではなく、無い。火星の平均気圧は約 $610$ Pa で三重点のすぐ下、液体の水が安定に存在できるかどうかが、この一点で分かれている。融点も同じ対の性質だが、動きが桁で小さい。$1$ 気圧の変化で融点は $0.0075$ 度ほどしか動かない。差はクラペイロンの式 $dT/dP=T\Delta V/\Delta H$ の体積変化から来ており、気化では体積が千倍以上変わり、融解ではほとんど変わらない。だから「融点」は物質の表に載せてよく、「沸点」は載せると誤解を生む。論文300 の基準で別根であり、融点は結晶の結合が、沸点は蒸気圧と外圧の釣り合いが決める。分けているものは一つ、環境を変えて数が動くか、動かないか。分子量だけが本当に物質の性質で、沸点も融点も対の性質である。区別は程度の問題ではない。融点は動きが小さいから見えないだけで、種類は沸点と同じである。判定は圧力を変えて測るだけで、動けば対の性質である。正直に言えば、$120.5247$ 度はアントワン式の外挿で、定数は $1$〜$100$ 度に合わせられている。動かないのは、沸点が圧力の関数であることと、三重点より下では未定義になることである。最後に一つ、「$100$ 度」という数は、$1$ 気圧という約束を省略した書き方である。省略が長く続くと、約束のほうが忘れられる。そして忘れられた約束は、山の上で初めて思い出される。

参考文献

  1. Antoine, C. (1888). Tensions des vapeurs: nouvelle relation entre les tensions et les températures. Comptes Rendus des Séances de l’Académie des Sciences.
  2. Wagner, W., Pruß, A. (2002). The IAPWS Formulation 1995 for the Thermodynamic Properties of Ordinary Water Substance. Journal of Physical and Chemical Reference Data.
  3. Atkins, P., de Paula, J. (2014). Atkins’ Physical Chemistry (10th ed.). Oxford: Oxford University Press.
  4. Guildner, L. A., Johnson, D. P., Jones, F. E. (1976). Vapor Pressure of Water at Its Triple Point. Journal of Research of the National Bureau of Standards, 80A(3).
  5. 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『「二倍の温度」には三つの答があり、比が 2 になるのは一つだけである』[論文379]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22698802
  7. 山岸勇輝 (2026). 『「自由空間損失」は損失ではない。真空は何も吸収していない』[論文384]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699073
  8. 山岸勇輝 (2026). 『溶解度は一つも動いていないのに、溶ける速さが 1000 倍になる』[論文386]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699119

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「沸点は物質の性質ではない」[論文392]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699237

YOI 392第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 沸点は物質の性質ではない:物質と圧力の、対の性質である [論文392]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/392 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699237

Yamagishi, Y. (2026). The Boiling Point Is Not a Property of the Substance, but of the Substance and the Pressure Together [Paper 392]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/392; DOI: 10.5281/zenodo.22699237

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