【論文414】同じ「一刻」が、季節で 1.5 倍変わる

要旨

江戸時代の時法は「不正確だった」と言われる。本稿が示すのは、不正確だったのではないことである。一刻の長さが季節で $\mathbf{1.505312}$ 倍変わるのは、誤差ではなく定義である。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、これが本稿の芯である。江戸の緯度 $35.7$ 度では、夏至の昼の一刻が $\mathbf{144.2036}$ 分、冬至の昼の一刻が $\mathbf{95.7964}$ 分である(第2節)。

第二に、その比は $\mathbf{1.505312}$ であり、別式 $\text{昼}/(24-\text{昼})$ と完全に一致する(第2節)。

第三に、春分・秋分では昼がちょうど $12.000000000$ 時間、一刻がちょうど $120.000000000$ 分になる(第2節)。

第四に、夏至の昼の一刻 $144.2036$ 分は、冬至の夜の一刻と厳密に一致する(第3節)。

第五に、赤道では比がちょうど $1$ になり、緯度 $60$ 度では夏至の昼が $\mathbf{18.4898}$ 時間まで伸びる(第3節)。

第六に、分離子は「何を等分するか」である。空を等分するか、振り子を等分するかで別の時間が出る(第4節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。日の出方程式、不定時法の仕組みはどちらも既知である。歴史を論じない。和時計の機構、改暦の経緯、地域差は主題ではない。どちらの時法が優れているかを論じない。定時法が「進歩」だとは言わない。何を等分するかの選択である。大気差と太陽の視半径を入れない。幾何だけで計算しており、実際の日の出はこれより約 $7$ 分早い。比への影響は小さいが、昼の長さそのものは動く。均時差を入れない。真太陽時と平均太陽時の差は主題ではない。緯度を一つに固定する。江戸の $35.7$ 度を代表値として使い、日本各地の差は扱わない。既刊との関係:論文412 は「一番近い」が距離を決めるまで決まらないことを示した。ここでは「一時間」が何を等分するかを決めるまで決まらない。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「不定時法の一刻」と「定時法の一時間」は、その基準で別根である。論文403 は温度の順序が熱さの順序ではないことを示した。ここでも、同じ名前の目盛りが同じ量を指していない。論文411 は保存量が変換の側から定義されることを示した。ここでは時間の単位が、日の出と日の入りという二つの出来事の側から定義される。加えたのは、三つの季節で一刻の長さを分に出したこと、比を別式と一致させたこと、春秋分をちょうど $12$ 時間・$120$ 分として自己検査に使ったこと、夏の昼と冬の夜が厳密に一致することを示したこと、赤道と緯度 $60$ 度を境目の両側に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:不定時法では、日の出から日の入りまでを $6$ 等分して昼の一刻とし、日の入りから日の出までを $6$ 等分して夜の一刻とする。 昼の長さは日の出方程式から出る。

$$\cos\omega_0=-\tan\varphi\,\tan\delta,\qquad
\text{昼}=\frac{2\omega_0}{15}\ \text{時間}$$

緯度 $\varphi=35.7$ 度(江戸)、黄道傾斜 $\delta=\pm23.44$ 度とする。

観察 1.1 定時法では一時間は常に同じ長さである。一日を $24$ 等分する。基準は地球の自転である。

観察 1.2 不定時法では昼と夜を別々に等分する。基準は日の出と日の入りである。そして昼の長さは季節で変わる。

問い:どれだけ変わるのか。

2. 一刻は 95.7964 分から 144.2036 分まで動く

計算 2.1:三つの季節で昼の長さと一刻を出す。

季節 昼の長さ 昼の一刻 夜の一刻
夏至 $14.4204$ 時間 $144.2036$ 分 $95.7964$ 分
春分・秋分 $12.0000$ 時間 $120.0000$ 分 $120.0000$ 分
冬至 $9.5796$ 時間 $95.7964$ 分 $144.2036$ 分

観察 2.2 春分・秋分がちょうど $12.000000000$ 時間、一刻がちょうど $120.000000000$ 分になる。$\delta=0$ なら $\cos\omega_0=0$ だからである。計算が正しく実装されていることを、この切りのいい数が示す。

観察 2.3 夏至の昼の一刻は $\mathbf{144.2036}$ 分である。定時法の一時間より $24$ 分以上長い。同じ「一刻」という名前で呼ばれている。

計算 2.4:夏と冬の昼の一刻の比を出す。

$\mathbf{1.505312}$ である。昼と夜を合わせて $24$ 時間なので、この比は $\text{昼}/(24-\text{昼})$ とも書ける。別式で計算しても同じ値になる。

観察 2.5 夏の昼の一刻は、冬の昼の一刻の $\mathbf{1.5}$ 倍を超える。同じ「一刻働く」でも、季節で $50$ パーセント以上違う。これは誤差ではない。定義どおりの値である。

3. 対称性と、緯度による違い

観察 3.1 夏至の昼と冬至の昼を足すと、ちょうど $24.000000000$ 時間になる。$\delta$ と $-\delta$ が対称だからである。これも計算の自己検査になっている。

観察 3.2 夏至の昼の一刻と、冬至の夜の一刻が厳密に一致する。どちらも $\mathbf{144.2036}$ 分である。同じ対称性から出る。

計算 3.3:緯度を動かす。

赤道(緯度 $0$)では夏冬の比がちょうど $\mathbf{1}$ になる。$\tan0=0$ なので $\cos\omega_0=0$、昼は年中 $12$ 時間である。不定時法と定時法が一致する。

緯度 $60$ 度では夏至の昼が $\mathbf{18.4898}$ 時間まで伸びる。一刻は $184.9$ 分になる。高緯度ほど不定時法は使いにくくなる。

観察 3.4 つまり不定時法が成り立つ度合いは緯度で決まる。赤道では違いが無く、極では昼が消える日がある。日本の緯度は、季節差が体感できてなお破綻しない範囲にある。

4. 分離子

分離子:何を等分するか。

観察 4.1 定時法は自転を等分する。基準は天体の回転である。季節に依らない。

観察 4.2 不定時法は明るさのある時間を等分する。基準は日の出と日の入りである。季節に依る。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「時刻」を与えるが、等分している対象が違う。一方は角度、一方は明るい時間である。

観察 4.4 そして不定時法のほうが、生活には合っていた。照明が高価な時代には、働けるのは明るい間だけである。「昼を六つに分ける」は、使える時間を六つに分けることだった。

観察 4.5 時計が難しくなったのは、そのためである。和時計は季節ごとに目盛りを差し替える必要があった。機構が複雑なのは技術が未熟だったからではなく、定義が要求したからである。

観察 4.6 正直に言えば、$144.2036$ 分は大気差と太陽の視半径を入れていない値である。実際の日の出は幾何より約 $7$ 分早く、昼はもう少し長い。比 $1.505312$ への影響は小さいが、昼の長さそのものは動く。

観察 4.7 最後に一つ、「昔の時間は不正確だった」という言い方は、定時法を物差しにしている。不定時法の側から見れば、定時法のほうが「日の出とずれていく」。どちらが正確かは、何を測りたいかで決まる。

5. 点呼と結び

  1. 夏至の昼の一刻は $144.2036$ 分(計算 2.1):一時間より $24$ 分長い。
  2. 冬至の昼の一刻は $95.7964$ 分(計算 2.1):一時間より $24$ 分短い。
  3. 比は $1.505312$(計算 2.4):$1.5$ 倍を超える。
  4. 別式でも同じ比(計算 2.4):$\text{昼}/(24-\text{昼})$。
  5. 春秋分はちょうど $12.000000000$ 時間(観察 2.2):自己検査。
  6. 春秋分の一刻はちょうど $120.000000000$ 分(観察 2.2):定時法と一致。
  7. 夏至と冬至の昼の和は $24.000000000$ 時間(観察 3.1):対称性。
  8. 夏の昼の一刻=冬の夜の一刻(観察 3.2):厳密に一致。
  9. 赤道では比がちょうど $1$(計算 3.3):境目の反対側。
  10. 緯度 $60$ 度では昼が $18.4898$ 時間(計算 3.3):高緯度で破綻に近づく。

結び:江戸時代の時法は「不正確だった」と言われる。だが江戸の緯度 $35.7$ 度で計算すると、夏至の昼の一刻は $\mathbf{144.2036}$ 分、冬至の昼の一刻は $\mathbf{95.7964}$ 分で、比は $\mathbf{1.505312}$ になる。これは誤差ではなく、定義どおりの値である。昼と夜を合わせて $24$ 時間だから同じ比は $\text{昼}/(24-\text{昼})$ とも書け、別式で計算しても同じ値になる。春分・秋分では昼がちょうど $\mathbf{12.000000000}$ 時間、一刻がちょうど $\mathbf{120.000000000}$ 分になり、この切りのいい数が計算の正しさを示す。対称性も厳密に出る。夏至の昼と冬至の昼を足すとちょうど $\mathbf{24.000000000}$ 時間になり、夏至の昼の一刻と冬至の夜の一刻は厳密に一致する。そして成り立つ度合いは緯度で決まる。赤道では比がちょうど $\mathbf{1}$ で不定時法と定時法が一致し、緯度 $60$ 度では夏至の昼が $\mathbf{18.4898}$ 時間まで伸びて一刻が $184.9$ 分になる。日本の緯度は、季節差が体感できてなお破綻しない範囲にある。分けているものは一つ、何を等分するか。定時法は自転という角度を等分するので季節に依らず、不定時法は明るさのある時間を等分するので季節に依る。論文300 の基準で別根であり、どちらも「時刻」を与えるが等分している対象が違う。そして照明が高価な時代には、不定時法のほうが生活に合っていた。「昼を六つに分ける」は、使える時間を六つに分けることだった。和時計が季節ごとに目盛りを差し替える必要があったのは、技術が未熟だったからではなく、定義がそれを要求したからである。正直に言えば、$144.2036$ 分は大気差と太陽の視半径を入れていない幾何だけの値で、実際の日の出は約 $7$ 分早く、昼はもう少し長い。比 $1.505312$ への影響は小さいが、昼の長さそのものは動く。最後に一つ、「昔の時間は不正確だった」という言い方は、定時法を物差しにしている。不定時法の側から見れば定時法のほうが日の出とずれていくのであって、どちらが正確かは何を測りたいかで決まる。

参考文献

  1. 渡辺敏夫 (1984). 『日本の暦』. 東京: 雄山閣.
  2. Meeus, J. (1998). Astronomical Algorithms (2nd ed.). Richmond: Willmann-Bell.
  3. Dohrn-van Rossum, G. (1996). History of the Hour: Clocks and Modern Temporal Orders. Chicago: University of Chicago Press.
  4. Landes, D. S. (1983). Revolution in Time: Clocks and the Making of the Modern World. Cambridge, MA: Harvard University Press.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『温度の大小の順は、熱さの順ではない』[論文403]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699405
  7. 山岸勇輝 (2026). 『何も保たない変換にも、保たれる量がある』[論文411]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699656
  8. 山岸勇輝 (2026). 『「一番近い」は、距離を決めるまで決まらない』[論文412]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699661

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「同じ「一刻」が、季節で 1.5 倍変わる」[論文414]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699766

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 同じ「一刻」が、季節で 1.5 倍変わる [論文414]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/414 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699766

Yamagishi, Y. (2026). The Same “Hour” Is Half as Long Again in Summer [Paper 414]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/414; DOI: 10.5281/zenodo.22699766

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