要旨
深いダムほど、幅は急激に太らなければならないと思われている。本稿が示すのは、力が $2$ 乗、モーメントが $3$ 乗で増えても、必要な幅は $1$ 乗でしか増えないことである。自重の側も $3$ 乗で増えるからである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、深さ $10$ 倍で水圧の合力は $\mathbf{100.000000000}$ 倍になる(第2節)。
第二に、作用点は水面と底の中央ではなく、水面下 $\mathbf{2H/3}$ にある(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。転倒モーメントは深さの $3$ 乗で増える($2$ 倍の深さで $\mathbf{8.000000000}$ 倍)のに、必要な幅は $\mathbf{2.000000000}$ 倍にしかならない(第3節)。
第四に、比 $b/H$ は $\mathbf{0.3727}$ で、深さによらず一定である(第3節)。
第五に、$0.3727$ は既知の目安「幅は高さの $0.7$ から $0.8$ 倍」の半分ほどで、矩形近似のぶんだけ小さい(第4節)。
第六に、分離子は「どの指数で増えるか」ではなく「両側が同じ指数で増えるか」である(第4節)。
キーワード:静水圧、重力式ダム、転倒モーメント、圧力中心。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。静水圧、圧力中心、重力式ダムの転倒に対する釣り合いはすべて既知である。ダムを設計しない。基礎、揚圧力、地震力、堤体形状の最適化は主題ではない。実際の設計はこれらを必ず含む。安全率を扱わない。釣り合いのちょうどの点だけを見る。実務では余裕を取る。断面を矩形に近似する。実際の重力式ダムは三角形に近い断面を持ち、必要幅の係数が変わる。滑動を扱わない。転倒だけを見る。基礎との摩擦による滑動は別の条件である。アーチ式を含めない。両岸へ力を逃がす形式は、この釣り合いの外にある。既刊との関係:論文453 は凍結で速度の下限が立ち上がることを示した。そこでも、片側だけを見ると誤った。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「力の増え方」と「必要な寸法の増え方」は、その基準で別根である。論文446 は下限が要求で動くことを示した。そこでも、二つの量の比が独り歩きした。加えたのは、三つの深さで合力と作用点を出したこと、数値積分で閉じた式を独立に確かめたこと、モーメントが $3$ 乗で増えることを $8.000000000$ 倍と出したこと、必要幅が $1$ 乗であることを $2.000000000$ 倍と出したこと、$b/H=0.3727$ が一定であることを示したこと、分離子を「両側が同じ指数か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:深さ $H$ の鉛直壁に、幅 $1$ m あたりでかかる水圧の合力は
$$F=\tfrac{1}{2}\rho\,g\,H^{2}$$
であり、その作用点は水面下 $2H/3$、すなわち底から $H/3$ の高さにある。底のつま先まわりの転倒モーメントは
$$M=F\cdot\frac{H}{3}=\frac{\rho\,g\,H^{3}}{6}$$
である。堤体を密度 $\rho_{c}$、幅 $b$、高さ $H$ の矩形と近似すると、自重による抵抗モーメントは $\rho_{c}gbH\cdot b/2$ となる。以下 $\rho=1000$、$\rho_{c}=2400$ kg/m$^3$ とする。
観察 1.1 深いダムほど、幅は急激に太らなければならないと思われている。力が $2$ 乗、モーメントが $3$ 乗で増えるから、そう見える。
観察 1.2 だが抵抗する側も、深さとともに増える。堤体が高くなれば、自重も増える。比べるべきは、両側の増え方である。
問い:必要な幅は、深さの何乗で増えるのか。
2. 力は 2 乗、モーメントは 3 乗で増える
計算 2.1:三つの深さで合力と作用点を出す。
| 深さ [m] | 合力 [N/m] | 作用点(水面下)[m] |
|---|---|---|
| $10$ | $4.9033\times10^{5}$ | $6.6667$ |
| $50$ | $1.2258\times10^{7}$ | $33.3333$ |
| $100$ | $4.9033\times10^{7}$ | $66.6667$ |
観察 2.2 深さ $10$ 倍で合力は $\mathbf{100.000000000}$ 倍である。$2$ 乗で増える。圧力が深さに比例し、面積も深さに比例するからである。
計算 2.3:閉じた式を、$200000$ 分割の数値積分で独立に確かめる。
$H=50$ m で数値積分 $1.225831\times10^{7}$、閉じた式 $1.225831\times10^{7}$。相対差は $10^{-9}$ 未満である。
観察 2.4 作用点は中央より下にある。$H=50$ で水面下 $33.3333$ m、中央の $25$ ではない。深いところほど圧力が高いので、重心が下へ引かれる。
観察 2.5 だから転倒モーメントは $3$ 乗で増える。合力が $2$ 乗、腕の長さが $1$ 乗、$H=50$ で $2.0431\times10^{8}$ N m/m、深さ $2$ 倍で $\mathbf{8.000000000}$ 倍になる。
3. 必要な幅は 1 乗でしか増えない
計算 3.1:転倒に対する釣り合いから、矩形近似の必要幅を出す。
| 深さ [m] | 必要幅 [m] | $b/H$ |
|---|---|---|
| $50$ | $\mathbf{18.6339}$ | $0.3727$ |
| $100$ | $\mathbf{37.2678}$ | $0.3727$ |
観察 3.2 深さ $2$ 倍で、必要幅も $\mathbf{2.000000000}$ 倍である。モーメントは $8$ 倍になったのに、幅は $2$ 倍で足りる。
観察 3.3 抵抗モーメントも $3$ 乗で増えているからである。自重が $bH$ に比例し、腕が $b$ に比例するので、$b^{2}H$ に比例する。$b\propto H$ なら $H^{3}$ になる。両側が同じ指数で増える。
観察 3.4 だから $b/H$ は深さによらず一定になる。$\mathbf{0.3727}$、ダムの形が相似になる、ということである。
観察 3.5 釣り合いを逆に確かめる。$H=50$ での水圧モーメント $2.043052\times10^{8}$ と自重モーメント $2.043052\times10^{8}$、相対差 $10^{-9}$ 未満で一致する。
観察 3.6 $0.3727$ という数は $\sqrt{\rho/(3\rho_{c})}$ である。水と堤体の密度比だけで決まる。深さも重力加速度も消える。
4. 分離子
分離子:どの指数で増えるかではなく、両側が同じ指数で増えるか。
観察 4.1 片側だけを見れば、$3$ 乗は恐ろしい。$10$ 倍の深さで $1000$ 倍、手に負えないように見える。
観察 4.2 両側が同じ指数なら、比は動かない。必要な寸法は $1$ 乗で増える。相似に大きくすれば済む。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「深さの効き方」と呼ばれる。一方は荷重の増え方、一方は荷重と抵抗の比の増え方である。
観察 4.4 論文453 と同じ形である。そこでは上限だけを見て下限を見落とした。ここでは荷重だけを見て抵抗を見落とす。どちらも、片側だけの観察が誤りを生む。
観察 4.5 $0.3727$ は既知の目安より小さい。実際の重力式ダムでは、底面幅は高さの $0.7$ から $0.8$ 倍が目安である。矩形近似が自重を過大に見積もっているためで、三角形断面なら係数が変わる。
観察 4.6 正直に言えば、実際の設計は揚圧力・地震力・滑動・基礎を必ず含む。そのどれもが幅を増やす方向に働く。ここで出した $0.3727$ は下限であって、設計値ではない。
観察 4.7 最後に一つ、相似則が成り立つのは、両側が同じ物理から来ているからである。水圧も自重も重力に比例する。$g$ が両辺で消えるのはそのためで、月面でも同じ $0.3727$ になる。
5. 点呼と結び
- 合力は $2$ 乗で増える(観察 2.2):$10$ 倍で $100.000000000$ 倍。
- 数値積分が閉じた式と一致(計算 2.3):相対差 $10^{-9}$ 未満。
- 作用点は水面下 $2H/3$(観察 2.4):中央より下。
- モーメントは $3$ 乗(観察 2.5):$2$ 倍で $8.000000000$ 倍。
- 必要幅は $H=50$ で $18.6339$ m(計算 3.1):本稿の芯。
- $H=100$ で $37.2678$ m(計算 3.1):$2.000000000$ 倍。
- $b/H=0.3727$ が一定(観察 3.4):形が相似になる。
- $\sqrt{\rho/(3\rho_{c})}$ である(観察 3.6):密度比だけで決まる。
- 分離子は両側が同じ指数か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
- $0.3727$ は下限であって設計値でない(観察 4.6):実務は $0.7$ から $0.8$。
結び:深いダムほど幅は急激に太らなければならない、と思われている。力が $2$ 乗、モーメントが $3$ 乗で増えるから、そう見える。だが抵抗する側も深さとともに増える。堤体が高くなれば自重も増えるので、比べるべきは両側の増え方である。荷重の側は、たしかに急に増える。深さ $10$ 倍で合力は $\mathbf{100.000000000}$ 倍。圧力が深さに比例し、面積も深さに比例するからである。$200000$ 分割の数値積分でも閉じた式と相対差 $10^{-9}$ 未満で一致した。作用点は中央より下にあり、$H=50$ で水面下 $33.3333$ m、深いところほど圧力が高いので、重心が下へ引かれる。だから転倒モーメントは $3$ 乗で増え、$H=50$ で $2.0431\times10^{8}$ N m/m、深さ $2$ 倍で $\mathbf{8.000000000}$ 倍になる。ところが必要な幅は $1$ 乗でしか増えない。$H=50$ で $\mathbf{18.6339}$ m、$H=100$ で $\mathbf{37.2678}$ m、ちょうど $\mathbf{2.000000000}$ 倍である。抵抗モーメントも $3$ 乗で増えているからで、自重が $bH$ に比例し腕が $b$ に比例するので $b^{2}H$ に比例し、$b\propto H$ なら $H^{3}$ になる。両側が同じ指数で増える。だから $b/H$ は深さによらず $\mathbf{0.3727}$ で一定になる。ダムの形が相似になる、ということである。釣り合いを逆に確かめると、$H=50$ での水圧モーメント $2.043052\times10^{8}$ と自重モーメント $2.043052\times10^{8}$ が相対差 $10^{-9}$ 未満で一致する。そしてこの $0.3727$ は $\sqrt{\rho/(3\rho_{c})}$ であり、水と堤体の密度比だけで決まる。深さも重力加速度も消える。分けているものは一つ、どの指数で増えるかではなく、両側が同じ指数で増えるか。片側だけを見れば $3$ 乗は恐ろしく、$10$ 倍の深さで $1000$ 倍という数は手に負えないように見える。両側が同じ指数なら比は動かず、必要な寸法は $1$ 乗で増えるので、相似に大きくすれば済む。論文300 の基準で別根であり、一方は荷重の増え方、一方は荷重と抵抗の比の増え方である。論文453 と同じ形で、そこでは上限だけを見て下限を見落とした。どちらも、片側だけの観察が誤りを生む。ただし $0.3727$ は既知の目安より小さい。実際の重力式ダムでは底面幅は高さの $0.7$ から $0.8$ 倍が目安であり、矩形近似が自重を過大に見積もっているためで、三角形断面なら係数が変わる。正直に言えば、実際の設計は揚圧力・地震力・滑動・基礎を必ず含み、そのどれもが幅を増やす方向に働く。ここで出した $0.3727$ は下限であって、設計値ではない。最後に一つ、相似則が成り立つのは、両側が同じ物理から来ているからである。水圧も自重も重力に比例するので $g$ が両辺で消え、月面でも同じ $0.3727$ になる。
参考文献
- Stevin, S. (1586). De Beghinselen des Waterwichts. Christoffel Plantijn.
- United States Bureau of Reclamation (1976). Design of Gravity Dams. U.S. Department of the Interior.
- Jansen, R. B. (Ed.) (1988). Advanced Dam Engineering for Design, Construction, and Rehabilitation. Van Nostrand Reinhold.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『理論の下限は、たくさん取ろうとすると上がる』[論文446]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732460
- 山岸勇輝 (2026). 『凍った道でゆっくり走ると、速く走るより危ないことがある』[論文453]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732924
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「水圧は二乗で増えるのに、堤体の幅は比例でよい」[論文454]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22732989
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 水圧は二乗で増えるのに、堤体の幅は比例でよい [論文454]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/454 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22732989
Yamagishi, Y. (2026). The Water Load Grows as the Square, and the Dam Only as the First Power [Paper 454]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/454; DOI: 10.5281/zenodo.22732989
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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