【論文454】水圧は二乗で増えるのに、堤体の幅は比例でよい

要旨

深いダムほど、幅は急激に太らなければならないと思われている。本稿が示すのは、力が $2$ 乗、モーメントが $3$ 乗で増えても、必要な幅は $1$ 乗でしか増えないことである。自重の側も $3$ 乗で増えるからである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、深さ $10$ 倍で水圧の合力は $\mathbf{100.000000000}$ 倍になる(第2節)。

第二に、作用点は水面と底の中央ではなく、水面下 $\mathbf{2H/3}$ にある(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。転倒モーメントは深さの $3$ 乗で増える($2$ 倍の深さで $\mathbf{8.000000000}$ 倍)のに、必要な幅は $\mathbf{2.000000000}$ 倍にしかならない(第3節)。

第四に、比 $b/H$ は $\mathbf{0.3727}$ で、深さによらず一定である(第3節)。

第五に、$0.3727$ は既知の目安「幅は高さの $0.7$ から $0.8$ 倍」の半分ほどで、矩形近似のぶんだけ小さい(第4節)。

第六に、分離子は「どの指数で増えるか」ではなく「両側が同じ指数で増えるか」である(第4節)。

キーワード:静水圧、重力式ダム、転倒モーメント、圧力中心。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。静水圧、圧力中心、重力式ダムの転倒に対する釣り合いはすべて既知である。ダムを設計しない。基礎、揚圧力、地震力、堤体形状の最適化は主題ではない。実際の設計はこれらを必ず含む。安全率を扱わない。釣り合いのちょうどの点だけを見る。実務では余裕を取る。断面を矩形に近似する。実際の重力式ダムは三角形に近い断面を持ち、必要幅の係数が変わる。滑動を扱わない。転倒だけを見る。基礎との摩擦による滑動は別の条件である。アーチ式を含めない。両岸へ力を逃がす形式は、この釣り合いの外にある。既刊との関係:論文453 は凍結で速度の下限が立ち上がることを示した。そこでも、片側だけを見ると誤った。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「力の増え方」と「必要な寸法の増え方」は、その基準で別根である。論文446 は下限が要求で動くことを示した。そこでも、二つの量の比が独り歩きした。加えたのは、三つの深さで合力と作用点を出したこと、数値積分で閉じた式を独立に確かめたこと、モーメントが $3$ 乗で増えることを $8.000000000$ 倍と出したこと、必要幅が $1$ 乗であることを $2.000000000$ 倍と出したこと、$b/H=0.3727$ が一定であることを示したこと、分離子を「両側が同じ指数か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:深さ $H$ の鉛直壁に、幅 $1$ m あたりでかかる水圧の合力は

$$F=\tfrac{1}{2}\rho\,g\,H^{2}$$

であり、その作用点は水面下 $2H/3$、すなわち底から $H/3$ の高さにある。底のつま先まわりの転倒モーメントは

$$M=F\cdot\frac{H}{3}=\frac{\rho\,g\,H^{3}}{6}$$

である。堤体を密度 $\rho_{c}$、幅 $b$、高さ $H$ の矩形と近似すると、自重による抵抗モーメントは $\rho_{c}gbH\cdot b/2$ となる。以下 $\rho=1000$、$\rho_{c}=2400$ kg/m$^3$ とする。

観察 1.1 深いダムほど、幅は急激に太らなければならないと思われている。力が $2$ 乗、モーメントが $3$ 乗で増えるから、そう見える。

観察 1.2 だが抵抗する側も、深さとともに増える。堤体が高くなれば、自重も増える。比べるべきは、両側の増え方である。

問い:必要な幅は、深さの何乗で増えるのか。

2. 力は 2 乗、モーメントは 3 乗で増える

計算 2.1:三つの深さで合力と作用点を出す。

深さ [m] 合力 [N/m] 作用点(水面下)[m]
$10$ $4.9033\times10^{5}$ $6.6667$
$50$ $1.2258\times10^{7}$ $33.3333$
$100$ $4.9033\times10^{7}$ $66.6667$

観察 2.2 深さ $10$ 倍で合力は $\mathbf{100.000000000}$ 倍である。$2$ 乗で増える。圧力が深さに比例し、面積も深さに比例するからである。

計算 2.3:閉じた式を、$200000$ 分割の数値積分で独立に確かめる。

$H=50$ m で数値積分 $1.225831\times10^{7}$、閉じた式 $1.225831\times10^{7}$。相対差は $10^{-9}$ 未満である。

観察 2.4 作用点は中央より下にある。$H=50$ で水面下 $33.3333$ m、中央の $25$ ではない。深いところほど圧力が高いので、重心が下へ引かれる。

観察 2.5 だから転倒モーメントは $3$ 乗で増える。合力が $2$ 乗、腕の長さが $1$ 乗、$H=50$ で $2.0431\times10^{8}$ N m/m、深さ $2$ 倍で $\mathbf{8.000000000}$ 倍になる。

3. 必要な幅は 1 乗でしか増えない

計算 3.1:転倒に対する釣り合いから、矩形近似の必要幅を出す。

深さ [m] 必要幅 [m] $b/H$
$50$ $\mathbf{18.6339}$ $0.3727$
$100$ $\mathbf{37.2678}$ $0.3727$

観察 3.2 深さ $2$ 倍で、必要幅も $\mathbf{2.000000000}$ 倍である。モーメントは $8$ 倍になったのに、幅は $2$ 倍で足りる。

観察 3.3 抵抗モーメントも $3$ 乗で増えているからである。自重が $bH$ に比例し、腕が $b$ に比例するので、$b^{2}H$ に比例する。$b\propto H$ なら $H^{3}$ になる。両側が同じ指数で増える。

観察 3.4 だから $b/H$ は深さによらず一定になる。$\mathbf{0.3727}$、ダムの形が相似になる、ということである。

観察 3.5 釣り合いを逆に確かめる。$H=50$ での水圧モーメント $2.043052\times10^{8}$ と自重モーメント $2.043052\times10^{8}$、相対差 $10^{-9}$ 未満で一致する。

観察 3.6 $0.3727$ という数は $\sqrt{\rho/(3\rho_{c})}$ である。水と堤体の密度比だけで決まる。深さも重力加速度も消える。

4. 分離子

分離子:どの指数で増えるかではなく、両側が同じ指数で増えるか。

観察 4.1 片側だけを見れば、$3$ 乗は恐ろしい。$10$ 倍の深さで $1000$ 倍、手に負えないように見える。

観察 4.2 両側が同じ指数なら、比は動かない。必要な寸法は $1$ 乗で増える。相似に大きくすれば済む。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「深さの効き方」と呼ばれる。一方は荷重の増え方、一方は荷重と抵抗の比の増え方である。

観察 4.4 論文453 と同じ形である。そこでは上限だけを見て下限を見落とした。ここでは荷重だけを見て抵抗を見落とす。どちらも、片側だけの観察が誤りを生む。

観察 4.5 $0.3727$ は既知の目安より小さい。実際の重力式ダムでは、底面幅は高さの $0.7$ から $0.8$ 倍が目安である。矩形近似が自重を過大に見積もっているためで、三角形断面なら係数が変わる。

観察 4.6 正直に言えば、実際の設計は揚圧力・地震力・滑動・基礎を必ず含む。そのどれもが幅を増やす方向に働く。ここで出した $0.3727$ は下限であって、設計値ではない。

観察 4.7 最後に一つ、相似則が成り立つのは、両側が同じ物理から来ているからである。水圧も自重も重力に比例する。$g$ が両辺で消えるのはそのためで、月面でも同じ $0.3727$ になる。

5. 点呼と結び

  1. 合力は $2$ 乗で増える(観察 2.2):$10$ 倍で $100.000000000$ 倍。
  2. 数値積分が閉じた式と一致(計算 2.3):相対差 $10^{-9}$ 未満。
  3. 作用点は水面下 $2H/3$(観察 2.4):中央より下。
  4. モーメントは $3$ 乗(観察 2.5):$2$ 倍で $8.000000000$ 倍。
  5. 必要幅は $H=50$ で $18.6339$ m(計算 3.1):本稿の芯。
  6. $H=100$ で $37.2678$ m(計算 3.1):$2.000000000$ 倍。
  7. $b/H=0.3727$ が一定(観察 3.4):形が相似になる。
  8. $\sqrt{\rho/(3\rho_{c})}$ である(観察 3.6):密度比だけで決まる。
  9. 分離子は両側が同じ指数か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
  10. $0.3727$ は下限であって設計値でない(観察 4.6):実務は $0.7$ から $0.8$。

結び:深いダムほど幅は急激に太らなければならない、と思われている。力が $2$ 乗、モーメントが $3$ 乗で増えるから、そう見える。だが抵抗する側も深さとともに増える。堤体が高くなれば自重も増えるので、比べるべきは両側の増え方である。荷重の側は、たしかに急に増える。深さ $10$ 倍で合力は $\mathbf{100.000000000}$ 倍。圧力が深さに比例し、面積も深さに比例するからである。$200000$ 分割の数値積分でも閉じた式と相対差 $10^{-9}$ 未満で一致した。作用点は中央より下にあり、$H=50$ で水面下 $33.3333$ m、深いところほど圧力が高いので、重心が下へ引かれる。だから転倒モーメントは $3$ 乗で増え、$H=50$ で $2.0431\times10^{8}$ N m/m、深さ $2$ 倍で $\mathbf{8.000000000}$ 倍になる。ところが必要な幅は $1$ 乗でしか増えない。$H=50$ で $\mathbf{18.6339}$ m、$H=100$ で $\mathbf{37.2678}$ m、ちょうど $\mathbf{2.000000000}$ 倍である。抵抗モーメントも $3$ 乗で増えているからで、自重が $bH$ に比例し腕が $b$ に比例するので $b^{2}H$ に比例し、$b\propto H$ なら $H^{3}$ になる。両側が同じ指数で増える。だから $b/H$ は深さによらず $\mathbf{0.3727}$ で一定になる。ダムの形が相似になる、ということである。釣り合いを逆に確かめると、$H=50$ での水圧モーメント $2.043052\times10^{8}$ と自重モーメント $2.043052\times10^{8}$ が相対差 $10^{-9}$ 未満で一致する。そしてこの $0.3727$ は $\sqrt{\rho/(3\rho_{c})}$ であり、水と堤体の密度比だけで決まる。深さも重力加速度も消える。分けているものは一つ、どの指数で増えるかではなく、両側が同じ指数で増えるか。片側だけを見れば $3$ 乗は恐ろしく、$10$ 倍の深さで $1000$ 倍という数は手に負えないように見える。両側が同じ指数なら比は動かず、必要な寸法は $1$ 乗で増えるので、相似に大きくすれば済む。論文300 の基準で別根であり、一方は荷重の増え方、一方は荷重と抵抗の比の増え方である。論文453 と同じ形で、そこでは上限だけを見て下限を見落とした。どちらも、片側だけの観察が誤りを生む。ただし $0.3727$ は既知の目安より小さい。実際の重力式ダムでは底面幅は高さの $0.7$ から $0.8$ 倍が目安であり、矩形近似が自重を過大に見積もっているためで、三角形断面なら係数が変わる。正直に言えば、実際の設計は揚圧力・地震力・滑動・基礎を必ず含み、そのどれもが幅を増やす方向に働く。ここで出した $0.3727$ は下限であって、設計値ではない。最後に一つ、相似則が成り立つのは、両側が同じ物理から来ているからである。水圧も自重も重力に比例するので $g$ が両辺で消え、月面でも同じ $0.3727$ になる。

参考文献

  1. Stevin, S. (1586). De Beghinselen des Waterwichts. Christoffel Plantijn.
  2. United States Bureau of Reclamation (1976). Design of Gravity Dams. U.S. Department of the Interior.
  3. Jansen, R. B. (Ed.) (1988). Advanced Dam Engineering for Design, Construction, and Rehabilitation. Van Nostrand Reinhold.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  5. 山岸勇輝 (2026). 『理論の下限は、たくさん取ろうとすると上がる』[論文446]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732460
  6. 山岸勇輝 (2026). 『凍った道でゆっくり走ると、速く走るより危ないことがある』[論文453]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732924

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「水圧は二乗で増えるのに、堤体の幅は比例でよい」[論文454]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22732989

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 水圧は二乗で増えるのに、堤体の幅は比例でよい [論文454]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/454 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22732989

Yamagishi, Y. (2026). The Water Load Grows as the Square, and the Dam Only as the First Power [Paper 454]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/454; DOI: 10.5281/zenodo.22732989

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