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【論文539】歯数を決めたのは天文ではなく、連分数である

要旨

惑星儀の歯車の歯数は、天体の周期から決まると思われている。本稿が示すのは、歯数を決めているのが連分数であり、精度と歯数のあいだの交換条件がそこで閉じていることである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、比を連分数に開くと、近似分数の列が出る。$77708431/2640858=\mathbf{29.4254484717}$ の連分数は $[29,2,2,1,5,1,4,\dots]$ で、近似は $29/1$、$59/2$、$147/5$、$\mathbf{206/7}$ と続く(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。ホイヘンスが刻んだ $\mathbf{206/7}$ は、その第 $\mathbf{4}$ 近似である。相対誤差 $\mathbf{1.061\times10^{-4}}$ で、分母 $7$ 以下を総当たりしても最良は同じ分数である(第2節・第3節)。

第三に、一段良くする代価が測れる。次の近似 $1177/40$ は誤差が $\mathbf{7.0}$ 分の $1$ に縮むが、歯数の和は $\mathbf{213}$ から $\mathbf{1217}$ へ $\mathbf{5.7}$ 倍になる(第4節)。

第四に、近似は等しく良いわけではない。$29/1$ の相対誤差 $\mathbf{1.446\times10^{-2}}$ から $147/5$ の $\mathbf{8.648\times10^{-4}}$ まで、一段ごとの縮み方が揃っていない(第2節)。

第五に、近似しにくい数もある。黄金比を分母 $7$ 以下で近似すると最良は $8/5$ で相対誤差 $\mathbf{1.115\times10^{-2}}$、土星の比の $\mathbf{105}$ 倍である(第5節)。

第六に、分離子は連分数の項の大きさである。大きい項の直前で急に良くなり、$1$ が続くと良くならない(第5節)。

キーワード:連分数、歯車の歯数、惑星儀、最良近似、ホイヘンス。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。連分数の最良近似性も、ホイヘンスの惑星儀も標準的である。歯車の工学を論じない。歯形も、バックラッシュも、摩擦も扱わない。歯数という整数だけを見る。歴史の細部を主張しない。ホイヘンスが実際にどう計算したかではなく、$206/7$ が連分数の近似分数であることだけを確かめた。現代の周期の値を使わない。当時の値 $77708431/2640858$ をそのまま使う。現代の値では連分数が変わる。最良近似の定理を証明しない。分母 $7$ 以下については総当たりで確かめただけである。機械式時計の設計を述べない。どの歯数を選ぶべきかは主題ではない。既刊との関係:論文213 は「戻ってくる」に別根があると示した。歯車が同じ位置に戻る周期は、連分数の分母が決めている。論文336 は腕時計の $32768$ が物理の選んだ数ではないと示した。歯数も同じで、天体が選んだのではなく近似の作法が選んでいる。論文319 は暦が近似を三段重ねたものだと示した。暦の閏の入れ方も、本稿の近似分数の列と同じ構造を持つ。論文176 は「小さい」が二つあって両立しないと示した。本稿の交換条件も、誤差の小ささと歯数の小ささが両立しないことである。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。近似の良さと歯数の多さは「量の持ち物」の基準で別根である。加えたのは、当時の比を連分数に開いて近似分数の列を出したこと、$\mathbf{206/7}$ が第 $\mathbf{4}$ 近似だと確かめたこと、分母 $7$ 以下の総当たりで最良が同じだと確かめたこと、一段上げる代価を誤差 $\mathbf{7.0}$ 分の $1$ 対 歯数 $\mathbf{5.7}$ 倍として測ったこと、分離子を連分数の項の大きさに置いたことである。

1. 記法と問い

設定:惑星儀は、歯車の比で天体の周期の比を再現する装置である。歯数は整数でなければならないから、周期の比を分数で近似することになる。

当時の値:ホイヘンスが使った土星と地球の周期の比は $77708431/2640858$ である。小数にすると $\mathbf{29.4254484717}$ になる。

観察 1.1 問いは天文ではなく、算術である。与えられた比を、小さい分母で、どこまで良く近似できるか、天体が答を決めるのではない。

観察 1.2 分母が歯数になる。歯数が増えれば装置が大きく重くなる。精度と大きさの交換条件が、そのまま分数の分母に載る。

問い:どの分数を選べばよいか、そしてそれは誰が決めているか。

2. 連分数に開く

計算 2.1:$77708431/2640858$ を連分数に開いた。有理数なので有限で終わる。

$$[29,\;2,\;2,\;1,\;5,\;1,\;4,\;1,\;1,\;2,\;1,\;6,\;1,\;10,\;2,\;2,\;3]$$

計算 2.2:近似分数と、その誤差を並べた。

近似分数 歯数の和 誤差 相対誤差
$29/1$ $30$ $4.254\times10^{-1}$ $\mathbf{1.446\times10^{-2}}$
$59/2$ $61$ $7.455\times10^{-2}$ $2.534\times10^{-3}$
$147/5$ $152$ $2.545\times10^{-2}$ $\mathbf{8.648\times10^{-4}}$
$\mathbf{206/7}$ $\mathbf{213}$ $3.123\times10^{-3}$ $\mathbf{1.061\times10^{-4}}$
$1177/40$ $1217$ $4.485\times10^{-4}$ $1.524\times10^{-5}$
$1383/47$ $1430$ $8.344\times10^{-5}$ $2.836\times10^{-6}$
$6709/228$ $6937$ $9.875\times10^{-6}$ $3.356\times10^{-7}$

観察 2.3 これが本稿の芯である。ホイヘンスが刻んだ $\mathbf{206/7}$ は、この列の第 $\mathbf{4}$ 項である。歯数を決めたのは土星ではなく、連分数の展開である。

観察 2.4 縮み方が揃っていない。$147/5$ から $206/7$ で相対誤差が $\mathbf{8.648\times10^{-4}}$ から $\mathbf{1.061\times10^{-4}}$ へ約 $8$ 分の $1$ に落ちるのに、$29/1$ から $59/2$ では約 $6$ 分の $1$、連分数の項が大きいところで、急に良くなる。

観察 2.5 最後の近似は元の比に戻る。有理数の連分数は有限で終わる。展開が正しいことの検査であって、主張ではない。

3. 分母 $7$ 以下で、これより良い分数は無い

計算 3.1:分母 $1$ から $7$ まですべて試し、それぞれの最良の分子を取って誤差を比べた。最良は $\mathbf{206/7}$ で、誤差は $3.123\times10^{-3}$ である。

観察 3.2 連分数が総当たりと一致した。近似分数が最良近似であることの、この場合での確認、定理を証明したのではなく、一件で確かめた。

観察 3.3 だから選択の余地が無い。歯数 $7$ を許すなら、$206$ 以外に選ぶものが無い。設計者の裁量が入るのは「どの近似で止めるか」だけである。

観察 3.4 論文336 と同じ形である。あちらは腕時計の $32768$ が物理の選んだ数ではないと示した。ここでも数を選んでいるのは対象ではなく、近似の作法である。

4. 一段上げる代価

計算 4.1:$206/7$ の次の近似 $1177/40$ と比べた。

量 $206/7$ $1177/40$
誤差 $3.123\times10^{-3}$ $\mathbf{4.485\times10^{-4}}$
歯数の和 $\mathbf{213}$ $\mathbf{1217}$

観察 4.2 誤差は $\mathbf{7.0}$ 分の $1$ になり、歯数は $\mathbf{5.7}$ 倍になる。どちらも一段で、交換条件が数で書ける。これが設計の判断材料である。

観察 4.3 論文176 の型である。あちらは「小さい」が二つあって両立しないと示した。ここでも誤差の小ささと歯数の小ささが両立しない。どちらを小さくするかを選ぶしかない。

観察 4.4 歯数は装置の大きさに直に効く。$1217$ 枚の歯を切るのは、$213$ 枚の $5.7$ 倍の手間である。十七世紀の工作では、この差が実際の限界だった。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、連分数の項の大きさである。大きい項の直前の近似は良く、$1$ が続くところでは良くならない。$[29,2,2,1,5,\dots]$ の $5$ の直前が $147/5$ で、その次の $206/7$ で急に良くなる。

計算 5.2:最も近似しにくい数と比べた。黄金比を分母 $7$ 以下で近似すると、最良は $8/5$ で相対誤差 $\mathbf{1.115\times10^{-2}}$ である。

観察 5.3 土星の比の $\mathbf{105}$ 倍である。同じ分母までで $\mathbf{1.061\times10^{-4}}$ 対 $\mathbf{1.115\times10^{-2}}$、黄金比の連分数は $1$ ばかりなので、どこで止めても良くならない。

観察 5.4 論文300 の「量の持ち物」で別根である。近似の良さは誤差という持ち物を要り、歯数の多さは整数という持ち物を要る。両方を同時に小さくする方法が無いのは、持ち物が違うからである。

観察 5.5 論文319 と同じ構造である。暦の閏の入れ方も、周期の比の近似分数を選ぶ問題である。$4$ 年、$100$ 年、$400$ 年という三段は、近似分数の列を途中で止めた跡である。

観察 5.6 言わないこと。歯車の工学は扱わない。歯形もバックラッシュも摩擦も見ておらず、当時の値をそのまま使ったので現代の値では連分数が変わる。

6. 点呼と結び

  1. 比は $\mathbf{29.4254484717}$(計算 2.1):連分数は $[29,2,2,1,5,\dots]$。
  2. $\mathbf{206/7}$ は第 $\mathbf{4}$ 近似(観察 2.3):本稿の芯。
  3. 相対誤差 $\mathbf{1.061\times10^{-4}}$(計算 2.2):歯数の和 $\mathbf{213}$。
  4. 縮み方が揃っていない(観察 2.4):項の大きさに依る。
  5. 最後の近似が元に戻る(観察 2.5):展開の検査。
  6. 分母 $7$ 以下の総当たりも $\mathbf{206/7}$(計算 3.1):選択の余地が無い。
  7. 次の近似で誤差 $\mathbf{7.0}$ 分の $1$(計算 4.1):歯数は $\mathbf{5.7}$ 倍。
  8. 歯数の和は $\mathbf{213}$ から $\mathbf{1217}$(計算 4.1):工作の限界。
  9. 黄金比は $8/5$ で $\mathbf{1.115\times10^{-2}}$(計算 5.2):$\mathbf{105}$ 倍悪い。
  10. 分離子は項の大きさ(観察 5.1):$1$ が続くと良くならない。
  11. 暦と同じ構造(観察 5.5):三段は止めた跡。

結び:惑星儀の歯数は、天体の周期から決まると思われている。決めているのは連分数である。ホイヘンスが使った土星と地球の周期の比 $77708431/2640858=\mathbf{29.4254484717}$ を連分数に開くと $[29,2,2,1,5,1,4,\dots]$ となり、近似分数は $29/1$、$59/2$、$147/5$、$\mathbf{206/7}$ と続く。彼が刻んだ $\mathbf{206/7}$ は、この列の第 $\mathbf{4}$ 項である。有理数の連分数は有限で終わり、最後の近似が元の比に戻ることが展開の検査になる。縮み方は揃っておらず、連分数の項が大きいところで急に良くなる。分母 $7$ 以下では、これより良い分数が無い。分母 $1$ から $7$ まで総当たりしても最良は同じ $\mathbf{206/7}$ で、相対誤差は $\mathbf{1.061\times10^{-4}}$ である。近似分数が最良近似であることを、この場合について確かめた。定理を証明したのではない。だから歯数 $7$ を許すなら $206$ 以外に選ぶものが無く、設計者の裁量が入るのは「どの近似で止めるか」だけである。論文336 が腕時計の $32768$ について示したとおり、数を選んでいるのは対象ではなく近似の作法である。一段上げる代価が数で書ける。次の近似 $1177/40$ では誤差が $\mathbf{7.0}$ 分の $1$ に縮む代わりに、歯数の和が $\mathbf{213}$ から $\mathbf{1217}$ へ $\mathbf{5.7}$ 倍になる。論文176 の型で、誤差の小ささと歯数の小ささは両立しない。$1217$ 枚の歯を切るのは $213$ 枚の $5.7$ 倍の手間で、十七世紀の工作ではこの差が実際の限界だった。分離子は、連分数の項の大きさである。大きい項の直前の近似は良く、$1$ が続くところでは良くならない。最も近似しにくいのは黄金比で、分母 $7$ 以下での最良は $8/5$、相対誤差 $\mathbf{1.115\times10^{-2}}$ と、同じ分母までで土星の比の $\mathbf{105}$ 倍悪い。連分数が $1$ ばかりだからである。論文300 の「量の持ち物」でいえば、近似の良さは誤差を要り、歯数の多さは整数を要る。両方を同時に小さくできないのは持ち物が違うからである。論文319 の暦も同じ構造で、$4$ 年・$100$ 年・$400$ 年という三段は近似分数の列を途中で止めた跡である。論文213 の「戻ってくる」も、歯車が同じ位置に戻る周期として分母に現れる。正直に言えば、歯車の工学は扱っていない。歯形もバックラッシュも摩擦も見ておらず、歯数という整数だけを見た。ホイヘンスが実際にどう計算したかも主張しておらず、$206/7$ が近似分数であることだけを確かめた。当時の周期の値をそのまま使ったので、現代の値では連分数が変わる。最良近似の定理も証明しておらず、分母 $7$ 以下について総当たりで確かめただけである。どの歯数を選ぶべきかも述べていない。言えるのは、歯数を決めたのが天文ではなく連分数であり、精度と歯数の交換条件がそこで閉じている、そこまでである。

参考文献

  1. Brocot, A. (1861). Calcul des rouages par approximation. Revue Chronometrique.
  2. Hardy, G. H., & Wright, E. M. (2008). An Introduction to the Theory of Numbers (6th ed.). Oxford University Press.
  3. Huygens, C. (1703). Descriptio automati planetarii. In Opuscula postuma. Leiden: C. Boutesteyn.
  4. Khinchin, A. Ya. (1964). Continued Fractions. University of Chicago Press.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『「小さい」は二つあって、両立しない』[論文176]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22097994
  6. 山岸勇輝 (2026). 『「戻ってくる」には別根がある』[論文213]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119380
  7. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  8. 山岸勇輝 (2026). 『暦は、近似を三段重ねたものである』[論文319]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208933
  9. 山岸勇輝 (2026). 『腕時計の中の $32768$ という数は、物理が選んだのではない』[論文336]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22681913

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「歯数を決めたのは天文ではなく、連分数である」[論文539]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014129

YOI 539第1版・2026年9月日付の証拠:受付済み

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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/539・DOI 10.5281/zenodo.23014129・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 歯数を決めたのは天文ではなく、連分数である [論文539]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/539 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014129

Yamagishi, Y. (2026). What Fixed the Tooth Counts Was Not Astronomy but a Continued Fraction [Paper 539]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/539; DOI: 10.5281/zenodo.23014129

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