要旨
光学にも、電磁気にも、構造にも、熱力学にも「相反定理」がある。本稿が示すのは、前三つが作用素の対称性だけを要るのに対し、四つ目は磁場の符号まで反転させることを要ることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、対称な作用素なら相反は厳密に成り立つ、対称な剛性行列で $f_{1}\cdot u_{2}$ と $f_{2}\cdot u_{1}$ の差は $\mathbf{0.00\times10^{0}}$ である(第2節)。
第二に、非対称にすると破れる。差は $\mathbf{0.029851}$、相対で $\mathbf{0.6667}$ になる。境目の反対側である(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。磁場のある系では、対称性が壊れているのに相反が成り立つ、$|L_{12}-L_{21}|=\mathbf{1.600000}$ なのに、$L(B)$ と $L(-B)$ の転置は差 $\mathbf{0.00\times10^{0}}$ で一致する(第3節)。
第四に、磁場を切れば普通の対称性に戻る。$B=0$ では $|L_{12}-L_{21}|$ が $10^{-15}$ の桁に落ちる(第3節)。
第五に、条件の形が違う。前三つは一つの行列について言えるが、四つ目は二つの状態($B$ と $-B$)を並べないと書けない(第4節)。
第六に、分離子は、いくつの状態を要るかである。一つで足りるか、二つ要るか(第4節)。
キーワード:相反定理、オンサーガーの相反関係、ヘルムホルツの相反性、ベッティの定理、時間反転対称性。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。ヘルムホルツ、ローレンツ、ベッティ、オンサーガーのいずれの相反関係も標準的である。オンサーガー関係を証明しない。微視的可逆性からの導出には立ち入らず、関係の形だけを数で見る。実在の材料を扱わない。行列は説明のために置いたもので、特定の物質の係数ではない。非線形な場合に広げない。線形応答の枠内だけを見る。相反でない素子の設計を述べない。アイソレータやサーキュレータの実装は主題ではない。四つで尽きるとは書かない。数えたのは四つで、他に無いとは主張しない。「同じ定理だ」とも「無関係だ」とも書かない。共有しているのは形であり、要求している条件が違う。既刊との関係:論文143 は最小エントロピー生成が原理ではなく柵つきの定理だと示した。その柵の一つがオンサーガー関係であり、本稿はその関係が他の三つと形を異にすることを示す。論文77 は微視の保存と粗視の増大を扱った。オンサーガー関係が要求する時間反転は、あちらの微視の側にある。論文125 はホップが三人いると示した。本稿も固有名ではなく語の点呼だが、分ける向きである。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。四つは「量の持ち物」の基準で、三対一に分かれる。加えたのは、対称性で成り立つ相反を数値で確かめたこと、非対称にすると $\mathbf{0.6667}$ 破れると測ったこと、磁場のある系で対称性が壊れても相反が残ることを示したこと、磁場を切ると戻ることを対照に置いたこと、分離子を「いくつの状態を要るか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:相反定理は、原因と結果を入れ替えても応答が変わらないという形をしている。ヘルムホルツは光学で、ローレンツは電磁気で、ベッティは構造力学で、オンサーガーは不可逆過程で、それぞれ同じ名前の定理を持つ。
観察 1.1 どれも「入れ替えても同じ」と言う。形が同じなら、同じ条件を要求しているように見える。しかし要求は形からは読めない。
観察 1.2 条件を見分ける方法がある。条件を壊してみて、相反が破れるかどうかを見ればよい。破れ方が違えば、要求も違う。
問い:四つは同じ条件を要求しているか。
2. 三つは、作用素の対称性だけを要る
計算 2.1:ベッティの相反を、二自由度の弾性系で確かめた。荷重 $f_{1}$ による変位を $u_{1}$、$f_{2}$ による変位を $u_{2}$ とし、$f_{1}\cdot u_{2}$ と $f_{2}\cdot u_{1}$ を比べる。
| 剛性行列 | $f_{1}\cdot u_{2}$ | $f_{2}\cdot u_{1}$ | 差 |
|---|---|---|---|
| 対称 | $-0.049180327868852$ | $-0.049180327868852$ | $\mathbf{0.00\times10^{0}}$ |
| 非対称 | $-0.044776119402985$ | $-0.014925373134328$ | $\mathbf{0.029851}$ |
観察 2.2 対称なら厳密に成り立つ。差が丸めの桁でもなく、ちょうど零、近似ではなく恒等式である。
観察 2.3 非対称にすると破れる。相対で $\mathbf{0.6667}$、境目の反対側。相反が「いつでも成り立つ」のではないことを確かめた。
観察 2.4 光学と電磁気も同じ形である。媒質が相反的であれば作用素が対称になり、同じ議論が通る。要求されるのは、一つの作用素についての一つの性質だけである。
3. 四つ目は、二つの状態を要る
計算 3.1:磁場に奇な項(ホール項)を持つ線形応答行列を作り、対称性と相反を別々に測った。
| 量 | 値 |
|---|---|
| $L(B)$ の $L_{12}$ | $1.3000$ |
| $L(B)$ の $L_{21}$ | $-0.3000$ |
| 対称性の破れ $|L_{12}-L_{21}|$ | $\mathbf{1.600000}$ |
| $L(B)$ と $L(-B)$ の転置の差 | $\mathbf{0.00\times10^{0}}$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。対称性は $\mathbf{1.600000}$ だけ壊れているのに、相反は厳密に成り立っている。ただし成り立っているのは $L(B)=L(-B)^{\top}$ という形で、$L=L^{\top}$ ではない。
観察 3.3 磁場を切れば戻る。$B=0$ では $|L_{12}-L_{21}|$ が $10^{-15}$ の桁、境目の反対側。磁場が入っているときだけ、条件の形が変わる。
観察 3.4 要求しているのは時間反転である。微視的な運動方程式を時間で反転させると磁場の符号も変わる。論文77 が扱った微視の側の性質が、ここで条件として現れている。
観察 3.5 だから「対称だから成り立つ」とは言えない。対称でなくても成り立つ場合がある。前三つの説明をそのまま四つ目に当てると、間違える。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、いくつの状態を要るかである。前三つは一つの作用素について書ける。四つ目は $B$ と $-B$ という二つの状態を並べないと書けない。
観察 4.2 論文300 の「量の持ち物」で三対一に分かれる。前三つは作用素という持ち物だけを要る。四つ目は外場の符号という持ち物を追加で要る。
観察 4.3 実務でも差が出る。相反でない素子を作るには、磁場のような時間反転を破るものが要る。対称性を崩すだけでは足りない。四つ目の条件を崩さなければならない。
観察 4.4 論文143 の柵の一つがこれである。あちらは最小エントロピー生成が柵つきの定理だと示した。その柵にオンサーガー関係が含まれ、その関係自体が磁場のもとで形を変える。
観察 4.5 四つで尽きるとは書かない。数えたのは四つである。尽くしたと言うには、尽くし方を先に決めなければならない。
観察 4.6 言わないこと。オンサーガー関係を証明しない。微視的可逆性からの導出には立ち入らず、線形応答の枠内だけを見た。
5. 点呼と結び
- 対称なら差が $\mathbf{0.00\times10^{0}}$(計算 2.1):恒等式。
- 非対称なら $\mathbf{0.029851}$(計算 2.1):相対 $\mathbf{0.6667}$。
- 光学と電磁気も同じ形(観察 2.4):一つの性質だけ。
- 対称性の破れ $\mathbf{1.600000}$(計算 3.1):磁場があるとき。
- それでも相反は厳密(観察 3.2):本稿の芯。
- 成り立つ形は $L(B)=L(-B)^{\top}$(観察 3.2):$L=L^{\top}$ ではない。
- $B=0$ で戻る(観察 3.3):境目の反対側。
- 要求は時間反転(観察 3.4):微視の性質。
- 分離子は状態の数(観察 4.1):一つか二つか。
- 三対一に分かれる(観察 4.2):持ち物が違う。
- 四つで尽きるとは書かない(観察 4.5):数えたのは四つ。
結び:光学にも、電磁気にも、構造にも、熱力学にも「相反定理」がある。三つは作用素の対称性だけを要る。対称な剛性行列では $f_{1}\cdot u_{2}$ と $f_{2}\cdot u_{1}$ の差が $\mathbf{0.00\times10^{0}}$ で、丸めの桁ですらなくちょうど零になる。近似ではなく恒等式である。非対称にすると差は $\mathbf{0.029851}$、相対で $\mathbf{0.6667}$ になり、相反が「いつでも成り立つ」のではないことが分かる。光学も電磁気も同じ形で、媒質が相反的であれば作用素が対称になる。要求されるのは一つの作用素についての一つの性質だけである。四つ目は、対称でなくても成り立つ、磁場に奇な項を持つ線形応答行列では $|L_{12}-L_{21}|=\mathbf{1.600000}$ と対称性が壊れているのに、$L(B)$ と $L(-B)$ の転置は差 $\mathbf{0.00\times10^{0}}$ で一致する。成り立っているのは $L(B)=L(-B)^{\top}$ という形であって、$L=L^{\top}$ ではない。磁場を切れば $|L_{12}-L_{21}|$ は $10^{-15}$ の桁に落ちて普通の対称性に戻るので、条件の形が変わるのは磁場が入っているときだけである。要求されているのは時間反転で、微視的な運動方程式を時間で反転させると磁場の符号も変わる。論文77 が扱った微視の側の性質が、ここでは条件として現れている。分離子は、いくつの状態を要るかである。前三つは一つの作用素について書けるが、四つ目は $B$ と $-B$ という二つの状態を並べないと書けない。論文300 の「量の持ち物」でいえば、前三つは作用素だけを要り、四つ目は外場の符号を追加で要る。三対一に分かれる。実務でも差が出る。相反でない素子を作るには時間反転を破るものが要り、対称性を崩すだけでは足りない。論文143 は最小エントロピー生成が柵つきの定理だと示した。その柵の一つがオンサーガー関係であり、関係そのものが磁場のもとで形を変える。だから前三つの説明をそのまま四つ目に当てると間違える。正直に言えば、オンサーガー関係を証明していない。微視的可逆性からの導出には立ち入らず、関係の形だけを数で見た。行列は説明のために置いたもので、特定の物質の係数ではない。線形応答の枠内だけを見ており、非線形な場合には広げていない。アイソレータやサーキュレータの実装も述べていない。四つで尽きるとも書かない。「同じ定理だ」とも「無関係だ」とも書かない。共有しているのは形であり、要求している条件が違う、そこまでである。
参考文献
- Betti, E. (1872). Teoria della elasticita. Il Nuovo Cimento.
- Helmholtz, H. von (1856). Handbuch der physiologischen Optik. Voss.
- Lorentz, H. A. (1895). Het theorema van Poynting over de energie in het electromagnetisch veld en een paar algemeene stellingen over de voortplanting van het licht. Verslagen der Afdeeling Natuurkunde.
- Onsager, L. (1931). Reciprocal Relations in Irreversible Processes I. Physical Review.
- 山岸勇輝 (2026). 『リューヴィルの定理と時間の矢:微視の保存と粗視の増大』[論文77]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21722473
- 山岸勇輝 (2026). 『ホップは三人いる』[論文125]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22079384
- 山岸勇輝 (2026). 『最小エントロピー生成は、原理ではなく柵つきの定理である』[論文143]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082367
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「「相反」は四つあり、三つは対称性だけを要り、一つは時間反転を要る」[論文542]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014145
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「相反」は四つあり、三つは対称性だけを要り、一つは時間反転を要る [論文542]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/542 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014145
Yamagishi, Y. (2026). ``Reciprocity'' Is Four Theorems: Three Need Only Symmetry, One Needs Time Reversal [Paper 542]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/542; DOI: 10.5281/zenodo.23014145
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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