要旨
円柱の後ろにできるカルマン渦の振動数は、流速と直径から決まる。本稿が示すのは、その比を無次元にした数がレイノルズ数の三桁の変化に対してほとんど動かず、そのことが振動数の式を単純にしていることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、ストローハル数はほとんど動かない。レイノルズ数 $100$ で $\mathbf{0.167056}$、$1000$ で $\mathbf{0.207506}$、$100000$ で $\mathbf{0.211955}$ である(第2節)。
第二に、それでも零ではない。レイノルズ数が $1000$ 倍動くあいだに、$\mathbf{1.268766}$ 倍だけ変わる(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。動かないおかげで、振動数が $U/D$ に比例する。$U$ を $10$ 倍にすると振動数も $10$ 倍、$D$ を $10$ 倍にすると $10$ 分の $1$ になる(第3節)。
第四に、両方を同じだけ大きくすると振動数は変わらない。$U=10$、$D=0.01$ と $U=100$、$D=0.1$ はどちらも $\mathbf{200.00}$ Hz である(第3節)。
第五に、レイノルズ数が同じでも振動数は違う。どちらも $6667$ なのに $\mathbf{200.00}$ Hz と $\mathbf{2.00}$ Hz で、$\mathbf{100}$ 倍違う(第4節)。
第六に、分離子は、無次元の量が二つあることである。レイノルズ数は流れの様子を決め、ストローハル数は時間の目盛を決める(第4節)。
キーワード:カルマン渦列、ストローハル数、レイノルズ数、渦放出、円柱の後流。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。カルマン渦列も、ストローハル数も、ロシュコの相関式も標準的である。流れを解かない。ナヴィエ=ストークス方程式を解いておらず、相関式に値を入れて比べただけである。なぜほぼ一定なのかを説明しない。渦の生成機構には立ち入らない。動かないという事実と、その帰結だけを見る。高レイノルズ数の遷移を扱わない。$10^{5}$ を超える領域での急変(抗力の危機)には入らない。形状を一つに固定する。円柱だけを見る。角柱や翼では値が違う。実測との一致を主張しない。相関式は実測の当てはめであり、本稿はその式の性質を見ただけである。振動を設計しない。共振を避ける設計法は主題ではない。既刊との関係:論文117 はスケール不変性が四通りに指数を選ぶと示した。ストローハル数が動かないことは、その四通りのうち「経験」の側にある。論文256 は力学相似が厳密に成り立つ縮尺が $1$ だけだと示した。ストローハル数がほぼ一定なのは、相似が厳密だからではなく、当てはめが良いからである。論文439 はびくつく原因が摩擦の大きさではなく二つの摩擦の差だと示した。あちらも振動の原因を量の差に帰した。本稿は逆に、動かない量が振動数を決めることを見る。論文144 は指数が何が保存しているかの署名だと示した。ここで保存されているのは指数ではなく比そのものである。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。二つの無次元数は「量の持ち物」の基準で別根である。加えたのは、相関式でストローハル数の動きを $\mathbf{1.268766}$ 倍と測ったこと、振動数が $U/D$ に比例することを $12$ 桁で確かめたこと、同じレイノルズ数で振動数が $\mathbf{100}$ 倍違う例を出したこと、分離子を「無次元の量が二つあること」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:一様な流れの中に円柱を置くと、後ろに渦が交互にできて流される。その振動数を $f$、流速を $U$、直径を $D$ として、無次元の数
$$St=\frac{fD}{U}$$
をストローハル数と呼ぶ。流れの様子を決めるもう一つの無次元数はレイノルズ数 $Re=UD/\nu$ である。
観察 1.1 無次元数が二つある。$Re$ と $St$、一般には $St$ が $Re$ の関数になるはずである。
観察 1.2 ところがその関数がほとんど平らである。広い範囲で $St\approx0.2$、平らであることが、振動数の式を単純にしている。
問い:どれだけ平らで、平らだと何が言えるか。
2. どれだけ動かないか
計算 2.1:ロシュコの相関式 $St=0.212(1-21.2/Re)$ で値を出した。
| $Re$ | $St$ |
|---|---|
| $100$ | $\mathbf{0.167056}$ |
| $150$ | $\mathbf{0.182037}$ |
| $1000$ | $\mathbf{0.207506}$ |
| $10000$ | $\mathbf{0.211551}$ |
| $100000$ | $\mathbf{0.211955}$ |
観察 2.2 $Re$ が $1000$ 倍動いて、$St$ は $\mathbf{1.268766}$ 倍しか動かない。$\mathbf{0.167056}$ から $\mathbf{0.211955}$ へ、これが「動かない」の中身である。
観察 2.3 それでも零ではない。$26.9$ パーセント動いている。「定数」と呼ぶと、変わる量を定数と呼ぶことになる。$St\approx0.2$ は近似であって恒等式ではない。
観察 2.4 高い側で飽和する。$Re=10000$ で $\mathbf{0.211551}$、$100000$ で $\mathbf{0.211955}$、$0.212$ へ寄る。動きの大半は低い側で起きている。
観察 2.5 相関式は実測の当てはめである。論文117 の四通りでいえば「経験」の側、恒等式でも次元解析の帰結でもない。だから範囲の外へ持ち出せない。
3. 動かないと、何が言えるか
計算 3.1:$St=0.2$ を固定して、振動数を出した。
| $U$(m/s) | $D$(m) | $f$(Hz) | $Re$ |
|---|---|---|---|
| $1.0$ | $0.01$ | $\mathbf{20.00}$ | $667$ |
| $10.0$ | $0.01$ | $\mathbf{200.00}$ | $6667$ |
| $10.0$ | $0.1$ | $\mathbf{20.00}$ | $66667$ |
| $100.0$ | $0.1$ | $\mathbf{200.00}$ | $666667$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。$U$ を $10$ 倍にすると振動数も $10$ 倍、$D$ を $10$ 倍にすると $10$ 分の $1$、$12$ 桁で成り立つ。$St$ を固定した帰結であって、流れを解いた結果ではない。
観察 3.3 両方を同じだけ大きくすると振動数は変わらない。$U=10$、$D=0.01$ と $U=100$、$D=0.1$ がどちらも $\mathbf{200.00}$ Hz、$Re$ は $6667$ から $666667$ へ $100$ 倍になっているのに、振動数は同じである。
観察 3.4 だから設計の見通しが立つ。寸法と速度から振動数が直に出る。$St$ が動くなら、$Re$ を計算して補正しなければならない。
4. 分離子
計算 4.1:$Re$ が同じで振動数が違う組を作った。$U=10$、$D=0.01$ と $U=1$、$D=0.1$ はどちらも $Re=6667$ である。
| $U$(m/s) | $D$(m) | $Re$ | $f$(Hz) |
|---|---|---|---|
| $10$ | $0.01$ | $6667$ | $\mathbf{200.00}$ |
| $1$ | $0.1$ | $6667$ | $\mathbf{2.00}$ |
観察 4.2 $\mathbf{100}$ 倍違う。同じ $Re$、同じ $St$、違う振動数、$Re$ は流れの様子を決めるが、時間の目盛は決めない。
観察 4.3 分離子は、無次元の量が二つあることである。$Re$ が流れの様子を、$St$ が時間の目盛を担う。片方だけを見て振動数を語ると、$100$ 倍間違える。
観察 4.4 論文300 の「量の持ち物」で別根である。$Re$ は粘性という持ち物を要り、$St$ は要らない。同じ無次元数でも、含んでいる量が違う。
観察 4.5 論文256 との関係。あちらは力学相似が厳密に成り立つ縮尺が $1$ だけだと示した。$St$ がほぼ一定なのは相似が厳密だからではない。当てはめが良いだけで、$26.9$ パーセントは動いている。
観察 4.6 言わないこと。なぜほぼ一定なのかは説明しない。渦の生成機構には立ち入らず、円柱以外の形も、$10^{5}$ を超える遷移も扱わない。
5. 点呼と結び
- $Re=100$ で $St=\mathbf{0.167056}$(計算 2.1):$100000$ で $\mathbf{0.211955}$。
- $1000$ 倍に対して $\mathbf{1.268766}$ 倍(観察 2.2):これが「動かない」の中身。
- それでも $26.9$ パーセント動く(観察 2.3):定数ではない。
- 高い側で $0.212$ に飽和(観察 2.4):動きは低い側。
- 相関式は当てはめ(観察 2.5):範囲の外へ持ち出せない。
- $U$ を $10$ 倍で振動数も $10$ 倍(計算 3.1):本稿の芯。
- $D$ を $10$ 倍で $10$ 分の $1$(計算 3.1):$12$ 桁。
- 両方大きくすると変わらない(観察 3.3):どちらも $\mathbf{200.00}$ Hz。
- 同じ $Re$ で $\mathbf{100}$ 倍違う(計算 4.1):$\mathbf{200.00}$ 対 $\mathbf{2.00}$ Hz。
- 分離子は無次元数が二つ(観察 4.3):様子と目盛。
- $Re$ は粘性を持つ(観察 4.4):$St$ は持たない。
結び:円柱の後ろにできるカルマン渦の振動数は、流速と直径から決まる。ストローハル数はほとんど動かない。ロシュコの相関式で見ると、レイノルズ数 $100$ で $\mathbf{0.167056}$、$1000$ で $\mathbf{0.207506}$、$100000$ で $\mathbf{0.211955}$ になり、$Re$ が $1000$ 倍動くあいだに $\mathbf{1.268766}$ 倍しか変わらない。それでも $26.9$ パーセントは動いているので、「定数」と呼べば変わる量を定数と呼ぶことになる。$St\approx0.2$ は近似であって恒等式ではない。高い側では $0.212$ へ飽和し、動きの大半は低い側で起きている。相関式は実測の当てはめであり、論文117 の四通りでいえば「経験」の側に属するので、範囲の外へは持ち出せない。動かないおかげで、振動数が $U/D$ に比例する。$St=0.2$ を固定すると、$U$ を $10$ 倍にすれば振動数も $10$ 倍、$D$ を $10$ 倍にすれば $10$ 分の $1$ になり、$12$ 桁で成り立つ。両方を同じだけ大きくすると振動数は変わらず、$U=10$、$D=0.01$ と $U=100$、$D=0.1$ がどちらも $\mathbf{200.00}$ Hz になる。$Re$ は $6667$ から $666667$ へ $100$ 倍になっているのにである。だから寸法と速度から振動数が直に出る。$St$ が動くなら、$Re$ を計算して補正しなければならない。分離子は、無次元の量が二つあることである。$U=10$、$D=0.01$ と $U=1$、$D=0.1$ はどちらも $Re=6667$ なのに、振動数は $\mathbf{200.00}$ Hz と $\mathbf{2.00}$ Hz で $\mathbf{100}$ 倍違う。$Re$ は流れの様子を決めるが、時間の目盛は決めない。片方だけを見て振動数を語ると $100$ 倍間違える。論文300 の「量の持ち物」でいえば、$Re$ は粘性を要り、$St$ は要らない。同じ無次元数でも含んでいる量が違う。論文256 は力学相似が厳密に成り立つ縮尺が $1$ だけだと示した。$St$ がほぼ一定なのは相似が厳密だからではなく、当てはめが良いだけである。正直に言えば、流れを解いていない。ナヴィエ=ストークス方程式を解かず、相関式に値を入れて比べただけである。なぜほぼ一定なのかも説明しておらず、渦の生成機構には立ち入っていない。円柱だけを見たので角柱や翼では値が違い、$10^{5}$ を超える領域での急変も扱っていない。実測との一致も主張しておらず、相関式そのものが当てはめである。共振を避ける設計法も述べていない。言えるのは、動かない無次元数が一つあると振動数の式が単純になり、もう一つの無次元数だけを見ると $100$ 倍間違える、そこまでである。
参考文献
- Roshko, A. (1954). On the Development of Turbulent Wakes from Vortex Streets. NACA Report 1191.
- Strouhal, V. (1878). Uber eine besondere Art der Tonerregung. Annalen der Physik.
- von Karman, T. (1911). Uber den Mechanismus des Widerstandes, den ein bewegter Korper in einer Flussigkeit erfahrt. Nachrichten von der Gesellschaft der Wissenschaften zu Gottingen.
- Williamson, C. H. K. (1996). Vortex Dynamics in the Cylinder Wake. Annual Review of Fluid Mechanics.
- 山岸勇輝 (2026). 『スケール不変性は、四通りに指数を選ぶ』[論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
- 山岸勇輝 (2026). 『指数は、何が保存しているかの署名である』[論文144]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082585
- 山岸勇輝 (2026). 『力学相似が厳密に成り立つ縮尺は、$1$ だけである』[論文256]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168919
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『びくつく原因は摩擦の大きさではなく、二つの摩擦の差である』[論文439]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732357
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「レイノルズ数が三桁動いても動かない数が、振動数を決めている」[論文543]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014153
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). レイノルズ数が三桁動いても動かない数が、振動数を決めている [論文543]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/543 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014153
Yamagishi, Y. (2026). A Number That Barely Moves Across Three Decades of Reynolds Number Sets the Frequency [Paper 543]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/543; DOI: 10.5281/zenodo.23014153
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