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【論文573】酸性雨の境目 pH 5.6 は雨の性質で、被害は受け手の性質である

要旨

酸性雨は「pH $5.6$ 未満の雨」と定義され、被害は雨の酸っぱさで語られることが多い。本稿が示すのは、境目の $5.6$ は大気の CO$_2$ が決める雨の性質でそれ自体が動き、被害のほうは雨ではなく、受ける湖に残る中和能で決まることである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、きれいな雨の pH は CO$_2$ との平衡で決まる。$420$ ppm で pH $\mathbf{5.598026}$ である。「$5.6$」はここから来ている(第2節)。

第二に、境目は CO$_2$ で動く。$280$ ppm では $\mathbf{5.685899}$、$560$ ppm では $\mathbf{5.535643}$ で、$280$ から $420$ ppm で $\mathbf{0.087873}$ 下がった(第2節)。

第三に、閉じた式との差は水の電離から来る。閉じた式の $\mathbf{0.088046}$ と $1.7\times10^{-4}$ ずれる。水の電離と CO$_3^{2-}$ を外して解き直すと閉じた式に $10^{-9}$ で戻ることで、ずれの出所を確かめた(第2節)。

第四に、これが本稿の芯である。湖の pH は、中和能が $0$ に近づくまでほとんど動かず、そこで崖のように落ちる。中和能 $1000$ $\mu$eq/L で pH $\mathbf{8.1898}$、$10$ で $\mathbf{6.2213}$、$0$ で $\mathbf{5.5980}$、$-30$ で $\mathbf{4.5198}$ である(第4節)。

第五に、同じ雨でも、耐えられる酸が $\mathbf{214.7099}$ 倍違う。pH $6$ を切るまでに要る酸は、中和能 $1000$ の湖で $\mathbf{994.6324}$、$10$ の湖で $\mathbf{4.6324}$ $\mu$eq/L で、置いた中和能の比 $100$ 倍より大きく開く(第4節)。

第六に、分離子は、雨の側の量か、受け手の側の量か、である。境目は CO$_2$ で、被害は中和能で決まり、二つは別根である(第5節)。

キーワード:酸性雨、pH 5.6、炭酸の平衡、酸中和能、湖沼。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。炭酸の平衡も、酸中和能も標準的である。定数は 25 度の代表値である。CO$_2$ のヘンリー定数 $\log K_H=-1.47$、$\mathrm{p}K_1=6.35$、$\mathrm{p}K_2=10.33$ と置いた。湖を一つの箱として扱う。水の入れ替わり、底の土への硫酸の吸着、岩の風化で中和能が戻る速さは入れていない。「湖に加わる酸」は、湖の水 1 L あたりに加わった強酸の総量という思考実験である。生き物の感受性を扱わない。pH $6$ は比べるための目安で、魚や藻がどこで害を受けるかは述べない。溶け出すアルミニウムも入れていない。雨の化学を網羅しない。アンモニアや土ぼこりのカルシウムが雨の pH を上げる効果は入れていない。既刊との関係:論文569 は、高い観測点ほど海面気圧が仮定の産物になると示した。本稿の境目 $5.6$ も同じ型で、置いた CO$_2$ の濃度の関数になっている。論文408 は、水は蒸発するが塩は蒸発しないので、飲める水でも土地を殺すと示した。入れるものの性質より、受け手に何が残るかが効くという型が共通で、あちらは溜まる塩、こちらは残る中和能である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「境目が CO$_2$ で動く」と「被害が中和能で決まる」は別根である。加えたのは、きれいな雨の pH を電荷の釣り合いから厳密に解き、近似式と突き合わせたこと、境目の動き $\mathbf{0.087873}$ と閉じた式のずれの出所を、項を外して解き直すことで確かめたこと、湖の pH が中和能 $0$ の近くで崖のように落ちることを並べたこと、pH $6$ を切るまでの酸の比 $\mathbf{214.7099}$ を出し、置いた比 $100$ より開く理由を示したこと、分離子を雨の側と受け手の側の区別に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:大気の CO$_2$ の分圧 $p$ と平衡した水では

$$[\mathrm{H_2CO_3^*}]=K_H\,p,\quad
[\mathrm{HCO_3^-}]=\frac{K_1[\mathrm{H_2CO_3^*}]}{[\mathrm{H^+}]},\quad
[\mathrm{CO_3^{2-}}]=\frac{K_2[\mathrm{HCO_3^-}]}{[\mathrm{H^+}]}$$

であり、酸中和能 ANC を含めた電荷の釣り合い

$$\mathrm{ANC}+[\mathrm{H^+}]=[\mathrm{HCO_3^-}]+2[\mathrm{CO_3^{2-}}]+[\mathrm{OH^-}]$$

を解くと pH が出る。ANC を $0$ とし、$[\mathrm{H^+}]=[\mathrm{HCO_3^-}]$ だけを残すと、近似式 $\mathrm{pH}\approx-\tfrac12\log_{10}(K_HK_1p)$ になる。

観察 1.1 酸性雨は「pH $5.6$ 未満の雨」と定義される。そして被害は、雨がどれだけ酸っぱいかで語られることが多い。境目がどこから来て、被害が何で決まるかは、別々に問える。

問い:境目の $5.6$ は何が決めているか。同じ雨が、なぜ湖によって違う被害を生むのか。

2. きれいな雨

計算 2.1:電荷の釣り合いを二分法で解いた。

大気の CO$_2$ きれいな雨の pH
$280$ ppm $\mathbf{5.685899}$
$420$ ppm $\mathbf{5.598026}$
$560$ ppm $\mathbf{5.535643}$

観察 2.2 近似式と突き合わせた。$420$ ppm で近似式は $\mathbf{5.598375}$ で、厳密解と $0.001$ 以内で一致する。「$5.6$」は、CO$_2$ だけが溶けた雨の pH である。

観察 2.3 境目そのものが動く。$280$ から $420$ ppm で、きれいな雨の pH は $\mathbf{0.087873}$ 下がった。同じ「$5.6$」という数で線を引いていても、その線の意味は大気とともに動いている。

観察 2.4 閉じた式とのずれを、項を外して確かめた。近似式からは、動きは $\tfrac12\log_{10}1.5=\mathbf{0.088046}$ と閉じた形で出る。最初の検算では、これと厳密解の動きが $10^{-4}$ で一致すると置いて落とした。実際の差は $1.7\times10^{-4}$ で、閾値を実測する前に置いた私の誤りである。ずれの出所を推測で書かず、解き直して確かめた。水の電離だけを外すと動きは $\mathbf{0.088043819}$ で差は $1.8\times10^{-6}$ に縮み、CO$_3^{2-}$ も外すと閉じた式に $10^{-9}$ で戻る。ずれはほぼ水の電離から来ている。

3. 強い酸を加えた雨

計算 3.1:$420$ ppm と平衡した雨に、強い酸(硫酸や硝酸)を加えた。

加えた強酸 pH
$5$ $\mu$eq/L $\mathbf{5.2181}$
$10$ $\mu$eq/L $\mathbf{4.9747}$
$20$ $\mu$eq/L $\mathbf{4.6922}$
$50$ $\mu$eq/L $\mathbf{4.2999}$

観察 3.2 雨の側は、わずかな酸で大きく動く。$10$ $\mu$eq/L、つまり 1 L に $10$ 万分の $1$ モルほどの強酸で、pH は $5.598026$ から $4.9747$ へ下がる。きれいな雨には、酸を受け止めるものがほとんど無いからである。

4. 受け手の崖

計算 4.1:同じ $420$ ppm の大気と平衡した湖で、酸中和能 ANC を変えて pH を出した。

ANC($\mu$eq/L) pH
$1000$ $\mathbf{8.1898}$
$300$ $\mathbf{7.6713}$
$100$ $\mathbf{7.1957}$
$30$ $\mathbf{6.6760}$
$10$ $\mathbf{6.2213}$
$3$ $\mathbf{5.8430}$
$0$ $\mathbf{5.5980}$
$-10$ $\mathbf{4.9747}$
$-30$ $\mathbf{4.5198}$

観察 4.2 これが本稿の芯である。ANC を $1000$ から $10$ へ $100$ 分の $1$ にしても pH は $2$ ほどしか下がらないが、$10$ から $-30$ へ $40$ だけ動かすと同じくらい下がる。湖の pH は中和能が $0$ に近づくまで粘り、そこで崖のように落ちる。被害を決めているのは雨の pH ではなく、受け手に中和能がどれだけ残っているかである。

計算 4.3:pH がちょうど $6.0$ になる ANC は $\mathbf{5.367552}$ $\mu$eq/L である(その値で解き直すと pH $6.0$ に $10^{-6}$ で戻る)。

計算 4.4:pH $6$ を切るまでに加えられる酸を出した。

湖 pH $6$ を切るまでの酸($\mu$eq/L)
ANC $1000$ $\mathbf{994.6324}$
ANC $10$ $\mathbf{4.6324}$
比 $\mathbf{214.7099}$

観察 4.5 比は置いた中和能の比より開く。中和能の比は $100$ 倍だが、耐えられる酸の比は $214.7099$ 倍である。pH $6$ を保つのに要る $5.367552$ $\mu$eq/L が、小さい湖の余裕の半分を先に食うからである。貧しい湖ほど、見かけより貧しい。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、雨の側の量か、受け手の側の量か、である。境目の $5.6$ は大気の CO$_2$ という雨の側の量で決まり、被害は湖の中和能という受け手の側の量で決まる。雨だけを測っていても、被害は予測できない。

観察 5.2 論文300 の基準では別根である。「境目が CO$_2$ で動く」は気体の溶解の平衡から、「被害が中和能で決まる」は受け手の滴定の形から出る。片方を変えても、もう片方は動かない。

観察 5.3 論文569 と同じ型である。あちらでは、高い観測点ほど海面気圧が置いた気温の関数になった。こちらでは、酸性雨の境目が置いた CO$_2$ の関数になる。基準値そのものが、仮定の上に立っている。

観察 5.4 論文408 と同じ向きの型である。あちらは、飲める水でも塩が土地に溜まり続けて土地を殺した。入れるものの性質より、受け手に何が残るかが効く。あちらは溜まる塩、こちらは減っていく中和能である。

観察 5.5 言わないこと。「雨の pH は気にしなくてよい」とは書かない。中和能を削っていくのは雨の酸である。示したのは、同じ雨の被害が受け手でどれだけ違うか、そして境目の数がどこから来るかである。

6. 点呼と結び

  1. $420$ ppm のきれいな雨は pH $\mathbf{5.598026}$(計算 2.1):「$5.6$」の出どころ。
  2. 近似式 $\mathbf{5.598375}$ と $0.001$ 以内(観察 2.2):二つの解き方の突合せ。
  3. 境目は $\mathbf{0.087873}$ 動いた(観察 2.3):CO$_2$ の関数。
  4. 閉じた式 $\mathbf{0.088046}$ とのずれは水の電離(観察 2.4):項を外して確かめた。
  5. 強酸 $10$ $\mu$eq/L で pH $\mathbf{4.9747}$(計算 3.1):雨には受け止めるものが無い。
  6. 湖の pH は中和能 $0$ の近くで崖(観察 4.2):本稿の芯。
  7. pH $6$ の ANC は $\mathbf{5.367552}$(計算 4.3):解き直して確かめた。
  8. 耐えられる酸の比 $\mathbf{214.7099}$(計算 4.4):置いた比 $100$ より開く。
  9. 分離子は雨の側か受け手の側か(観察 5.1):二つは別根。
  10. 論文569 と同じ型(観察 5.3):基準値が仮定の上に立つ。

結び:酸性雨は「pH $5.6$ 未満の雨」と定義され、被害は雨の酸っぱさで語られることが多い。ところが境目の $5.6$ は、大気の CO$_2$ だけが溶けた雨の pH である。$420$ ppm と平衡した雨は pH $\mathbf{5.598026}$ で、近似式の $\mathbf{5.598375}$ と $0.001$ 以内で一致する。$280$ ppm では $\mathbf{5.685899}$、$560$ ppm では $\mathbf{5.535643}$ で、$280$ から $420$ ppm で境目は $\mathbf{0.087873}$ 下がった。閉じた式の $\mathbf{0.088046}$ とのずれは、最初の検算で閾値を実測前に置いて落としたところで、水の電離と CO$_3^{2-}$ を外して解き直すと閉じた式に戻ることで、ずれがほぼ水の電離から来ていると確かめた。被害のほうは、雨ではなく受け手で決まる。きれいな雨は $10$ $\mu$eq/L の強酸で pH $\mathbf{4.9747}$ まで下がるほど受け止めるものが無いが、湖は中和能が $0$ に近づくまで pH が粘り、そこで崖のように落ちる。中和能 $1000$ で pH $\mathbf{8.1898}$、$10$ で $\mathbf{6.2213}$、$0$ で $\mathbf{5.5980}$、$-30$ で $\mathbf{4.5198}$ である。pH $6$ を切るまでに耐えられる酸は、中和能 $1000$ の湖で $\mathbf{994.6324}$、$10$ の湖で $\mathbf{4.6324}$ $\mu$eq/L で、比は $\mathbf{214.7099}$ 倍、置いた比の $100$ 倍より開く。pH $6$ を保つのに要る $\mathbf{5.367552}$ が、小さい湖の余裕を先に食うからである。分離子は、雨の側の量か、受け手の側の量か、である。境目は CO$_2$ で、被害は中和能で決まり、論文300 の基準で二つは別根である。既刊との位置、論文569 と同じく、基準値そのものが置いた量の関数になっている。論文408 と同じく、入れるものの性質より受け手に何が残るかが効き、あちらは溜まる塩、こちらは減っていく中和能である。正直に言えば、湖は一つの箱として扱い、水の入れ替わりも、土への吸着も、岩の風化で中和能が戻る速さも入れていない。定数は 25 度の代表値で、pH $6$ は比べるための目安であり、生き物がどこで害を受けるかは述べない。そして「雨の pH は気にしなくてよい」とも書かない。中和能を削っていくのは、その雨の酸である。

参考文献

  1. Charlson, R. J., & Rodhe, H. (1982). Factors Controlling the Acidity of Natural Rainwater. Nature.
  2. Likens, G. E., & Bormann, F. H. (1974). Acid Rain: A Serious Regional Environmental Problem. Science.
  3. Stumm, W., & Morgan, J. J. (1996). Aquatic Chemistry: Chemical Equilibria and Rates in Natural Waters (3rd ed.). Wiley.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  5. 山岸勇輝 (2026). 『水は蒸発するが、塩は蒸発しない。だから飲める水でも土地を殺す』[論文408]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699566
  6. 山岸勇輝 (2026). 『高い観測点ほど、海面気圧は仮定の産物になる』[論文569]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014282

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「酸性雨の境目 pH 5.6 は雨の性質で、被害は受け手の性質である」[論文573]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014302

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 酸性雨の境目 pH 5.6 は雨の性質で、被害は受け手の性質である [論文573]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/573 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014302

Yamagishi, Y. (2026). The pH 5.6 Line of Acid Rain Belongs to the Rain, and the Damage to What Receives It [Paper 573]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/573; DOI: 10.5281/zenodo.23014302

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