Yamagishi Complexity Torus Lab山岸勇輝ラボ

【論文578】飲む間隔を決めるのは、半減期と治療域の幅の二つである

要旨

薬には「一日三回」「一日一回」と飲む間隔が決まっている。本稿が示すのは、間隔を決めているのは半減期と治療域の幅の二つだけであり、一日の量が同じなら平均の濃度は間隔に依らず、間隔が変えるのは山と谷の比だけであることである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、定常での山と谷の比は $2^{\tau/t_{1/2}}$ である。半減期 $1$ 時間の薬を $8$ 時間おきに飲むと $\mathbf{256.000000}$ 倍、半減期 $40$ 時間を $24$ 時間おきなら $\mathbf{1.515717}$ 倍である(第2節)。

第二に、たまり方は $1/(1-2^{-\tau/t_{1/2}})$ である。短い半減期を長い間隔で飲むとほとんどたまらず($\mathbf{1.003922}$)、半減期 $40$ 時間を $24$ 時間おきなら $\mathbf{2.939050}$ 倍にたまる(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。治療域の幅 $W$ に収めるには $\tau\le t_{1/2}\log_2W$ でなければならない。幅が $2$ 倍なら間隔は半減期の $\mathbf{1.000000}$ 倍まで、$3$ 倍なら $\mathbf{1.584963}$ 倍、$10$ 倍なら $\mathbf{3.321928}$ 倍までである(第3節)。

第四に、一日の量が同じなら、平均は間隔に依らない。半減期 $8$ 時間で間隔を $4$・$8$・$12$・$24$ 時間と変えても平均は $\mathbf{0.480898}$ のままで、山と谷の比だけが $\mathbf{1.414214}$ から $\mathbf{8.000000}$ まで開く(第4節)。

第五に、定常に近づく速さは、半減期の回数で決まる。$4$ 半減期で定常の $\mathbf{0.937500}$、$5$ 半減期で $\mathbf{0.968750}$ で、間隔にも一回の量にも依らない(第5節)。

第六に、分離子は、平均か揺れか、である。平均は一日の量が決め、揺れは $\tau/t_{1/2}$ が決める。二つのつまみは別々である(第6節)。

キーワード:薬物動態、半減期、治療域、投与間隔、定常状態。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。一コンパートメント模型での繰り返し投与の式はすべて標準的である。最も単純な模型に限る。体を一つの箱とし、消失は一次、吸収は瞬時とした。飲み薬では吸収に時間がかかって山が低くなるが、入れていない。消失が一次であることを前提にしている。消失の仕組みが飽和して一次でなくなる薬では、ここの式は使えない。人による違いを扱わない。半減期は年齢・腎臓や肝臓の働き・併用する薬で変わる。治療域の幅は比として置いた。どの薬がどの幅かは述べない。薬の名前も挙げない。平均の濃度は、一日の量を $1$、体積を $1$ とした単位で書いた。服薬を指示しない。飲み方は医師と薬剤師が決めることで、本稿は式の形を見るだけである。既刊との関係:論文346 は、三つの反応次数のうち二つでは半減期が物質の性質ですらないと示した。本稿の式はすべて一次の消失の上に立つ。一次だから、半減期が一つの数で言え、山と谷の比が $2^{\tau/t_{1/2}}$ という閉じた形になる。論文386 は射程注記で薬を設計しないとしていた。あちらは溶ける速さ(体への入口)、こちらは消える速さ(出口)の側である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「平均が動かない」と「揺れが間隔で変わる」は別根である。加えたのは、山と谷の比とたまり方を並べたこと、治療域の幅に収める条件を $\tau\le t_{1/2}\log_2W$ という閉じた形に置き、その間隔で比がちょうど $W$ に戻ることを確かめたこと、一日の量が同じなら平均が間隔に依らないことを数値積分と閉じた式で確かめたこと、分離子を平均と揺れの区別に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:体を一つの箱とし、薬は一次で消える(速さの定数 $k=\ln2/t_{1/2}$)。量 $D$ を間隔 $\tau$ で繰り返し入れると、定常での濃度は

$$C(t)=\frac{D}{V}\,\frac{e^{-kt}}{1-e^{-k\tau}}\quad(0\le t<\tau)$$

で、山と谷の比、たまり方、平均は

$$\frac{C_{\max}}{C_{\min}}=2^{\tau/t_{1/2}},\qquad
R=\frac{1}{1-2^{-\tau/t_{1/2}}},\qquad
\bar C=\frac{D}{Vk\tau}$$

になる。

観察 1.1 薬には「一日三回」「一日一回」と間隔が決まっている。その回数は、薬の強さや量で決まっているように見える。何が間隔を決め、間隔を変えると何が変わるのかは、式の形から読める。

問い:何が飲む間隔を決めるのか。間隔を変えると何が変わり、何が変わらないのか。

2. 山と谷

計算 2.1:半減期と間隔の組で、定常での山と谷の比とたまり方を出した。

半減期 間隔 山と谷の比 たまり方
$1$ 時間 $8$ 時間 $\mathbf{256.000000}$ $\mathbf{1.003922}$
$4$ 時間 $8$ 時間 $\mathbf{4.000000}$ $\mathbf{1.333333}$
$8$ 時間 $8$ 時間 $\mathbf{2.000000}$ $\mathbf{2.000000}$
$8$ 時間 $24$ 時間 $\mathbf{8.000000}$ $\mathbf{1.142857}$
$40$ 時間 $24$ 時間 $\mathbf{1.515717}$ $\mathbf{2.939050}$

観察 2.2 半減期の短い薬を長い間隔で飲むと、山と谷が桁で違う。半減期 $1$ 時間を $8$ 時間おきなら $256$ 倍、山では強すぎ、谷ではほとんど効かない。しかも次を飲むまでにほぼ消えるので、たまりもしない($1.003922$ 倍)。

観察 2.3 間隔が半減期に等しいと、比もたまり方もちょうど $2$ である。たまり方 $1/(1-2^{-1})$ はちょうど $2$ に戻る($10^{-12}$)、一回飲むごとに、前の分の半分が残っているからである。

3. 治療域に収める

計算 3.1:効く濃度の下限と、害の出る濃度の上限の比を治療域の幅 $W$ とする。山と谷の比が $W$ を超えないための間隔の上限は $\tau/t_{1/2}=\log_2W$ である。

治療域の幅 $W$ 間隔の上限(半減期の何倍か)
$1.5$ 倍 $\mathbf{0.584963}$
$2$ 倍 $\mathbf{1.000000}$
$3$ 倍 $\mathbf{1.584963}$
$10$ 倍 $\mathbf{3.321928}$

観察 3.2 その間隔で、山と谷の比はちょうど $W$ に戻る(四つとも $10^{-12}$)。条件は $\tau\le t_{1/2}\log_2W$ で、半減期と治療域の幅の二つしか入っていない。これが本稿の芯である。飲む間隔を決めているのは、薬の強さでも一回の量でもなく、半減期と治療域の幅の二つだけである。

観察 3.3 治療域の狭い薬は、間隔を延ばせない。幅が $2$ 倍しかなければ、間隔は半減期より長くできない。幅が $10$ 倍あれば、半減期の三倍余り($3.321928$)まで延ばせる。

4. 平均は動かない

計算 4.1:半減期 $8$ 時間で、一日の量を $1$、体積を $1$ に固定し、それを何回に分けるかだけを変えた。定常での平均を数値積分と閉じた式の二つで出した(四つとも $10^{-9}$ で一致)。

間隔 平均の濃度 山と谷の比
$4$ 時間 $\mathbf{0.480898}$ $\mathbf{1.414214}$
$8$ 時間 $\mathbf{0.480898}$ $\mathbf{2.000000}$
$12$ 時間 $\mathbf{0.480898}$ $\mathbf{2.828427}$
$24$ 時間 $\mathbf{0.480898}$ $\mathbf{8.000000}$

観察 4.2 一日の量が同じなら、平均は間隔に依らない。閉じた式の平均 $1/(24k)=\mathbf{0.480898}$ には、間隔が入っていない。一日に入る量と、一日に消える量が釣り合うところに平均が決まるからである。間隔で変わるのは、山と谷の比だけである。

観察 4.3 「回数を増やすとよく効く」の半分は当たらない。同じ一日の量を細かく分けても、平均は上がらない。揺れが小さくなり、谷で治療域を割りにくくなるだけである。

5. 定常に近づく速さ

計算 5.1:飲み始めてから、半減期の何回分で定常にどれだけ近づくかを出した。

経った時間 定常に対する割合
$1$ 半減期 $\mathbf{0.500000}$
$2$ 半減期 $\mathbf{0.750000}$
$3$ 半減期 $\mathbf{0.875000}$
$4$ 半減期 $\mathbf{0.937500}$
$5$ 半減期 $\mathbf{0.968750}$

観察 5.2 定常に近づく速さは、半減期の回数で決まる。間隔にも一回の量にも依らない。半減期 $40$ 時間の薬は、何回に分けても、定常のおよそ九割四分に達するのに一週間ほどかかる。

6. 分離子

観察 6.1 分離子は、平均か揺れか、である。平均は一日の量と消える速さが決め、揺れ(山と谷の比)は $\tau/t_{1/2}$ が決める。二つのつまみは別々で、一日の量を変えても揺れは変わらず、間隔を変えても平均は変わらない。

観察 6.2 論文346 の上に立っている。あちらは、三つの反応次数のうち二つでは半減期が物質の性質ですらないと示した。本稿の式が閉じた形になるのは、消失が一次だからである。消失の仕組みが飽和して零次に近づけば、$2^{\tau/t_{1/2}}$ は成り立たない。

観察 6.3 論文386 と入口と出口で対になる。あちらは溶ける速さ、つまり体への入口の側を扱い、射程注記で薬を設計しないとしていた。こちらは消える速さ、出口の側である。「溶けにくい」が二つの量を指したように、「効き目が続く」も平均と揺れの二つを指している。

観察 6.4 論文300 の基準では別根である。「平均が動かない」は、入る量と消える量の釣り合いから出る。「揺れが間隔で変わる」は、一次の減り方の形から出る。根が違うので、片方を動かしてももう片方は動かない。

観察 6.5 言わないこと。服薬を指示しない。飲み方は医師と薬剤師が決めることである。示したのは、間隔を決める二つの数と、間隔が変えるものと変えないものの区別だけである。

7. 点呼と結び

  1. 山と谷の比 $2^{\tau/t_{1/2}}$(計算 2.1):半減期 $1$・間隔 $8$ で $\mathbf{256.000000}$。
  2. 半減期 $40$・間隔 $24$ で $\mathbf{1.515717}$(計算 2.1):たまり方 $\mathbf{2.939050}$。
  3. 間隔が半減期に等しいと比もたまり方も $2$(観察 2.3):前の分の半分が残る。
  4. 治療域に収める条件 $\tau\le t_{1/2}\log_2W$(計算 3.1):本稿の芯。
  5. 幅 $2$ で $\mathbf{1.000000}$、$10$ で $\mathbf{3.321928}$(計算 3.1):半減期の何倍まで延ばせるか。
  6. 平均は $\mathbf{0.480898}$ のまま(計算 4.1):間隔に依らない。
  7. 揺れだけが $\mathbf{1.414214}$ から $\mathbf{8.000000}$ へ(計算 4.1):間隔が変えるもの。
  8. $4$ 半減期で $\mathbf{0.937500}$(計算 5.1):定常に近づく速さは半減期の回数。
  9. 分離子は平均か揺れか(観察 6.1):二つのつまみは別々。
  10. 論文346 の上に立つ(観察 6.2):一次だから閉じた形になる。

結び:薬には「一日三回」「一日一回」と飲む間隔が決まっている。その間隔を決めているのは、半減期と治療域の幅の二つだけである。定常での山と谷の比は $2^{\tau/t_{1/2}}$ で、半減期 $1$ 時間の薬を $8$ 時間おきに飲めば $\mathbf{256.000000}$ 倍、半減期 $40$ 時間を $24$ 時間おきなら $\mathbf{1.515717}$ 倍である。たまり方は $1/(1-2^{-\tau/t_{1/2}})$ で、$\mathbf{1.003922}$ から $\mathbf{2.939050}$ まで開き、間隔が半減期に等しいと比もたまり方もちょうど $2$ になる。治療域の幅 $W$ に収める条件は $\tau\le t_{1/2}\log_2W$ で、幅 $2$ なら間隔は半減期の $\mathbf{1.000000}$ 倍まで、$10$ なら $\mathbf{3.321928}$ 倍までである。一日の量が同じなら、平均の濃度は間隔に依らない。半減期 $8$ 時間で間隔を $4$ から $24$ 時間まで変えても、平均は $\mathbf{0.480898}$ のままで、数値積分と閉じた式が一致した。変わるのは山と谷の比だけで、$\mathbf{1.414214}$ から $\mathbf{8.000000}$ まで開く。回数を増やしても平均は上がらず、揺れが小さくなるだけである。定常に近づく速さは半減期の回数で決まり、$4$ 半減期で $\mathbf{0.937500}$、間隔にも一回の量にも依らない。分離子は、平均か揺れか、である。平均は一日の量が決め、揺れは $\tau/t_{1/2}$ が決める。論文300 の基準で二つは別根で、片方を動かしてももう片方は動かない。既刊との位置、本稿の式は論文346 の上に立ち、消失が一次だから半減期が一つの数で言え、比が閉じた形になる。論文386 が溶ける速さという入口を見たのに対し、本稿は消える速さという出口を見る。正直に言えば、体を一つの箱とし、吸収は瞬時、消失は一次とした最も単純な模型である。飲み薬の吸収の遅れも、消失の飽和も、人による違いも入れておらず、治療域の幅は比として置いただけで薬の名前も挙げない。そして服薬を指示しない。飲み方は医師と薬剤師が決めることである。

参考文献

  1. Gibaldi, M., & Perrier, D. (1982). Pharmacokinetics (2nd ed.). Marcel Dekker.
  2. Rowland, M., & Tozer, T. N. (2011). Clinical Pharmacokinetics and Pharmacodynamics: Concepts and Applications (4th ed.). Lippincott Williams & Wilkins.
  3. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三つの反応次数のうち二つでは、「半減期」は物質の性質ですらない』[論文346]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682323
  5. 山岸勇輝 (2026). 『溶解度は一つも動いていないのに、溶ける速さが $1000$ 倍になる』[論文386]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699119

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「飲む間隔を決めるのは、半減期と治療域の幅の二つである」[論文578]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014328

YOI 578第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/578・DOI 10.5281/zenodo.23014328・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 飲む間隔を決めるのは、半減期と治療域の幅の二つである [論文578]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/578 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014328

Yamagishi, Y. (2026). What Sets a Dosing Interval Is Two Things: the Half-Life and the Width of the Therapeutic Window [Paper 578]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/578; DOI: 10.5281/zenodo.23014328

@misc{yamagishi2026yoi578,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {What Sets a Dosing Interval Is Two Things: the Half-Life and the Width of the Therapeutic Window},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/578},
  doi = {10.5281/zenodo.23014328},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
a345643b2b315c0e339f1dd6e653bdf70de896735ef3af0ba026696604b99c9b yamagishi_yoi578_v1_jp.pdf
70e722ec32341413b30fb54a07b58b5d87c5fa9b11bd47b243f8ebc3c08f07b9 yamagishi_yoi578_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。