Yamagishi Complexity Torus Lab山岸勇輝ラボ

【論文577】火は時間の二乗で育つので、同じ一分の遅れの重さが変わる

要旨

火災では「一分一秒を争う」と言われる。本稿が示すのは、火が時間の二乗で育つとき、同じ一分の遅れの重さは火の育ち方と、いつ気づいたかで大きく変わり、しかも早く気づいた火ほど、その後の遅れが重いことである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、育ち方の係数は標準の分類から出る。$1055$ kW に達するまで $600$・$300$・$150$・$75$ 秒の四つの火で、$\alpha=\mathbf{0.002931}$・$\mathbf{0.011722}$・$\mathbf{0.046889}$・$\mathbf{0.187556}$ kW/s$^2$ である(第2節)。

第二に、同じ $60$ 秒の遅れが、育ち方で $\mathbf{1.7551}$ 倍から $\mathbf{12.9489}$ 倍まで違う。それまでに出た熱では $\mathbf{2.3252}$ 倍から $\mathbf{46.5962}$ 倍である(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。遅れの重さは $(1+\Delta t/t_d)^2$ で、気づいた時刻 $t_d$ に依る。$50$ 秒で気づいた火の $60$ 秒の遅れは $\mathbf{4.840000}$ 倍、$400$ 秒で気づいた火なら $\mathbf{1.322500}$ 倍である(第3節)。

第四に、$120$ 秒で気づいた火が $60$ 秒遅れると、発熱速度はちょうど $\mathbf{2.250000}$ 倍、出た熱は $\mathbf{3.375000}$ 倍である。$(3/2)^2$ と $(3/2)^3$ である(第3節)。

第五に、育ち方の型が、遅れの性質を変える。$100$ 秒で気づいて $60$ 秒遅れると、一次の成長で $\mathbf{1.600000}$ 倍、二次で $\mathbf{2.560000}$ 倍、$60$ 秒で $e$ 倍になる指数の成長で $\mathbf{2.718282}$ 倍になり、指数だけは気づいた時刻に依らない(第4節)。

第六に、分離子は、成長が冪か指数か、である。冪なら遅れの重さは「いつ気づいたか」で決まり、指数なら「どれだけ遅れたか」だけで決まる(第5節)。

キーワード:t² 火災、火災の成長、感知の遅れ、発熱速度、スプリンクラー。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。発熱速度が時間の二乗で育つ火の模型も、その成長の分類も標準的である。育つ段階だけを見る。燃え広がりの限界、換気で頭打ちになる段階、燃え尽きは入れていない。気づく点を $100$ kW に置いた。感知器が働く発熱速度は、天井の高さや感知器の種類で変わる。本稿の $100$ kW は比べるための代表値である。火災の対策を設計しない。感知器やスプリンクラーの選び方、配置、放水の量は扱わない。「何秒以内に」とも書かない。水で奪う熱は、$20$ 度の水が蒸発するまでで見積もった。実際に火を抑えるのに要る水は、水が火に届く割合で大きく変わる。既刊との関係:論文558 は、同じ「一割」が、どの寸法かで $1.4641$ 倍にも $0.7513$ 倍にもなることを示した。本稿も「同じ操作が別の結果になる」型だが、変わるのは寸法ではなく、成長曲線のどこで気づいたかである。論文283 は、同じ「二倍にする」が、仕組みで桁違いに違う結果になることを示した。本稿では同じ遅れが、育ち方の型で性質ごと変わる。冪なら気づいた時刻に依り、指数なら依らない。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「火が速いほど遅れが重い」と「早く気づいた火ほど遅れが重い」は、$\Delta t/t_d$ という一つの比から出る同根である。加えたのは、標準の分類から四つの火の係数を出し、同じ $60$ 秒の遅れの重さを並べたこと、遅れの重さが $(1+\Delta t/t_d)^2$ で気づいた時刻に依ることを示したこと、一次・二次・指数の三つの成長で遅れの性質を比べたこと、分離子を「冪か指数か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:発熱速度が $Q(t)=\alpha t^2$ で育つ火を考える。発熱速度 $Q_d$ で気づくとすると、気づく時刻は $t_d=\sqrt{Q_d/\alpha}$ で、そこから $\Delta t$ 遅れると

$$\frac{Q(t_d+\Delta t)}{Q(t_d)}=\left(1+\frac{\Delta t}{t_d}\right)^{2},\qquad
\frac{E(t_d+\Delta t)}{E(t_d)}=\left(1+\frac{\Delta t}{t_d}\right)^{3}$$

になる。$E=\alpha t^3/3$ はそれまでに出た熱である。

観察 1.1 火災では「一分一秒を争う」と言われる。その一分がどれだけ重いかは、火がどう育つかで決まる。一分という時間は同じでも、その間に火がどれだけ大きくなるかは同じではない。

問い:同じ $60$ 秒の遅れは、どの火でも同じ重さか。

2. 育ち方の係数と、同じ遅れ

計算 2.1:$1055$ kW に達するまでの時間で火を四つに分ける標準の分類から $\alpha$ を出し、$100$ kW で気づいてから $60$ 秒遅れた場合を計算した。

育ち方 $\alpha$(kW/s$^2$) $100$ kW まで 発熱速度 出た熱
遅い($600$ 秒) $\mathbf{0.002931}$ $\mathbf{184.7247}$ 秒 $\mathbf{1.7551}$ 倍 $\mathbf{2.3252}$ 倍
中($300$ 秒) $\mathbf{0.011722}$ $\mathbf{92.3624}$ 秒 $\mathbf{2.7212}$ 倍 $\mathbf{4.4890}$ 倍
速い($150$ 秒) $\mathbf{0.046889}$ $\mathbf{46.1812}$ 秒 $\mathbf{5.2865}$ 倍 $\mathbf{12.1548}$ 倍
極速($75$ 秒) $\mathbf{0.187556}$ $\mathbf{23.0906}$ 秒 $\mathbf{12.9489}$ 倍 $\mathbf{46.5962}$ 倍

観察 2.2 同じ $60$ 秒が、$1.7551$ 倍から $12.9489$ 倍まで違う。どの行でも $\alpha t_d^2$ はちょうど $100$ kW に戻る($10^{-9}$)、極めて速い火は $23.0906$ 秒で $100$ kW に達するので、$60$ 秒はそれまで育ってきた時間の二倍半にあたる。遅い火では $60$ 秒はそれまでの三分の一にすぎない。

3. いつ気づいたか

計算 3.1:同じ二乗の火で、気づいた時刻 $t_d$ だけを変え、そこから $60$ 秒遅れた場合を並べた。

気づいた時刻 $60$ 秒遅れたときの発熱速度
$50$ 秒 $\mathbf{4.840000}$ 倍
$100$ 秒 $\mathbf{2.560000}$ 倍
$200$ 秒 $\mathbf{1.690000}$ 倍
$400$ 秒 $\mathbf{1.322500}$ 倍

観察 3.2 これが本稿の芯である。二乗の成長では、同じ遅れの重さは気づいた時刻に依り、早く気づいた火ほど重い。「早く気づけば安心」ではない。早く気づいたなら、そこから先の一分がいちばん重い。遅れの重さは、遅れた時間を、それまで育ってきた時間で割った比で決まる。

計算 3.3:$120$ 秒で気づいた火が $60$ 秒遅れると、発熱速度は $(180/120)^2=\mathbf{2.250000}$ 倍、出た熱は $(3/2)^3=\mathbf{3.375000}$ 倍である($10^{-12}$)。

4. 育ち方の型

計算 4.1:$100$ 秒で気づいて $60$ 秒遅れた場合を、三つの育ち方で比べた。

育ち方 $60$ 秒遅れたときの発熱速度
一次($Q\propto t$) $\mathbf{1.600000}$ 倍
二次($Q\propto t^2$) $\mathbf{2.560000}$ 倍
指数($60$ 秒で $e$ 倍) $\mathbf{2.718282}$ 倍

観察 4.2 指数の成長なら、遅れの重さは気づいた時刻に依らない。$e^{\Delta t/\tau}$ には $t_d$ が入っていない。冪の成長では、同じ遅れでも早い時期ほど重い。二乗の火の遅れの重さが時刻に依るのは、成長が冪だからである。

計算 4.3:水で熱を奪う量も見積もった。$20$ 度の水 $1$ kg が蒸発するまでに奪う熱は $\mathbf{2.591880}$ MJ で、$1$ MW を奪うのに毎秒 $\mathbf{0.385820}$ kg の水が要る。

観察 4.4 要る水も発熱速度に比例する。$60$ 秒の遅れで発熱速度が $2.25$ 倍になれば、奪うのに要る水も $2.25$ 倍になる。遅れは、あとで払う水の量として積み上がる。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、成長が冪か指数か、である。冪なら遅れの重さは $(1+\Delta t/t_d)^n$ で、いつ気づいたかで決まる。指数なら $e^{\Delta t/\tau}$ で、どれだけ遅れたかだけで決まる。

観察 5.2 論文558 と同じ型で、変わるものが違う。あちらでは、同じ「一割」が、どの寸法かで $1.4641$ 倍にも $0.7513$ 倍にもなった。こちらでは、同じ「一分」が、成長曲線のどこで気づいたかで $1.322500$ 倍にも $4.840000$ 倍にもなる。

観察 5.3 論文283 と同じ問いの立て方である。あちらでは、同じ「二倍にする」が、仕組みで桁違いに違う結果になった。こちらでは、同じ遅れが育ち方の型で性質ごと変わる。冪なら時刻に依り、指数なら依らない。

観察 5.4 論文300 の基準では同根である。「火が速いほど遅れが重い」と「早く気づいた火ほど遅れが重い」は、どちらも $\Delta t/t_d$ という一つの比から出る。速い火は $t_d$ が短く、早く気づいた火も $t_d$ が短い。

観察 5.5 言わないこと。火災の対策を設計しない。「何秒以内に」とも書かない。示したのは、一分の重さが一つの数ではなく、火の育ち方と、いつ気づいたかの比で決まるということである。

6. 点呼と結び

  1. 四つの火の $\alpha$(計算 2.1):$\mathbf{0.002931}$ から $\mathbf{0.187556}$ kW/s$^2$。
  2. 同じ $60$ 秒で $\mathbf{1.7551}$ 倍から $\mathbf{12.9489}$ 倍(計算 2.1):育ち方で違う。
  3. 出た熱では $\mathbf{2.3252}$ 倍から $\mathbf{46.5962}$ 倍(計算 2.1):三乗で効く。
  4. $50$ 秒で気づくと $\mathbf{4.840000}$ 倍、$400$ 秒なら $\mathbf{1.322500}$ 倍(計算 3.1):本稿の芯。
  5. $120$ 秒で気づいて $60$ 秒遅れると $\mathbf{2.250000}$ 倍(計算 3.3):出た熱は $\mathbf{3.375000}$ 倍。
  6. 一次 $\mathbf{1.600000}$・二次 $\mathbf{2.560000}$・指数 $\mathbf{2.718282}$ 倍(計算 4.1):型で性質が変わる。
  7. 指数だけは気づいた時刻に依らない(観察 4.2):$t_d$ が式に入らない。
  8. $1$ MW に毎秒 $\mathbf{0.385820}$ kg の水(計算 4.3):要る水も比例する。
  9. 分離子は冪か指数か(観察 5.1):いつ気づいたか、か、どれだけ遅れたか、か。
  10. 論文558 と同じ型(観察 5.2):変わるのは寸法ではなく曲線の位置。

結び:火災では「一分一秒を争う」と言われる。ところが同じ一分の重さは、火の育ち方と、いつ気づいたかで大きく変わる。発熱速度が $\alpha t^2$ で育つ火を、$1055$ kW に達するまでの時間で四つに分けると、$\alpha$ は $\mathbf{0.002931}$ から $\mathbf{0.187556}$ kW/s$^2$ まで開く。$100$ kW で気づいてから $60$ 秒遅れると、発熱速度はゆっくり育つ火で $\mathbf{1.7551}$ 倍、極めて速い火で $\mathbf{12.9489}$ 倍になり、それまでに出た熱では $\mathbf{2.3252}$ 倍から $\mathbf{46.5962}$ 倍になる。遅れの重さは $(1+\Delta t/t_d)^2$ で、早く気づいた火ほど、その後の遅れが重い。$50$ 秒で気づいた火の $60$ 秒の遅れは $\mathbf{4.840000}$ 倍、$400$ 秒で気づいた火なら $\mathbf{1.322500}$ 倍である。$120$ 秒で気づいた火なら発熱速度はちょうど $\mathbf{2.250000}$ 倍、出た熱は $\mathbf{3.375000}$ 倍で、奪うのに要る水も同じだけ増える。$1$ MW を奪うには毎秒 $\mathbf{0.385820}$ kg の水が要る。一次の成長なら $\mathbf{1.600000}$ 倍、二次なら $\mathbf{2.560000}$ 倍、指数なら $\mathbf{2.718282}$ 倍で、指数だけは気づいた時刻に依らない。分離子は、成長が冪か指数か、である。冪なら遅れの重さはいつ気づいたかで決まり、指数ならどれだけ遅れたかだけで決まる。論文300 の基準で、「速い火ほど重い」と「早く気づいた火ほど重い」は $\Delta t/t_d$ という一つの比から出る同根である。既刊との位置、論文558 の同じ一割が寸法で別の倍率になったように、同じ一分が曲線のどこにいるかで別の倍率になる。論文283 の同じ二倍が仕組みで桁違いに違ったように、同じ遅れが育ち方の型で性質ごと変わる。正直に言えば、育つ段階だけを見て、燃え広がりの限界も換気の頭打ちも燃え尽きも入れていない。気づく点の $100$ kW は代表値で、感知器もスプリンクラーも設計していない。水の見積もりは蒸発までの熱で、水が火に届く割合は入れていない。そして「何秒以内に」とは書かない。示したのは、一分の重さが一つの数ではないということである。

参考文献

  1. Drysdale, D. (2011). An Introduction to Fire Dynamics (3rd ed.). Wiley.
  2. Hurley, M. J. (Ed.) (2016). SFPE Handbook of Fire Protection Engineering (5th ed.). Springer.
  3. Karlsson, B., & Quintiere, J. G. (2000). Enclosure Fire Dynamics. CRC Press.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『同じ「$Q$ を二倍にする」が、$5.69\times10^{18}$ 倍と $32$ 倍と $8$ 倍になる』[論文283]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171127
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『同じ「一割」が、どの寸法かで $1.4641$ 倍にも $0.7513$ 倍にもなる』[論文558]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014230

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「火は時間の二乗で育つので、同じ一分の遅れの重さが変わる」[論文577]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014319

YOI 577第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/577・DOI 10.5281/zenodo.23014319・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 火は時間の二乗で育つので、同じ一分の遅れの重さが変わる [論文577]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/577 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014319

Yamagishi, Y. (2026). Fire Grows as the Square of Time, So the Weight of the Same Minute's Delay Changes [Paper 577]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/577; DOI: 10.5281/zenodo.23014319

@misc{yamagishi2026yoi577,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {Fire Grows as the Square of Time, So the Weight of the Same Minute's Delay Changes},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/577},
  doi = {10.5281/zenodo.23014319},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
18b5c040033eb9137431d5354baa0f5f777d976dedc590197b3631e6d122fe10 yamagishi_yoi577_v1_jp.pdf
393dd1afafe2f22d5fd996d0ba8710bd6dea9d6de60ca037315ebffc281ded95 yamagishi_yoi577_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。