要旨
火災では「一分一秒を争う」と言われる。本稿が示すのは、火が時間の二乗で育つとき、同じ一分の遅れの重さは火の育ち方と、いつ気づいたかで大きく変わり、しかも早く気づいた火ほど、その後の遅れが重いことである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、育ち方の係数は標準の分類から出る。$1055$ kW に達するまで $600$・$300$・$150$・$75$ 秒の四つの火で、$\alpha=\mathbf{0.002931}$・$\mathbf{0.011722}$・$\mathbf{0.046889}$・$\mathbf{0.187556}$ kW/s$^2$ である(第2節)。
第二に、同じ $60$ 秒の遅れが、育ち方で $\mathbf{1.7551}$ 倍から $\mathbf{12.9489}$ 倍まで違う。それまでに出た熱では $\mathbf{2.3252}$ 倍から $\mathbf{46.5962}$ 倍である(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。遅れの重さは $(1+\Delta t/t_d)^2$ で、気づいた時刻 $t_d$ に依る。$50$ 秒で気づいた火の $60$ 秒の遅れは $\mathbf{4.840000}$ 倍、$400$ 秒で気づいた火なら $\mathbf{1.322500}$ 倍である(第3節)。
第四に、$120$ 秒で気づいた火が $60$ 秒遅れると、発熱速度はちょうど $\mathbf{2.250000}$ 倍、出た熱は $\mathbf{3.375000}$ 倍である。$(3/2)^2$ と $(3/2)^3$ である(第3節)。
第五に、育ち方の型が、遅れの性質を変える。$100$ 秒で気づいて $60$ 秒遅れると、一次の成長で $\mathbf{1.600000}$ 倍、二次で $\mathbf{2.560000}$ 倍、$60$ 秒で $e$ 倍になる指数の成長で $\mathbf{2.718282}$ 倍になり、指数だけは気づいた時刻に依らない(第4節)。
第六に、分離子は、成長が冪か指数か、である。冪なら遅れの重さは「いつ気づいたか」で決まり、指数なら「どれだけ遅れたか」だけで決まる(第5節)。
キーワード:t² 火災、火災の成長、感知の遅れ、発熱速度、スプリンクラー。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。発熱速度が時間の二乗で育つ火の模型も、その成長の分類も標準的である。育つ段階だけを見る。燃え広がりの限界、換気で頭打ちになる段階、燃え尽きは入れていない。気づく点を $100$ kW に置いた。感知器が働く発熱速度は、天井の高さや感知器の種類で変わる。本稿の $100$ kW は比べるための代表値である。火災の対策を設計しない。感知器やスプリンクラーの選び方、配置、放水の量は扱わない。「何秒以内に」とも書かない。水で奪う熱は、$20$ 度の水が蒸発するまでで見積もった。実際に火を抑えるのに要る水は、水が火に届く割合で大きく変わる。既刊との関係:論文558 は、同じ「一割」が、どの寸法かで $1.4641$ 倍にも $0.7513$ 倍にもなることを示した。本稿も「同じ操作が別の結果になる」型だが、変わるのは寸法ではなく、成長曲線のどこで気づいたかである。論文283 は、同じ「二倍にする」が、仕組みで桁違いに違う結果になることを示した。本稿では同じ遅れが、育ち方の型で性質ごと変わる。冪なら気づいた時刻に依り、指数なら依らない。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「火が速いほど遅れが重い」と「早く気づいた火ほど遅れが重い」は、$\Delta t/t_d$ という一つの比から出る同根である。加えたのは、標準の分類から四つの火の係数を出し、同じ $60$ 秒の遅れの重さを並べたこと、遅れの重さが $(1+\Delta t/t_d)^2$ で気づいた時刻に依ることを示したこと、一次・二次・指数の三つの成長で遅れの性質を比べたこと、分離子を「冪か指数か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:発熱速度が $Q(t)=\alpha t^2$ で育つ火を考える。発熱速度 $Q_d$ で気づくとすると、気づく時刻は $t_d=\sqrt{Q_d/\alpha}$ で、そこから $\Delta t$ 遅れると
$$\frac{Q(t_d+\Delta t)}{Q(t_d)}=\left(1+\frac{\Delta t}{t_d}\right)^{2},\qquad
\frac{E(t_d+\Delta t)}{E(t_d)}=\left(1+\frac{\Delta t}{t_d}\right)^{3}$$
になる。$E=\alpha t^3/3$ はそれまでに出た熱である。
観察 1.1 火災では「一分一秒を争う」と言われる。その一分がどれだけ重いかは、火がどう育つかで決まる。一分という時間は同じでも、その間に火がどれだけ大きくなるかは同じではない。
問い:同じ $60$ 秒の遅れは、どの火でも同じ重さか。
2. 育ち方の係数と、同じ遅れ
計算 2.1:$1055$ kW に達するまでの時間で火を四つに分ける標準の分類から $\alpha$ を出し、$100$ kW で気づいてから $60$ 秒遅れた場合を計算した。
| 育ち方 | $\alpha$(kW/s$^2$) | $100$ kW まで | 発熱速度 | 出た熱 |
|---|---|---|---|---|
| 遅い($600$ 秒) | $\mathbf{0.002931}$ | $\mathbf{184.7247}$ 秒 | $\mathbf{1.7551}$ 倍 | $\mathbf{2.3252}$ 倍 |
| 中($300$ 秒) | $\mathbf{0.011722}$ | $\mathbf{92.3624}$ 秒 | $\mathbf{2.7212}$ 倍 | $\mathbf{4.4890}$ 倍 |
| 速い($150$ 秒) | $\mathbf{0.046889}$ | $\mathbf{46.1812}$ 秒 | $\mathbf{5.2865}$ 倍 | $\mathbf{12.1548}$ 倍 |
| 極速($75$ 秒) | $\mathbf{0.187556}$ | $\mathbf{23.0906}$ 秒 | $\mathbf{12.9489}$ 倍 | $\mathbf{46.5962}$ 倍 |
観察 2.2 同じ $60$ 秒が、$1.7551$ 倍から $12.9489$ 倍まで違う。どの行でも $\alpha t_d^2$ はちょうど $100$ kW に戻る($10^{-9}$)、極めて速い火は $23.0906$ 秒で $100$ kW に達するので、$60$ 秒はそれまで育ってきた時間の二倍半にあたる。遅い火では $60$ 秒はそれまでの三分の一にすぎない。
3. いつ気づいたか
計算 3.1:同じ二乗の火で、気づいた時刻 $t_d$ だけを変え、そこから $60$ 秒遅れた場合を並べた。
| 気づいた時刻 | $60$ 秒遅れたときの発熱速度 |
|---|---|
| $50$ 秒 | $\mathbf{4.840000}$ 倍 |
| $100$ 秒 | $\mathbf{2.560000}$ 倍 |
| $200$ 秒 | $\mathbf{1.690000}$ 倍 |
| $400$ 秒 | $\mathbf{1.322500}$ 倍 |
観察 3.2 これが本稿の芯である。二乗の成長では、同じ遅れの重さは気づいた時刻に依り、早く気づいた火ほど重い。「早く気づけば安心」ではない。早く気づいたなら、そこから先の一分がいちばん重い。遅れの重さは、遅れた時間を、それまで育ってきた時間で割った比で決まる。
計算 3.3:$120$ 秒で気づいた火が $60$ 秒遅れると、発熱速度は $(180/120)^2=\mathbf{2.250000}$ 倍、出た熱は $(3/2)^3=\mathbf{3.375000}$ 倍である($10^{-12}$)。
4. 育ち方の型
計算 4.1:$100$ 秒で気づいて $60$ 秒遅れた場合を、三つの育ち方で比べた。
| 育ち方 | $60$ 秒遅れたときの発熱速度 |
|---|---|
| 一次($Q\propto t$) | $\mathbf{1.600000}$ 倍 |
| 二次($Q\propto t^2$) | $\mathbf{2.560000}$ 倍 |
| 指数($60$ 秒で $e$ 倍) | $\mathbf{2.718282}$ 倍 |
観察 4.2 指数の成長なら、遅れの重さは気づいた時刻に依らない。$e^{\Delta t/\tau}$ には $t_d$ が入っていない。冪の成長では、同じ遅れでも早い時期ほど重い。二乗の火の遅れの重さが時刻に依るのは、成長が冪だからである。
計算 4.3:水で熱を奪う量も見積もった。$20$ 度の水 $1$ kg が蒸発するまでに奪う熱は $\mathbf{2.591880}$ MJ で、$1$ MW を奪うのに毎秒 $\mathbf{0.385820}$ kg の水が要る。
観察 4.4 要る水も発熱速度に比例する。$60$ 秒の遅れで発熱速度が $2.25$ 倍になれば、奪うのに要る水も $2.25$ 倍になる。遅れは、あとで払う水の量として積み上がる。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は、成長が冪か指数か、である。冪なら遅れの重さは $(1+\Delta t/t_d)^n$ で、いつ気づいたかで決まる。指数なら $e^{\Delta t/\tau}$ で、どれだけ遅れたかだけで決まる。
観察 5.2 論文558 と同じ型で、変わるものが違う。あちらでは、同じ「一割」が、どの寸法かで $1.4641$ 倍にも $0.7513$ 倍にもなった。こちらでは、同じ「一分」が、成長曲線のどこで気づいたかで $1.322500$ 倍にも $4.840000$ 倍にもなる。
観察 5.3 論文283 と同じ問いの立て方である。あちらでは、同じ「二倍にする」が、仕組みで桁違いに違う結果になった。こちらでは、同じ遅れが育ち方の型で性質ごと変わる。冪なら時刻に依り、指数なら依らない。
観察 5.4 論文300 の基準では同根である。「火が速いほど遅れが重い」と「早く気づいた火ほど遅れが重い」は、どちらも $\Delta t/t_d$ という一つの比から出る。速い火は $t_d$ が短く、早く気づいた火も $t_d$ が短い。
観察 5.5 言わないこと。火災の対策を設計しない。「何秒以内に」とも書かない。示したのは、一分の重さが一つの数ではなく、火の育ち方と、いつ気づいたかの比で決まるということである。
6. 点呼と結び
- 四つの火の $\alpha$(計算 2.1):$\mathbf{0.002931}$ から $\mathbf{0.187556}$ kW/s$^2$。
- 同じ $60$ 秒で $\mathbf{1.7551}$ 倍から $\mathbf{12.9489}$ 倍(計算 2.1):育ち方で違う。
- 出た熱では $\mathbf{2.3252}$ 倍から $\mathbf{46.5962}$ 倍(計算 2.1):三乗で効く。
- $50$ 秒で気づくと $\mathbf{4.840000}$ 倍、$400$ 秒なら $\mathbf{1.322500}$ 倍(計算 3.1):本稿の芯。
- $120$ 秒で気づいて $60$ 秒遅れると $\mathbf{2.250000}$ 倍(計算 3.3):出た熱は $\mathbf{3.375000}$ 倍。
- 一次 $\mathbf{1.600000}$・二次 $\mathbf{2.560000}$・指数 $\mathbf{2.718282}$ 倍(計算 4.1):型で性質が変わる。
- 指数だけは気づいた時刻に依らない(観察 4.2):$t_d$ が式に入らない。
- $1$ MW に毎秒 $\mathbf{0.385820}$ kg の水(計算 4.3):要る水も比例する。
- 分離子は冪か指数か(観察 5.1):いつ気づいたか、か、どれだけ遅れたか、か。
- 論文558 と同じ型(観察 5.2):変わるのは寸法ではなく曲線の位置。
結び:火災では「一分一秒を争う」と言われる。ところが同じ一分の重さは、火の育ち方と、いつ気づいたかで大きく変わる。発熱速度が $\alpha t^2$ で育つ火を、$1055$ kW に達するまでの時間で四つに分けると、$\alpha$ は $\mathbf{0.002931}$ から $\mathbf{0.187556}$ kW/s$^2$ まで開く。$100$ kW で気づいてから $60$ 秒遅れると、発熱速度はゆっくり育つ火で $\mathbf{1.7551}$ 倍、極めて速い火で $\mathbf{12.9489}$ 倍になり、それまでに出た熱では $\mathbf{2.3252}$ 倍から $\mathbf{46.5962}$ 倍になる。遅れの重さは $(1+\Delta t/t_d)^2$ で、早く気づいた火ほど、その後の遅れが重い。$50$ 秒で気づいた火の $60$ 秒の遅れは $\mathbf{4.840000}$ 倍、$400$ 秒で気づいた火なら $\mathbf{1.322500}$ 倍である。$120$ 秒で気づいた火なら発熱速度はちょうど $\mathbf{2.250000}$ 倍、出た熱は $\mathbf{3.375000}$ 倍で、奪うのに要る水も同じだけ増える。$1$ MW を奪うには毎秒 $\mathbf{0.385820}$ kg の水が要る。一次の成長なら $\mathbf{1.600000}$ 倍、二次なら $\mathbf{2.560000}$ 倍、指数なら $\mathbf{2.718282}$ 倍で、指数だけは気づいた時刻に依らない。分離子は、成長が冪か指数か、である。冪なら遅れの重さはいつ気づいたかで決まり、指数ならどれだけ遅れたかだけで決まる。論文300 の基準で、「速い火ほど重い」と「早く気づいた火ほど重い」は $\Delta t/t_d$ という一つの比から出る同根である。既刊との位置、論文558 の同じ一割が寸法で別の倍率になったように、同じ一分が曲線のどこにいるかで別の倍率になる。論文283 の同じ二倍が仕組みで桁違いに違ったように、同じ遅れが育ち方の型で性質ごと変わる。正直に言えば、育つ段階だけを見て、燃え広がりの限界も換気の頭打ちも燃え尽きも入れていない。気づく点の $100$ kW は代表値で、感知器もスプリンクラーも設計していない。水の見積もりは蒸発までの熱で、水が火に届く割合は入れていない。そして「何秒以内に」とは書かない。示したのは、一分の重さが一つの数ではないということである。
参考文献
- Drysdale, D. (2011). An Introduction to Fire Dynamics (3rd ed.). Wiley.
- Hurley, M. J. (Ed.) (2016). SFPE Handbook of Fire Protection Engineering (5th ed.). Springer.
- Karlsson, B., & Quintiere, J. G. (2000). Enclosure Fire Dynamics. CRC Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ「$Q$ を二倍にする」が、$5.69\times10^{18}$ 倍と $32$ 倍と $8$ 倍になる』[論文283]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171127
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ「一割」が、どの寸法かで $1.4641$ 倍にも $0.7513$ 倍にもなる』[論文558]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014230
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書誌
山岸勇輝(2026)「火は時間の二乗で育つので、同じ一分の遅れの重さが変わる」[論文577]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014319
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 火は時間の二乗で育つので、同じ一分の遅れの重さが変わる [論文577]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/577 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014319
Yamagishi, Y. (2026). Fire Grows as the Square of Time, So the Weight of the Same Minute's Delay Changes [Paper 577]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/577; DOI: 10.5281/zenodo.23014319
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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year = {2026},
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