要旨
力学の方程式は、質量・長さ・時間という三つの枠で書かれている。本稿が問うのは、なぜ三つなのかである。答は、力学が三種類の量しか使わないからである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、これが本稿の芯である。枠の数は、量の種類が張る次元行列の階数である。力学の量 10 種類では階数 3、電磁を足した 13 種類では 4、熱を足した 15 種類では 5 になる。長さと時間だけなら 2、長さだけなら 1 である(第2節)。
第二に、定数の値を一つ固定するたびに、枠はちょうど一つ減る。階数 5 から出発し、c・kB・素電荷・hbar・G の順に固定すると、残る枠は 4・3・2・1・0 と落ちる。七も三も零も、同じ引き算の別の場所である(第3節)。
第三に、ただし減らすのは独立な定数だけである。質量を二つ固定しても枠は 4 のまま動かない。代金は三つではなく、独立な三つである(第3節)。
第四に、三枠を張る三つ組は 18 通りである。定数 7 個から三つ選ぶ 35 通りのうち、張れるのが 18 通り、張れないのが 17 通り。質量を三つ選ぶと長さすら作れない。張れる組からは既知の長さが出る(プランク長の指数 1/2・-3/2・1/2、ボーア半径の指数 2・-1・-1)(第4節)。
第五に、どの三つ組が式を短くするかは、一覧で入れ替わる。式に現れる定数の記号が何個消えるかで数えると、重力の式の一覧では c と G と hbar の組が一位で 9 個、原子の式の一覧では hbar と ke2 と m_e の組が一位で 11 個である。二つの順位のスピアマン相関は $\mathbf{-0.587454806}$ で、負である(第5節)。
第六に、体系自身の三つ組は、どの一覧でも一位ではない。m を 4 パイと置く組は重力で 10 位、原子で 15 位、両方で 17 位(いずれも 18 通り中)である。短さを買った選択ではない。分離子は、短さを測る物差しが規約に依るか目的に依るかである(第6節)。
キーワード:次元解析、基本次元、次元行列、単位系、自然単位系、規約と事実。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。次元行列とその階数、バッキンガムのパイ定理、自然単位系で定数を 1 と置けること、基本次元の個数が単位系で変わることは、いずれも既知である(ブリッジマン 1922、バッキンガム 1914、プランク 1899、ダフほか 2002)。単位系を推奨しない。どれが正しいかも、どれを使うべきかも言わない。数えるのは、どの組が何個の記号を消すかだけである。短さの物差しが唯一だとは言わない。消える記号の数は一つの数え方であり、別の物差しを取れば順位は変わりうる。そのことこそが本稿の芯である。式の一覧は例である。重力の側 5 本と原子の側 5 本を選んだ。一覧の選び方が順位を決めることを見せるための例であって、代表性を主張しない。歴史を語らない。誰がいつ単位を増やしたかは主題ではない。定数の個数を裁定しない。基本定数がいくつあるかについて 0・2・3 の三つの立場があること(ダフほか 2002)は引くだけで、どれが正しいとも言わない。質量が幾何であるとは言わない。論文60 第2版が訂正したとおり、m を 4 パイと置くときの 4 パイは立体角ではなく質量であり、規約であって幾何ではない。既刊との関係:論文306 の射程注記は、単位系の優劣を論じないと書いた。本稿はその席に座る。306 は端(SI で 7、ガウスで 3、プランクで 0)を数えたが、間の引き算則と、優劣が何に依るかは書いていない。論文21 は第3版で、4 パイ c の二乗を面積と読むには時間の単位を固定する必要があり、三枠の予算は既に使い切られていると示した。ここでは、その予算がなぜ三つなのかを数える。論文39 は、プランク長の指数が次元行列から決まることを示した。ここでは同じ解き方を 18 通りの三つ組に当て、指数が出る組と出ない組を分ける。論文05 は、規約どうしが組み合わさって規約に依らない量になる場合があることを示した。ここでは、規約に依らないのは順位のほうで、依るのは一覧のほうだと分ける。論文117 は、スケールを持たない要求が指数を一意に決める四つの別根を並べた。そのうちパイ定理の側が、本稿の数え上げの土台である。論文144 は、指数が何が保存しているかの署名であることを示した。ここで数える指数も同じ連立一次方程式の解だが、読むのは保存量ではなく枠の数である。論文95 は、規約と事実を分けた。ここでは第三の区別を足す。規約でも事実でもなく、目的に依るものがある。論文338 は、約束であることと恣意的であることは別だと示した。ここでの順位も、約束の上に立ちながら恣意的ではない。論文116 は、c の冪が次元を数えていないことを示した。あちらは冪の中身、こちらは枠の個数である。加えたのは、枠の数を引き算として書き、五つの定数で 5 から 0 まで一歩ずつ落としたこと、独立でない二つ目は枠を減らさないことを対照で示したこと、三枠を張る三つ組を 18 通りと数え上げたこと、消える記号の数で順位をつけ、一覧で一位が入れ替わることと順位相関が負であることを出したこと、体系自身の三つ組の順位を正直に数えたことである。
1. 記法と問い
設定:量の次元を、質量 $M$・長さ $L$・時間 $T$・電荷 $Q$・温度 $K$ の五つの指数の組で表す。たとえばエネルギーは $(1,2,-2,0,0)$ である。量をいくつか並べたとき、その指数の組が張る空間の次元を階数と呼ぶ。階数が、独立に決めなければならない単位の個数(本稿でいう枠)である。掃き出しはすべて分数のまま行い、丸めない。
問い:なぜ枠は三つなのか。
2. 枠の数は、次元行列の階数である
計算 2.1:力学に出てくる量を $10$ 種類(長さ・時間・質量・速さ・加速度・力・エネルギー・運動量・角運動量・圧力)並べ、階数を求めた。
| 並べた量 | 種類の数 | 階数(枠の数) |
|---|---|---|
| 力学だけ | $10$ | $3$ |
| +電磁(電荷・電流・電位) | $13$ | $4$ |
| +熱(温度・エントロピー) | $15$ | $5$ |
| 長さと時間と速さだけ | $3$ | $2$ |
| 長さと体積と面積の逆数だけ | $3$ | $1$ |
観察 2.2 種類の数と階数は別である。$10$ 種類並べても階数は $3$ にしかならない。力・エネルギー・運動量・圧力は、質量と長さと時間の組み合わせでできているからである。
観察 2.3 三という数は、自然が決めたものではない。電磁を入れれば $4$、熱を入れれば $5$ になる。枠の数は、その理論がどれだけの種類の量を使うかで決まる。論文306 は、SI で $7$、ガウス単位系で $3$、プランク単位系で $0$ になることを数えた。ここではその間を、階数という一つの量で結ぶ。
3. 引き算:定数を一つ固定すると、枠が一つ減る
計算 3.1:階数 $5$ から出発し、定数の値を順に $1$ と決めていく。残る枠は、量の階数から、固定した定数が張る階数を引いたものである。
| 固定した定数 | 何を結ぶか | 残る枠 |
|---|---|---|
| $c$ | 長さと時間 | $4$ |
| $k_B$ | 温度とエネルギー | $3$ |
| 素電荷 | 電荷と力学量 | $2$ |
| $\hbar$ | 作用と力学量 | $1$ |
| $G$ | 質量と幾何 | $0$ |
観察 3.2 一つ固定するごとに、ちょうど $1$ ずつ減る。$4$・$3$・$2$・$1$・$0$ である。枠の数は引き算であって、下限ではない。
計算 3.3(対照):電子の質量と陽子の質量を両方固定しても、残る枠は $4$ のままである。
観察 3.4 減らすのは独立な定数だけである。二つとも質量の向きしか持たないので、二つ目は新しい方向を消さない。代金は「三つ」ではなく「独立な三つ」である。
4. 代金は、独立な三つである
計算 4.1:力学の定数を $7$ 個($c$・$G$・$\hbar$・電子の質量・陽子の質量・電気の定数 $k_ee^2$・$m=4\pi$ と置いた質量)用意し、三つ選ぶ $35$ 通りについて階数を求めた。三枠を張る(階数 $3$)のは $\mathbf{18}$ 通り、張れないのは $\mathbf{17}$ 通りである。この $7$ 個はどれも電荷と温度の次元を持たないので、階数 $3$ は $M$・$L$・$T$ を張ることと同じである。
観察 4.2 質量を三つ選んでも張れない。電子の質量・陽子の質量・$4\pi$ の三つからは、長さも時間も作れない。実際、長さを作る連立方程式には解が無い。
計算 4.3:張れる組から長さを作る。
| 三つ組 | 長さの作り方 | 名前 |
|---|---|---|
| $G$・$c$・$\hbar$ | $G^{1/2}c^{-3/2}\hbar^{1/2}$ | プランク長 |
| $\hbar$・$k_ee^2$・電子の質量 | $\hbar^{2}(k_ee^2)^{-1}m_e^{-1}$ | ボーア半径 |
| 電子の質量・陽子の質量・$4\pi$ | 解が無い | 。 |
観察 4.4 同じ解き方が、二つの既知の長さを返す。論文39 がプランク長について書いた指数の解き方を、そのまま別の三つ組に当てただけである。解けるかどうかを決めているのは、定数の名前ではなく階数である。
5. どの三つ組が式を短くするかは、一覧で入れ替わる
設定 5.1:式に現れる「値を書かねばならない定数」の記号が、三つ組に入っていれば $1$ になって消える。重力の側の式を $5$ 本($E=mc^2$・シュヴァルツシルト半径・プランク長・重力の位置エネルギー・コンプトン波長)、原子の側の式を $5$ 本(ボーア半径・リュードベリ・クーロンの法則・コンプトン波長・微細構造定数)選び、$18$ 通りそれぞれについて消える記号の総数を数えた。
| 一覧 | 一位の三つ組 | 消える記号の数 |
|---|---|---|
| 重力の $5$ 本 | $G$・$c$・$\hbar$ | $9$ |
| 原子の $5$ 本 | $\hbar$・$k_ee^2$・電子の質量 | $11$ |
| 両方 $10$ 本 | $G$・$c$・$\hbar$(と $c$・$\hbar$・電子の質量が同点) | $15$ |
観察 5.2 一位が入れ替わる。重力の一覧で一位だった組は、原子の一覧では一位ではない。どちらが「短い」かは、どの式を短くしたいかで決まる。
計算 5.3:$18$ 通りの順位を二つの一覧で比べ、スピアマンの順位相関を求めると $\mathbf{-0.587454806}$ であった(同点は平均順位)。
観察 5.4 相関は負である。重力の式を短くする選び方は、原子の式ではむしろ悪くなる。二つの目的は、同じ方向を向いていない。
観察 5.5 それでも順位そのものは規約ではない。一覧を決めれば、順位は誰が数えても同じである。動くのは一覧のほうであって、数え方のほうではない。
6. 分離子と、正直に書くこと
計算 6.1:体系が使う三つ組($m=4\pi$・$G$・$\hbar$)の順位を数えた。重力の一覧で $10$ 位、原子の一覧で $15$ 位、両方で $17$ 位(いずれも $18$ 通り中)であり、消える記号はそれぞれ $5$ 個・$4$ 個・$9$ 個である。
観察 6.2 体系の三つ組は、短さで選ばれた組ではない。どの一覧でも一位ではない。論文21 が「四枚目の選択」と呼んだのは、三枠の予算を短さ以外の目的に使ったということである。
観察 6.3(分離子):分離子は、短さを測る物差しが規約に依るか、目的に依るかである。同じ一覧なら順位は規約に依らない。だが一覧を替えれば入れ替わる。規約でも事実でもない第三の身分がここにある。
観察 6.4(正直に言えば):消える記号の数という物差しそのものが、一つの選択である。別の数え方(たとえば指数が整数になる式の本数)を取れば、順位は変わりうる。本稿が示したのは「順位が目的に依る」という型であって、特定の順位表ではない。
7. 点呼と結び
結び:単位の枠が三つなのは、力学が三種類の量しか使わないからである。枠の数は、量の種類が張る次元行列の階数である。力学の量 10 種類では 3、電磁を足した 13 種類では 4、熱を足した 15 種類では 5 になる。定数の値を一つ固定するたびに枠はちょうど一つ減り、c・kB・素電荷・hbar・G の五つで 4・3・2・1・0 と零まで落ちる。ただし減らすのは独立な定数だけである。質量を二つ固定しても枠は 4 のまま動かない。代金は三つではなく、独立な三つである。三枠を張る三つ組は 35 通り中 18 通りで、張れる組からはプランク長とボーア半径が同じ解き方で出る。質量を三つ選ぶと、長さすら作れない。どの三つ組が式を短くするかは、一覧で入れ替わる。重力の式では c と G と hbar の組が 9 個を消して一位、原子の式では hbar と ke2 と電子の質量の組が 11 個を消して一位で、二つの順位のスピアマン相関は -0.587454806 であった。分離子は、短さを測る物差しが規約に依るか目的に依るかである。一覧を決めれば順位は誰が数えても同じだが、一覧を替えれば入れ替わる。既刊の中に置けば、論文306 が数えた端(SI の 7 とプランクの 0)の間を、階数という一つの量が結んでいる。正直に書けば、体系自身の三つ組はどの一覧でも一位ではなく、10 位・15 位・17 位である。短さを買った選択ではない。加えたのは、枠の数を引き算として書いたこと、三枠を張る三つ組を数え上げたこと、順位が目的に依ることを数で示したことである。
参考文献
- Bridgman, P. W. (1922). Dimensional Analysis. Yale University Press.
- Buckingham, E. (1914). On physically similar systems; illustrations of the use of dimensional equations. Physical Review.
- Duff, M. J., Okun, L. B., & Veneziano, G. (2002). Trialogue on the number of fundamental constants. Journal of High Energy Physics.
- Planck, M. (1899). Über irreversible Strahlungsvorgänge. Sitzungsberichte der Königlich Preußischen Akademie der Wissenschaften zu Berlin.
- 山岸勇輝 (2026). 『ヤン=ミルズ質量ギャップと次元転移』[論文05]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21404236
- 山岸勇輝 (2026). 『恒等式にゼロテンションは効かない』[論文21]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21601143
- 山岸勇輝 (2026). 『山岸・プランク長 $l_p = c^{-3/2}$ 幾何解凍理論』[論文39]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21430490
- 山岸勇輝 (2026). 『速度空間の球としての $c$』[論文60]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21598012
- 山岸勇輝 (2026). 『規約と事実を分ける』[論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
- 山岸勇輝 (2026). 『$c$ の冪は、何を数えているか』[論文116]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22003794
- 山岸勇輝 (2026). 『スケール不変性は、四通りに指数を選ぶ』[論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
- 山岸勇輝 (2026). 『指数は、何が保存しているかの署名である』[論文144]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082585
- 山岸勇輝 (2026). 『「基本」単位の個数は、約束である』[論文306]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172149
- 山岸勇輝 (2026). 『約束であることと、恣意的であることは別である』[論文338]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22681999
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「単位の枠が三つなのは、力学が三種類の量しか使わないからである」[論文1049]. Zenodo.
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 単位の枠が三つなのは、力学が三種類の量しか使わないからである [論文1049]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/1049 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22902445
Yamagishi, Y. (2026). There Are Three Unit Slots Because Mechanics Uses Only Three Kinds of Quantity [Paper 1049]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/1049; DOI: 10.5281/zenodo.22902445
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