【論文917】石が倒れる揺れの強さは、ゆっくりなら形だけで決まり、短い揺れでは大きい石ほど強く要る

要旨

積んだ石は、横向きの揺れで倒れるか滑る。本稿は、すべらない長方形の石を一つの剛体と置き、倒れる閾値が大きさに依らない場合と依る場合を、静かに続く加速度と一周期の正弦の揺れで数える。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、続く横の加速度では、倒れるか滑るかは二つの比で決まる。倒れ始めるのは加速度が重力の加速度の「幅/高さ」倍を超えたとき、滑り始めるのは摩擦係数倍を超えたときで、小さいほうが先に起きる。幅と高さを $10$ 倍にしても倒れる閾値は同じだった(差 $0$)(第2節)。

第二に、一周期の短い揺れでは、大きい石ほど倒すのに強い揺れが要る。幅/高さ $0.2$ の石を周期 $0.5$ 秒の正弦で一周期揺らすと、倒れる最小の振幅は高さ $0.490$ m で $0.26 g$、$0.981$ m で $0.30 g$、$1.961$ m で $0.44 g$、$3.922$ m で $1.03 g$ だった(第3節)。

第三に、大きい石ほど傾く速さが遅い。揺れの式の $p=\sqrt{3g/4R}$ は四つの大きさで $5.424016$ から $1.917679$ /s に下がり、揺れ戻りの時間 $2\pi/p$ と揺れの周期の比は $2.316802$ から $\mathbf{6.552905}$ に上がった(第3節)。

第四に、長い揺れでは、大きさは消えて形だけが残る。周期 $20$ 秒の揺れでは、高さ $0.490$ m と $3.922$ m の二つとも $0.205 g$ で倒れ、$0.19 g$ ではどちらも倒れなかった。模型は、自由な揺れでエネルギーを $9.65\times10^{-6}$ 以内で保ち、刻みを $4$ 分の $1$ にしても判定が変わらなかった(第3節)。

第五に、分離子は、揺れの周期が石の揺れ戻りの時間より長いか短いかである。長ければ閾値は形の比だけで決まり、短ければ揺れ戻りの時間を通して大きさが入る。着地の跳ね返りの係数 $\mathbf{0.942308}$ も材料ではなく形から決まった(第4節)。

キーワード:剛体の転倒、滑動、ハウスナーの揺れる剛体、跳ね返りの係数、寸法効果、一周期の揺れ。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。剛体が角のまわりに倒れる釣り合い、摩擦で滑り始める条件、揺れる剛体の運動方程式と着地の跳ね返りの係数(ハウスナー)は、いずれも標準的である。石垣や建物の耐震を論じない。実際の石積みの設計、安全率、基準は扱わない。揺れの計算では滑らないと置く。石どうしのかみ合い、変形、滑りながらの揺れは入れない。滑りは続く加速度の比べ方でだけ扱う。実際の地震の波形を使わない。一周期の正弦の揺れだけを使う。数は模型の値である。倒れる振幅が振幅について単調だとは言わない。$0.05 g$ 刻みで探して $0.01 g$ 刻みで詰めた最小の値だけを数える。既刊との関係:論文454 の射程注記は、地震力を主題にせず、滑動を扱わず転倒だけを見ると書いた。本稿はその席に座る(先客なし)。論文355 は、反発係数が材料の定数ではないことを示した。ここでは、揺れる石の着地の跳ね返りの係数が幅と高さの比だけで $0.942308$ と決まることを使う。論文747 は、勾配が分母に入ると鉄道の引ける重さの余裕が消えることを示した。ここでは、摩擦係数と幅/高さの比のどちらが小さいかで、横の加速度に対して先に滑るか倒れるかが決まることを数える。加えたのは、倒れる閾値が大きさに依らないことを確かめたこと、一周期の揺れで倒れる最小の振幅を四つの大きさで出したこと、揺れ戻りの時間と揺れの周期の比を並べたこと、長い揺れでは大きさが消えることを確かめたこと、分離子を「揺れの周期が揺れ戻りの時間より長いか短いか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:幅 $b$・高さ $h$ の長方形の石を、すべらない剛体とする。細さの角を $\tan\alpha=b/h$、中心から角までの長さを $R$ とし、地面の水平加速度を $a(t)$、傾きを $\theta$ とする。

$$\ddot\theta=-p^2\left[\sin(\alpha\,\mathrm{sgn}\,\theta-\theta)+\frac{a(t)}{g}\cos(\alpha\,\mathrm{sgn}\,\theta-\theta)\right],\qquad p^2=\frac{3g}{4R}$$

傾き始めるのは $|a|>g\tan\alpha$ のとき、倒れるのは $|\theta|>\alpha$ のとき、着地($\theta=0$)のたびに角速度は $r=1-\tfrac32\sin^2\alpha$ 倍になる。検算では $a(t)=A\sin(2\pi t/T)$ を一周期だけ与え、ルンゲ=クッタで積み、揺れが終わったあとは倒れるだけのエネルギーが残っているかで打ち切った。

問い:石が倒れる揺れの強さは、いつ形だけで決まり、いつ大きさが入るか。

2. 続く横の加速度

計算 2.1:倒れる閾値 $b/h$ と滑る閾値 $\mu$ の比べ方。

幅/高さ 摩擦係数 先に起きること 閾値
$0.2$ $0.4$ 倒れる $0.20 g$
$0.2$ $0.6$ 倒れる $0.20 g$
$0.5$ $0.4$ 滑る $0.40 g$
$0.5$ $0.6$ 倒れる $0.50 g$
$1.0$ $0.4$ 滑る $0.40 g$
$1.0$ $0.6$ 滑る $0.60 g$

角のまわりのモーメントの釣り合いで出した倒れる閾値は、幅と高さを $10$ 倍にし質量を $1000$ 倍にしても同じだった(差 $0$)。

観察 2.2 続く横の加速度では、倒れるか滑るかは二つの比で決まり、大きさは入らない。重さも慣性も同じ質量に比例するので、釣り合いから質量と長さの尺度が消える。幅/高さと摩擦係数の小さいほうが先に起きる。

3. 一周期の揺れ

計算 3.1:幅/高さ $0.2$($\alpha=11.3099$ 度・跳ね返りの係数 $0.942308$)、周期 $T=0.5$ 秒の一周期の正弦。

半対角 $R$(m) 高さ(m) $p$(/s) $2\pi/p$ ÷ $T$ 倒れる最小の振幅
$0.25$ $0.490$ $5.424016$ $2.316802$ $0.26 g$
$0.50$ $0.981$ $3.835359$ $3.276453$ $0.30 g$
$1.00$ $1.961$ $2.712008$ $4.633604$ $0.44 g$
$2.00$ $3.922$ $1.917679$ $6.552905$ $1.03 g$

揺れ戻りの時間 $2\pi/p$ は $1.158401$・$1.638226$・$2.316802$・$3.276453$ 秒だった。判定できずに打ち切った回は $0$ 回。

計算 3.2:模型の確かめ。揺れも跳ね返りも無い自由な揺れ($\theta_0=\alpha/2$・$5$ 秒)でエネルギーのずれは $9.65\times10^{-6}$($p^2$ を単位に)、刻みを $4$ 分の $1$ にしても四つの大きさで「最小の振幅で倒れ、その $0.01 g$ 下では倒れない」が変わらなかった。周期 $20$ 秒の揺れでは、$R=0.25$ m と $2.00$ m の二つとも $\mathbf{0.205} g$ で倒れ、$0.19 g$ ではどちらも倒れなかった。

観察 3.3 短い揺れでは、大きい石ほど倒すのに強い揺れが要る。形は同じでも、大きい石ほど $p$ が小さく、揺れ戻りの時間が揺れの周期に比べて長い。長い揺れでは二つの大きさが同じ $0.205 g$ で倒れ、続く加速度の閾値 $0.2 g$ の近くに下りた。

4. 分離子

観察 4.1 分離子は、揺れの周期が石の揺れ戻りの時間より長いか短いかである。揺れの周期が長ければ、揺れは続く加速度と同じに働き、閾値は幅と高さの比だけで決まる。短ければ、揺れ戻りの時間 $2\pi/p$ を通して大きさが入り、この模型では高さ $3.922$ m の石に $1.03 g$ が要った。着地の跳ね返りの係数 $0.942308$ も、幅と高さの比だけから決まった。

観察 4.2 言わないこと。石垣や建物の耐震、実際の地震の波形、滑りながらの揺れ、倒れる振幅の並び方は扱わない。示したのは、倒れる揺れの強さに大きさが入るかどうかが、揺れの周期と揺れ戻りの時間の比べ方で分かれることである。

5. 点呼と結び

  1. 揺れる剛体の式・$p^2=3g/4R$(第1節):ハウスナー。
  2. 倒れる閾値 $b/h$・滑る閾値 $\mu$(計算 2.1):大きさが入らない。
  3. $0.26$・$0.30$・$0.44$・$1.03 g$(計算 3.1):短い揺れで大きさが入る。
  4. $2\pi/p$ ÷ $T$ が $2.316802$ から $\mathbf{6.552905}$(計算 3.1):揺れ戻りの時間。
  5. 周期 $20$ 秒で $\mathbf{0.205} g$(計算 3.2):形だけに戻る。
  6. 跳ね返りの係数 $\mathbf{0.942308}$(計算 3.1):形から決まる。
  7. 揺れの周期と揺れ戻りの時間(観察 4.1):分離子・論文454 の射程注記・論文355・747。

結び:石が倒れる揺れの強さは、ゆっくりなら形だけで決まり、短い揺れでは大きい石ほど強く要る。続く横の加速度では、倒れるか滑るかは幅/高さと摩擦係数の二つの比で決まり、幅と高さを $10$ 倍にしても閾値は変わらなかった。周期 $0.5$ 秒の一周期の揺れでは、同じ形の石が高さ $0.490$ m で $0.26 g$、$3.922$ m で $1.03 g$ で倒れた。周期 $20$ 秒の揺れでは二つの大きさが同じ $0.205 g$ で倒れ、大きさは消えた。分離子は、揺れの周期が石の揺れ戻りの時間より長いか短いかである。既刊との位置:論文454 が扱わなかった地震力と滑動を、論文747 の比べ方と同じ二つの比で分け、論文355 の反発係数を形から決まる係数として使った。正直に言えば、石垣の安全は言わない。形が決める閾値に、いつ大きさが割り込むか、そこまでである。

参考文献

  1. Housner, G. W. (1963). The behavior of inverted pendulum structures during earthquakes. Bulletin of the Seismological Society of America.
  2. 山岸勇輝 (2026). 『反発係数は材料の定数ではない。そして経験則は、自分が破れる速度を自分で指す』[論文355]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/355 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22697011
  3. 山岸勇輝 (2026). 『水圧は二乗で増えるのに、堤体の幅は比例でよい』[論文454]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/454 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22732989
  4. 山岸勇輝 (2026). 『鉄道の引ける重さの余裕は平地でだけ大きく、勾配が分母に入るとゴムタイヤに負ける』[論文747]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/747 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23015117
  5. Zhang, J., & Makris, N. (2001). Rocking response of free-standing blocks under cycloidal pulses. Journal of Engineering Mechanics.

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「石が倒れる揺れの強さは、ゆっくりなら形だけで決まり、短い揺れでは大きい石ほど強く要る」[論文917]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/917

YOI 917第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 石が倒れる揺れの強さは、ゆっくりなら形だけで決まり、短い揺れでは大きい石ほど強く要る [論文917]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/917

Yamagishi, Y. (2026). How Hard a Stone Must Be Shaken to Topple Is Set by Shape Alone When Slow, but Larger Stones Need More When the Shaking Is Brief [Paper 917]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/917

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