要旨
ジョーンズ多項式は、三つ葉結び目とその鏡像(右と左)を見分ける結び目の不変量として知られる。本稿は、四つの結び目と一つの絡み目のジョーンズ多項式を図の交点の記述から計算し、変数を $1$ の低い次数の冪根に置いた値を、独立に計算した行列式と突き合わせ、鏡像との違いがどこで消えるかを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、$t=1$ と $1$ の三乗根では、どの結び目も $1$ になる。三つ葉結び目・$8$ の字結び目・$5_1$・$5_2$ の四つで $V(1)=1$(差 $0$)、$V(\omega)=1$(差 $1.6\times10^{-15}$)だった。二成分のホップ絡み目では $V(1)=-2$ である(第2節)。
第二に、$t=-1$ では行列式に戻る。$|V(-1)|$ は $3$・$5$・$5$・$7$ で、交点ごとの彩色の関係から独立に計算した行列式と四つとも一致した(第2節)。
第三に、$t=i$ では Arf 不変量の符号に戻る。$V(i)$ は $-1$・$-1$・$-1$・$+1$ で、行列式を $8$ で割った余り($3$・$5$・$5$・$7$)から決まる符号と四つとも一致した(第3節)。
第四に、その四つの点では右と左の三つ葉結び目は同じ値で、一般の $t$ では違う。交点の上下を入れ替えた図から独立に計算した鏡像の多項式は四つとも $V(1/t)$ と一致した。三つ葉結び目と鏡像の差は $t=1$・$\omega$・$-1$・$i$ で $0$、$t=2$ で $\mathbf{6.562500}$、単位円上の角 $36$ 度の点で $\mathbf{1.902113}$ だった(第4節)。
第五に、分離子は、$t$ を $1$ の一次から四次の冪根に置くか、一般の値に置くかである。その四つの点では多項式は古典的な量に戻り、鏡像と同じ値を返す。右と左を見分ける力は、一般の $t$ の値にだけ現れる(第5節)。
キーワード:ジョーンズ多項式、カウフマンの括弧、三つ葉結び目、鏡像、結び目の行列式、Arf不変量。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。カウフマンの括弧によるジョーンズ多項式の計算、どの結び目でも $V(1)=1$ と $V(\omega)=1$ になること、$|V(-1)|$ が行列式になること、$V(i)$ が Arf 不変量で決まること、鏡像の多項式が $V(1/t)$ になることは、いずれも既知である。完全不変量だとは言わない。同じジョーンズ多項式を持つ別の結び目は存在する。本稿は四つの結び目と一つの絡み目だけを計算する。理論の背景に立ち入らない。量子群や作用素環からの導き方には立ち入らない。名前を挙げるにとどめる。右と左の名前の約束に立ち入らない。どちらを右の三つ葉結び目と呼ぶかは表記の約束によるので、本稿で使った図の向きのまま数える。既刊との関係:論文254 は、四次元で結び目がほどけることが一つの現象ではないことを示し、アレクサンダー多項式を一方向の判定にだけ使った。ここでは別の多項式の特別な値が、行列式のような古典的な量に戻ることを数える。論文152 は、同じ指標表を持ちながら同型でない群があることを示した。ここでも、見分ける力を持つ量が特別な点では見分けなくなることを、右と左の三つ葉結び目で数える。加えたのは、四つの結び目と一つの絡み目の多項式を計算したこと、$t=-1$ の値を独立に計算した行列式と突き合わせたこと、$t=i$ の値を行列式の $8$ の余りと突き合わせたこと、鏡像を独立に計算して右と左の差が四つの点で消えることを示したこと、分離子を「$t$ を $1$ の低い次数の冪根に置くか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:結び目の図を交点ごとの四つの辺の番号(PD 符号)で書き、カウフマンの括弧 $\langle K\rangle$ を交点の二通りの平滑化の和として計算する。ねじれ $w$ を交点の符号の和として、ジョーンズ多項式は次のとおりである。
$$\langle K\rangle=\sum_{s}A^{a(s)-b(s)}\,(-A^{2}-A^{-2})^{\,|s|-1},\qquad V(t)=(-A^{3})^{-w}\langle K\rangle\Big|_{A=t^{-1/4}}$$
$a(s)$・$b(s)$ は二通りの平滑化を選んだ数、$|s|$ はできた輪の数である。検算では、交点ごとの彩色の関係を並べた行列の小行列式から行列式を独立に計算し、鏡像は交点ごとに上を通る線の向きを見て上下を入れ替えた図から独立に計算した。$\omega=e^{2\pi i/3}$ とする。
問い:ジョーンズ多項式が右と左の三つ葉結び目を見分けるのは、$t$ がどんな値のときか。
2. $t=1$・$\omega$・$-1$
計算 2.1:四つの結び目と一つの絡み目(三つ葉結び目は本稿の図の向き)。
| 結び目 | $V(t)$ | $V(1)$ | $V(\omega)$ | $V(-1)$ | 行列式 |
|---|---|---|---|---|---|
| 三つ葉結び目 | $t+t^{3}-t^{4}$ | $1$ | $1$ | $-3$ | $3$ |
| $8$ の字結び目 | $t^{-2}-t^{-1}+1-t+t^{2}$ | $1$ | $1$ | $5$ | $5$ |
| $5_1$ | $-t^{-7}+t^{-6}-t^{-5}+t^{-4}+t^{-2}$ | $1$ | $1$ | $5$ | $5$ |
| $5_2$ | $-t^{-6}+t^{-5}-t^{-4}+2t^{-3}-t^{-2}+t^{-1}$ | $1$ | $1$ | $-7$ | $7$ |
| ホップ絡み目 | $-t^{-5/2}-t^{-1/2}$ | $-2$ | $-1$ | − | $2$ |
四つの結び目で $V(1)$ と $1$ の差は $0$、$V(\omega)$ と $1$ の差は最大 $1.6\times10^{-15}$、$|V(-1)|$ は独立に計算した行列式と四つとも一致した。
観察 2.2 $t=1$ と $\omega$ ではどの結び目も同じ値で、$t=-1$ では行列式に戻る。四つの結び目の多項式は形がまったく違うのに、この三つの点の値は結び目を $1$ と行列式でしか区別しない。行列式は多項式が生まれる前から知られていた量である。
3. $t=i$
計算 3.1:$V(i)$ と、行列式を $8$ で割った余りから決まる Arf 不変量(余りが $1$ か $7$ なら $0$、$3$ か $5$ なら $1$)。
| 結び目 | 行列式を $8$ で割った余り | Arf 不変量 | $V(i)$ |
|---|---|---|---|
| 三つ葉結び目 | $3$ | $1$ | $-1$ |
| $8$ の字結び目 | $5$ | $1$ | $-1$ |
| $5_1$ | $5$ | $1$ | $-1$ |
| $5_2$ | $7$ | $0$ | $+1$ |
観察 3.2 $t=i$ では多項式は Arf 不変量の符号に戻る。四つとも $V(i)$ は $-1$ の Arf 不変量乗で、行列式の $8$ の余りから決まる値と一致した。ここでも多項式は、行列式から読める古典的な量しか返していない。
4. 右と左
計算 4.1:交点の上下を入れ替えた図から計算した鏡像の多項式(ねじれは三つ葉結び目で $3$ から $-3$、$5_1$ と $5_2$ で $-5$ から $5$、$8$ の字結び目で $0$ のまま)は、四つとも $V(1/t)$ と一致した。元と鏡像の値の差。
| 結び目 | $t=1$ | $t=\omega$ | $t=-1$ | $t=i$ | $t=2$ | $t=e^{i\pi/5}$ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 三つ葉結び目 | $0$ | $0$ | $0$ | $0$ | $6.562500$ | $1.902113$ |
| $8$ の字結び目 | $0$ | $0$ | $0$ | $0$ | $0$ | $0$ |
| $5_1$ | $0$ | $0$ | $0$ | $0$ | $76.289062$ | $3.804226$ |
| $5_2$ | $0$ | $0$ | $0$ | $0$ | $34.453125$ | $3.077684$ |
観察 4.2 四つの特別な点では右と左は同じ値で、一般の $t$ でだけ違う。鏡像の多項式は $V(1/t)$ なので、$1$・$\omega$・$-1$・$i$ のように値が逆数と複素共役で結ばれる点では、整数の係数の多項式は元と同じ値を返す。三つ葉結び目の右と左の差は、$t=2$ で $6.562500$、$t=e^{i\pi/5}$ で $1.902113$ になって初めて現れた。$8$ の字結び目は元と鏡像が同じ多項式だった。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は、$t$ を $1$ の一次から四次の冪根に置くか、一般の値に置くかである。その四つの点では多項式は、どの結び目でも $1$ になる値、行列式、Arf 不変量という、多項式より前から知られていた量に戻り、右と左に同じ値を返す。右と左を見分ける力は、それ以外の $t$ の値にだけ現れる。論文152 の指標表と同じく、見分ける力を持つ量にも見分けない場所がある。
観察 5.2 言わないこと。ジョーンズ多項式が完全不変量であること、量子群や作用素環からの導き方、結び目の表、右と左の名前の約束は扱わない。示したのは、四つの特別な点で多項式が古典的な量に戻り、そこでは右と左を見分けないことである。
6. 点呼と結び
- カウフマンの括弧と $V(t)$(第1節):交点の記述から計算。
- $V(1)=V(\omega)=1$(計算 2.1):四つの結び目で同じ。
- $|V(-1)|=3$・$5$・$5$・$7$(計算 2.1):独立の行列式と一致。
- $V(i)=-1$・$-1$・$-1$・$+1$(計算 3.1):Arf 不変量の符号。
- 右と左の差 $\mathbf{6.562500}$・$\mathbf{1.902113}$(計算 4.1):一般の $t$ でだけ。
- 特別な冪根か、一般の値か(観察 5.1):分離子・論文254・152。
結び:ジョーンズ多項式は $t$ が $1$・$-1$・$i$・$1$ の三乗根のとき、三つ葉結び目の右と左に同じ値を返す。四つの結び目で $t=1$ と $1$ の三乗根の値はどれも $1$、$t=-1$ の値の大きさは独立に計算した行列式、$t=i$ の値は行列式の $8$ の余りから決まる符号だった。鏡像の多項式は $V(1/t)$ で、四つの点では元と同じ値になり、三つ葉結び目の右と左の差は $t=2$ で $6.562500$ になって初めて現れた。その四つの点では、多項式は多項式より前から知られていた量に戻っている。分離子は、$t$ を $1$ の一次から四次の冪根に置くか、一般の値に置くかである。既刊との位置:論文254 が一方向の判定に使ったアレクサンダー多項式とは別の多項式で特別な値の古典への戻り方を数え、論文152 の見分けない不変量の型を右と左の三つ葉結び目に置いた。正直に言えば、結び目を分類する力は言わない。見分ける力がどの点で消えるか、そこまでである。
参考文献
- Jones, V. F. R. (1985). A polynomial invariant for knots via von Neumann algebras. Bulletin of the American Mathematical Society.
- Kauffman, L. H. (1987). State models and the Jones polynomial. Topology.
- Lickorish, W. B. R. (1997). An Introduction to Knot Theory. Springer.
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ指標表を持ちながら、同型でない』[論文152]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/152 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22084202
- 山岸勇輝 (2026). 『「四次元では結び目がほどける」も、一つの現象ではない』[論文254]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/254 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22162025
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「ジョーンズ多項式は t が 1・-1・i・1 の三乗根のとき、三つ葉結び目の右と左に同じ値を返す」[論文928]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/928
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). ジョーンズ多項式は t が 1・-1・i・1 の三乗根のとき、三つ葉結び目の右と左に同じ値を返す [論文928]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/928
Yamagishi, Y. (2026). At t=1, -1, i and a Cube Root of Unity, the Jones Polynomial Gives Left and Right Trefoils the Same Value [Paper 928]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/928
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/928},
note = {Preprint, edition 1}
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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