要旨
カムは回転を従動節の往復に変え、その持ち上げ方(運動曲線)には等速・放物線・単弦・サイクロイド・多項式などがある。本稿は、五つの曲線の最大の速さ・加速度・躍度を並べ、ばね一つの従動節が持ち上げのあとに残す揺れを、立ち上がりの時間を動かして数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、サイクロイドは最大の加速度がいちばん大きい。持ち上げの高さと時間を $1$ にそろえると、最大の加速度は放物線 $4.000000$、単弦 $4.934802$、3-4-5 多項式 $5.773503$、サイクロイド $\mathbf{6.283185}$ だった(第2節)。
第二に、端で加速度が $0$ なのはサイクロイドと 3-4-5 多項式だけである。放物線は端で $4$、単弦は $4.934802$ の加速度へ止まった状態から一気に跳ぶ。サイクロイドの最大の躍度は $39.478417$、3-4-5 多項式は $59.991000$ で有限だった(第2節)。
第三に、残る揺れは、跳ぶ曲線では四分の一ずつ、跳ばない曲線では八分の一に向かって減る。固有周期で測った立ち上がりの時間を倍にするごとに、残る揺れの最大は単弦で $0.238095$ から $\mathbf{0.249267}$ 倍、サイクロイドで $0.140981$ から $\mathbf{0.132907}$ 倍、等速で $0.512097$ 倍まで減った(第3節)。
第四に、速く回すほど、跳ぶ曲線の揺れが大きく残る。立ち上がりの時間を固有周期の $8$ から $16$ 倍に置くと、サイクロイドに対して単弦は $7.414$ 倍、放物線は $9.496$ 倍、等速は $70.684$ 倍の揺れを残した。残る揺れは積分と運動方程式の二通りで一致した(第3節)。
第五に、分離子は、加速度が端で跳ぶか、跳ばないかである。最大の加速度は大きさの目安だが、残る揺れを決めるのは加速度の跳びで、跳ばないサイクロイドは最大が大きくても速い持ち上げに向く(第4節)。
キーワード:カム、サイクロイド曲線、躍度、残留振動、デュアメル積分、運動曲線。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。カムの運動曲線とその最大の速さ・加速度・躍度、ばね一つの系が力を受けたあとに残す自由振動(デュアメル積分)は、いずれも標準的である。カムを設計しない。カムの輪郭、圧力角、接触の応力、材料は扱わない。従動節を一つのばねと質量に置く。減衰、ばねの非線形、すきまによる跳ね上がりは入れない。減り方の極限を証明しない。四分の一と八分の一は、倍にしたときの比が向かう先として並べるだけである。既刊との関係:論文741 は、鉄道の緩和曲線の長さを決める制約の一つがジャーク(加速度の変わる速さ)で、カントを入れると制約が入れ替わることを示した。ここでは同じ加速度の変わる速さを、カムの持ち上げの端で数え、跳ぶか跳ばないかが残る揺れの減り方を分けることを示す。加えたのは、五つの曲線の最大の速さ・加速度・躍度と端の加速度を並べたこと、残る揺れを積分と運動方程式の二通りで一致させたこと、立ち上がりの時間を倍にしたときの減り方を曲線ごとに出したこと、サイクロイドに対する残る揺れの比を並べたこと、分離子を「加速度が端で跳ぶか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:高さ $1$ の持ち上げを、無次元の時間 $u\in[0,1]$ の変位 $s(u)$ で書く。五つの曲線は次のとおりである(等速は $s=u$、放物線は前半 $2u^2$・後半 $1-2(1-u)^2$)。
$$s_{\text{単弦}}=\frac{1-\cos\pi u}{2},\qquad s_{\text{サイクロイド}}=u-\frac{\sin2\pi u}{2\pi},\qquad s_{\text{3-4-5}}=10u^3-15u^4+6u^5$$
持ち上げの時間を $T$、従動節のばねの固有角振動数を $\omega_n$(固有周期 $T_n$)とすると、相対変位 $y$ は $\ddot y+\omega_n^2y=-\ddot s(t)$ に従い、持ち上げのあとに残る揺れの振幅は次のとおりである。
$$A=\frac{1}{\omega_n}\left|\int_0^T \ddot s(t)\,e^{i\omega_n t}\,dt\right|$$
検算では、この積分をシンプソンの公式で出し、同じ振幅をルンゲ=クッタで運動方程式を積んでも出した。立ち上がりの時間 $T/T_n$ の区間ごとに、残る揺れの最大を取った。
問い:最大の加速度がいちばん大きいサイクロイドが、なぜ速い持ち上げに使われるのか。
2. 五つの曲線
計算 2.1:高さと時間を $1$ にそろえた値(等速は端で速さが跳ぶので加速度は撃力になる)。
| 曲線 | 最大の速さ | 最大の加速度 | 端の加速度 | 区間の中の最大の躍度 |
|---|---|---|---|---|
| 放物線 | $2.000000$ | $4.000000$ | $4.000000$・$-4.000000$ | $0.000000$ |
| 単弦 | $1.570796$ | $4.934802$ | $4.934802$・$-4.934802$ | $15.503138$ |
| サイクロイド | $2.000000$ | $6.283185$ | $0$・$0$ | $39.478417$ |
| 3-4-5 多項式 | $1.875000$ | $5.773503$ | $0$・$0$ | $59.991000$ |
最大の加速度はサイクロイド $2\pi$、単弦 $\pi^2/2$、放物線 $4$、3-4-5 多項式 $10/\sqrt{3}$ と差 $6.4\times10^{-8}$ 以内で一致した。
観察 2.2 最大の加速度はサイクロイドがいちばん大きいが、端で跳ばないのはサイクロイドと 3-4-5 多項式だけである。放物線と単弦は、止まった状態から持ち上げを始める瞬間に加速度が一気に跳ぶ。加速度が跳ぶ瞬間、躍度は無限になる。
3. 残る揺れ
計算 3.1:積分と運動方程式の突き合わせ。$T/T_n=2.3$ で、単弦の残る揺れは積分 $0.029156014$・運動方程式 $0.029156014$、サイクロイドは $0.026098926$・$0.026098926$ だった。
計算 3.2:$T/T_n$ の区間ごとの残る揺れの最大(高さ $1$ を単位)。
| 曲線 | $[2,4]$ | $[4,8]$ | $[8,16]$ | $[16,32]$ |
|---|---|---|---|---|
| 等速 | $1.283376\times10^{-1}$ | $7.087302\times10^{-2}$ | $3.738970\times10^{-2}$ | $1.914715\times10^{-2}$ |
| 放物線 | $4.718618\times10^{-2}$ | $1.647056\times10^{-2}$ | $5.022999\times10^{-3}$ | $1.398004\times10^{-3}$ |
| 単弦 | $6.666667\times10^{-2}$ | $1.587302\times10^{-2}$ | $3.921569\times10^{-3}$ | $9.775171\times10^{-4}$ |
| サイクロイド | $2.670426\times10^{-2}$ | $3.764799\times10^{-3}$ | $5.289665\times10^{-4}$ | $7.030317\times10^{-5}$ |
| 3-4-5 多項式 | $4.109291\times10^{-2}$ | $5.740077\times10^{-3}$ | $8.015945\times10^{-4}$ | $1.061633\times10^{-4}$ |
区間を倍にしたときの比は、等速 $0.552239$・$0.527559$・$0.512097$、放物線 $0.349055$・$0.304968$・$0.278321$、単弦 $0.238095$・$0.247059$・$\mathbf{0.249267}$、サイクロイド $0.140981$・$0.140503$・$\mathbf{0.132907}$、3-4-5 多項式 $0.139685$・$0.139649$・$0.132440$ だった。区間 $[8,16]$ でサイクロイドに対する比は、等速 $70.684$・放物線 $9.496$・単弦 $7.414$・3-4-5 多項式 $1.515$ である。
観察 3.3 残る揺れの減り方は、加速度が端で跳ぶかどうかで分かれる。加速度が跳ぶ単弦と放物線は倍にするごとに四分の一に、跳ばないサイクロイドと 3-4-5 多項式は八分の一に向かって減り、速さが跳ぶ等速は二分の一に向かう。固有周期に比べて持ち上げが十分に遅ければどれも揺れは小さいが、速くするほど跳ぶ曲線の揺れが大きく残る。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、加速度が端で跳ぶか、跳ばないかである。最大の加速度は、従動節にかかる力の大きさの目安にはなる。しかし持ち上げのあとに残る揺れを決めるのは加速度の跳びで、跳ばないサイクロイドは最大の加速度がいちばん大きくても、固有周期の $8$ から $16$ 倍の持ち上げで単弦の $1/7.414$ しか揺れを残さない。
観察 4.2 言わないこと。カムの輪郭、圧力角、接触の応力、減衰、すきまによる跳ね上がり、減り方の極限の証明は扱わない。示したのは、最大の加速度の大小と残る揺れの大小が逆になりうること、それを分けるのが端の加速度の跳びであることである。
5. 点呼と結び
- $A=\bigl|\int\ddot s e^{i\omega_n t}dt\bigr|/\omega_n$(第1節):残る揺れ。
- サイクロイドの最大の加速度 $\mathbf{6.283185}$(計算 2.1):いちばん大きい。
- 端の加速度 $0$ はサイクロイドと 3-4-5 だけ(計算 2.1):跳ばない。
- 積分と運動方程式が一致(計算 3.1):二通りの確かめ。
- 倍にしたとき単弦 $\mathbf{0.249267}$・サイクロイド $\mathbf{0.132907}$(計算 3.2):四分の一と八分の一へ。
- 単弦はサイクロイドの $7.414$ 倍(計算 3.2):速いと跳ぶ曲線が揺れる。
- 端で跳ぶか、跳ばないか(観察 4.1):分離子・論文741。
結び:サイクロイドのカムは加速度の最大が大きいのに、端で跳ばないぶん速く回しても揺れが残りにくい。五つの曲線のうち最大の加速度はサイクロイドが $6.283185$ でいちばん大きいが、端で加速度が $0$ から滑らかに立ち上がるのはサイクロイドと 3-4-5 多項式だけだった。立ち上がりの時間を倍にするごとに、残る揺れは跳ぶ単弦で $0.249267$ 倍、跳ばないサイクロイドで $0.132907$ 倍に減り、固有周期の $8$ から $16$ 倍の持ち上げでは単弦がサイクロイドの $7.414$ 倍の揺れを残した。最大の加速度の大小と残る揺れの大小は逆になりうる。分離子は、加速度が端で跳ぶか、跳ばないかである。既刊との位置:論文741 が緩和曲線で見た加速度の変わる速さの制約を、カムの持ち上げの端で数え、残る揺れの減り方として示した。正直に言えば、どの曲線でカムを作るべきかは言わない。最大と跳びのどちらが揺れを決めるか、そこまでである。
参考文献
- Norton, R. L. (2009). Cam Design and Manufacturing Handbook. Industrial Press.
- Thomson, W. T., & Dahleh, M. D. (1998). Theory of Vibration with Applications. Prentice Hall.
- 山岸勇輝 (2026). 『緩和曲線の長さを決めている制約は、カントを入れると入れ替わる』[論文741]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/741 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23015094
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「サイクロイドのカムは加速度の最大が大きいのに、端で跳ばないぶん速く回しても揺れが残りにくい」[論文929]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/929
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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/929・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). サイクロイドのカムは加速度の最大が大きいのに、端で跳ばないぶん速く回しても揺れが残りにくい [論文929]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/929
Yamagishi, Y. (2026). A Cycloidal Cam Has the Largest Peak Acceleration, Yet Leaves Less Vibration at Speed Because Its Acceleration Does Not Jump at the Ends [Paper 929]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/929
@misc{yamagishi2026yoi929,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {A Cycloidal Cam Has the Largest Peak Acceleration, Yet Leaves Less Vibration at Speed Because Its Acceleration Does Not Jump at the Ends},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/929},
note = {Preprint, edition 1}
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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