要旨
川の近くの井戸で地下水を汲むと、はじめは帯水層にたまった水が出てくるが、やがて汲んだ水の多くは川から吸い込まれる。本稿は、井戸と川の距離を入れたときに、汲んだ水のうち川から来る割合が時間とともにどう増えるかを、式と鏡の井戸の数値積分で出し、論文937 の一つの箱の模型と比べる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、式と鏡の井戸の積分は一致した。川から来る割合は、無次元の時間 $0.1$・$1$・$100$ で $0.025347319$・$0.479500122$・$0.943628022$ で、式と数値積分が $10^{-8}$ 以内で一致した(第2節)。
第二に、半分から 95 パーセントまでが、箱の模型よりずっと長い。割合が $0.5$ に届く無次元の時間は $1.099055$、$0.95$ に届くのは $127.157222$ で、比は $\mathbf{115.696904}$ だった。一つの箱と見る論文937 の模型では、この比は $4.321928$ だった(第3節)。
第三に、残りは時間の平方根でしか減らない。川から来ない残りは、無次元の時間 $100$ で $0.056372$(円周率と時間の積の平方根で $1$ を割ると $0.056419$)、$10000$ で $0.005642$($0.005642$)だった(第3節)。
第四に、井戸を川から 2 倍離すと、同じ割合に届く時間は 4 倍になる。透水量係数 $500$ m²/日・貯留係数 $0.2$ と置くと、半分に届くのは距離 $100$ m で $4.396$ 日、$200$ m で $17.585$ 日、95 パーセントに届くのは $508.629$ 日と $\mathbf{2034.516}$ 日だった(第3節)。
第五に、分離子は、帯水層を一つの箱と見るか、距離のある広がりと見るか。箱と見ると、川からの取り込みは一つの時定数で揃って進む。広がりと見ると、時間は距離の二乗で揃い、残りが時間の平方根でしか減らない長い尾が残る(第4節)。
キーワード:河川流量の減少、地下水の揚水、グラバー=バルマーの式、鏡の井戸、帯水層、相補誤差関数。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。川の近くの井戸で川から来る割合の式(グラバーとバルマー)、タイスの式、鏡の井戸で川を表す方法は、いずれも地下水学で既知である。理想の条件だけを扱う。帯水層は一様で果てしなく、川は帯水層を底まで貫いて水位が変わらず、川底の抵抗は無いと置く。浅い川、帯水層の端、雨による涵養は入れない。置いた値である。透水量係数 $500$ m²/日・貯留係数 $0.2$・距離 $50$・$100$・$200$ m は比べるために置いた値で、どの帯水層にも対応しない。どれだけ汲むべきかを言わない。川の流れを保つための汲み上げの量は扱わない。既刊との関係:論文937 の射程注記は、空間を入れず、帯水層を一つの箱と置き、井戸と川の距離、水位の広がりは入れないと書いた。本稿はその席に座る(先客なし)。論文937 は、涵養量まで汲めば地下水の減りは止まるが、止まるのは川へ出ていた水をほとんど全部取ったときであることを示した。ここでは、その「ほとんど全部」に届くまでの時間が、井戸と川の距離を入れると一つの箱よりずっと長い尾を引くことを数える。論文599 は、井戸の水位が距離の対数でしか下がらず、汲み続ければ時間の対数で下がり続けることを示した。本稿の鏡の井戸は、そのタイスの水位を二つ重ねたものである。加えたのは、式を鏡の井戸の数値積分で確かめたこと、半分と 95 パーセントに届く時間の比を箱の模型と比べたこと、残りが時間の平方根で減ることを数で示したこと、置いた値で距離ごとの日数を出したこと、分離子を「一つの箱か、距離のある広がりか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:川から距離 $d$ の井戸で、流量 $Q$ を汲み続ける。帯水層の透水量係数を $T$、貯留係数を $S$ とする。川を水位の変わらない線と置くと、川の向こう側の同じ距離に注水する鏡の井戸を置けば、川の線の水位は変わらない。汲んだ水のうち川から来る割合は次の式になる(グラバーとバルマー)。
$$\frac{q_{\text{川}}}{Q}=\mathrm{erfc}\!\left(\sqrt{\frac{d^2S}{4Tt}}\right)=\mathrm{erfc}\!\left(\frac{1}{2\sqrt{t_D}}\right),\qquad t_D=\frac{Tt}{Sd^2}$$
確かめ方:二つの井戸のタイスの水位の傾きから川の線を横切る流れを出し、川に沿って数値で積む。
比べる模型:論文937 の一つの箱の模型では、川から来る割合は $1-e^{-t/\tau}$ である。
問い:井戸と川の距離を入れると、汲んだ水が川からの水に置き換わる速さはどう変わるか。
2. 式と数値積分
計算 2.1:川から来る割合。
| 無次元の時間 $t_D$ | 式 | 鏡の井戸の数値積分 |
|---|---|---|
| $0.1$ | $0.025347319$ | $0.025347319$ |
| $0.5$ | $0.317310508$ | $0.317310508$ |
| $1$ | $0.479500122$ | $0.479500122$ |
| $2$ | $0.617075077$ | $0.617075077$ |
| $10$ | $0.823063274$ | $0.823063274$ |
| $100$ | $0.943628022$ | $0.943628022$ |
六つの時間で、式と数値積分は $10^{-8}$ 以内で一致した。
3. 届くまでの時間と尾
計算 3.1:割合が $0.5$ と $0.95$ に届く時間。
| 模型 | $0.5$ に届く | $0.95$ に届く | 比 |
|---|---|---|---|
| 距離のある広がり($t_D$) | $1.099055$ | $127.157222$ | $\mathbf{115.696904}$ |
| 一つの箱($\tau$ の倍数) | $0.693147$ | $2.995732$ | $4.321928$ |
計算 3.2:川から来ない残り $1-q_{\text{川}}/Q$ と $1/\sqrt{\pi t_D}$:$t_D=100$ で $0.056372$ 対 $0.056419$、$1000$ で $0.017840$ 対 $0.017841$、$10000$ で $0.005642$ 対 $0.005642$。
計算 3.3:透水量係数 $500$ m²/日・貯留係数 $0.2$ と置いた日数。
| 井戸と川の距離 | $0.5$ に届く日数 | $0.95$ に届く日数 |
|---|---|---|
| $50$ m | $1.099$ | $127.157$ |
| $100$ m | $4.396$ | $508.629$ |
| $200$ m | $17.585$ | $\mathbf{2034.516}$ |
距離を $2$ 倍にしたときの日数の比は $4.000000$ だった。
観察 3.4 半分までは早いが、そこから先に長い尾がある。距離のある広がりでは、割合が $0.5$ から $0.95$ になるまでに $115.696904$ 倍の時間がかかり、一つの箱の $4.321928$ 倍よりずっと長い。残りは $1/\sqrt{\pi t_D}$ に沿って時間の平方根でしか減らず、距離 $200$ m では 95 パーセントに届くまで $2034.516$ 日かかった。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、帯水層を一つの箱と見るか、距離のある広がりと見るかである。一つの箱では、たまった水は一つの時定数で減り、川からの取り込みはそれに揃って増える。距離のある広がりでは、残りは時間の平方根でしか減らなかった(計算 3.2)。時間は無次元の時間 $t_D=Tt/(Sd^2)$ で揃うので、距離を $2$ 倍にすると同じ割合に届く時間は $4$ 倍になった。
観察 4.2 言わないこと。実在の帯水層と川、川底の抵抗、浅い川、帯水層の端、涵養、どれだけ汲むべきかは扱わない。示したのは、理想の条件で、井戸と川の距離を入れると川から来る割合に長い尾ができ、それが距離の二乗で延びることである。
5. 点呼と結び
- グラバー=バルマーの式と鏡の井戸(第1節):無次元の時間 $t_D$。
- 式と数値積分が一致(計算 2.1):$10^{-8}$ 以内。
- 半分から 95 パーセントまで $\mathbf{115.696904}$ 倍(計算 3.1):箱では $4.321928$ 倍。
- 残りは $1/\sqrt{\pi t_D}$(計算 3.2):時間の平方根でしか減らない。
- 距離 $200$ m で $\mathbf{2034.516}$ 日(計算 3.3):距離 2 倍で 4 倍。
- 一つの箱か、距離のある広がりか(観察 4.1):分離子・論文937 の射程注記・論文599。
結び:井戸を川から離すと汲んだ水が川から来るまでの時間は距離の二乗で延び、終わりの近くで長く尾を引く。川から来る割合は、式と鏡の井戸の数値積分で一致し、半分から 95 パーセントまでに $115.696904$ 倍の時間がかかった。一つの箱と見ればこの比は $4.321928$ で、残りが時間の平方根でしか減らない尾は、距離を入れたときにだけ現れた。置いた値では、距離 $200$ m で 95 パーセントに届くまで $2034.516$ 日だった。分離子は、帯水層を一つの箱と見るか、距離のある広がりと見るかである。既刊との位置:論文937 が一つの箱で示した「ほとんど全部を取ったとき」に届くまでの時間を、論文937 が入れなかった距離で数え、論文599 のタイスの水位を鏡の井戸として使った。正直に言えば、実際の川と帯水層は理想の条件から外れる。距離を入れると届き方の形がどう変わるか、そこまでである。
参考文献
- Glover, R. E., & Balmer, G. G. (1954). River depletion resulting from pumping a well near a river. Transactions, American Geophysical Union.
- Theis, C. V. (1935). The relation between the lowering of the piezometric surface and the rate and duration of discharge of a well using ground-water storage. Transactions, American Geophysical Union.
- 山岸勇輝 (2026). 『井戸の水位は距離の対数でしか下がらず、汲み続ければ時間の対数で下がり続ける』[論文599]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/599 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014427
- 山岸勇輝 (2026). 『涵養量まで汲めば地下水の減りは止まるが、止まるのは川へ出ていた水をほとんど全部取ったときである』[論文937]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/937
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「井戸を川から離すと汲んだ水が川から来るまでの時間は距離の二乗で延び、終わりの近くで長く尾を引く」[論文956]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/956
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 井戸を川から離すと汲んだ水が川から来るまでの時間は距離の二乗で延び、終わりの近くで長く尾を引く [論文956]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/956
Yamagishi, Y. (2026). Moving a Well Away from a River Delays River Capture as the Square of Distance, with a Long Tail Near the End [Paper 956]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/956
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author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Moving a Well Away from a River Delays River Capture as the Square of Distance, with a Long Tail Near the End},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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