【F022】最良の値は、見たセル数の関数である

要旨

本稿が問うのは、掃引の最良という数字が何の関数なのか、である。答えは、見たセルの数の関数である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、選ぶ手続きを固定したまま、見たセル数 k だけを 3・10・30・100・168 と動かす。 中身は同じである。違うのは見た数だけである(第2節)。

第二に、最良は k とともに上がる。 選択期間の最良は k=3 から全部にかけて 5.1170・2.9004・4.5394・5.4048 倍になり、伸びの中央は 4.8282 倍である(第3節)。

第三に、伸びの形は σ√(2 ln k) と合う。 実測を予言で割った比は中央 0.6185、幅 0.2881 から 1.1547 である。比が 1 に届かないのは、セルが入れ子で相関しているからと読めるが、本稿はそれを測っていない(第4節)。

第四に、評価期間の値は、実測では付いてくる銘柄と付いてこない銘柄に割れる。 log(k) との相関は +0.9809・−0.9985・+0.9689・−0.9661 である。四銘柄のうち二つでは、k を増やすほど評価期間の値も上がる。本稿は「評価は付いてこない」と言い切らない(第5節)。

第五に、これが本稿の芯である。★ 方向の情報がゼロだと分かっている合成乱数でも、最良は k とともに上がる。 USDJPY の系列で 2.7114 から 22.5796 pips である。そして同じとき、評価期間の値は −0.8605 から −6.5417 pips へ落ちる(第6節)。

第六に、★ したがって最良の値は、「当たっているか」を測っていない。 当たっていない系列でも、見た数を増やせば上がるからである。最良を報告するときに必要なのは、見たセル数である(第6節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。極値統計、多重検定、選択バイアス、ランダムウォークはすべて既知である。特定の商材や提唱者を論じない。実在の教材、その著者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。扱うのは公知の手続きそのものである。売買を論じない。本稿が測るのは方向の情報であって、手数料・約定・資金管理を含む売買の成績ではない。射程は日中・少数銘柄に限る。四銘柄・六年・1 時間足の測定である。月次の時系列モメンタム(数十市場・保有1〜12ヶ月)は学術的に文書化されており、本稿はそれを否定しない。掃引の範囲を一通りに固定する。四つの族・168 セルである(第7節)。セルの相関を測っていない。実測が予言に届かない理由を入れ子と読むが、測っていない(第4節・第7節)。重複を除いていない。先の長さが 6・24・72 本で、観測は重なる。t 値は報告していない(第7節)。評価期間の向きは銘柄で割れる。本稿はそれを測って書いている(第5節)。予測を主張しない。既刊との関係:F013 は入れ子の掃引が滑らかさを作ることを、F021 は掃引の順位が期間をまたいで引き継がれないことを示した。本稿は最良の値そのものが見たセル数の関数であることを測る。加えたのは、選ぶ手続きを固定して k だけを動かしたこと、伸びを σ√(2 ln k) と並べたこと、同じことを方向の情報がゼロの系列でやったことである。

1. 記法と問い

掃引の結果は、ふつう最良の値で報告される。「この設定で 5 pips 取れた」という形である。

報告されること 報告されないこと
最良のセルの値 いくつのセルを見たか
そのセルのパラメータ 全セルの分布
評価期間でも黒字だったか 全セルの何割が黒字だったか

観察 1.1:k 個のセルの最大は、k とともに上がる。 セルの値が独立でばらつき σ なら、最大のおおよその伸びは σ·√(2 ln k) である。これは中身に関する主張ではない。端を選ぶことの算術である。

観察 1.2:★ したがって「最良は 5 pips だった」は、それだけでは読めない。 3 個から選んだ値と、168 個から選んだ値は、別の数字である。

観察 1.3:分離子は、見たセルの数である。 選ぶ手続き・データ・期間・銘柄をすべて固定し、見た数だけを動かす。

観察 1.4:★ そして同じことを、方向の情報がゼロだと分かっている系列でやる。 そこでも最良が上がるなら、最良の値は「当たっているか」を測っていない。

問い:掃引の最良という数字は、何の関数なのか。

2. 測る量と設計を、先に書く

予言(走らせる前に書いた)

セルの値が独立でばらつき σ なら、k 個のうちの最大は σ·√(2 ln k) で伸びる。

⇒ 最良は、見たセル数とともに上がる。中身が同じでも。

⇒ そして評価期間の値は付いてこないはずである(端を選んでいるだけなので)。

設計(走らせる前に宣言し、実行時に変えていない)

項目 決めたこと
格子 1 時間足・中値・完成足のみ
移動平均のクロス 短 3・5・8・12・20・30 × 長 20・30・50・80・120・200(短 < 長)
RSI 期間 7・14・21 × 閾値 20・30・40
バンドの外側 期間 10・20・40 × 倍率 1.5・2.0・2.5・3.0
高安のブレイク 期間 10・20・50・100
先の長さ 6・24・72 本
見たセル数 k 3・10・30・100 と全部(168)
取り出し方 k 個を無作為に取り出し、その中で選択期間が最良のものを採る。200 回の平均
基準線 足の中まで合成乱数(5 系列)
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
期間 2019–2024。選択 2019–2021 / 評価 2022–2024

観察 2.1:★ 選ぶ手続きは k によらず同じである。 「無作為に k 個取り出し、その中で選択期間が最良のものを採る」である。違うのは見た数だけである。

観察 2.2:選ぶのは選択期間だけを見て行う。 評価期間は一切使わない。

観察 2.3:200 回の平均を取る。 一回だけ取り出すと、取り出し方そのものが当たり外れになる。

セル数は両期間で測れたもので銘柄あたり 168 である。選択期間の標準偏差は 2.7740・2.1677・2.5451・10.2396 pips である。

3. 見たセル数を増やすと、最良は上がる

計算 3.1 k ごとの最良(選択期間・pips)

銘柄 k=3 k=10 k=30 k=100 k=168 全セルの中央
USDJPY 1.0405 2.3637 4.1075 5.1618 5.3241 −0.2574
EURUSD 1.9069 3.3776 4.2271 4.9625 5.5308 0.4295
GBPUSD 2.1655 3.8643 5.6060 8.5480 9.8301 0.4220
XAUUSD 3.5350 8.1828 12.1794 17.4092 19.1062 −0.8383

計算 3.2 伸び(k=3 から全部まで)

銘柄 k=3 全部 伸び
USDJPY 1.0405 5.3241 5.1170 倍
EURUSD 1.9069 5.5308 2.9004 倍
GBPUSD 2.1655 9.8301 4.5394 倍
XAUUSD 3.5350 19.1062 5.4048 倍

観察 3.3:四銘柄とも、k が増えるほど最良が上がる。 伸びの中央は 4.8282 倍である。

観察 3.4:★ データは同じである。 中身は一切変えていない。変えたのは、いくつ見たかだけである。

観察 3.5:全セルの中央は k によらない。 −0.2574・0.4295・0.4220・−0.8383 である。動いているのは端だけで、分布の真ん中は動いていない。

図1 最良は見たセル数とともに上がる

図1:横が見たセル数 k(対数)、縦が方向の情報。実線が選択期間の最良、破線がそのセルの評価期間の値である。

4. 伸びは、σ√(2 ln k) で説明できるか

計算 4.1 予言との比(選択期間)

銘柄 k 最良 予言 σ√(2 ln k) 実測 ÷ 予言
USDJPY 3 1.0405 3.8546 0.3156
USDJPY 168 5.3241 8.6229 0.6285
EURUSD 3 1.9069 3.6428 0.4598
EURUSD 168 5.5308 7.3690 0.7351
GBPUSD 3 2.1655 4.1946 0.4621
GBPUSD 168 9.8301 8.5695 1.1547
XAUUSD 3 3.5350 14.3399 0.2881
XAUUSD 168 19.1062 31.9410 0.6084

観察 4.2:比の中央は 0.6185、幅は 0.2881 から 1.1547 である。 比が k によらず一定なら、伸びは選択だけで説明できる。

観察 4.3:比は k とともにやや上がる(USDJPY で 0.3156 から 0.6285)。予言は独立を仮定しているが、セルは入れ子で相関している。 短 5 / 長 20 と短 5 / 長 30 は、ほとんど同じ信号を出す。

観察 4.4:★ 本稿はセルの相関を測っていない。 「入れ子だから比が 1 に届かない」は読み方であって、測った結果ではない。

観察 4.5:GBPUSD の k=168 だけ比が 1 を超える(1.1547)。予言は目安であって、上限として厳密に成り立つものではない。

図2 伸びは √(2 ln k) の形をしている

図2:横が k(対数)、縦が「最良が中央からどれだけ伸びたか ÷ σ」。破線が √(2 ln k) である。

5. 評価期間の値は、付いてくるか

計算 5.1 k ごとの評価期間の値(pips)

銘柄 k=3 k=10 k=30 k=100 k=168 log(k) との相関
USDJPY 0.2982 1.1476 3.1984 6.3015 7.1199 +0.9809
EURUSD −1.2109 −2.4470 −3.5031 −4.5043 −4.8903 −0.9985
GBPUSD 0.9990 1.5322 3.1620 4.6488 4.2564 +0.9689
XAUUSD 0.1158 −0.8897 −3.2248 −8.5932 −9.7164 −0.9661

観察 5.2:★ 予言は外れた。 「評価期間の値は付いてこない」と書いたが、USDJPY と GBPUSD では、k とともにはっきり上がっている(相関 +0.9809・+0.9689)。

観察 5.3:そして EURUSD と XAUUSD では、k とともにはっきり下がっている(相関 −0.9985・−0.9661)。★ 四銘柄で符号が二つずつに割れる。

観察 5.4:相関の絶対値がどれも大きいのは、単に単調だからである。 五点しかないので、単調でありさえすれば相関は 1 に近くなる。 強さの証拠として読んではいけない。

観察 5.5:評価期間の値は、全 20 通りで中央 +0.2070 pips、幅 −9.7164 から +7.1199 pips である。 スプレッドの中央は 0.7500 pips である。中央はスプレッドを下回る。

観察 5.6:★ したがって実測だけでは、この問いは閉じない。 銘柄を替えると向きが変わるからである。銘柄が四つでは、どちらが一般の性質かを決められない。

観察 5.7:第6節の基準線が要る理由はここにある。 実測で向きが割れるなら、方向の情報がゼロだと分かっている系列で同じことをして、何が起きるかを見るしかない。

6. 基準線、方向の情報がゼロの系列で、同じことをする

計算 6.1 合成乱数での同じ掃引(5 系列)

銘柄 k 乱数 最良 乱数 評価 実測 最良 実測 評価
USDJPY 3 2.7114 −0.8605 1.0405 0.2982
USDJPY 168 22.5796 −6.5417 5.3241 7.1199
EURUSD 3 1.8510 −0.5750 1.9069 −1.2109
EURUSD 168 15.4395 −4.4730 5.5308 −4.8903
GBPUSD 3 2.6731 −0.8338 2.1655 0.9990
GBPUSD 168 22.2976 −6.4599 9.8301 4.2564
XAUUSD 3 7.8272 −1.3267 3.5350 0.1158
XAUUSD 168 65.6702 −23.5287 19.1062 −9.7164

観察 6.2:★ 方向の情報がゼロの系列でも、最良は k とともに上がる。 USDJPY の系列で 2.7114 から 22.5796 pips である。k=3 の最良の中央は 2.6923 pips で、当たっていない系列でも、3 個見ただけでスプレッドの数倍が出る。

観察 6.3:★ そして評価期間の値は、四銘柄とも k とともに下がる。 中央は −1.9934 pips である。実測で向きが割れたのに、乱数では割れない。

観察 6.4:★ これが端を選ぶことの指紋である。 情報が無いのだから、選択期間で高かったのは偶然である。 偶然は評価期間に引き継がれないので、端に行くほど評価期間では中央より下に落ちる。

観察 6.5:乱数の最良は、実測の最良より大きい(USDJPY で 22.5796 対 5.3241)。★ したがって「最良が大きい」ことは、当たっていることの証拠にならない。 本稿はその差の理由を特定していない。 実測ではセル同士が共通の相場に引きずられて相関が強く、乱数では相関が弱い、という読み方はできるが、測っていない。

観察 6.6:★ 本稿の結論はここから出る。 最良の値は、当たっているかではなく、いくつ見たかを測っている。 だから最良を報告するときは、見たセル数を並べて書かなければならない。

7. 限界

  1. ⚠️ ★ 予言の後半が外れた。 「評価期間の値は付いてこない」と書いたが、実測では四銘柄のうち二つで付いてきた。本稿はその外れを書いており、隠していない。
  2. ★ 四銘柄では、評価期間の向きを決められない。 相関の符号が二つずつに割れる。本稿は「評価は付いてこない」と一般化しない。
  3. 相関は五点で計算している。 単調でありさえすれば絶対値は 1 に近くなる。強さの証拠にはならない。
  4. セルの相関を測っていない。 実測が予言 σ√(2 ln k) に届かない理由を入れ子と読むが、測っていない。
  5. 掃引の範囲を一通りに固定している。 四つの族・168 セルである。別の族や別の粒度では数字が変わる。
  6. 重複を除いていない。 先の長さが 6・24・72 本で、観測は重なる。t 値は報告しておらず、有意性は論じていない。
  7. 合成乱数は独立な正規増分である。 ボラティリティの群れは入っていない。
  8. 四銘柄・六年である。 他の市場、他の期間について述べるものではない。

結び

選ぶ手続きを固定したまま、見たセル数だけを 3 から 168 に動かした。中身は同じである。

選択期間の最良は 5.1170・2.9004・4.5394・5.4048 倍になった。伸びの中央は 4.8282 倍で、その形は σ√(2 ln k) と合う(実測 ÷ 予言 の中央 0.6185)。

最良は、見たセル数の関数である。

評価期間の値については、測る前に書いた予言が外れた。 実測では USDJPY と GBPUSD で k とともに上がり(相関 +0.9809・+0.9689)、EURUSD と XAUUSD で下がった(−0.9985・−0.9661)。四銘柄では、どちらが一般の性質かを決められない。

だから基準線を見る。★ 方向の情報がゼロだと分かっている合成乱数でも、最良は 2.7114 から 22.5796 pips へ上がる。 k=3 の最良の中央は 2.6923 pips で、3 個見ただけでスプレッドの数倍が出る。 そして評価期間の値は四銘柄とも下がり、中央は −1.9934 pips である。

★ 最良の値は、当たっているかを測っていない。いくつ見たかを測っている。

したがって掃引の最良を報告するときに必要なのは、見たセル数である。 それが書かれていない最良の値は、読めない。

データと再現

データ 為替は Dukascopy 由来のティック(2019 年以降はミリ秒・bid・ask まで一致することを確認済み)。金は Dukascopy
期間 2019–2024(六年)。選択 2019–2021 / 評価 2022–2024
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
足 1 時間足・中値・完成足の終値のみ。ティックの無い足は作らない
掃引 移動平均のクロス・RSI・バンドの外側・高安のブレイク × 先の長さ 6・24・72 本。両期間で測れたセルは銘柄あたり 168
取り出し k = 3・10・30・100・全部。各 k で無作為に 200 回取り出す
検算 検算/F022.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/F022_output.txt から取っている
図 図/F022_zu1・図/F022_zu2(png・svg・英語版)
乱数の種 固定。再実行しても同じ値が出る
土台の検査 _ツール/audit_bars.py(足の先読み・夏時間・日の区切り)。記録は _土台の検査.txt

参考文献

  • 山岸勇輝 (2026). 閾値の掃引は、原理的にプラトーを作れない [F013]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22891660
  • 山岸勇輝 (2026). 掃引の順位は、期間をまたいで引き継がれない [F021]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22892047

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「最良の値は、見たセル数の関数である」[F022]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22892093

YOI F022FX と金融ビットコインに記録済み

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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F022・DOI 10.5281/zenodo.22892093・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 最良の値は、見たセル数の関数である [F022]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F022 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22892093

Yamagishi, Y. (2026). The Best Value Is a Function of How Many Cells You Looked At [F022]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F022; DOI: 10.5281/zenodo.22892093

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指紋(SHA-256)と確かめ方
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