要旨
薬局の数を、衛生行政報告例(令和6年度末、厚生労働省【薬事】第1表)で数え、人口・経済センサスと突き合わせた。
全国の薬局は 63,203 施設。人口10万人あたり 51.1。 高齢化が進んだ県ほど多い(r = +0.522)。佐賀県65.1から沖縄県38.9まで1.67倍の開きがある。
薬局が1つも無い町村が 140 ある。 全国の町村926の15.1%にあたる。数がもっとも多いのは北海道の26(全国の18.6%)。ただし町村に占める割合では東京都が53.8%(13町村のうち7)で1位である。一方、無薬局町村が0の都道府県が11ある。
薬局の94.4%は、開設者が自ら管理していない。 開設者が自ら管理している薬局は 3,544、全体の5.6%にすぎない。県ごとでは和歌山県20.4%から熊本県1.8%まで11.5倍の開きがある。
登録販売者は 301,401 人。 薬局1施設あたり4.8人、人口10万人あたり243.5人にあたる。薬剤師でなくとも第2類・第3類医薬品を売れる資格で、薬局以外でも働く。
北海道は人口10万人あたり46.9で47都道府県中40位、開設者が自ら管理している薬局は3.2%で42位である。
1. はじめに
R003 は「町に1軒だけの商売」を数え、I003 は「その分類が無い」が統計の選び方に依存することを示した。どちらも経済センサスで数えた「ある/無い」である。
薬局には、それとは別の数え方がある。厚生労働省が、薬局が1つも無い町村の数を直接数えて公表している。経済センサスから推定するのではなく、行政が数えた「無い」である。
同じ表には、他の業種の統計に無いものがもう1つある。開設者が自ら管理しているかどうかである。
薬局はどこに無いのか。そして、薬局は誰のものか。
2. データ
| 薬局 | 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」【薬事】第1表 薬局数・無薬局町村数・登録販売者数、都道府県別(令和6年度末現在) |
| 経済センサス(参考) | 「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類 603 医薬品・化粧品小売業(令和3年6月1日) |
| 人口・65歳以上・町村の数 | 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日 |
47都道府県すべての行がそろい、合計は全国の欄と一致する(薬局 63,203、無薬局町村 140、登録販売者 301,401、開設者が自ら管理 3,544)。この表に指定都市・中核市の再掲行は無い。
町村の総数は、住民基本台帳の市区町村(単位A、1,892)のうち名前が「町」「村」で終わるものを数えて 926 とした。
経済センサスの603は、薬局と同じものではない。 ドラッグストアと化粧品小売業を含む。本稿では参考として並べるだけで、突き合わせの対象にはしない。
3. 結果
3-1 薬局は63,203、人口10万人あたり51.1
| 施設 | 割合 | |
|---|---|---|
| 薬局(総数) | 63,203 | |
| (再掲)健康サポート薬局 | 3,183 | 5.0% |
| (再掲)地域連携薬局 | 4,202 | 6.6% |
| (再掲)専門医療機関連携薬局 | 206 | 0.33% |
人口10万人あたりは全国 51.1、中央値53.0。
| 人口10万人あたり | 多い | 少ない |
|---|---|---|
| 薬局 | 佐賀65.1/山形61.4/高知61.1 | 埼玉43.9/千葉42.5/沖縄38.9 |
上と下の開きは 1.67倍。I006 の宿(人口あたりの施設数で25.6倍)に比べると、薬局はどの県にもほぼ同じ密度である。
高齢化が進んだ県ほど多い(r = +0.522)。 薬の需要が年齢とともに増えることと整合するが、本稿は処方箋の枚数を見ていない。
3-2 薬局が1つも無い町村が140

図1 薬局が1つも無い町村の数(令和6年度末、無薬局町村が1つ以上ある36都道府県)。
灰色は都道府県、橙は北海道。
全国で140。全国の町村926の15.1%である。
| 数が多い | 無薬局町村 | 町村数 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 26 | 144 | 18.1% |
| 長野県 | 13 | 58 | 22.4% |
| 奈良県 | 12 | 27 | 44.4% |
| 福島県 | 12 | 46 | 26.1% |
| 沖縄県 | 10 | 30 | 33.3% |
| 東京都 | 7 | 13 | 53.8% |
北海道が全国の18.6%を占める。 しかし町村に占める割合で見ると順位は入れ替わる。
| 割合が高い | 無薬局町村 | 町村数 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 7 | 13 | 53.8% |
| 奈良県 | 12 | 27 | 44.4% |
| 沖縄県 | 10 | 30 | 33.3% |
東京都では、町村の半分以上に薬局が無い。 東京都の町村は13しかなく、その多くが島嶼部と西多摩の山間部である。「東京に薬局が多い」ことと「東京の町村の半分に薬局が無い」ことは、同時に成り立つ。
一方、無薬局町村が0の都道府県が11ある。
3-3 開設者が自ら管理している薬局は5.6%
| 施設 | 割合 | |
|---|---|---|
| 開設者が自ら管理している薬局 | 3,544 | 5.6% |
| 開設者が自ら管理していない薬局 | 59,659 | 94.4% |
薬機法は、薬局の開設者が薬剤師であるときは自ら管理することを原則とし、そうでないときは管理薬剤師を置くことを求めている。この区分は、薬局が「薬剤師本人の店」なのか、そうでないのかをおおまかに分ける。
94.4%は、開設者が自分で管理していない。 県ごとの差は大きい。
| 高い | 自ら管理 | 薬局 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 和歌山県 | 99 | 486 | 20.4% |
| 沖縄県 | 89 | 577 | 15.4% |
| 山梨県 | 61 | 476 | 12.8% |
| 低い | 自ら管理 | 薬局 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 宮崎県 | 15 | 588 | 2.6% |
| 宮城県 | 28 | 1,219 | 2.3% |
| 熊本県 | 16 | 900 | 1.8% |
中央値4.7%、上と下の開きは 11.5倍。高齢化率との相関はほとんど無い(r = −0.102)。
I004 では理容所・美容所の1店あたり従業者が2人前後で、「小さくて、どこにでもある」商売だった。薬局は、どこにでもあるが、小さい個人の店ではない。
3-4 登録販売者は301,401人
| 登録販売者 | 301,401人 |
| 薬局1施設あたり | 4.8人 |
| 人口10万人あたり | 243.5人 |
登録販売者は、薬剤師でなくとも第2類・第3類医薬品を販売できる資格である。薬局だけでなく、ドラッグストア・コンビニ・スーパーでも働く。 したがって「薬局1施設あたり4.8人」は薬局の従業者数ではなく、資格者の数を薬局の数で割った目安にすぎない。
| 人口10万人あたり | 多い | 少ない |
|---|---|---|
| 登録販売者 | 福井429人/石川407人/富山405人 | 埼玉193人/千葉192人/神奈川171人 |
福井県と神奈川県で2.5倍の差がある。人口10万人あたりの薬局数との相関は r = +0.361 で、薬局の多い県が登録販売者も多いとは限らない。
3-5 北海道と釧路総合振興局管内
北海道の薬局は 2,342、人口10万人あたり 46.9 で47都道府県中 40位。少ないほうである。
無薬局町村は26/144町村(18.1%)で、全国140の18.6%を占める。
開設者が自ら管理している薬局は 3.2%(42位)。全国5.6%を下回る。北海道の薬局は、薬剤師本人の店である割合が全国より低い。
釧路管内は、衛生行政報告例に市区町村別が無いため、経済センサスの603(医薬品・化粧品小売業)のみを示す。603は薬局と同じものではない。
| 市町村 | 人口 | 603 事業所 | 人口10万人あたり |
|---|---|---|---|
| 釧路市 | 151,566 | 110 | 72.6 |
| 釧路町 | 18,021 | 12 | 66.6 |
| 厚岸町 | 7,976 | 5 | 62.7 |
| 浜中町 | 5,172 | 2 | 38.7 |
| 標茶町 | 6,698 | 5 | 74.6 |
| 弟子屈町 | 6,327 | 7 | 110.6 |
| 鶴居村 | 2,368 | 0 | 0.0 |
| 白糠町 | 6,840 | 5 | 73.1 |
鶴居村は0である。 薬局も、ドラッグストアも、化粧品店も無い。603が0の市区町村は全国で104ある。
I006 では、鶴居村の宿泊業は人口1万人あたり25.34で、全国中央値3.56を大きく上回っていた。同じ村に、宿はあり、薬を買う店は無い。
4. 考察
4-1 行政が数えた「無い」
R001〜R003 の「無い」は、経済センサスの事業所数が0であることから導いた。I003 では、それが統計の選び方に依存することを示した。
無薬局町村140は、そのどちらとも違う。 厚生労働省が、薬局が1つも無い町村を直接数えて公表している数である。推定ではない。
このような「無い」の直接の集計は、他の業種の統計にはほとんど見あたらない。無いことを数えるのは、あることを数えるより難しい。
4-2 「多い」と「無い」は同時に成り立つ
東京都は薬局の総数では全国の上位にあるが、町村の53.8%には薬局が無い。
これは矛盾ではない。都道府県という単位が、内部の差を消している。 I006 で、全国の「宿は2.74倍に増えている」が9県の減少を隠していたのと同じ形である。
「その県には薬局が多い」は、「その県のどの町にも薬局がある」を意味しない。
4-3 薬局は、誰のものか
開設者が自ら管理している薬局は5.6%である。残りの94.4%は、法人が開設し、雇われた管理薬剤師が置かれている。
この数字は、「資格が要る商売=個人の店」ではないことを示している。I004 の理容所・美容所は1店あたり1.8人・2.12人で、ほとんどが1人か2人の店だった。同じ資格職でも、薬局はそうなっていない。
ただし本稿は、開設者が法人か個人か、チェーンか独立かを直接見ていない。「自ら管理しているか」は、その代わりの粗い目安である。
4-4 売る人は、薬剤師だけではない
登録販売者301,401人は、薬局63,203に対して4.8倍の人数である。薬剤師の数は本稿では扱っていないが、薬を売る仕事の担い手は、薬局の外側に広がっている。
福井県429人と神奈川県171人の2.5倍の差が何によるかは、本稿では確かめていない。
5. 限界
- 衛生行政報告例は令和6年度末、経済センサスは令和3年6月1日、人口は2026年1月1日。時点が違う
- 無薬局町村は「町村」だけを数えたもの。 市(薬局の無い区を含む)は入らない
- 衛生行政報告例には市区町村別が無い。どの町村に薬局が無いかは、この表からはわからない
- 町村の総数926は、住民基本台帳の市区町村名から数えたもので、厚生労働省が用いた町村の範囲と一致するとは限らない
- 登録販売者は資格を持つ人の数で、薬局の従業者数ではない
- 「開設者が自ら管理している」は、法人か個人か、チェーンか独立かを直接示すものではない
- 経済センサスの603はドラッグストア・化粧品小売を含み、薬局と同じものではない
- 薬局の規模(処方箋の枚数・従業者数・売上)は見ていない
- 薬剤師の数は扱っていない
6. 再現の手順
- e-Stat から「令和6年度 衛生行政報告例」【薬事】第1表(CSV)を取得する
- 47県の合計が全国の欄と一致することを確かめる(薬局 63,203/無薬局町村 140/登録販売者 301,401/自ら管理 3,544)
- 住民基本台帳から、市区町村名が「町」「村」で終わるものを都道府県ごとに数える(全国926)
- 人口10万人あたりの薬局数、無薬局町村の割合、開設者が自ら管理している割合を出す
- 参考として、経済センサスの603を市区町村ごとに取る(薬局とは別物であることを明記する)
本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_195)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。
この論文の位置づけ
新しい理論を主張するものではない。行政が直接数えた「薬局が1つも無い町村」という数と、「開設者が自ら管理しているか」という区分を、人口と並べて読んだものである。R003(町に1軒だけの商売)・I003(統計によって変わる「無い」)の続きにあたる。経済センサスの603は薬局と同じものではないため、突き合わせは行っていない。
参考文献・データの出典
- 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」【薬事】第1表
- 総務省統計局・経済産業省「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類別 事業所数(市区町村別)
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
- 山岸勇輝「町に1軒だけの商売」(R003)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22872474
- 山岸勇輝「同じ診療所を2つの公的統計で数えると」(I003)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22875614
- 山岸勇輝「理容所と美容所、1店あたり2人」(I004)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22875820
- 山岸勇輝「宿の数は、統計によって13.7倍ちがう」(I006)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876047
版の記録
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026-09-21 | 初出 |
引用のしかた
山岸勇輝(2026)「薬局が1つも無い町村が140ある。そして薬局の94.4%は、開設者が自分で管理していない [I007]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876130
(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)
© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)
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書誌
山岸勇輝(2026)「薬局が1つも無い町村が140ある」[I007]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22876130
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 薬局が1つも無い町村が140ある [I007]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I007 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22876130
Yamagishi, Y. (2026). 140 Towns and Villages Have No Pharmacy [I007]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I007; DOI: 10.5281/zenodo.22876130
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