要旨
公衆浴場の数を、衛生行政報告例(令和6年度末、厚生労働省【生活衛生】第9表)で数え、人口・経済センサスと突き合わせた。
公衆浴場は 23,668 施設あるが、そのうち「一般公衆浴場」(いわゆる銭湯)は 2,730、わずか 11.5% である。 残りはサウナ風呂2,031、スポーツ施設3,369、ヘルスセンター1,759、個室付浴場1,429、その他12,350である。
営業許可 888 件に対して、営業廃止は 903 件。0.98倍で、許可より廃止が多い。 I006 の宿(2.74倍)とは逆で、この一連で唯一、1を下回った業種である。47都道府県のうち19で廃止が上回る。
経済センサスの浴場業(784)は 2,288 事業所。 公衆浴場23,668と比べれば10.34倍の開きだが、銭湯 2,730 とだけ比べれば 1.19倍でほぼ一致する。経済センサスの「浴場業」は、実質的に銭湯を拾っているとみられる。
人口10万人あたりの銭湯は全国 2.21、中央値 1.18。青森県22.37から山形県の0.00まで開く。一般公衆浴場が1つも無い都道府県が1つある(山形県)。
北海道は公衆浴場 1,208(銭湯188、15.6%)。営業許可48件に対して廃止75件(0.64倍)である。
1. はじめに
I006 は宿を、I008 はクリーニングを、公的統計の区分の内側から数えた。どちらも、同じ名前の中に違うものが入っていることが分かった。
公衆浴場も同じである。しかもこの表には、I006 と同じ 年度中の開業・廃業件数 が入っている。
銭湯は何軒あるのか。増えているのか、減っているのか。
2. データ
| 公衆浴場 | 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」【生活衛生】第9表 公衆浴場数(公営・私営別)、営業許可・廃止・処分件数(施設数は令和6年度末現在。許可・廃止は年度中の件数) |
| 経済センサス | 「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類 784 浴場業(令和3年6月1日) |
| 人口・65歳以上 | 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日 |
47都道府県すべての行がそろい、合計は全国の欄と一致する(総数 23,668、許可 888、廃止 903)。内訳も公営 3,361 + 私営 20,307 = 23,668 で総数と合う。
衛生行政報告例には市区町村別が無い(都道府県・指定都市・中核市まで)。本稿は都道府県を単位とし、経済センサスは市区町村の値を都道府県ごとに合計した。
「一般公衆浴場」は物価統制令の対象となる区分で、入浴料の上限が都道府県ごとに決められている。いわゆる銭湯にあたる。
3. 結果
3-1 「公衆浴場」の11.5%しか銭湯ではない

図1 公衆浴場の内訳(令和6年度末、全国23,668施設)。
緑は一般公衆浴場(いわゆる銭湯)、灰色はそれ以外。
| 施設 | 総数に占める割合 | |
|---|---|---|
| 公営 | 3,361 | 14.2% |
| うち一般公衆浴場 | 286 | 1.2% |
| うちその他 | 3,075 | 13.0% |
| 私営 | 20,307 | 85.8% |
| うち一般公衆浴場 | 2,444 | 10.3% |
| うち個室付浴場 | 1,429 | 6.0% |
| うちヘルスセンター | 1,759 | 7.4% |
| うちサウナ風呂 | 2,031 | 8.6% |
| うちスポーツ施設 | 3,369 | 14.2% |
| うちその他 | 9,275 | 39.2% |
| 合計 | 23,668 |
一般公衆浴場(銭湯)は、公営286と私営2,444を合わせて 2,730。総数の 11.5% にすぎない。
「公衆浴場が2万軒以上ある」と「銭湯は3千軒を切っている」は、同じ表の中で両立する。言葉の使い方だけで、数が8.67倍変わる。
3-2 開業888件、廃業903件、この一連で唯一1を下回った
| 件数(年度中) | |
|---|---|
| 営業許可 | 888 |
| 営業廃止 | 903 |
| 比 | 0.98倍 |
I006 の宿は2.74倍だった。公衆浴場は1を下回る。
| 増えている | 比 |
|---|---|
| 長崎県 | 10.33倍 |
| 滋賀県 | 5.50倍 |
| 福井県 | 5.00倍 |
| (中央値) | 1.03倍 |
| 減っている | 比 |
|---|---|
| 奈良県 | 0.40倍 |
| 富山県 | 0.38倍 |
| 愛媛県 | 0.22倍 |
47都道府県のうち19で、廃止が許可を上回る。 中央値は1.03倍で、全国の0.98倍とわずかに向きが違う。これは、件数の多い県が減っているためである。
ただしこの許可・廃止は公衆浴場ぜんぶの件数であって、銭湯だけの数ではない。銭湯が減り、サウナが増えていても、この1つの数字では区別できない。
3-3 経済センサスの「浴場業」は、実質的に銭湯を拾っている
| 数 | 比 | |
|---|---|---|
| 公衆浴場(衛生行政報告例、令和6年度末) | 23,668 | 10.34倍 |
| うち一般公衆浴場 | 2,730 | 1.19倍 |
| 経済センサスの浴場業 784(令和3年) | 2,288 |
総数で比べると10.34倍だが、銭湯とだけ比べると1.19倍でほぼ一致する。
産業小分類784は 7841 一般公衆浴場 と 7842 その他の公衆浴場 を合わせたものである。にもかかわらず総数と10倍の差が出るのは、サウナ・スポーツ施設・ホテルなどに附属する風呂が、その事業所の主たる事業で分類されているためと考えられる。I003 の一般診療所と同じ形の説明だが、本稿では確かめていない。
これは、I006(簡易宿所13.75倍)と逆の例である。あちらは事業所として捕捉されない施設が多いという話だった。こちらは、施設は捕捉されているが、別の分類に入っているという話になる。
3-4 都道府県ごと
| 人口10万人あたりの銭湯(全国2.21、中央値1.18) | 多い | 少ない |
|---|---|---|
| 青森22.37/鹿児島15.70/大分11.45 | 沖縄0.07/茨城0.04/山形0.00 |
一般公衆浴場が1つも無い都道府県が1つある。山形県である。 公衆浴場は228施設あるが、そのうち一般公衆浴場は公営・私営とも0と報告されている。0を除いて上と下を比べると633.3倍の開きになる。
| 公衆浴場に銭湯が占める割合(全国11.5%) | 高い | 低い |
|---|---|---|
| 青森55.5%/大阪43.8%/鹿児島34.6% | 沖縄0.3%/茨城0.2%/山形0.0% |
| 公営の割合(全国14.2%) | 高い | 低い |
|---|---|---|
| 奈良34.1%/福島27.5%/新潟26.3% | 静岡7.1%/沖縄3.8%/富山2.4% |
| 人口10万人あたりの公衆浴場・総数(全国19.1) | 多い | 少ない |
|---|---|---|
| 長野58.9/大分52.0/鹿児島45.4 | 大阪9.2/愛知8.6/埼玉8.1 |
大阪府は総数では下から3番目(9.2)だが、銭湯の割合では上から2番目(43.8%)である。 数は少ないが、あるものは銭湯である。逆に長野県は総数が全国一多い(58.9)が、温泉地の入浴施設が多いためとみられる。
高齢化率との相関は弱い(人口10万人あたりの銭湯と r = +0.214)。人口の大きさとも、銭湯の割合はほとんど関係が無い(r = +0.156)。
3-5 北海道と釧路総合振興局管内
北海道は公衆浴場 1,208。うち銭湯は 188(15.6%)、公営は242(20.0%)である。
人口10万人あたりは総数24.2(47都道府県中24位)、銭湯3.76(8位)。全国2.21より多い。
営業許可48件に対して、営業廃止75件(0.64倍)。 全国の0.98倍を下回る。
釧路管内は、衛生行政報告例に市区町村別が無いため、経済センサスの784(浴場業)のみを示す。
| 市町村 | 人口 | 784 事業所 | 人口10万人あたり |
|---|---|---|---|
| 釧路市 | 151,566 | 12 | 7.9 |
| 釧路町 | 18,021 | 0 | 0.0 |
| 厚岸町 | 7,976 | 1 | 12.5 |
| 浜中町 | 5,172 | 1 | 19.3 |
| 標茶町 | 6,698 | 1 | 14.9 |
| 弟子屈町 | 6,327 | 1 | 15.8 |
| 鶴居村 | 2,368 | 0 | 0.0 |
| 白糠町 | 6,840 | 0 | 0.0 |
784が0の市区町村は全国で 1,239 ある。1,889のうち3分の2である。全国の中央値は0.0で、浴場業は「ほとんどの町に無い」商売である。
管内では釧路町・鶴居村・白糠町が0。R003 で見た「1軒だけの商売」より、さらに手前の段階にある。
4. 考察
4-1 名前と中身
「公衆浴場が23,668ある」は正しい。「銭湯が2,730しかない」も正しい。同じ表の同じ列から出る。
I008 のクリーニング(洗う施設は3割)と同じ形である。行政の区分は、商売の実体を1つの数では表さない。 どの区分を取るかで、8.67倍の差がつく。
この違いは、法律の側の都合から来ている。一般公衆浴場は物価統制令で入浴料の上限が決められており、他の公衆浴場とは扱いが違う。統計の区分は、規制の区分をなぞっている。
4-2 廃業が上回る、ただ1つの業種
この一連で開業・廃業の件数が取れたのは I006(宿)と本稿だけである。宿は2.74倍で増えていたが、公衆浴場は0.98倍で減っている。
47都道府県のうち19で廃止が上回る。北海道は0.64倍である。
ただし、この件数は公衆浴場ぜんぶのものである。 銭湯が減ってサウナが増えるという入れ替わりが起きていても、この数字では見えない。「銭湯が減っている」と本稿は言えない。言えるのは「公衆浴場全体で、廃止が許可を上回った」までである。
4-3 2つの統計が一致するとき
I003 以来、公的統計の数が合わない例を並べてきた。一般診療所+26.8%、美容所+72.2%、飲食店営業2.91倍、簡易宿所13.75倍。
公衆浴場は、総数で比べれば10.34倍と大きく離れるが、銭湯とだけ比べれば1.19倍である。 経済センサスの「浴場業」に入っているのは、実質的に銭湯だと読める。
統計が合わないときは、比べる区分が違っている。 合う区分を選べば合う。ただし、それがどの区分かは、数を見るまで分からない。
4-4 ほとんどの町に無い
784が0の市区町村は1,889のうち1,239。中央値は0である。
R002 では、産業小分類433のうち多くが人口155人の町から現れた。浴場業はその逆で、人口があっても現れない商売である。釧路管内でも8市町村のうち3つが0である。
5. 限界
- 衛生行政報告例は令和6年度末、経済センサスは令和3年6月1日、人口は2026年1月1日。時点が違う
- 衛生行政報告例は公衆浴場法の許可を受けた施設の数。経済センサスは事業所
- 「一般公衆浴場」は物価統制令の対象になる区分で、いわゆる銭湯にあたるが、定義の運用は自治体による
- 許可・廃止は公衆浴場ぜんぶの件数で、銭湯だけの増減は分からない
- 許可・廃止は年度中の件数で、同じ施設の建て替えや承継を含みうる
- スポーツ施設や宿泊施設に附属する風呂が784に入らないという説明は仮説であり、検証していない
- 衛生行政報告例には市区町村別が無い。釧路管内はセンサスの値のみ
- 入浴料・利用者数・施設の大きさは見ていない
- どちらの統計が正しいかを、本稿は判定しない
6. 再現の手順
- e-Stat から「令和6年度 衛生行政報告例」【生活衛生】第9表(CSV)を取得する。指定都市・中核市の再掲行があるので、都道府県の行だけを使う
- 47県の合計が全国の欄と一致すること、公営+私営=総数になることを確かめる(総数 23,668/許可 888/廃止 903)
- 公営の一般公衆浴場と私営の一般公衆浴場を足して「銭湯」を出す(全国 2,730)
- e-Stat から令和3年 経済センサスの産業小分類別 事業所数(市区町村別)を取得し、784 を都道府県ごとに合計する
- 住民基本台帳の人口・65歳以上人口を都道府県ごとに合計する
- 銭湯の割合、人口10万人あたりの施設数、許可÷廃止を出す
本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_197)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。
この論文の位置づけ
新しい理論を主張するものではない。「公衆浴場」という区分の中で、一般公衆浴場(銭湯)が何割を占めるかを数え、開業・廃業の件数と並べたものである。I006(宿)・I008(クリーニング)と同じく、公的統計の区分の内側を見た。開業より廃業が多かったのは、この一連では本稿だけである。経済センサスの784との一致・不一致についての説明は仮説にとどめた。どちらの統計が正しいかは判定しない。
参考文献・データの出典
- 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」【生活衛生】第9表
- 総務省統計局・経済産業省「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類別 事業所数(市区町村別)
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
- 山岸勇輝「その商売は、人口何人の町から現れるか」(R002)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22872356
- 山岸勇輝「同じ診療所を2つの公的統計で数えると」(I003)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22875614
- 山岸勇輝「宿の数は、統計によって13.7倍ちがう」(I006)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876047
- 山岸勇輝「クリーニング所の7割は、洗っていない」(I008)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876239
版の記録
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026-09-21 | 初出 |
引用のしかた
山岸勇輝(2026)「「公衆浴場」23,668のうち、銭湯は2,730、そしてこの業種だけ、廃業が開業を上回る [I009]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876425
(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)
© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)
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書誌
山岸勇輝(2026)「「公衆浴場」23,668のうち、銭湯は2,730」[I009]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22876425
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「公衆浴場」23,668のうち、銭湯は2,730 [I009]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I009 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22876425
Yamagishi, Y. (2026). Of 23,668 “Public Bathhouses,” 2,730 Are Neighbourhood Baths [I009]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I009; DOI: 10.5281/zenodo.22876425
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