【I019】映画館は1,468施設、市区町村の82.1%には1つも無い

要旨

衛生行政報告例(令和6年度)の第7表から、興行場の数を施設の種類別に数え、許可・廃止・処分の件数と、経済センサス(令和3年)の映画館業・スポーツ施設提供業・興行場業と突き合わせた。

常設の興行場は4,826施設。 内訳は映画館1,468(30.4%)、その他2,971(61.6%)、スポーツ施設387(8.0%)。

経済センサスとのずれ方が、種類によって正反対である。

衛生行政報告例 経済センサス 比
映画館 1,468 施設 575 事業所 2.55倍
その他 2,971 施設 4,241 事業所 0.70倍
スポーツ施設 387 施設 19,344 事業所 0.02倍

スポーツ施設提供業19,344のうち、興行場として許可を受けているのは387(2.0%)だけである。 興行場法の「興行場」は公衆に見せ、聞かせる施設で、運動する場所は含まない。

経済センサスの映画館業は、全国1,889市区町村のうち339にしかない。市区町村の82.1%には映画館が無い。

営業許可取消0件、営業停止0件。 常設4,826施設に対して、処分は0である。

仮設の興行場の許可は年202件で、常設の許可81件の2.49倍ある。

釧路総合振興局管内で映画館があるのは釧路郡釧路町だけで、釧路市には無い。

1. はじめに

I015 の理容所・美容所、I017 の墓地・火葬場と同じく、興行場も生活衛生の許可業種である。

ただし興行場は、他の生活衛生業種と性格が違う。 理容所は全国1,862市区町村にあり、美容所は1,857にある。映画館は339にしかない。

興行場は日本にいくつあるのか。映画館はどこにあるのか。

2. データ

興行場・許可・廃止・処分 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度 第7表(生活衛生)。施設数は令和6年度末現在、許可・廃止・処分は年度中
事業所・従業者 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」令和3年 801 映画館/802 興行場(別掲を除く),興行団/804 スポーツ施設提供業
人口 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日

47都道府県すべての行がそろい、3つとも合計が全国の値とぴたり一致する(映画館1,468、スポーツ施設387、その他2,971、いずれも差0)。

興行場法の「興行場」とは、映画・演劇・音楽・スポーツ・演芸・見せ物を公衆に見せ、聞かせる施設である。 運動するための施設(ジムなど)は含まない。

3. 結果

3-1 常設の興行場4,826

種類 施設 常設に占める割合
その他 2,971 61.6%
映画館 1,468 30.4%
スポーツ施設 387 8.0%
合わせて 4,826

「その他」には演劇・音楽・演芸・見せ物などが混ざる。この表では分けられない。

3-2 ずれ方が、種類によって正反対

衛生行政報告例(2024年度末) 経済センサス(2021-06-01) 比
映画館 1,468 施設 575 事業所(20,053人、1事業所あたり34.87人) 2.55倍
その他 2,971 施設 4,241 事業所(39,996人、9.43人) 0.70倍
スポーツ施設 387 施設 19,344 事業所(306,208人、15.83人) 0.02倍

映画館は衛生行政報告例のほうが2.55倍多く、スポーツ施設は2.0%しかない。

スポーツ施設の差は、定義の違いによるものである。 興行場法が対象にするのは観客に見せる施設なので、ジムやテニスコートは入らない。19,344のうち387(2.0%)だけが、観客を入れる施設ということになる。

映画館が2.55倍になる理由は、この表からは分からない。1つの事業所が複数の興行場の許可を持っている可能性(複数の建物、複数のスクリーン区画)が考えられるが、確かめられない。

801 映画館の1事業所あたりは34.87人で、全産業の11.80人(X001)の3倍近い。 興行場のなかでは大きい商売である。

3-3 処分は0件

年度中 件
営業許可(常設) 81
営業許可(仮設) 202
廃止 73
営業許可取消 0
営業停止 0

常設4,826施設に対して、処分は0件である。

常設の許可81 ÷ 廃止73 1.11
許可+仮設283 ÷ 廃止73 3.88
常設の許可81 ÷ 常設4,826 1.68%

1年で入れ替わるのは1.68%である。 開業も廃業も少ない。

仮設の興行場の許可は年202件で、常設の許可81件の2.49倍。 祭り・催事・仮設ステージなどがここに入る。数のうえでは、興行場の許可の7割は仮設である。

3-4 人口100万人あたり

横棒グラフ。47都道府県を、人口100万人あたりの映画館の施設数が少ない順に並べてある。北海道を色を変えて示し、全国の11.9に縦線を引いている。

図1 人口100万人あたりの映画館(47都道府県、令和6年度)。
灰色は都道府県、橙は北海道、青の縦線は全国の11.9。

全国 多い 少ない 上と下 中央値
映画館 11.9 熊本43.5(74施設)/香川37.6(35)/福岡33.1(168) 埼玉4.3(32)/岡山2.7(5)/奈良2.3(3) 18.73倍 9.4
常設の興行場 39.0 青森72.0/島根69.4/東京68.8 神奈川21.9/埼玉19.0/岐阜12.9 5.57倍 39.2
相関(47都道府県) r
映画館(100万人あたり)× 人口(対数) −0.045
常設(100万人あたり)× 人口(対数) −0.373

人口あたりの映画館は、人口とまったく関係しない(r = −0.045)。熊本県43.5と奈良県2.3の差は、人口では説明できない。

3-5 市区町村の82.1%には映画館が無い

映画館が0の都道府県 0
映画館が10施設未満の都道府県 12/47
経済センサスで映画館業がある市区町村 339/1,889(17.9%)
映画館が無い市区町村 82.1%

都道府県の単位ではどこにでもあるが、市区町村の単位では8割に無い。

I015 で見た理容業1,862・美容業1,857と比べると、桁が違う。

3-6 北海道と釧路総合振興局管内

北海道
映画館 43施設
スポーツ施設 22施設
その他 100施設
常設 合わせて 165施設
人口100万人あたり 映画館8.6(26位/47。全国11.9)/常設33.0(34位。全国39.0)
年度中 営業許可 常設2件/仮設6件/廃止4件

釧路管内(経済センサス 令和3年):

市町村 801 映画館 802 興行場・興行団 804 スポーツ施設提供業
釧路市 0 3 37
釧路郡釧路町 1 0 4
厚岸町 0 0 3
浜中町 0 0 4
標茶町 0 0 1
弟子屈町 0 1 2
鶴居村 0 0 2
白糠町 0 0 9
管内の合計 1 62

管内で映画館があるのは釧路郡釧路町だけである。人口151,566人の釧路市には無い。

4. 考察

4-1 同じ表のなかで、ずれ方が正反対になる

I006 以来の突き合わせでは、衛生行政報告例のほうが多いことが普通だった。簡易宿所13.75倍、美容所1.710倍、百貨店29.6倍。

興行場の第7表では、同じ表のなかで向きが分かれる。 映画館2.55倍に対して、スポーツ施設0.02倍。

スポーツ施設の0.02倍は、定義の違いである。 興行場法は「公衆に見せ、聞かせる」施設を対象にする。ジムやテニスコートは、客が自分で運動する場所なので入らない。19,344のうち387(2.0%)が、観客を入れる施設だということになる。

これは I012 で見た「制度の範囲のほうが分類より狭い」型(特定建築物922 ⇔ 事業所27,977 = 0.64倍)と同じである。

映画館の2.55倍については、説明を確かめられない。 1つの事業所が複数の興行場許可を持つ形(I011 の百貨店29.6倍、I013 と同じ型)が考えられるが、この表には書いていない。

4-2 処分0件

常設4,826施設に対して、営業許可取消も営業停止も0件だった。

I015 の理容所・美容所でも、385,747施設に対して閉鎖命令は0件だった。生活衛生の許可業種では、処分という形で行政が動くことはほとんど無い。

I018 で見たとおり、環境衛生監視員は6,710人(専従465人)である。興行場4,826は、その受け持ちのごく一部にすぎない。

「処分が0件である」ことは、「問題が0件である」ことを意味しない。 どちらとも、この表からは決まらない。

4-3 仮設が常設の2.49倍あること

営業許可は常設81件に対して仮設202件。年に出る興行場の許可の7割は、仮設である。

これは他の生活衛生業種には無い形である。理容所も旅館も、仮設という区分が無い。

興行は、場所を持たなくても成り立つ商売である。 祭り・催事・仮設ステージのたびに許可が出て、終われば消える。

常設のほうは、1年で入れ替わるのが1.68%(許可81 ÷ 常設4,826)。常設は動かず、仮設だけが毎年出入りしている。

4-4 「都道府県には必ずあるが、市区町村の8割には無い」

映画館が0の都道府県は無い。だが経済センサスでは、1,889市区町村のうち339(17.9%)にしかない。

この落差が、映画館という商売の形を表している。

X001 で見たとおり、1事業所あたりが小さい商売ほど多くの市区町村にある(r = −0.417)。801 映画館の1事業所あたりは34.87人で、全産業の11.80人の3倍近い。大きい商売だから、市区町村の単位では少ない。

R005 の計算では、2050年までに1,876市区町村の人口中央値は0.664(−33.6%)になる。いま8割に無いものが、さらに減る方向に動く。 ただし人口あたりの映画館は人口と相関しなかった(r = −0.045)ので、単純な予測はできない。

4-5 釧路市に映画館が無いこと

管内で映画館があるのは釧路郡釧路町(人口18,021人)だけで、釧路市(151,566人)には無い。

これは経済センサス(令和3年)の時点の話である。 事業所の所在地で数えているので、市境のすぐ外にある施設は隣町に計上される。釧路市の住民が映画を見られないということではない。

I017 で見た「釧路町の商業地地価56,500円/㎡が釧路市の35,140円/㎡より高い」(X002)のと同じ形で、市の外側に施設が出ている。

行政の境界と、人が使う範囲は一致しない。 市区町村を単位に数えると、その境界のせいで「無い」ことになるものがある。R001 が単位A(1,892市区町村)と単位B(1,741)の2通りで計算していたのも、同じ問題への対応である。

5. 限界

  • 衛生行政報告例は令和6年度末現在、経済センサスは令和3年6月1日。時点が3年10か月ちがう
  • 興行場法の「興行場」は公衆に見せ、聞かせる施設で、運動するための施設(ジムなど)は含まない。経済センサスの「スポーツ施設提供業」とは範囲が違う
  • 施設を数えており、スクリーン数・座席数・客席数は分からない
  • 「その他」には演劇・音楽・演芸・見せ物などが混ざる。この表では分けられない
  • 仮設の興行場は年度中の許可件数で、年度末の施設数ではない
  • 映画館が2.55倍になる理由はこの表では確かめられない
  • 衛生行政報告例に市区町村別の表は無い。釧路管内は経済センサスで見ている
  • 経済センサスは事業所の所在地で数える。市境のすぐ外にある施設は隣の市区町村に計上される
  • 相関は関係の強さの目安で、原因と結果の向きは示さない

6. 再現の手順

  1. e-Stat で衛生行政報告例 令和6年度の第7表(生活衛生、興行場数)を落とす(CP932)
  2. 全国の行と、北海道から沖縄県までの47行を取る(「指定都市(再掲)」より下は使わない)
  3. 映画館・スポーツ施設・その他を足して常設の興行場数を出す
  4. 経済センサス 令和3年の産業小分類 801・802・804 と種類ごとに突き合わせる
  5. 人口100万人あたりを出し、人口(対数)との相関を取る
  6. 経済センサスで映画館業がある市区町村の数を 1,889 で割る

本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_210)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。

この論文の位置づけ

新しい理論を主張するものではない。衛生行政報告例の第7表を数え、経済センサスの映画館業・興行場業・スポーツ施設提供業と突き合わせただけである。常設の興行場が4,826で映画館が1,468であること、ずれ方が映画館2.55倍・スポーツ施設0.02倍と正反対になること、処分が0件であること、仮設の許可が常設の2.49倍あること、映画館が市区町村の82.1%に無いことを示した。映画館が2.55倍になる理由は確かめられない。相関は示したが、原因と結果の向きは示していない。

参考文献・データの出典

  1. 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度、第7表(生活衛生)
  2. 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」令和3年、第9-1A表・第9-1B表
  3. 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
  4. 山岸勇輝「届出を要する食品営業は865,122」(I011)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876599
  5. 山岸勇輝「特定建築物48,608を管理する登録営業所は17,842」(I012)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877101
  6. 山岸勇輝「理容所107,995、美容所277,752」(I015)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22878037
  7. 山岸勇輝「見張る側は27,227人、うち専従は2,349人」(I018)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879207
  8. 山岸勇輝「その商売は、1事業所あたり何人か」(X001)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877856
  9. 山岸勇輝「賃金は1.20倍、物価は1.08倍、所得は1.85倍、地価は87.4倍」(X002)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877924
  10. 山岸勇輝「2050年、その町から何分類が消えるか」(R005)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877595

版の記録

版 日付 内容
第1版 2026-09-22 初出

引用のしかた

山岸勇輝(2026)「映画館は1,468施設、市区町村の82.1%には1つも無い。興行場の処分は0件 [I019]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879269

(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)

© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)

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書誌

山岸勇輝(2026)「映画館は1,468施設、市区町村の82.1%には1つも無い」[I019]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22879269

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 映画館は1,468施設、市区町村の82.1%には1つも無い [I019]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I019 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22879269

Yamagishi, Y. (2026). 1,468 Cinema Premises, and None at All in 82.1% of Municipalities [I019]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I019; DOI: 10.5281/zenodo.22879269

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