【I020】食品95,546点を調べて、不良は431点(0.45%)

要旨

衛生行政報告例(令和6年度)の第11表・第12表-1から、食品等の収去試験を食品の種類別・都道府県別に数え、I011 の食品営業施設数・I018 の食品衛生監視員数と突き合わせた。

収去は95,546点、不良は431点(0.45%)。222点に1点が不良である。

食品営業(全業種の許可+届出)2,769,361施設に対して、収去は95,546点。29.0施設に1点である。 食品衛生監視員8,558人で割ると、1人あたり年11.2点。

90.9%は管下の機関(保健所・地方衛生研究所など)で試験している。 登録検査機関に出したのは8.1%。

不良率は食品の種類で大きく違う。 アイスクリーム類・氷菓3.38%、菓子類1.21%に対して、22種類のうち8種類は不良0である。中央値は0.13%。

不良の理由は「その他」が247件(51.1%)で最多、次が大腸菌群の173件(35.8%)。異物は0件である。

人口10万人あたりの収去は、長崎県209.7に対して埼玉県16.1で13.05倍。 不良率は高知県3.08%から0%(7県)まで開く。

そして、収去密度と不良率の相関は r = −0.031。たくさん調べた県ほど不良が多く見つかる、という関係は無い。

1. はじめに

I014 では、医薬品販売の立入検査率が長野県91.6%から奈良県4.1%まで22.1倍開いていた。I016 では、乳の収去が処理量3,569,411キロリットルに対して2,593点だった。I018 では、食品営業2,769,361施設に対して食品衛生監視員が8,558人(専従1,372人)だった。

どれも「どれだけ調べたか」の話で、「調べて何が出たか」は見ていない。

食品はどれだけ調べられているのか。そして、調べると何が出るのか。

2. データ

収去試験(食品の種類別) 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度 第11表(食品衛生)。令和6年度中
収去試験(都道府県別) 同 第12表-1
食品営業の施設数 同 第4表-1・第6表-1(I011 で数えたもの)
食品衛生監視員 同 第13表(I018 で数えたもの)
人口 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日

47都道府県すべての行と、食品等の種類22がそろい、どちらも合計が総数とぴたり一致する(収去95,546、不良431、いずれも差0)。

「収去」とは、行政が事業者から検査のために食品を無償で抜き取ることをいう。

3. 結果

3-1 95,546点を調べて、431点が不良

収去したもの 95,546点
不良検体数 431点(0.45%)
222点に1点
突き合わせ
食品営業(全業種の許可+届出)2,769,361施設(I011) ÷ 収去95,546点 29.0施設に1点
収去95,546点 ÷ 食品衛生監視員8,558人(I018) 11.2点/人・年

3-2 9割は自前で試験している

試験した場所 点 割合
地方衛生研究所 34,962 36.6%
保健所 33,151 34.7%
管下のその他 18,780 19.7%
管下の機関で(小計) 86,893 90.9%
登録検査機関 7,704 8.1%
他に依頼したその他 1,041 1.1%
試験の内容(1点で複数の検査をする) 点 収去に対する割合
細菌 53,299 55.8%
食品添加物 21,868 22.9%
残留動物用医薬品 11,658 12.2%
理化学その他 8,170 8.6%
残留農薬 8,152 8.5%
アレルギー物質 2,146 2.2%
その他 771 0.8%
遺伝子組換え食品 739 0.8%
微生物その他 561 0.6%
ウイルス 343 0.4%
動物を用いる検査 334 0.3%
合計 108,041 1.13倍

1点あたり1.13種類の検査をしている。 半分以上(55.8%)は細菌の検査である。

3-3 不良率は食品の種類で大きく違う

種類(収去100点以上の20種類) 収去 不良 不良率
アイスクリーム類・氷菓 1,717 58 3.38%
菓子類 9,171 111 1.21%
水 805 6 0.75%
その他の食品 19,002 128 0.67%
無加熱摂取冷凍食品 698 4 0.57%
魚介類 7,730 25 0.32%
魚介類加工品(かん詰・びん詰を除く。) 6,065 16 0.26%
野菜類・果物及びその加工品(同) 18,543 48 0.26%
……
かん詰・びん詰食品 1,445 0 0.00%
器具及び容器包装 557 0 0.00%
おもちゃ 165 0 0.00%

全国0.45%、中央値0.13%。不良が0の種類は22のうち8ある。

収去が多いのは、その他の食品19,002/野菜類・果物18,543/肉卵類17,016/菓子類9,171。

3-4 不良の理由は「その他」が最多

不良理由(延数) 件 理由全体に占める割合
その他 247 51.1%
大腸菌群 173 35.8%
添加物使用基準 27 5.6%
残留農薬基準 17 3.5%
残留動物用医薬品 10 2.1%
法定外添加物 9 1.9%
異物 0 0.0%
合計 483 (不良431点の1.12倍)

延数なので、1点に複数の理由がつく。

異物は0件である。 「食品に異物が入っていた」という話は、収去試験では出てこない。収去は抜き取り検査であって、苦情の受付ではない。

3-5 たくさん調べた県ほど、不良が見つかるわけではない

散布図。横軸は人口10万人あたりの収去件数、縦軸は不良率。47都道府県の点が横に散らばって傾きがほとんど無く、北海道を色を変えて示している。

図1 収去の密度と不良率(47都道府県、令和6年度)。
灰色は都道府県、橙は北海道。

人口10万人あたりの収去
全国 77.2点
多い 長崎209.7/徳島176.9/富山152.0
少ない 兵庫33.7/千葉33.4/埼玉16.1
上と下 13.05倍、中央値81.1
不良率
全国 0.45%
高い 高知3.08%(19/617)/秋田2.09%(10/478)/福井1.97%(9/457)
0%の都道府県 7/47
中央値 0.31%
食品衛生監視員1人あたりの収去
多い 長崎23.8点/広島21.7点/福岡21.6点
少ない 兵庫5.2点/埼玉3.8点/島根3.4点
全国 11.2点、中央値10.3点
上と下 7.05倍
相関(47都道府県) r
収去(10万人あたり)× 人口(対数) −0.324
収去(10万人あたり)× 不良率 −0.031
監視員1人あたり収去 × 不良率 −0.202

収去の密度と不良率のあいだに、関係は無い(r = −0.031)。

3-6 北海道

収去 2,857点(全国の3.0%。人口の割合は4.0%)
不良 9点(0.32%。全国0.45%、23位/47)
人口10万人あたり 57.2点(37位/47。全国77.2)
食品衛生監視員1人あたり 7.6点(34位/47。全国11.2)
試験した場所 保健所1,489/地方衛生研究所1,242/登録検査機関15

4. 考察

4-1 29.0施設に1点

食品営業2,769,361施設に対して収去95,546点。29.0施設あたり1点である。

これは「1つの施設が29年に1回調べられる」という意味ではない。収去は施設ごとに均等に行われるものではなく、食品の種類や流通の段階を狙って抜き取る。 製造所から採る1点が、多数の店に並ぶ商品を代表することもある。

それでも、この密度が食品衛生行政の実際の規模である。 I018 で見たとおり、食品衛生監視員は8,558人(専従1,372人)で、1人あたり年11.2点を採っている。

4-2 密度と不良率に関係が無いことの読み方

収去の密度は13.05倍開く(長崎209.7 ⇔ 埼玉16.1)。不良率も0%から3.08%まで開く。だがその2つのあいだに関係は無い(r = −0.031)。

読み方は2つある。

  1. 不良の出方は、どれだけ調べたかではなく、何を調べたかで決まる。アイスクリーム類・氷菓の3.38%と、かん詰・びん詰の0%という差(3-3)は、そちらの向きを支持する
  2. サンプル数が少ない県では、不良率が偶然で大きく動く。高知県の3.08%は617点中19点で、数点の増減で率が変わる

どちらが主かは、この数字では決まらない。

ただし、「調べる量を増やせば不良が見つかる」という単純な関係が無いことは、はっきりしている。 I014 で立入検査率と違反発見率のあいだに r = −0.407 の負の相関が出たときと、同じ向きの結果である。

4-3 異物0件が意味すること

不良理由のうち異物は0件だった。

これは「食品に異物が入ることが無い」という意味ではない。 収去は行政が抜き取って検査室で調べるもので、消費者が見つけた異物の報告はここに入らない。

不良理由の最多は「その他」の247件(51.1%)で、内訳はこの表では分からない。次が大腸菌群の173件(35.8%)。細菌の検査が収去の55.8%を占め、不良理由の3分の1が大腸菌群であることは、整合している。

この統計が見ているのは、基準値に照らした検査の結果である。 食品の安全を測るものは他にもある(食中毒統計、回収報告、苦情)が、この表には入っていない。

4-4 90.9%を自前でやっていること

収去の90.9%は管下の機関(地方衛生研究所36.6%・保健所34.7%・その他19.7%)で試験している。外部の登録検査機関に出したのは8.1%である。

これは、自治体が自前の検査体制を持っているということである。 I018 で見たとおり、専従の職員は全国で2,349人しかないが、検査機関は各都道府県にある。

人数と設備は別の話である。 監視に出る人は兼務が9割でも、検査室は動いている。

4-5 北海道は、人口の割に少ない

北海道の収去は2,857点で全国の3.0%。人口の割合4.0%より少なく、人口10万人あたりでは37位である。

I016 で見たとおり、北海道は乳の処理量で全国の17.1%を占めながら、乳の収去は全国の3.5%だった。食品でも同じ向きで、生産の割合に対して検査の割合が低い。

これを「検査が足りない」と読むことはできない。収去件数を決めるのは行政の側であり、何を狙って採るかは県ごとの方針による。 北海道の不良率0.32%は全国0.45%より低く、順位では23位で真ん中である。

面積が広いことが効いている可能性はあるが、この表では確かめられない。

5. 限界

  • 収去試験は行政が抜き取って調べた件数で、流通したすべてを調べたものではない
  • 収去件数を決めるのは行政の側である。 少ないことは安全を意味しないし、多いことは危険を意味しない
  • 「試験の内容」は1点で複数の検査をするため、合計は収去件数より多い(1.13倍)
  • 「不良理由」は延数で、1点に複数の理由がつく
  • 食品の種類ごとの不良率は、収去の選び方によって動く。 問題が疑われるものを多く採れば、不良率は上がる
  • 収去100点未満の種類は、1〜2点の増減で率が大きく動くので比較から外した
  • 不良理由の最多である「その他」247件の内訳は、この表では分からない
  • 消費者が見つけた異物や、食中毒の発生は、この表に入っていない
  • 食品営業の施設数は I011 の集計(許可+届出)で、時点は令和6年度末
  • 衛生行政報告例に市区町村別の表は無い
  • 相関は関係の強さの目安で、原因と結果の向きは示さない

6. 再現の手順

  1. e-Stat で衛生行政報告例 令和6年度の第11表・第12表-1(食品衛生、食品等の収去試験状況)を落とす(CP932)
  2. 第12表-1から全国の行と47都道府県の行を取る(「指定都市(再掲)」より下は使わない)
  3. 第11表から食品等の種類22の行を取る
  4. 収去件数と不良検体数から不良率を出す。収去100点未満の種類は比較から外す
  5. 第4表-1・第6表-1の食品営業施設数、第13表の食品衛生監視員数で割る
  6. 人口10万人あたりの収去を出し、不良率との相関を取る

本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_211)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。

この論文の位置づけ

新しい理論を主張するものではない。衛生行政報告例の第11表・第12表-1を数え、食品営業施設数と食品衛生監視員数で割っただけである。収去95,546点に対して不良が431点(0.45%)であること、29.0施設に1点であること、90.9%を管下の機関で試験していること、不良率がアイスクリーム類・氷菓3.38%から0%(8種類)まで開くこと、異物による不良が0件であること、そして収去の密度と不良率のあいだに関係が無いこと(r = −0.031)を示した。関係が無い理由については2つの読み方を挙げたが、どちらが主かは決まらない。相関は示したが、原因と結果の向きは示していない。

参考文献・データの出典

  1. 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度、第11表・第12表-1・第4表-1・第6表-1・第13表(食品衛生)
  2. 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
  3. 山岸勇輝「届出を要する食品営業は865,122」(I011)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876599
  4. 山岸勇輝「薬をネットで売る店は11,910(12.8%)」(I014)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877337
  5. 山岸勇輝「乳の処理量は、上と下で20,444倍」(I016)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879076
  6. 山岸勇輝「見張る側は27,227人、うち専従は2,349人」(I018)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879207

版の記録

版 日付 内容
第1版 2026-09-22 初出

引用のしかた

山岸勇輝(2026)「食品95,546点を調べて、不良は431点(0.45%)、たくさん調べた県ほど見つかるわけではない [I020]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879317

(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)

© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)

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書誌

山岸勇輝(2026)「食品95,546点を調べて、不良は431点(0.45%)」[I020]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22879317

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 食品95,546点を調べて、不良は431点(0.45%) [I020]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I020 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22879317

Yamagishi, Y. (2026). 95,546 Food Samples, 431 Failures (0.45%) [I020]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I020; DOI: 10.5281/zenodo.22879317

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