要旨
本稿が問うのは、平均寿命が延びるとき、亡くなる年齢のばらつきも同じように縮んでいるか、である。答えは、ほとんど縮んでおらず、分布の全体が右へずれている、である。生存曲線が四角くなる(多くの人が同じような年齢まで生き、そこで一斉に亡くなる)ことを「矩形化」と呼ぶ。完全生命表(1995〜2020 年の 6 回)と令和 6 年簡易生命表の各歳の死亡数から、平均とばらつきを同じ期間で比べた。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、14 の表(7 年 × 男女)のどれでも、死亡数の和は出生 10 万と 6 以内、死亡数から出した平均は表の平均寿命と 0.007 年以内で一致する(第3節)。
第二に、これが本稿の芯である。1995→2020 年に平均寿命は男性で 5.18 年、女性で 4.86 年延びたが、10 歳以上で亡くなる年齢の標準偏差(S10)は 0.43 年・0.40 年しか縮まなかった。 縮みは延びの 0.083 倍で、男女とも同じである(第4節)。
第三に、生存数が 75 % になる年齢は 25 % になる年齢より大きく動いた(男性 5.40 年と 4.55 年・女性 5.39 年と 4.22 年)。そのぶん四分位範囲は男性で 0.85 年、女性で 1.17 年縮んだ。早く亡くなる側が少し追いついたが、分布の幅はほぼ保ったまま右へずれた(第4節)。
第四に、平均とばらつきは連動していない。 1995→2000 年は男女とも平均寿命が延び、S10 も大きくなった(男性 +1.34 年と +0.27 年)。2020→2024 年の男性は、平均寿命が 0.47 年下がり、S10 も 0.20 年縮んだ(第5節)。
第五に、令和 6 年の男性では、生存数が 75 % の年齢は 75.16 歳、25 % の年齢は 90.20 歳で、真ん中の半分の人は 15.04 年の幅のどこかで亡くなる。女性は 82.96 歳から 95.14 歳の 12.18 年である(第4節)。
第六に、分けているのは平均が動いたか、ばらつきが動いたかである。「長生きになった」という一つの言葉は、分布の真ん中の位置と、分布の幅という二つの量を指しうる。この 25 年で大きく動いたのは、前者である。
本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。亡くなる年齢の分布の平均とばらつきは生命表から計算できる既知の量で、生存曲線の矩形化は人口学で論じられてきた。本稿は、日本の 1995〜2024 年の生命表で、平均の延びとばらつきの縮みを同じ物差しで並べるだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 一人の見通しではない。どの数も各年の死亡状況が一定と仮定した期間の生命表の数である(M003)。寿命に上限があるかどうかは論じない。 なぜばらつきが縮まなかったかには立ち入らない。 データについて:e-Stat の生命表は政府標準利用規約(第2.0版)に従って加工した。出典:厚生労働省「完全生命表」「簡易生命表」。加えたのは、1995〜2024 年の 7 つの生命表の各歳の死亡数から、平均・標準偏差・S10・四分位範囲を同じ置き方で計算し、平均の延びに対するばらつきの縮みが 0.083 倍にとどまることを男女で示したこと、平均とばらつきが連動しない区間を示したことである。
1. 記法と問い
- 亡くなる年齢の分布:生命表の各歳の死亡数(出生 10 万あたり)。本稿では亡くなる年齢をその歳の真ん中(x+0.5)、表の最後の年齢だけ x+平均余命と置く。
- 標準偏差:亡くなる年齢の散らばり。S10 は 10 歳以上で亡くなった人だけの標準偏差(乳幼児の死亡の影響を外した、よく使われる形)。
- 四分位範囲:生存数が出生の 25 % になる年齢 − 75 % になる年齢。真ん中の半分の人が亡くなる年齢の幅。
- 矩形化:生存曲線が四角に近づくこと。ばらつきが縮むことに当たる。
問い:平均寿命が延びるとき、亡くなる年齢のばらつきも縮んでいるか。平均の延びとばらつきの縮みは、どれだけ違うか。
観察 1.1:生存曲線は、右へずれても(全員がそろって長く生きる)、四角くなっても(ばらつきが縮む)、平均寿命は延びる。平均寿命だけでは、どちらが起きたかは分からない。
2. 下見と設計
正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。
| 中身 | |
|---|---|
| 生命表 | 完全生命表 第18回(1995)・第19回(2000)・第20回(2005)・第21回(2010)・第22回(2015)・第23回(2020)と令和 6 年簡易生命表(2024)。男女別・各歳 |
| 平均 | 平均寿命(表の値)と、死亡数から出した平均(突き合わせ) |
| ばらつき | 標準偏差・S10・四分位範囲 |
| 比べ方 | 1995→2020 年(完全生命表どうし)と 2020→2024 年で、平均の延びとばらつきの縮みを並べる |
3. データと、その確かめ
計算 3.1 取得したファイルを SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。
| 確かめたこと | 結果 |
|---|---|
| 死亡数の和と出生 10 万 | 14 の表で差の最大 6 |
| 死亡数から出した平均と表の平均寿命 | 差の最大 0.007 年 |
| 表の最後の年齢 | 1995〜2020 年の完全生命表は 110〜116 歳、2024 年の簡易生命表は 105 歳(105 歳以上をまとめる) |
4. 芯、平均は延び、ばらつきはほとんど縮まない
計算 4.1 平均寿命と、亡くなる年齢のばらつき(年・歳)
| 年 | 性 | 平均寿命 | 標準偏差 | S10 | 75 % の年齢 | 25 % の年齢 | 四分位範囲 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1995 | 男性 | 76.38 | 14.96 | 13.54 | 70.11 | 86.22 | 16.11 |
| 2000 | 男性 | 77.72 | 14.89 | 13.81 | 71.20 | 87.65 | 16.46 |
| 2005 | 男性 | 78.56 | 14.68 | 13.71 | 72.35 | 88.35 | 16.00 |
| 2010 | 男性 | 79.55 | 14.32 | 13.51 | 73.57 | 89.04 | 15.47 |
| 2015 | 男性 | 80.75 | 13.89 | 13.14 | 74.80 | 89.96 | 15.16 |
| 2020 | 男性 | 81.56 | 13.74 | 13.11 | 75.51 | 90.77 | 15.26 |
| 2024 | 男性 | 81.09 | 13.58 | 12.91 | 75.16 | 90.20 | 15.04 |
| 1995 | 女性 | 82.85 | 13.86 | 12.37 | 78.12 | 91.37 | 13.25 |
| 2000 | 女性 | 84.60 | 13.69 | 12.52 | 79.79 | 93.13 | 13.34 |
| 2005 | 女性 | 85.52 | 13.53 | 12.51 | 80.83 | 93.98 | 13.16 |
| 2010 | 女性 | 86.30 | 13.17 | 12.26 | 81.86 | 94.51 | 12.65 |
| 2015 | 女性 | 86.99 | 12.75 | 11.92 | 82.76 | 94.89 | 12.13 |
| 2020 | 女性 | 87.71 | 12.70 | 11.97 | 83.51 | 95.58 | 12.08 |
| 2024 | 女性 | 87.13 | 12.82 | 12.00 | 82.96 | 95.14 | 12.18 |
計算 4.2 1995→2020 年の動き(年)
| 性 | 平均寿命 | 標準偏差 | S10 | 75 % の年齢 | 25 % の年齢 | 四分位範囲 | S10 の縮み ÷ 平均の延び |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 男性 | +5.18 | -1.22 | -0.43 | +5.40 | +4.55 | -0.85 | -0.083 |
| 女性 | +4.86 | -1.17 | -0.40 | +5.39 | +4.22 | -1.17 | -0.083 |
観察 4.3:平均寿命が男性で 5.18 年延びたあいだに、S10 は 0.43 年しか縮まなかった。 縮みは延びの 0.083 倍で、女性でも同じ 0.083 倍である。標準偏差(すべての死亡)は 1.22 年・1.17 年縮んだが、その多くは若い年齢の死亡が減った分で、10 歳以上に限ると縮みは小さい。
観察 4.4:生存数が 75 % になる年齢は、25 % になる年齢より大きく動いた(男性で 1.187 倍、女性で 1.278 倍)。早く亡くなる側がいくらか追いつき、四分位範囲は男性で 0.85 年、女性で 1.17 年縮んだ。それでも、四分位範囲は 2024 年に男性 15.04 年・女性 12.18 年あり、分布の幅はほぼ保たれたまま、全体が右へずれている。

図1:1995 年(細い線)と 2024 年(太い線)の生存曲線。破線は生存数が 75 % と 25 % になる年齢。曲線は形をほとんど変えずに右へずれている。
5. 平均とばらつきは、連動していない
計算 5.1 区間ごとの(平均寿命の延び、S10 の動き)(年)
| 区間 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 1995→2000 | (+1.34, +0.27) | (+1.75, +0.15) |
| 2000→2005 | (+0.84, -0.10) | (+0.92, -0.01) |
| 2005→2010 | (+0.99, -0.21) | (+0.78, -0.24) |
| 2010→2015 | (+1.20, -0.37) | (+0.69, -0.34) |
| 2015→2020 | (+0.81, -0.03) | (+0.72, +0.05) |
| 2020→2024 | (-0.47, -0.20) | (-0.58, +0.03) |
観察 5.2:1995→2000 年は、男女とも平均寿命が延びたのに S10 も大きくなった。 2020→2024 年の男性は、平均寿命が 0.47 年下がったのに S10 は 0.20 年縮んだ。平均が延びればばらつきが縮む、という一本の関係では並ばない。

図2:横が平均寿命、縦が S10。点は 1995〜2024 年の 7 つの生命表(紺が男性、朱が女性)。右へ大きく進むあいだに、下へはわずかしか下がらない。
6. 限界
- 期間の数である。 各年の死亡状況が一定と仮定した生命表の数で、ある世代の実際の寿命のばらつきではない(M003)。
- 亡くなる年齢はその歳の真ん中と置いた。 表の最後の年齢の扱いも本稿の置き方である。
- 表の最後の年齢が年で違う(2024 年は 105 歳以上をまとめる)。高い年齢の裾の扱いが、標準偏差をわずかに動かしうる。
- 1995 年より前は扱っていない(e-Stat の完全生命表の Excel は第 18 回からのため)。それより前の時代には、若い年齢の死亡の減少による大きな縮みがあったはずだが、本稿は測っていない。
- なぜばらつきが縮まなかったか、寿命に上限があるかには立ち入らない。
- 一人の見通しではない。
結び
1995→2020 年に、平均寿命は男性で 5.18 年、女性で 4.86 年延びた。そのあいだ、10 歳以上で亡くなる年齢の標準偏差は 0.43 年・0.40 年しか縮まず、縮みは延びの 0.083 倍だった。四分位範囲は少し縮んだが、2024 年でも男性 15.04 年・女性 12.18 年の幅があった。平均とばらつきは連動せず、平均が延びてばらつきが広がった区間も、平均が下がってばらつきが縮んだ区間もあった。
分けるものは一つ、平均が動いたか、ばらつきが動いたか、である。
「長生きになった」と聞いたら、それが分布の位置が動いたことなのか、幅が縮んだことなのかを、一緒に思い出す。 この 25 年の日本では、主に動いたのは位置のほうである。
データと再現
| データ | 厚生労働省「完全生命表」第18回(1995)〜第23回(2020)・「令和 6 年簡易生命表」(2024)の男女別の表(e-Stat から取得・2026 年 9 月 25〜26 日に利用) |
| 利用条件 | e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠(CC BY 4.0 互換)。本稿の標準偏差・四分位範囲は、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない |
| 範囲 | 日本・男女別・1995〜2024 年の 7 つの生命表 |
| 検算 | 検算/M014.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M014_output.txt から取っている |
| 生データ | data/ に取得したファイル 13 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・読み取りの置き方) |
| 図 | 図/M014_zu1・図/M014_zu2(png・svg・英語版) |
参考文献
- 厚生労働省. 第18回生命表 表1~4、第19〜23回生命表 第1表・第2表、令和6年簡易生命表 第1表・第2表. e-Stat(2026年9月25日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
- 山岸勇輝 (2026). 平均余命は、誰かが実際に生きる年数ではない [M003]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963485
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「平均寿命が延びても、亡くなる年齢のばらつきはほとんど縮んでいない」[M014]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22966972
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M014・DOI 10.5281/zenodo.22966972・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 平均寿命が延びても、亡くなる年齢のばらつきはほとんど縮んでいない [M014]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M014 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22966972
Yamagishi, Y. (2026). As Life Expectancy Rose, the Spread of Ages at Death Barely Narrowed [M014]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M014; DOI: 10.5281/zenodo.22966972
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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