要旨
「計量を決めれば接続が決まる」という言い方は、二つの要求を黙って足している。本稿はその二つがちょうど過不足なく自由を使い切ることを数え、片方を外したときに何が戻るかを測る。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。
第一に、計量を保つという要求だけでは決まらない。$d$ 次元で未知数 $d^3$ に対し方程式は $d^2(d+1)/2$ であり、残る自由は $d=2,3,4,5$ で $2$、$9$、$24$、$50$、これは捩率テンソルの成分数 $d^2(d-1)/2$ と完全に一致する(第2節)。
第二に、「捩れなし」を足すと自由はちょうど尽きる。未知数と階数がどの次元でも一致し、残る自由は $\mathbf{0}$ である。二つの要求は足りも余りもしない(第3節)。
第三に、そうして決まる一つがクリストッフェル記号である。計量両立の破れは $5.55\times10^{-17}$、捩率は厳密にゼロであった(第4節)。
第四に、これが本稿の芯である。同じ計量・同じ長さ・違う「まっすぐ」。平らな平面で、計量をまったく変えずに別の許される接続を選ぶと、同じ点から同じ速度で出た「まっすぐな」曲線が $1.186991$ だけ離れた(第5節)。
第五に、許される族の中で「まっすぐ」を動かさない選択はちょうど $\binom{d}{3}$ 個ある。$d=2$ では $\mathbf{0}$、$d=3$ で $1$、$d=4$ で $4$、$d=5$ で $10$、$d=6$ で $20$、二次元では、レヴィ=チヴィタ以外のどの選択も必ず直線を動かす(第6節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。リーマン幾何の基本定理、捩率、アインシュタイン=カルタン理論、ワイル接続は、いずれも標準的である。どの接続を採るべきかを決めない。本稿は選択肢の数を数えるだけであり、物理がどれを選ぶべきかには立ち入らない。曲率の別根を点呼しない。「曲率」という語の別根は論文91の主題である。光と共形構造を扱わない。ワイル接続が共形構造とどう関わるかは論文111が触れており、本稿はそこへ立ち入らない。論文95 との関係:95 は規約と事実を分けた。本稿はその線を接続という一つの対象の上で引く:計量は与えられたもの、接続は選ばれたものである。論文198・201 との関係:198 は「まっすぐ」と「最短」が離れる場所を測り、201 は符号を替えると向きが逆になることを書いた。本稿は、そもそも「まっすぐ」を決めているのが計量とは別の道具であることを書く。加えたのは自由度の数を四つの次元で数えて捩率の成分数と一致することを確かめたこと、二つの要求で階数がちょうど埋まることを示したこと、同じ計量のまま直線が離れる距離を測ったこと、「まっすぐを動かさない選択」の個数が $\binom{d}{3}$ であることを五つの次元で確かめたことである。
1. 記法と位置づけ
接続とは、離れた点のベクトルを比べるための規則であり、成分では $\Gamma^a{}_{bc}$ と書かれる。計量 $g_{ab}$ とは独立な対象である。以下では二つの要求を扱う。(i) 計量両立:平行移動で長さと角度が変わらない、すなわち $\nabla_c g_{ab}=0$。(ii) 捩れなし:$\Gamma^a{}_{bc}=\Gamma^a{}_{cb}$。数値はすべて自前の計算であり、線形系の階数は特異値分解で求め、閾値は $10^{-9}$ とした。
位置づけ:論文95 は「規約」と「事実」を分けた。本稿はその線を接続の上で引く。計量は測るために置いたもの、接続はさらにもう一段選んだものである。そして「二つの要求」がどれだけの自由を消しているかを、数として見る。
2. 計量を保つだけでは、決まらない
$\nabla_c g_{ab}=0$ は $\Gamma$ について線形である。未知数は $\Gamma^a{}_{bc}$ の $d^3$ 個、方程式は $c$ が自由で $ab$ が対称なので $d^2(d+1)/2$ 本である。
検算 2.1:無作為に選んだ正定値対称な計量について、係数行列の階数を測る。
| $d$ | 未知数 | 方程式 | 階数 | 残る自由 | $d^2(d-1)/2$ |
|---|---|---|---|---|---|
| $2$ | $8$ | $6$ | $6$ | $2$ | $2$ |
| $3$ | $27$ | $18$ | $18$ | $9$ | $9$ |
| $4$ | $64$ | $40$ | $40$ | $\mathbf{24}$ | $\mathbf{24}$ |
| $5$ | $125$ | $75$ | $75$ | $50$ | $50$ |
観察 2.2 残る自由は、捩率テンソルの成分数と完全に一致する。「長さを保つ」という要求は、捩れの分だけ何も言っていない。四次元では $24$ 個の選択肢が手つかずのまま残る。
3. 二つ目の要求で、自由はちょうど尽きる
検算 3.1:$\Gamma^a{}_{bc}=\Gamma^a{}_{cb}$ を課すと未知数は $d^2(d+1)/2$ に減る。同じ方程式で階数を測る。
| $d$ | 未知数 | 方程式 | 階数 | 残る自由 |
|---|---|---|---|---|
| $2$ | $6$ | $6$ | $6$ | $\mathbf{0}$ |
| $3$ | $18$ | $18$ | $18$ | $\mathbf{0}$ |
| $4$ | $40$ | $40$ | $40$ | $\mathbf{0}$ |
| $5$ | $75$ | $75$ | $75$ | $\mathbf{0}$ |
観察 3.2 未知数と方程式の数がどの次元でも一致し、しかも階数が満ちている。二つの要求は足りも余りもしない。一つ足りなければ族が残り、一つ多ければ解が消える。リーマン幾何の基本定理が「一意」と言えるのは、この数のつり合いのためである。
4. そうして決まる一つが、クリストッフェル記号である
検算 4.1:四次元で、無作為な計量とその微分からクリストッフェルの公式を組み、二つの要求をどれだけ満たすかを測る。
| 測ったもの | 値 |
|---|---|
| 計量両立 $\nabla_c g_{ab}$ の最大 | $5.551\times10^{-17}$ |
| 捩率(下の二添字の反対称部分)の最大 | $\mathbf{0}$(厳密に) |
前者は浮動小数の丸め、後者は公式が対称に作られていることの帰結である。
5. 芯:同じ計量、同じ長さ、違う「まっすぐ」
平らな平面をとり、計量を単位行列とする。第2節の数え方では、計量を保つ接続は二次元では二次元の族をなす。レヴィ=チヴィタはそのうち捩れが零の一点であり、他の点も等しく長さを保つ。
検算 5.1:族の中からレヴィ=チヴィタでない一つを選び、同じ点から同じ速度で出た自己平行曲線を、同じ径数の区間だけ進める。
| 接続 | 到達点 |
|---|---|
| レヴィ=チヴィタ(ふつうの直線) | $(3.000000,\ 0.900000)$ |
| 族の別の一点 | $(2.427871,\ 1.940008)$ |
| 隔たり | $\mathbf{1.186991}$ |
観察 5.2 計量は一度も変えていない。ゆえにあらゆる曲線の長さは同じであり、どの二点の距離も同じである。変わったのはどの曲線をまっすぐと呼ぶかだけである。論文198 は「まっすぐ」と「最短」が離れる場所を測った。ここでは離れるどころか、「まっすぐ」の側が計量の外から与えられている。
6. 「まっすぐ」を動かさない選択は、ちょうど $\binom{d}{3}$ 個ある
自己平行の方程式 $\ddot x^a+\Gamma^a{}_{bc}\dot x^b\dot x^c=0$ には、$\Gamma$ の下二つの添字について対称な部分しか入らない。したがって「まっすぐ」を動かさない選択とは、その対称部分が消えるものである。
検算 6.1:許される族の中で、対称部分が消える部分空間の次元を測る。
| $d$ | 族の次元 | 直線を動かさない次元 | $\binom{d}{3}$ |
|---|---|---|---|
| $2$ | $2$ | $\mathbf{0}$ | $0$ |
| $3$ | $9$ | $1$ | $1$ |
| $4$ | $24$ | $4$ | $4$ |
| $5$ | $50$ | $10$ | $10$ |
| $6$ | $90$ | $20$ | $20$ |
検算 6.2:四次元でその二種類を一つずつ取り、確かめる。
| 選んだ接続 | 捩率の大きさ | 対称部分 | 到達点のずれ |
|---|---|---|---|
| 対称部分が消えるもの | $0.3846$ | $1.665\times10^{-16}$ | $\mathbf{0.000000000}$ |
| 族の一般の点 | $0.2500$ | $0.5000$ | $2.223257376$ |
(どちらも計量両立の破れは $10^{-16}$ の程度、すなわち丸めである。)
観察 6.3 捩れがゼロでないのに、直線が一ミリも動かない選択がある。「捩れがある」と「まっすぐが変わる」は、別の主張である。
観察 6.4 そして二次元では、その数が $\mathbf{0}$ である。$\binom{2}{3}=0$ だからであり、レヴィ=チヴィタ以外のどの許される選択も、必ず直線を動かす。三次元から先ではじめて、直線を動かさずに捩れだけを持つことができるようになる。選択の余地そのものが次元に依存している。
7. 分離子と柵
観察 7.1 (分離子) 計量と接続を分けているのは、何を比べるための道具かである。計量は同じ点の二つのベクトルを比べる。長さと角度を与える。接続は違う点のベクトルを比べる。平行かどうかを与える。前者から後者は出ない:第2節の $24$ が、出ない分の大きさである。
観察 7.2 (柵) 「計量が接続を決める」という言い方を囲っている柵は、捩れなしという追加の要求である。柵の内側では一意であり、外に出た瞬間に $d^2(d-1)/2$ 個の自由が戻る。そしてこの柵は定理の帰結ではなく、選択である。アインシュタイン=カルタンの理論は同じ計量のまま柵の外に立つ。
観察 7.3 (三つ目の要求を外すと) 計量両立のほうを外すこともできる。その場合、平行移動で長さが変わる(ワイル接続)。ただし本稿はそこへ立ち入らない:ワイル接続が共形構造とどう関わるかは論文111 の領分である。
8. 点呼と結び
本稿が確かめたことを並べる。
- 計量を保つだけでは決まらない(検算2.1):残る自由は $2$、$9$、$24$、$50$ で、捩率の成分数と一致。
- 二つの要求で自由がちょうど尽きる(検算3.1):どの次元でも階数が満ちて自由は $0$。
- その一つがクリストッフェル(検算4.1):破れ $5.55\times10^{-17}$、捩率は厳密に零。
- 同じ計量・同じ長さ・違うまっすぐ(検算5.1):平面で $1.186991$ 離れる。
- 直線を動かさない選択は $\binom{d}{3}$ 個(検算6.1):$d=2$ で $\mathbf{0}$。
- 捩れがあっても直線が動かない例(検算6.2):ずれ $0.000000000$。
- 柵は「捩れなし」という追加の要求(観察7.2)。
結び:「計量を決めれば幾何が決まる」という言い方は、半分だけ正しい。長さと角度は決まる。しかしどの曲線がまっすぐかは決まらない。それを決めるにはもう一つ道具を置かねばならず、置き方には四次元で $24$ の自由がある。ふつうその自由は「捩れなし」という一行で消される。そしてその一行は定理ではなく選択である。論文198 は平らな円筒の上で「まっすぐ」と「最短」が離れることを見せ、論文201 は符号を替えると向きが逆になることを見せた。本稿が見せたのはその手前である。離れるより先に、「まっすぐ」はこちらが決めていた。
参考文献
- Levi-Civita, T. (1917). Nozione di parallelismo in una varietà qualunque. Rendiconti del Circolo Matematico di Palermo, 42.
- Weyl, H. (1918). Reine Infinitesimalgeometrie. Mathematische Zeitschrift, 2(3).
- Cartan, E. (1922). Sur une généralisation de la notion de courbure de Riemann et les espaces à torsion. Comptes Rendus de l’Académie des Sciences, 174.
- Hehl, F. W., von der Heyde, P., Kerlick, G. D., Nester, J. M. (1976). General Relativity with Spin and Torsion. Reviews of Modern Physics, 48(3).
- Kobayashi, S., Nomizu, K. (1963). Foundations of Differential Geometry. Volume 1. New York: Interscience.
- 山岸勇輝 (2026). 曲率は内在的である [論文91]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758406
- 山岸勇輝 (2026). 規約と事実を分ける [論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
- 山岸勇輝 (2026). 光はどこまで幾何を決めるか [論文111]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21961685
- 山岸勇輝 (2026). 「まっすぐ」は「最短」を意味せず、柵は二つある [論文198]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22107954
- 山岸勇輝 (2026). 二百本目の点呼 [論文200]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22108829
- 山岸勇輝 (2026). 「完備」は四つの別の主張である [論文201]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22109052
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「接続は計量から導かれない。二つの要求が選ばれて、はじめて一つに決まる」[論文202]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22109349
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 接続は計量から導かれない。二つの要求が選ばれて、はじめて一つに決まる [論文202]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/202 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22109349
Yamagishi, Y. (2026). A Connection Is Not Derived from the Metric: It Is Pinned Only Once Two Demands Are Chosen [Paper 202]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/202; DOI: 10.5281/zenodo.22109349
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