【論文207】「偏光」を書く道具は三つあり、一つは「偏光していない光」を書けない

要旨

光の偏りを書く道具は三つある。ジョーンズ・ベクトル、ストークス・パラメータ、ポアンカレ球。本稿は、一つ目が「偏光していない光」を表現できないことを数で示し、三つを分けている分離子が何を足すかであることを書く。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。

第一に、ジョーンズ・ベクトルは偏光度 $1$ しか返さない。無作為に $200000$ 本つくって偏光度を測ると、最小 $0.999999999999999$、最大 $1.000000000000001$ であり、$1$ からのずれは $6.66\times10^{-16}$ に収まる(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。同じ二本の光でも、足し方を変えると答が $1$ と $0$ に分かれる。水平と垂直の等しい二本を振幅で足すと $45$ 度の偏光(偏光度 $1$)になり、強度で足すと偏光していない光(偏光度 $0$)になる。そして前者しかジョーンズ・ベクトルには書けない(第3節)。

第三に、混ぜたものは球の内部を埋める。重み $1.00$、$0.90$、$0.75$、$0.60$、$0.50$ で混ぜると偏光度は $1.000000$、$0.800000$、$0.500000$、$0.200000$、$0.000000$ になる(第4節)。

第四に、三つ目の道具では角度が二倍になる。直交する二つの偏光は、ジョーンズでは $90$ 度、ストークスでは $180$ 度である。直交は「垂直」ではなく「反対側」であった(第5節)。

第五に、消偏光器にはジョーンズ行列が無い。無作為なジョーンズ行列を五つ通しても出てくる偏光度はすべて $1$ である。二つ目の道具は、一つ目が書けない操作を書ける(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。ジョーンズ計算、ストークス・パラメータ、ミュラー行列、ポアンカレ球は、いずれも標準的である。量子状態の形式を導かない。偏光の記述が密度行列と同じ形をしていることは標準的な事実であり、純粋状態と混合状態の別根は論文162 と138の領分である。実在の光学素子について何も主張しない。数値はすべて理想化した行列とベクトルである。部分コヒーレンスの理論を扱わない。本稿が比べるのは完全にコヒーレントな和と完全にインコヒーレントな和の二つだけである。名前について:体系にはすでに「ストークス」が $18$ 編に現れているが、その全部がストークスの定理(論文92・104・147)かナヴィエ=ストークス方程式(論文03・130・196)であり、ストークス・パラメータは一度も出ていない。同じ一人の名が、体系にとって三つ目の別の道具として現れる。加えたのは$200000$ 本のジョーンズ・ベクトルが例外なく偏光度 $1$ を返すことを数えたこと、同じ二本の光が足し方で $1$ と $0$ に分かれることを示したこと、混合が球の内部を埋めることを重みごとに測ったこと、角度が二倍になることを四つの組で確かめたことである。

1. 記法と位置づけ

光の偏りは三通りに書かれる。(a) ジョーンズ・ベクトル:二成分の複素ベクトル。(b) ストークス・パラメータ:四つの実数 $(S_0,S_1,S_2,S_3)$ で、いずれも強度として測れる。(c) ポアンカレ球:後三者を三次元の点と見た幾何。偏光度を $\sqrt{S_1^2+S_2^2+S_3^2}/S_0$ とする。数値はすべて自前の計算である。

位置づけ:体系は「ストークス」という名を $18$ 編で使ってきたが、そのすべてが定理か方程式であった。本稿はその名の三つ目の道具を扱う。そして、道具が三つあることよりも、一つ目に書けないものがあることのほうが重い。

2. ジョーンズ・ベクトルは、偏光度 $1$ しか返さない

検算 2.1:無作為な複素二成分ベクトルを $200000$ 本つくり、それぞれの偏光度を測る。

測ったもの 値
最小の偏光度 $0.999999999999999$
最大の偏光度 $1.000000000000001$
平均 $1.000000000000000$
$1$ からのずれの最大 $6.661\times10^{-16}$

観察 2.2 一本も例外が無い。これは「たまたま偏光していた」のではなく、偏光度という量が $1$ 以外の値を取れないということである。ジョーンズの言葉の中には、「どれくらい偏光しているか」という問いを立てる場所が無い。

3. 芯:同じ二本の光を、足し方を変えると $1$ と $0$ に分かれる

検算 3.1:強度の等しい水平偏光と垂直偏光を、二通りに合わせる。

合わせ方 ストークス・ベクトル 偏光度
振幅で足す(コヒーレント) $(1,\,0,\,1,\,0)$ $\mathbf{1.000000000000000}$
強度で足す(インコヒーレント) $(2,\,0,\,0,\,0)$ $\mathbf{0.000000000000000}$

観察 3.2 同じ二本である。振幅で足せば $45$ 度に偏光した光になり、強度で足せば偏光していない光になる。どちらも正しい。違うのは二本の位相が揃っているかどうかだけである。

観察 3.3 そしてジョーンズ・ベクトルには、前者しか書けない。ベクトルの足し算は振幅の足し算であり、強度の足し算に当たる操作が存在しない。一つ目の道具が書けないのは「答」ではなく、足し方のほうである。

4. 混ぜたものは、球の内部を埋める

検算 4.1:水平と垂直を重み $w$ と $1-w$ で強度として混ぜる。

$w$ ストークス・ベクトル 偏光度
$1.00$ $(1,\,1,\,0,\,0)$ $1.000000$
$0.90$ $(1,\,0.8,\,0,\,0)$ $0.800000$
$0.75$ $(1,\,0.5,\,0,\,0)$ $0.500000$
$0.60$ $(1,\,0.2,\,0,\,0)$ $0.200000$
$0.50$ $(1,\,0,\,0,\,0)$ $\mathbf{0.000000}$

観察 4.2 完全に偏光した光は球の表面に、混ぜたものは内部に住む。ジョーンズ・ベクトルが行けるのは表面だけである。内部は、一つ目の道具にとって存在しない場所である。

5. 三つ目の道具では、角度が二倍になる

検算 5.1:二つの偏光のあいだの角を、ジョーンズの側とストークスの側で測る。

組 ジョーンズでの角 ストークスでの角
水平/垂直 $90.0000$ $\mathbf{180.0000}$
$+45$ 度/$-45$ 度 $90.0000$ $\mathbf{180.0000}$
右回り/左回りの円偏光 $90.0000$ $\mathbf{180.0000}$
水平/$+45$ 度 $45.0000$ $90.0000$

観察 5.2 すべての角が二倍になる。「直交する」とは、球の上では垂直ではなく反対側のことであった。この二倍は偶然ではなく、強度が振幅の二乗だからである。ただし本稿はその対応を導かない。

6. 消偏光器には、ジョーンズ行列が無い

検算 6.1:ストークスの側では、$(1,d,d,d)$ を対角に持つ行列が球を中心へ縮める。

$d$ 出てくるストークス・ベクトル 偏光度
$1.00$ $(1,\,0,\,1,\,0)$ $1.000000$
$0.80$ $(1,\,0,\,0.8,\,0)$ $0.800000$
$0.50$ $(1,\,0,\,0.5,\,0)$ $0.500000$
$0.20$ $(1,\,0,\,0.2,\,0)$ $0.200000$
$0.00$ $(1,\,0,\,0,\,0)$ $\mathbf{0.000000}$

検算 6.2:一方、ジョーンズ行列はベクトルをベクトルに写すので、出てくる光は必ず完全に偏光している。無作為な行列を五つ通した結果の偏光度は $1$、$1$、$1$、$1$、$1$ であった。

観察 6.3 二つ目の道具は、一つ目が書けない操作を書ける。書けないのは特定の素子ではなく、偏光度を下げるという働きそのものである。

7. 分離子と柵

観察 7.1 (何が書けるか) 

道具 書けるもの 書けないもの
ジョーンズ・ベクトル 球の表面だけ 偏光していない光、消偏光
ストークス・パラメータ 球の表面と内部 (偏光については無い)
ポアンカレ球 同じものの幾何 数としての強度

観察 7.2 (分離子) 三つを分けているのは何を足すかである。ジョーンズは振幅を足し、ストークスは強度を足す。そして強度は振幅の二乗だから、二つの足し算は同じにならない。第3節の $1$ と $0$ が、その差の大きさである。

観察 7.3 (柵) ジョーンズ計算を囲っている柵はコヒーレンスである。位相が定まっている光であれば一つ目の道具で足りる。位相が揃っていない光を混ぜた瞬間に、その言葉は必要な文を持たなくなる。「使えなくなる」のではない。答が間違うのでもない。問いを立てられなくなるのである。

観察 7.4 論文201 で、ローレンツの側では距離完備という言い方そのものが立たなくなった。偽になるのではなく、定義できなくなった。ここでも同じ形が起きている:偏光度は、ジョーンズの中では偽なのではなく、書けない。

8. 点呼と結び

本稿が測ったことを並べる。

  1. ジョーンズは偏光度 $1$ しか返さない(検算2.1):$200000$ 本、ずれは $6.66\times10^{-16}$ まで。
  2. 同じ二本が足し方で $1$ と $0$(検算3.1)。
  3. 混合は球の内部を埋める(検算4.1):$1.0$ から $0.0$ まで。
  4. 角度は二倍(検算5.1):直交は反対側。
  5. 消偏光器にジョーンズ行列は無い(検算6.2):五つとも $1$。
  6. 分離子は「何を足すか」(観察7.2)。
  7. 柵はコヒーレンス(観察7.3)。

結び:同じ光について、三つの道具が三つの言葉を持っている。そのうち一つは、他の二つが当たり前に書くことを一文字も書けない。「この光はどれくらい偏光しているか」という問いに対して、ジョーンズ・ベクトルはいつでも「$1$」としか答えず、しかもそれは嘘ではない。その言葉の中では、$1$ 以外の答が存在しないからである。道具が足りているかどうかは、出てきた答が合っているかでは分からない。分かるのは、立てたい問いがその言葉で書けるかを確かめたときだけである。

参考文献

  1. Stokes, G. G. (1852). On the Composition and Resolution of Streams of Polarized Light from Different Sources. Transactions of the Cambridge Philosophical Society, 9.
  2. Jones, R. C. (1941). A New Calculus for the Treatment of Optical Systems. Journal of the Optical Society of America, 31(7).
  3. Mueller, H. (1948). The Foundation of Optics. Journal of the Optical Society of America, 38.
  4. Poincaré, H. (1892). Théorie mathématique de la lumière. Volume 2. Paris: Gauthier-Villars.
  5. Born, M., Wolf, E. (1999). Principles of Optics. Seventh edition. Cambridge: Cambridge University Press.
  6. 山岸勇輝 (2026). 等号にも別根がある [論文16]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21600471
  7. 山岸勇輝 (2026). 共通のアルファベット [論文92]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758486
  8. 山岸勇輝 (2026). どこまでがハミルトニアンかは規約である [論文138]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22081512
  9. 山岸勇輝 (2026). 局所から大域へ [論文147]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22083144
  10. 山岸勇輝 (2026). 全体は部分よりよく知られうる [論文162]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092568
  11. 山岸勇輝 (2026). 「完備」は四つの別の主張である [論文201]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22109052
  12. 山岸勇輝 (2026). 空間は近づいても、次元は近づかない [論文206]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22110637

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「偏光」を書く道具は三つあり、一つは「偏光していない光」を書けない」[論文207]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22110902

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「偏光」を書く道具は三つあり、一つは「偏光していない光」を書けない [論文207]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/207 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22110902

Yamagishi, Y. (2026). There Are Three Tools for Writing Polarization, and One of Them Cannot Write Unpolarized Light [Paper 207]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/207; DOI: 10.5281/zenodo.22110902

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