【論文206】空間は近づいても、次元は近づかない

要旨

空間の列が一つの空間に近づいていくとき、その次元は近づかない。本稿は、細い円筒が線分に近づく列でこれを測り、次元という量が極限で連続でないことを整数の数え上げで示す。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、空間はたしかに近づく。半径 $\varepsilon$ の円筒と、その芯の線分との隔たりは $\varepsilon$ であり、面積 $2\pi\varepsilon$ も零へ行く。一方、長さは $1$ のまま動かない(第2節)。

第二に、それでも次元は $2$ のままである。周長より細かい目盛りで数えた指数は、$\varepsilon=0.2$ から $0.0005$ まで $1.9650$、$1.9799$、$1.9843$、$1.9852$、$1.9814$ である(第3節)。

第三に、これが本稿の芯である。同じ集合が、目盛りによって別の次元を答える。半径 $0.01$ の円筒に問うと、目盛り $0.3$ では $1.0965$、$0.1$ では $0.8505$、$0.02$ では $2.0435$、$0.002$ では $1.9371$、「この集合の次元は何か」という問いは、目盛りを言うまで答を持たない(第4節)。

第四に、落ち幅は潰した方向の数で決まる。円筒とトーラス $(1,\varepsilon)$ は $1$ 落ち、トーラス $(\varepsilon,\varepsilon)$ と箱 $(1,\varepsilon,\varepsilon)$ は $2$ 落ちる。測った指数は $1.9853$、$1.9858$、$1.9717$、$2.9716$ である(第5節)。

第五に、最初の数え方は失敗した。点で標本を取って周囲の空間に格子を置く方法は、格子のずれで傾きが三周期に振動し、細かい目盛りでは標本が尽きて $2$ のはずが $1.5$ を返した(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。グロモフ=ハウスドルフ収束、崩壊、被覆次元は、いずれも標準的である。グロモフ=ハウスドルフ距離を計算しない。本稿が測るのは埋め込んだ先でのハウスドルフ距離であり、それは真の距離の上からの評価にすぎない。曲がった空間を扱わない。数値はすべて平坦な長方形とその貼り合わせであり、曲率の効く崩壊は論じない。「次元」の別根を点呼しない。その語が何通りに使われるかは論文94の主題である。論文204 との関係:204 は固有値を数えたときのべきが次元であることを測り、十分高いところで見ることという柵を置いた。本稿はその柵のもう一方の顔を測る:十分細かい目盛りで見ること。論文197 との関係:197 は極限で何が生き残るかを問うた。本稿では長さは生き残り、面積も次元も生き残らない。加えたのは被覆の数を標本なしで厳密に数えたこと、周長の上下で指数が $1$ と $2$ に分かれることを五つの太さで測ったこと、同じ集合が目盛り次第で別の答を返すことを四つの目盛りで示したこと、落ち幅が潰した方向の数で決まることを五つの空間で確かめたことである。

1. 記法と位置づけ

半径 $\varepsilon$、長さ $1$ の円筒を考える。これは平坦であり、内在的には縦 $2\pi\varepsilon$・横 $1$ の長方形を、縦方向に貼り合わせたものである。目盛り $\delta$ での被覆数 $N(\delta)$ を $\lceil 2\pi\varepsilon/\delta\rceil\times\lceil 1/\delta\rceil$ として厳密に数え、指数を $\log N$ と $\log(1/\delta)$ の最小二乗で当てはめる。標本は一切使わない。

位置づけ:論文204 は、固有値を数えたときのべきが次元であることを測り、十分高いところで見ることという柵を置いた。本稿はその柵を長さの側から見る。そして、目盛りを言わないかぎり次元という答は無いことを測る。

2. 空間はたしかに近づく

検算 2.1:円筒と、その芯の線分を比べる。

$\varepsilon$ 線分との隔たり 面積 $2\pi\varepsilon$ 長さ
$0.3$ $0.300000$ $1.884956$ $1$(不変)
$0.1$ $0.100000$ $0.628319$ $1$(不変)
$0.03$ $0.030000$ $0.188496$ $1$(不変)
$0.01$ $0.010000$ $0.062832$ $1$(不変)
$0.003$ $0.003000$ $0.018850$ $1$(不変)

観察 2.2 ここで測っているのは埋め込んだ先でのハウスドルフ距離である。グロモフ=ハウスドルフ距離はこれ以下であり、本稿はその真の値を計算しない。言えるのは零へ行くということだけである。

3. それでも次元は $2$ のままである

検算 3.1:円筒の周長を $L=2\pi\varepsilon$ とし、$L$ よりも十分細かい範囲($L/100$ から $L/10$)と、十分粗い範囲($3L$ から $30L$)で、それぞれ指数を当てはめる。

$\varepsilon$ $L=2\pi\varepsilon$ $L$ より粗いところ $L$ より細かいところ
$0.2$ $1.256637$ ($L$ が大きすぎる) $1.9650$
$0.05$ $0.314159$ ($L$ が大きすぎる) $1.9799$
$0.01$ $0.062832$ $0.7728$ $1.9843$
$0.002$ $0.012566$ $0.9451$ $1.9852$
$0.0005$ $0.003142$ $0.9832$ $1.9814$

観察 3.2 細いほうの列は $\varepsilon$ をどれだけ小さくしても $2$ に張りついている。粗いほうの列は $\varepsilon$ を小さくするほど $1$ に近づく。$0.7728$、$0.9451$、$0.9832$。細い円筒ほど、$1$ と答える範囲が広くなるのである。

4. 芯:同じ集合が、目盛りによって別の次元を答える

検算 4.1:半径 $0.01$(周長 $0.062832$)の円筒ひとつに、四つの目盛りで問う。

目盛り $\delta$ そこでの指数 位置づけ
$0.3000$ $1.0965$ 周長よりずっと粗い
$0.1000$ $0.8505$ 粗い
$0.0200$ $\mathbf{2.0435}$ 周長のあたり
$0.0020$ $\mathbf{1.9371}$ 細かい

検算 4.2:同じ円筒を、目盛りを連続に細かくしながら追う。

$\delta$ $N(\delta)$ 局所の指数
$0.180838$ $6$ $1.1961$
$0.091799$ $11$ $0.9394$
$0.065405$ $16$ $1.1053$
$0.046600$ $44$ $\mathbf{2.9841}$(周長を越えた)
$0.023655$ $129$ $2.1613$
$0.008556$ $936$ $1.8261$
$0.003094$ $6804$ $1.9905$
$0.001571$ $26117$ $2.0205$

観察 4.3 一つの集合が、二つの答を返す。粗いところでは $1$、細かいところでは $2$ であり、切り替わるのはその円筒自身の周長のところである。ゆえに「この集合の次元は何か」という問いは、目盛りを言うまで答を持たない。

観察 4.4 これは近似の話ではない。数え上げは整数であり、$N(\delta)$ は厳密である。$1$ と $2$ の両方が、同じ集合について正しい。

5. 落ち幅は、潰した方向の数で決まる

検算 5.1:$\varepsilon=10^{-3}$ として、最も短い辺より細かい範囲で指数を当てはめ、極限の空間と比べる。

空間 $\varepsilon>0$ での指数 極限の空間 落ち幅
半径 $\varepsilon$ の円筒 $1.9853$ 線分 $1$
平坦トーラス $(1,\varepsilon)$ $1.9858$ 円周 $1$
平坦トーラス $(\varepsilon,\varepsilon)$ $1.9717$ 一点 $\mathbf{2}$
箱 $(1,\varepsilon,\varepsilon)$ $2.9716$ 線分 $\mathbf{2}$
箱 $(1,1,\varepsilon)$ $2.9858$ 正方形 $1$

観察 5.2 一方向を潰せば一つ落ち、二方向を潰せば二つ落ちる。落ち幅は決まった数ではなく、何本の方向を潰したかである。そして極限では、点にまで落とすことができる。

6.最初の数え方は失敗した

本稿の最初の実行は、円筒の上に点を撒き、周囲の三次元空間に格子を置いて箱を数えていた。その方法は二つの理由で壊れた。

何が起きたか 症状
格子の原点のずれ 局所の指数が $1.1023$、$0.8550$、$0.6986$ と三周期で振動
細かい目盛りで標本が尽きる $2$ のはずのところで $1.5169$ を返す

観察 6.1 直し方は、標本をやめて厳密に数えることであった。円筒は平坦なので、内在的には長方形であり、被覆数は天井関数の積で正確に書ける。そして二点間の差分もやめた。近い二つの目盛りは同じ天井の段に入ることがあり、そこでは指数が $0$ になったり跳ねたりする。一桁ぶんの幅で最小二乗を取れば、それも消える。

観察 6.2 もし最初の数字を書いていれば、「次元は $1.5$」という誰のものでもない数を報告していた。標本のせいでも格子のせいでもあるのに、集合の性質のように見えるのがこの種の誤りの怖さである。

7. 分離子と柵

観察 7.1 (何が生き残るか) 

量 極限で 理由
距離 収束する それが収束の定義である
長さ 生き残る 最初から最後まで $1$
面積 生き残らない $2\pi\varepsilon$ が零へ行く
次元 収束しない どの $\varepsilon$ でも $2$、極限で $1$
位相 生き残らない 円環が区間になる

観察 7.2 (分離子) 生き残るものと生き残らないものを分けているのは、潰す方向の情報を使っているかどうかである。長さは潰さない方向だけを見ているので残る。面積・次元・位相はどれも潰す方向を勘定に入れており、その方向が消えると一緒に消える。

観察 7.3 (柵) 「次元は空間の性質である」という言い方を囲っている柵は、十分細かい目盛りで見ることである。柵の内側では $2$ と答え、外では $1$ と答える。そして柵の位置は空間ごとに違い、円筒では自分の周長である。論文204 は同じ柵を反対側から測っていた:あちらは「十分高いところで見ること」、こちらは「十分細かいところで見ること」であり、どちらも同じ一つの要求である。

8. 点呼と結び

本稿が測ったことを並べる。

  1. 空間は近づく(検算2.1):隔たりも面積も零へ、長さは $1$ のまま。
  2. 次元は $2$ のまま(検算3.1):$1.9650$ から $1.9814$。
  3. 同じ集合が目盛りで別の答(検算4.1):$1.0965$ と $2.0435$。
  4. 切り替えは自分の周長で起きる(検算4.2):そこで局所の指数が $2.9841$ に跳ぶ。
  5. 落ち幅は潰した方向の数(検算5.1):$1$ か $2$、点まで落とせる。
  6. 最初の数え方は失敗した(第6節):格子で振動し、標本が尽きて $1.5$ を返した。
  7. 柵は「十分細かい目盛りで見ること」(観察7.3)。

結び:細い円筒は、線分にいくらでも近づく。距離は零へ行き、面積も零へ行き、見た目には線分と区別がつかなくなる。それでも、どの段階でもそれは二次元である。ただし、その二次元が見えるのは自分の周長より細かい目盛りで見たときだけである。次元とは、空間だけが持っている数ではなく、空間と目盛りの組が持っている数であった。そして極限に行った先では、その目盛りがどれだけ細かくても間に合わない。近づいた先には、もう周長が無いからである。

参考文献

  1. Gromov, M. (1981). Groups of Polynomial Growth and Expanding Maps. Publications Mathematiques de l’IHES, 53.
  2. Cheeger, J., Gromov, M. (1986). Collapsing Riemannian Manifolds while Keeping Their Curvature Bounded. Journal of Differential Geometry, 23(3).
  3. Fukaya, K. (1987). Collapsing of Riemannian Manifolds and Eigenvalues of Laplace Operator. Inventiones Mathematicae, 87(3).
  4. Burago, D., Burago, Y., Ivanov, S. (2001). A Course in Metric Geometry. Providence: American Mathematical Society.
  5. Falconer, K. (2003). Fractal Geometry. Second edition. Chichester: Wiley.
  6. 山岸勇輝 (2026). 「次元」は一つではない [論文94]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758581
  7. 山岸勇輝 (2026). 「次元の呪い」は一つの呪いではない [論文182]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22104170
  8. 山岸勇輝 (2026). 「収束する」は四つの別の主張であり、分けているのは何を捨てることを許すかである [論文197]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22107590
  9. 山岸勇輝 (2026). 「まっすぐ」は「最短」を意味せず、柵は二つある [論文198]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22107954
  10. 山岸勇輝 (2026). 固有値を数えたときのべきは、次元の半分である [論文204]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22110032
  11. 山岸勇輝 (2026). 最も短い囲いは、いつも円板とはかぎらない [論文205]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22110143

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「空間は近づいても、次元は近づかない」[論文206]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22110637

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 空間は近づいても、次元は近づかない [論文206]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/206 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22110637

Yamagishi, Y. (2026). The Spaces Converge and the Dimension Does Not [Paper 206]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/206; DOI: 10.5281/zenodo.22110637

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