【論文214】レンズは明るくできるが、明るさは増やせない

要旨

「明るい」という一つの言い方が、四つの別の量を指している。本稿はその四つを一つの光源について数で置き、距離を変えたときとレンズを入れたときに何が動き何が動かないかを書く。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。

第一に、距離を変えると動くのは一つだけである。$1$ から $1000\,\mathrm{m}$ まで離すと放射照度は $0.318$ から $3.18\times10^{-7}$ へ落ちるのに、放射輝度は $1013.211836$ のまま一桁も動かない(第3節)。

第二に、レンズを入れると上がるのも一つだけである。薄レンズの式と倍率だけから計算すると、像面の照度は最大 $\mathbf{18225}$ 倍になるのに、像の輝度は光源の $1.0$ 倍ちょうどであった(第4節)。

第三に、これが本稿の芯である。エタンデュが保たれるので集光比は $1/\sin^2\theta=\mathbf{46238.8}$ を超えられず、そこで届く放射照度 $6.29\times10^{7}\,\mathrm{W/m^2}$ が与える温度は $\mathbf{5771.83\,\mathrm{K}}$、太陽表面の $5772\,\mathrm{K}$ と$0.003\,\%$しか違わない(第5節)。

第四に、等級は第五の言い方であり、四つのうち一つについての対数目盛にすぎない。$1$ 等級は $100^{1/5}=2.51188643151$ 倍である(第6節)。

第五に、ランベルト球なら満月は縁で暗いはずである。相対輝度は中心 $1.0$ に対して $\rho=0.9$ で $0.436$、すなわち$0.90$ 等級暗い(第7節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。放射量測光と視感測光の区別、エタンデュ保存、輝度が受動的な光学系で増えないこと、ランベルトの余弦則、等級の定義は、いずれも標準的である。熱力学第二法則を導かない。集光の上限は幾何から出しており、第二法則との一致は確かめるだけである。視感側(光束・光度・輝度・照度)の分光応答を扱わない。数は放射量のものである。月を測定しない。第7節が出すのはランベルト球ならどう見えるかであって、実際の月の観測ではない。非結像光学の設計を論じない。論文01 との関係:体系の一枚目は逆二乗の指数 $n=2$ そのものを扱った。本稿が数えるのは、その指数に従わない三つである。加えたのは四つの量を一つの光源について数で置いたこと、距離を五段階変えて輝度が動かないことを見たこと、レンズの式と倍率だけから像の輝度比が $1$ になることを出したこと(エタンデュ保存を仮定していない)、集光比の上限から到達温度を出して太陽表面温度と突き合わせたこと、ランベルト球の縁の暗さを等級で出したことである。

1. 記法と位置づけ

光の「明るさ」には少なくとも四つの量がある。

量 単位 何あたりか
放射束 $\mathrm{W}$ 全体
放射強度 $\mathrm{W/sr}$ 立体角あたり
放射照度 $\mathrm{W/m^2}$ 受光面の面積あたり
放射輝度 $\mathrm{W/m^2/sr}$ 面積かつ立体角あたり

位置づけ:論文207 では「偏光」を書く道具が三つあり、一つは問いを書けなかった。論文210 では「光の速さ」が四つあり、柵は二つにしか掛かっていなかった。ここでは「明るさ」が四つあり、逆二乗に従うのは一つだけである。

2. 一つの光源、四つの数

半径 $1\,\mathrm{cm}$ のランベルト円板が $1\,\mathrm{W}$ を半空間へ放つとする。

検算 2.1:

量 値 単位
放射束 $1.0$ $\mathrm{W}$
放射強度(軸上) $0.31830989$ $\mathrm{W/sr}$
放射輝度 $1013.2118$ $\mathrm{W/m^2/sr}$
$1\,\mathrm{m}$ での放射照度 $0.31830989$ $\mathrm{W/m^2}$

観察 2.2 軸上の強度が $P/\pi=0.31830989$ になるのは、ランベルト面が $\cos\theta$ で放ち、半空間での $\cos$ の積分が $\pi$ だからである。ここで $4\pi$ ではなく $\pi$ が出ることに注意、点光源ではないからである。

3. 距離を変えると、動くのは一つだけ

検算 3.1:

距離 放射束 放射強度 放射照度 放射輝度
$1\,\mathrm{m}$ $1.0$ $0.31830989$ $0.31830989$ $1013.211836$
$2\,\mathrm{m}$ $1.0$ $0.31830989$ $0.079577472$ $1013.211836$
$10\,\mathrm{m}$ $1.0$ $0.31830989$ $0.0031830989$ $1013.211836$
$100\,\mathrm{m}$ $1.0$ $0.31830989$ $3.1830989\times10^{-5}$ $1013.211836$
$1000\,\mathrm{m}$ $1.0$ $0.31830989$ $\mathbf{3.1830989\times10^{-7}}$ $\mathbf{1013.211836}$

観察 3.2 逆二乗に従うのは放射照度だけである。輝度はともに $1/r^2$ で落ちる二つの量の比だから、一桁も動かない。受光面が受け取る量が減るのと同じ割合で、光源の張る立体角も減るからである。

観察 3.3 だから遠くの壁は暗く見えない。同じ壁を十倍離れて見ても、目に映る面の明るさは変わらない。変わるのは大きさだけである。「遠いものは暗い」は、点として見えるものについてしか正しくない。

4. レンズを入れると、上がるのも一つだけ

焦点距離 $f$、口径 $D$ の薄レンズで、距離 $u$ の光源を距離 $v$ に結像する($1/u+1/v=1/f$、倍率 $m=v/u$、損失なし)。像の面積は倍率から、集めた光束はレンズの張る立体角から出す。エタンデュ保存は仮定していない。

検算 4.1:

$f$ $u$ $v$ $m$ 照度の利得 輝度の比
$0.10$ $0.5$ $0.125$ $0.25$ $100.0$ $\mathbf{1.0}$
$0.10$ $0.2$ $0.2$ $1.0$ $6.25$ $\mathbf{1.0}$
$0.50$ $2.0$ $0.666667$ $0.333333$ $900.0$ $\mathbf{1.0}$
$1.00$ $10.0$ $1.11111$ $0.111111$ $\mathbf{18225.0}$ $\mathbf{1.0}$

観察 4.2 像面の照度は一万八千倍にもなるのに、輝度の比は携えた桁のすべてで $1$ である。二つの立体角の比が、ちょうど倍率の二乗と打ち消し合う。

観察 4.3 ここが題名の意味である:レンズは面を明るくできる(照度)が、光源を明るくはできない(輝度)。そして損失があれば輝度は下がる。上がることは決してない。

5. 芯:集めても、太陽表面より熱くならない

太陽の角半径は $\theta=0.004650484\,\mathrm{rad}=0.26645311^\circ$ である。エタンデュ $n^2A\Omega$ が保たれるので、集光比は $1/\sin^2\theta$ を超えられない。

検算 5.1:太陽定数を $1361\,\mathrm{W/m^2}$、$\sigma=5.670374419\times10^{-8}$ とする。

集光比 放射照度 $(\mathrm{W/m^2})$ 到達温度 $(\mathrm{K})$
$1$ $1361$ $393.61$
$100$ $136100$ $1244.69$
$1000$ $1361000$ $2213.41$
$10000$ $1.361\times10^{7}$ $3936.06$
$\mathbf{46238.8}$(上限) $\mathbf{6.2931\times10^{7}}$ $\mathbf{5771.83}$

観察 5.2 太陽表面の温度は $5772\,\mathrm{K}$ である。幾何だけから出した上限は $5771.83\,\mathrm{K}$、差は $\mathbf{0.003\,\%}$ であった。どんなレンズも鏡も、光源より熱い場所を作れない。

観察 5.3 本稿はこれを熱力学から導いてはいない。使ったのは角度と面積の勘定だけである。二つの別の道が同じ数に着いたこと自体が、この節の内容である:もし越えられれば、低温の物体から高温の物体へ熱が移ることになる。

6. 等級という、第五の言い方

検算 6.1:$5$ 等級を $100$ 倍と定めたので、$1$ 等級は $100^{1/5}=2.51188643151$ 倍である。

等級差 放射照度の比
$1$ $2.511886432$
$5$ $100.0$
$10$ $10000.0$
$24$ $3.98\times10^{9}$
$30$ $1.0\times10^{12}$

観察 6.2 等級は四つのうち一つ(放射照度)についての対数目盛にすぎない。「暗い星」と言うとき言っているのはここに届く量であって、その星の面がどれだけ明るいかではない。後者は距離を変えても動かないので、等級では決して測れない。

7. ランベルト球なら、満月は縁で暗い

観測者の方向から照らされた完全拡散反射球では、面の法線が視線となす角 $\gamma$ について $\sin\gamma=\rho$($\rho$ は縁までを $1$ とした位置)であり、輝度は $\cos\gamma=\sqrt{1-\rho^2}$ に比例する。

検算 7.1:

$\rho$ 相対輝度 何等級暗いか
$0$ $1.0$ $0.0$
$0.3$ $0.9539392$ $0.051$
$0.6$ $0.8$ $0.242$
$0.9$ $0.43588989$ $\mathbf{0.902}$
$0.99$ $0.14106736$ $2.126$

観察 7.2 ランベルト球なら、満月は縁で一等級近く暗いはずである。実際の満月に縁の暗さがほとんど見えないことは、月面がランベルト面ではないことの標準的な証拠として知られている。本稿は月を測定していない。出したのはランベルト球ならこうなるという予言だけである。

8. 分離子と柵

点呼 8.1:距離を十倍にして、何が何倍になるか。

量 倍率 逆二乗に従うか
放射束 $1$ いいえ
放射強度 $1$ いいえ
放射照度 $1/100$ はい
放射輝度 $1$ いいえ

観察 8.2 (分離子) 四つを分けているのは何あたりで数えるかである。全体/立体角あたり/面積あたり/その両方あたり。そして面積と立体角の両方で割ったものだけが、距離にもレンズにも動かされない。動かないのは、分子と分母が同じ速さで落ちるからである。

観察 8.3 (柵) 「遠いほど暗い」という言い方を囲っている柵は、放射照度について言うことである。柵の外では偽になる。壁も、月も、空も、離れて暗くはならない。そして「レンズで明るくできる」を囲っている柵は、同じく照度について言うことである:輝度は上げられない。

観察 8.4 論文01 は、体系の一枚目として逆二乗の指数 $n=2$ の唯一性を扱った。本稿が数えたのは、その指数に従わない三つである。指数が正しいことと、その指数がどの量に掛かるかは、別の問いであった。論文210 では「光の速さ」四つのうち柵が掛かっていたのは二つだけであった。ここでは、逆二乗が掛かっているのは一つだけである。

9. 点呼と結び

本稿が測ったことを並べる。

  1. 四つの数を一つの光源に置いた(検算2.1)。
  2. 距離で動くのは照度だけ(検算3.1):輝度は $1013.211836$ で不動。
  3. レンズで上がるのも照度だけ(検算4.1):利得 $18225$、輝度比 $1.0$。
  4. 上限温度は $5771.83\,\mathrm{K}$(検算5.1):太陽表面と $0.003\,\%$ 差。
  5. 等級は照度の対数目盛(検算6.1):$1$ 等級 $=2.51188643151$。
  6. ランベルト球は縁で $0.9$ 等級暗い(検算7.1)。
  7. 逆二乗に従うのは四つのうち一つ(点呼8.1)。

結び:虫めがねで紙は焦げる。だから「レンズは光を明るくする」と言いたくなるが、増えているのは紙の上の照度であって、太陽の輝度ではない。そして輝度が増えない以上、どんな装置も太陽表面より熱い場所を作れない。幾何だけから出した上限 $5771.83\,\mathrm{K}$ が、太陽表面の $5772\,\mathrm{K}$ と三千分の一しか違わなかったのは、そのことの数である。「明るくする」はできる。「明るさを増やす」はできない。同じ日本語が、片方は可能で片方は不可能な二つの操作を指していた。

参考文献

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  10. 山岸勇輝 (2026). 「偏光」を書く道具は三つあり、一つは「偏光していない光」を書けない [論文207]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22110902
  11. 山岸勇輝 (2026). パルスの山は、入る前に出ることがある [論文210]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22111747
  12. 山岸勇輝 (2026). 足し続けると、答から遠ざかる [論文211]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22111772
  13. 山岸勇輝 (2026). どんな地図も、必ず何かを歪める [論文212]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22112104

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「レンズは明るくできるが、明るさは増やせない」[論文214]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22119392

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). レンズは明るくできるが、明るさは増やせない [論文214]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/214 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22119392

Yamagishi, Y. (2026). A Lens Can Brighten and Cannot Increase Brightness [Paper 214]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/214; DOI: 10.5281/zenodo.22119392

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