要旨
「独立」という語は、線形代数・確率論・体論のそれぞれで別の意味を持つ。本稿は四つを一つの表に並べ、どれか一つが成り立っても他については何も言えないことを数で書く。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、独立の破れはまばらである。$X$ を $[-1,1]$ の一様分布、$Y=X^2$(これ以上ないほど従属)として $E[X^aY^b]$ と $E[X^a]E[Y^b]$ を $20$ 組較べると、$14$ 組は成り立ち、$6$ 組だけが破れた(第2節)。
第二に、そして誰もが確かめる一組は成り立つ側にある。相関にあたる $(1,1)$ の隙間は正確に $0$であり、破れるのは $(2,1)$ の $0.08888888889$ からである(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。$X,Y$ を公正な硬貨、$Z=X\oplus Y$ とすると、三つの対はいずれも隙間 $0$なのに、三つまとめては $-0.125$ 破れる。標本 $400$ 万でも $P(X=Y=Z=1)=0.00000000$ に対し $1/8=0.125$(第4節)。
第四に、線形独立と統計的独立はたがいを見ない。$X$ と $X^2$ の標本を並べた行列の階数も、独立な二つの標本の階数も、どちらも $\mathbf{2}$ であった(第5節)。
第五に、代数的独立は探索では決まらない。$(\pi,\pi^2)$ では係数 $2$ までで厳密な関係 $y=x^2$が見つかるのに、$(\pi,e)$ では最小値が $0.00017823786$ にとどまり、そこから改善しなかった(第6節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。対独立と相互独立の差(ベルンシュタインの例)、超越数論、線形独立はいずれも標準的である。$\pi$ と $e$ の代数的独立を判定しない。これは未解決問題であり、本稿がするのは小さい関係を排除することだけである。独立性の検定法を提案しない。情報量による独立の測り方(相互情報量)を扱わない。圏論的な独立や測度論的な直積を扱わない。論文187 との関係:187 は確率の内側で「無相関と独立は別である」ことを示し、標本平均と標本分散の例で確かめた。本稿が並べるのは確率の外に出た四つであり、確率の内側で新たに主張することは何も無い。加えるのは、187 の一点の観察をモーメントの格子として地図にすることである。加えたのは独立の破れを二十組の格子で数えて $14$ 対 $6$ を得たこと、それを $400$ 万の標本で照合したこと、対独立でも三つまとめては独立でない例を厳密値と標本の両方で出したこと、線形独立が統計的独立を見分けられないことを階数で示したこと、代数的関係の探索を係数の上限を上げながら走らせたことである。
1. 記法と位置づけ
四つの「独立」を書き分ける。線形独立とは、自明でない一次結合が零にならないこと。代数的独立とは、自明でない整数係数多項式が零にならないこと。統計的独立とは、同時分布が周辺分布の積になること。無相関とは、$E[XY]=E[X]E[Y]$ という一つの等式だけが成り立つことである。
位置づけ:論文197 は「収束する」を四つに分け、分けているのは何を捨てることを許すかであった。ここで分けているのは何が零にならないことを要求するかである。論文187 はすでに「無相関と独立は別」を確率の内側で示している。本稿はそこに地図を足し、外へ出る。
2. 独立の破れは、まばらである
$X$ を $[-1,1]$ の一様分布、$Y=X^2$ とする。$E[X^k]$ は $k$ が奇数なら $0$、偶数なら $1/(k+1)$ だから、すべて厳密に計算できる。
検算 2.1:$a=0,\dots,4$ と $b=0,\dots,3$ の $20$ 組。
| $a$ | $b$ | $E[X^aY^b]$ | $E[X^a]E[Y^b]$ | 隙間 |
|---|---|---|---|---|
| $1$ | $1$ | $0.0$ | $0.0$ | $\mathbf{0.0}$ |
| $1$ | $2$ | $0.0$ | $0.0$ | $\mathbf{0.0}$ |
| $3$ | $1$ | $0.0$ | $0.0$ | $\mathbf{0.0}$ |
| $2$ | $1$ | $0.2$ | $0.1111111111$ | $\mathbf{0.08888888889}$ |
| $2$ | $2$ | $0.1428571429$ | $0.06666666667$ | $0.07619047619$ |
| $4$ | $1$ | $0.1428571429$ | $0.06666666667$ | $0.07619047619$ |
$20$ 組のうち $\mathbf{14}$ 組が成り立ち、$\mathbf{6}$ 組が破れた。
観察 2.2 相関にあたる $(1,1)$ の隙間は正確に零である。$a$ が奇数の組はすべて対称性から自動的に成り立ち、破れるのは$a$ が偶数で $b\ne0$ の隅だけである。破れはまばらであり、誰もが確かめる一組は、成り立つ側にいる。
観察 2.3 「無相関だから独立でない証拠は無い」と言うのは、$20$ 組のうち $1$ 組を見て残り $19$ を見ていないということである。しかもその $1$ 組は、最も破れにくい場所に置かれている。
3. 標本でも確かめる
検算 3.1:$400$ 万点の標本で同じ隙間を測る。
| $(a,b)$ | 標本での隙間 | 厳密値 | 差 |
|---|---|---|---|
| $(1,1)$ | $0.0001688246$ | $0.0000000000$ | $1.69\times10^{-4}$ |
| $(2,1)$ | $0.0889025568$ | $0.0888888889$ | $1.37\times10^{-5}$ |
| $(2,2)$ | $0.0762082743$ | $0.0761904762$ | $1.78\times10^{-5}$ |
| $(4,1)$ | $0.0762082743$ | $0.0761904762$ | $1.78\times10^{-5}$ |
観察 3.2 標本は厳密値と合う。ただし $(1,1)$ の標本値は $1.7\times10^{-4}$ であって、零ではない。$400$ 万点あっても、零を零として読むには誤差の大きさを知っていなければならない。
4. 芯:対ごとに独立でも、三つまとめては独立でない
$X,Y$ を公正な硬貨とし、$Z=X\oplus Y$(排他的論理和)とする。
検算 4.1:
| 組 | $P(\text{両方}=1)$ | 周辺の積 | 差 |
|---|---|---|---|
| $X$ と $Y$ | $0.25$ | $0.25$ | $\mathbf{0.0}$ |
| $X$ と $Z$ | $0.25$ | $0.25$ | $\mathbf{0.0}$ |
| $Y$ と $Z$ | $0.25$ | $0.25$ | $\mathbf{0.0}$ |
| 三つまとめて | $\mathbf{0}$ | $0.125$ | $\mathbf{-0.125}$ |
(標本 $400$ 万でも $P(X=Y=Z=1)=0.00000000$ であった。)
観察 4.2 どの二つを取っても完全に独立であり、三つまとめると完全に従属である。二つが決まれば三つ目は一意に決まってしまう。「対ごとに独立」を何度確かめても、三つの独立には一歩も近づかない。
観察 4.3 これは第2節と同じ形である:独立とはたくさんの条件の連言であり、一部だけを確かめても残りについて何も言えない。そして確かめやすい条件ほど成り立ちやすい。
5. 線形独立と統計的独立は、たがいを見ない
検算 5.1:$n=6$ 個の標本を取り、$X$ の並びと $Y=X^2$ の並びを $\mathbb{R}^6$ の二つのベクトルとして積む。
| 組 | 階数 | 統計的に独立か |
|---|---|---|
| $X$ と $X^2$ | $\mathbf{2}$ | いいえ($Y$ は $X$ の関数) |
| 独立な二つ | $\mathbf{2}$ | はい |
観察 5.2 どちらも階数 $2$、すなわち線形独立である。線形独立は二つの場合を区別できない。そして統計的独立は階数を見ていない。この二つは同じ梯子の段ではなく、別の軸である。
6. 代数的独立:探索にできることとできないこと
整数 $p_{ij}$(すべては零でない)で $\sum p_{ij}x^iy^j=0$ となるものを、$i+j\le2$ の六項について、係数の上限を上げながら探す。
検算 6.1:$(\pi,\pi^2)$ では、係数 $2$ までの探索で最小値 $0.0$、すなわち厳密な関係が見つかった。$-2y+2x^2=0$。
検算 6.2:$(\pi,e)$ では。
| 係数の上限 | 候補の数 | 見つかった最小値 |
|---|---|---|
| $2$ | $15625$ | $0.002700226$ |
| $3$ | $117649$ | $\mathbf{0.00017823786}$ |
| $4$ | $531441$ | $0.00017823786$ |
| $5$ | $1771561$ | $0.00017823786$ |
観察 6.3 $(\pi,\pi^2)$ では最小の係数で即座に関係が出る。$(\pi,e)$ では厳密な関係は出ず、最小値は上限 $2$ から $3$ で十五分の一に落ち、$4$ でも $5$ でもそれ以上良くならなかった。
観察 6.4 落ちたことも止まったことも、何の証拠にもならない。係数を十分大きく許せば、どんな二つの実数でもこの形の和はいくらでも零に近づけられる。だから小さいことは何も証明しない。探索にできるのは小さい関係を排除することだけであり、問いを決めることは決してできない。$\pi$ と $e$ が代数的独立かどうかは未解決である(ネステレンコは1996年に $\pi$ と $e^\pi$ が独立であることを証明した)。
7. 四つの要求を、並べる
点呼 7.1:
| 種類 | 何が零にならないことを要求するか | 条件の数 |
|---|---|---|
| 線形独立 | 自明でない一次結合 | 結合ごとに一つ |
| 代数的独立 | 自明でない多項式 | 無限 |
| 統計的独立 | すべてのモーメントの積が分解する | 無限 |
| 無相関 | $(1,1)$ のモーメントが分解する | 一つ |
観察 7.2 上の二つは決まった数やベクトルのあいだの厳密な関係についての話であり、下の二つは分布が積に分かれるかの話である。二つは別の軸であって、片方の事実はもう片方について何も言わない。
8. 分離子と柵
観察 8.1 (分離子) 四つを分けているのはどれだけ広い組み合わせの族に「零にならない」を要求するかである。一次結合だけか、多項式全部か、モーメント全部か、モーメント一つか。要求が広いほど強い条件になり、確かめにくくなる。
観察 8.2 (柵) 「独立を確かめた」という言い方を囲っている柵は、どの族について確かめたかである。柵の外では、この言い方は偽ですらなく、空である。第2節では $20$ 組のうち $1$ 組、第4節では三つの対だけを見ていた。どちらも「確かめた」と言えてしまい、どちらも何も確かめていない。
観察 8.3 そして最も確かめやすい条件が、最も破れにくい。相関は $20$ 組のうち成り立つ $14$ 組の中にあり、対独立は三つ全部が完全に成り立った。検査が通りやすいのは対象が素直だからではなく、検査が弱いからである。論文216 では、弱い収束が一次の試験しか通さなかった。ここでも、弱い独立が一つのモーメントしか見ていない。
9. 点呼と結び
本稿が測ったことを並べる。
- 破れはまばら(検算2.1):$20$ 組のうち $14$ が成り立つ。
- 誰もが確かめる一組は成り立つ側(検算2.1):$(1,1)$ の隙間は $0$。
- 標本でも合う(検算3.1):差は $10^{-5}$ 台。
- 対ごとに独立で、三つでは従属(検算4.1):$-0.125$。
- 線形独立は見分けられない(検算5.1):どちらも階数 $2$。
- 探索は問いを決められない(検算6.2):$0.00017823786$ で止まる。
結び:$X$ と $X^2$ ほど従属な組は無い。片方が決まれば、もう片方は完全に決まる。それでも相関は正確に零であり、二十のモーメント条件のうち十四までが勝手に成り立つ。硬貨を三つ並べれば、どの二つを取っても完全に独立で、三つまとめると一つも自由が残らない。「独立を確かめた」と言えるためには、どの族について確かめたのかを言わねばならない。そして言いやすい族ほど、通りやすい。検査を通ったことは対象についての報せではなく、しばしば検査についての報せである。
参考文献
- Bernstein, S. N. (1946). Theory of Probability. Moscow: Gostekhizdat.
- Halmos, P. R. (1958). Finite-Dimensional Vector Spaces. Second edition. Princeton: Van Nostrand.
- Feller, W. (1968). An Introduction to Probability Theory and Its Applications, Volume 1. Third edition. New York: Wiley.
- Baker, A. (1975). Transcendental Number Theory. Cambridge: Cambridge University Press.
- Nesterenko, Yu. V. (1996). Modular functions and transcendence questions. Sbornik: Mathematics, 187.
- Lang, S. (2002). Algebra. Third edition. New York: Springer.
- 山岸勇輝 (2026). 正規分布が特別である理由は、一つではない [論文187]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22105639
- 山岸勇輝 (2026). 「収束する」は四つの別の主張であり、分けているのは何を捨てることを許すかである [論文197]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22107590
- 山岸勇輝 (2026). 同じ列が、零へも無限へも行く [論文215]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119477
- 山岸勇輝 (2026). 近づいているのに、一歩も近づいていない [論文216]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119579
- 山岸勇輝 (2026). 距離だけを守れと言うと、直線性まで守ってしまう [論文217]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119628
- 山岸勇輝 (2026). 平らな板が、焦点を結ぶ [論文219]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119788
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「「独立」は四つあり、たがいに何も言わない」[論文220]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22119838
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「独立」は四つあり、たがいに何も言わない [論文220]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/220 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22119838
Yamagishi, Y. (2026). There Are Four Independences, and They Say Nothing to One Another [Paper 220]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/220; DOI: 10.5281/zenodo.22119838
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