【論文293】魔法数は、二つの機構から出ている

要旨

原子核の魔法数 $2,8,20,28,50,82,126$ は、一つの規則から出ているように見える。本稿が問うのは、機構は一つかである。答は、二つである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、調和振動子だけで数えてみる。縮退 $(N+1)(N+2)$ の累積は $2,8,20,40,70,112,168$ である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。最初の三つは完全に一致し、四つ目から全部ずれる。$40$ 対 $28$ で $\mathbf{+42.86\%}$ の誤りである(第2節)。

第三に、スピン軌道結合が四つとも直す。落ちてくる準位の縮退度が $\mathbf{8,10,12,14}$ とちょうど $2$ ずつ増え、四つとも合う(第3節)。

第四に、寄与の割合は減っていく。スピン軌道の寄与は $28.57\%\to20.00\%\to14.63\%\to\mathbf{11.11\%}$(第4節)。

第五に、カルシウム $48$ が両方を同時に見せる。$Z=20$ は調和振動子だけ、$N=28$ はスピン軌道が要る。一つの核の中に二つの機構が並んでいる(第5節)。

第六に、分離子は「殻を閉じるのが縮退か、押し下げか」である(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。三次元等方調和振動子の縮退、殻模型、メイヤー=イェンセンのスピン軌道結合、魔法数の値は、いずれも標準的である。原子核模型を作らない。使うのは一つの縮退公式と、四つの足し算だけである。スピン軌道結合を導出しない。なぜ $j=l+1/2$ が下がるのか、その強さがどこから来るのかは一切扱わない。落ちた結果の数だけを数える。核力を論じない。湯川ポテンシャルも、テンソル力も、三体力も扱わない。平均場を正当化しない。独立粒子描像が成り立つ理由は前提として置く。$(N+1)(N+2)$ が現実の井戸だと言わない。実際の核ポテンシャルは調和振動子ではなくウッズ=サクソン型であり、そのずれ自体が高い準位を分離する。本稿の調和振動子は、比較のための最も単純な数え上げである。魔法数の普遍性を主張しない。中性子過剰核では魔法数が消えたり新しく現れたりする($N=28$ の消失、$N=16$ の出現)。本稿は安定核の周辺に限る。$2$ ずつ増える規則性に意味を主張しない。第3節の $8,10,12,14$ は $2j+1$ で $j$ が $1$ ずつ上がるからであり、定義から従う。数え上げが合うことが確認である。既刊との関係:論文112 は「同じ韻を踏む六つの別根」を数えた。本稿の七つの魔法数も一語の下に二つの根を持つ。論文240 は「質量」が七つあることを数えた。本稿は一語の下の二機構を、どこで切り替わるかまで特定する。論文262 は「壊れる」が三つあり強度では決まらないと示した。本稿も分けているのが「大きさ」ではない場合である。論文265 は低温比熱を分けたのが状態密度だと示した。本稿も準位の数え上げが答を出す。加えたのは調和振動子だけの累積を七つ計算して相対誤差を出したこと、スピン軌道による四つの補正がすべて合うと確かめたこと、寄与の割合が $28.57\%$ から $11.11\%$ へ減ると測ったこと、カルシウム $48$ が一つの核の中に二機構を並べていると指摘したことである。

1. 記法と問い

事実:陽子数または中性子数が

$$2,\ 8,\ 20,\ 28,\ 50,\ 82,\ 126$$

のとき、原子核は特に安定である。これを魔法数と呼ぶ。

問い:この七つは、一つの規則から出ているか。

観察 1.1 原子の周期表では、閉殻は一つの規則(軌道の縮退)から出る。核でも同じだろうと期待するのが自然である。本稿はそれが半分しか正しくないことを数で示す。

2. 芯:最初の三つは合い、四つ目から全部ずれる

設定:最も単純な模型として、三次元等方調和振動子を取る。準位 $N$ の縮退は、スピンを含めて $(N+1)(N+2)$ である。

検算 2.1:

$N$ 縮退 $(N+1)(N+2)$ 累積
$0$ $2$ $\mathbf{2}$
$1$ $6$ $\mathbf{8}$
$2$ $12$ $\mathbf{20}$
$3$ $20$ $40$
$4$ $30$ $70$
$5$ $42$ $112$
$6$ $56$ $168$

検算 2.2:実際の魔法数と突き合わせる。

順 調和振動子 実際の魔法数 差 相対誤差
$1$ $2$ $2$ $\mathbf{0}$ $0.00\%$
$2$ $8$ $8$ $\mathbf{0}$ $0.00\%$
$3$ $20$ $20$ $\mathbf{0}$ $0.00\%$
$4$ $40$ $28$ $+12$ $\mathbf{+42.86\%}$
$5$ $70$ $50$ $+20$ $+40.00\%$
$6$ $112$ $82$ $+30$ $+36.59\%$
$7$ $168$ $126$ $+42$ $+33.33\%$

観察 2.3 これが本稿の芯である。最初の三つは差が $\mathbf{0}$、四つ目から全部ずれる。一致するのは $\mathbf{3/7}$ である。

観察 2.4 ずれ方が一定ではないことに注意する。差は $+12,+20,+30,+42$ と増え続けるが、相対誤差は $42.86\%$ から $33.33\%$ へ減っている。どちらの読み方でも「近づいている」とは言えない。

観察 2.5 ここで模型を捨てるのは早い。三つも合っているのは偶然ではない。機構の一つは正しく、もう一つが足りていないのである。

3. スピン軌道結合が、四つとも直す

設定:メイヤーとイェンセンは $1949$ 年、強いスピン軌道結合を導入した。$j=l+1/2$ の準位が大きく下がり、一つ下の殻に落ちる。

検算 3.1:

落ちる準位 $2j$ $2j+1$ 元の殻 合計 実際の魔法数
$1f_{7/2}$ $7$ $\mathbf{8}$ $20$ $\mathbf{28}$ $28$
$1g_{9/2}$ $9$ $\mathbf{10}$ $40$ $\mathbf{50}$ $50$
$1h_{11/2}$ $11$ $\mathbf{12}$ $70$ $\mathbf{82}$ $82$
$1i_{13/2}$ $13$ $\mathbf{14}$ $112$ $\mathbf{126}$ $126$

観察 3.2 四つとも合う。そして落ちてくる準位の縮退度が $\mathbf{8,10,12,14}$ と、ちょうど $2$ ずつ増える。一つの機構が、四回とも同じ形で効いている。

観察 3.3 正直に書くべき点、$2$ ずつ増えるのは定義から従う。$2j+1$ で $j$ が $1$ ずつ上がるからである。発見ではなく、数え上げが正しく閉じたことの確認である。

観察 3.4 それでも意味はある。「一つの準位を落とせば合う」という形が四回続けて成り立つ、もし場当たりの補正なら、落とす準位も落とす個数もばらばらになるはずである。

4. 寄与の割合は、減っていく

検算 4.1:各魔法数について、二つの機構の寄与を分ける。

魔法数 調和振動子から スピン軌道から スピン軌道の割合
$28$ $20$ $8$ $\mathbf{28.57\%}$
$50$ $40$ $10$ $20.00\%$
$82$ $70$ $12$ $14.63\%$
$126$ $112$ $14$ $\mathbf{11.11\%}$

観察 4.2 割合は $28.57\%$ から $11.11\%$ へ、$2.57$ 倍減る。重い核ほど調和振動子の側が支配的になる。ただし、決してゼロにはならない。

検算 4.3:最初の三つには落下が要らない。

魔法数 調和振動子から スピン軌道から
$2$ $2$ $\mathbf{0}$
$8$ $8$ $\mathbf{0}$
$20$ $20$ $\mathbf{0}$

観察 4.4 右端が $\mathbf{0}$ である。同じ「魔法数」という語の中に、寄与が $0\%$ のものと $28.57\%$ のものが並んでいる。論文112 の言い方をすれば、韻は同じで根が二つある。

観察 4.5 もしスピン軌道結合が無かったら、魔法数は $2,8,20,40,70,112,168$ になっていたはずである。四つ目以降が全部別の数になる。原子核の周期表は、いまとは違う形をしていた。

5. カルシウム $48$ が、両方を同時に見せる

設定:陽子数と中性子数がどちらも魔法数である核を「二重魔法核」と呼ぶ。

検算 5.1:

核 $Z$ $N$ $Z$ の機構 $N$ の機構
$^{4}$He $2$ $2$ 調和振動子 調和振動子
$^{16}$O $8$ $8$ 調和振動子 調和振動子
$^{40}$Ca $20$ $20$ 調和振動子 調和振動子
$\mathbf{^{48}}$Ca $\mathbf{20}$ $\mathbf{28}$ 調和振動子 スピン軌道
$^{56}$Ni $28$ $28$ スピン軌道 スピン軌道
$^{208}$Pb $82$ $126$ スピン軌道 スピン軌道

観察 5.2 $^{48}$Ca だけが混合型である。$Z=20$ は調和振動子だけで閉じ、$N=28$ は $1f_{7/2}$ が落ちてはじめて閉じる。一つの核の中に、二つの機構が並んでいる。

観察 5.3 したがって二重魔法核は三種類に分かれる。両方が調和振動子($^{4}$He、$^{16}$O、$^{40}$Ca)、混合($^{48}$Ca)、両方がスピン軌道($^{56}$Ni、$^{208}$Pb)。「二重魔法核」という一語も、三つを覆っている。

観察 5.4 $^{40}$Ca と $^{48}$Ca は同じ元素である。陽子を一つも変えずに、中性子を $8$ 個足しただけで、閉殻の機構が変わる。同じ実験室で、二つの機構を並べて見られる。

6. 分離子:殻を閉じるのは縮退か、押し下げか

観察 6.1 分離子、何を動かすと、魔法数が別の数になるか。スピン軌道結合の強さである。

殻を閉じるもの 得られる数
調和振動子のみ 準位の縮退 $2,8,20,40,70,112,168$
$+$ スピン軌道 一準位の押し下げ $2,8,20,\mathbf{28,50,82,126}$

観察 6.2 一行目は対称性の帰結である。等方調和振動子の縮退は、$SU(3)$ 対称性から出る。二行目は相互作用の帰結である。対称性を破って、準位を一つ落とす。

観察 6.3 したがって二つの機構は別の圏である。片方は数えれば出る(縮退)、もう片方は解かねば出ない(結合の強さ)、論文265 が低温比熱を状態密度で分けたのと同じ構図が、ここでは殻の閉じ方に現れている。

観察 6.4 論文262 は「壊れる」が三つあり強度では決まらないと示した。ここでも「安定である」を分けているのは、核の大きさではない。どちらの機構で殻が閉じたかである。

観察 6.5 正直に書くべき点、中性子過剰核では魔法数が消えたり現れたりする。$N=28$ の消失や $N=16$ の出現が報告されている。本稿の点呼は安定核の周辺に限る。

7. 点呼と結び

  1. 調和振動子の累積 $2,8,20,40,70,112,168$(検算2.1):$(N+1)(N+2)$ から。
  2. 最初の三つは差 $0$(検算2.2):一致は $3/7$。
  3. 四つ目で $+42.86\%$(検算2.2):$40$ 対 $28$。
  4. 相対誤差は $33.33\%$ まで減る(観察2.4):ただし近づかない。
  5. スピン軌道が四つとも直す(検算3.1):$8,10,12,14$。
  6. 縮退度が $2$ ずつ増える(観察3.2):定義から従う。
  7. 寄与は $28.57\%\to11.11\%$(検算4.1):$2.57$ 倍減る。
  8. 最初の三つは寄与 $0$(検算4.3):韻は同じ、根は二つ。
  9. $^{48}$Ca は混合型(検算5.1):$Z$ と $N$ で機構が違う。
  10. 二重魔法核は三種類(観察5.3):一語が三つを覆う。

結び:魔法数 $2,8,20,28,50,82,126$ は、一つの規則から出ていない。三次元等方調和振動子だけで数えると $2,8,20,40,70,112,168$ となり、最初の三つは差が $\mathbf{0}$、四つ目から全部ずれる。$40$ 対 $28$ で $\mathbf{+42.86\%}$ である。スピン軌道結合が四つとも直す。$1f_{7/2}$、$1g_{9/2}$、$1h_{11/2}$、$1i_{13/2}$ が落ち、その縮退度が $\mathbf{8,10,12,14}$ とちょうど $2$ ずつ増える。寄与の割合は $28.57\%$ から $\mathbf{11.11\%}$ へ減るが、ゼロにはならない。そして $^{48}$Ca が、一つの核の中に両方を並べて見せる。$Z=20$ は調和振動子だけで閉じ、$N=28$ はスピン軌道が要る。$^{40}$Ca に中性子を $8$ 個足しただけで、閉殻の機構が変わる。分けるものは一つ、殻を閉じているのが準位の縮退か、一準位の押し下げか。前者は対称性の帰結で、数えれば出る。後者は相互作用の帰結で、解かねば出ない。同じ「魔法数」という語が、この二つを覆っている。

参考文献

  1. Mayer, M. G. (1949). On Closed Shells in Nuclei II. Physical Review, 75(12).
  2. Haxel, O., Jensen, J. H. D. and Suess, H. E. (1949). On the “Magic Numbers” in Nuclear Structure. Physical Review, 75(11).
  3. Mayer, M. G. and Jensen, J. H. D. (1955). Elementary Theory of Nuclear Shell Structure. New York: Wiley.
  4. Bohr, A. and Mottelson, B. R. (1969). Nuclear Structure, Volume I. New York: Benjamin.
  5. Krane, K. S. (1987). Introductory Nuclear Physics. New York: Wiley.
  6. Sorlin, O. and Porquet, M.-G. (2008). Nuclear Magic Numbers: New Features Far from Stability. Progress in Particle and Nuclear Physics, 61(2).
  7. 山岸勇輝 (2026). 割り当てられた領域と、その中の自由、同じ韻を踏む六つの別根のセンサス [論文112]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21962834
  8. 山岸勇輝 (2026). 「質量」は七つあり、そのうち一つは負になり、一つは押す向きで変わる [論文240]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22129765
  9. 山岸勇輝 (2026). 「壊れる」は三つあり、強度では決まらない [論文262]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169671
  10. 山岸勇輝 (2026). 低温比熱で二つの模型を分けたのは、量子化ではなく状態密度である [論文265]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169749

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「魔法数は、二つの機構から出ている」[論文293]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22171568

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 魔法数は、二つの機構から出ている [論文293]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/293 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171568

Yamagishi, Y. (2026). The Magic Numbers Come from Two Mechanisms [Paper 293]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/293; DOI: 10.5281/zenodo.22171568

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