【論文322】同じ一つのセンサ誤差が、位置には三つの別々の冪で届く

要旨

論文312 は「平均する時間を延ばしても、ある所から良くならなくなる」と示した。本稿が問うのは、では悪くなるほうはどう育つのかである。答は、同じ一つの誤差が三つの冪に分かれて届くである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、加速度計のかたよりは二回積分されて $t^2$ になる。$10 \mu g$ で一時間 $\mathbf{635.471}$ m(第2節)。

第二に、白色雑音は $t^{1.5}$ である。一時間 $103.923$ m(第3節)。

第三に、速度のかたよりは $t^1$ にしかならない(第3節)。

第四に、これが本稿の芯である。一分から一時間で $\mathbf{60}$ 倍・$\mathbf{464.76}$ 倍・$\mathbf{3600}$ 倍にひらく(第4節)。

第五に、$\mathbf{96.2797}$ 秒でかたよりが雑音を追い越す(第4節)。

第六に、シューラー周期 $\mathbf{84.4058}$ 分の誤差だけは育たない(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。慣性航法の誤差伝播、アラン分散による雑音の分類、シューラー同調はいずれも標準的である。航法装置を設計しない。使うのは三つの冪と、一つの周期だけである。カルマンフィルタを扱わない。外部観測との融合には立ち入らない。本稿は補正の無い推定航法だけを見る。機器の性能を評価しない。$10 \mu g$・$1$ mg・$10$ mg は等級を代表させる値であって、特定の製品ではない。姿勢誤差を分けない。ジャイロのかたよりが位置に届く経路($t^3$)は言及にとどめる。地球の形を扱わない。重力異常・偏平率・コリオリ補正には立ち入らない。既刊との関係:論文312 は平均が効かなくなる場所を示した。本稿はその裏面であり、312 が「良くならない下限」なら本稿は「悪くなる上限」である。同じアラン分散の二つの端を見ている。論文289 は誤差倍加時間が予報の限界を決めると示した。289 の誤差は指数で育ち、本稿の誤差は冪で育つ。カオスの有無がその差である。論文320 は分岐比が地図の形に依らないと示した。冪指数も装置の等級に依らないという、同じ型である。論文276 はデシベルが比であって量ではないと示した。冪指数も無次元であり、桁を横断して同じである。論文321 は一つの長さが二つの問いに答えると示した。本稿は一つの誤差が三つの答を持つという、拡張である。加えたのは三等級の加速度計で位置誤差を時間ごとに計算したこと、三つの冪を同じ表に並べたこと、かたよりが雑音を追い越す時刻を求めたこと、シューラー周期を「育たない誤差」として並べたことである。

1. 記法と問い

設定:推定航法とは、外を見ずに、測った加速度を二回積分して位置を出すことである。

$$x(t)=x_0+v_0t+\iint a_{\text{measured}}\,dt\,dt$$

観察 1.1 積分は誤差を消さない。平均は誤差を $1/\sqrt{N}$ に減らすが、積分は足し上げる。同じ操作が向きを変える。

問い:では、誤差はどう育つのか。

観察 1.2 答は一つではない。誤差の種類ごとに、時間の冪が違う。

2. かたよりは $t^2$ で育つ

設定:加速度計が一定のかたより $b$ を持つと、位置誤差は $\frac{1}{2}bt^2$ になる。

検算 2.1:三つの等級で計算する(本稿で計算)。

等級 $b$ [m/s$^2$] $1$ 分 $1$ 時間 $1$ 日
$10 \mu g$ $9.8067\times10^{-5}$ $0.177$ m $\mathbf{635.471}$ m $366.03$ km
$1$ mg $9.8067\times10^{-3}$ $17.652$ m $63.547$ km $36603$ km
$10$ mg $9.8067\times10^{-2}$ $176.520$ m $635.471$ km $366031$ km

観察 2.2 一日で地球一周を超える。$1$ mg の等級で $36603$ km は赤道の $0.91$ 倍、補正が無ければ、一日で位置は意味を失う。

観察 2.3 等級の差はそのまま比例で移る。$10 \mu g$ と $10$ mg は $1000$ 倍違い、誤差もどの時刻でも $1000$ 倍である。時間は等級を変えない。

検算 2.4:$1$ km ずれるまでに、どれだけ走れるか。

等級 $1$ km に達する時刻
$10 \mu g$ $4516.01$ 秒 $=\mathbf{1.2544}$ 時間
$1$ mg $451.60$ 秒 $=0.1254$ 時間
$10$ mg $142.81$ 秒 $=0.0397$ 時間

観察 2.5 千倍良い装置が、稼げるのは三十二倍の時間でしかない。$1.2544/0.0397=31.6$、$t^2$ の逆は $\sqrt{ }$ だからである。装置に金をかけても、時間はその平方根しか買えない。

3. 雑音は $t^{1.5}$、速度のかたよりは $t^1$

設定:加速度に白色雑音が乗ると、速度はランダムウォークになり、位置は $q t^{1.5}/\sqrt{3}$ で育つ。$q=0.05$ m/s/$\sqrt{\text{h}}$ とする。

検算 3.1:

時間 速度誤差 位置誤差
$1$ 分 $0.0065$ m/s $0.224$ m
$1$ 時間 $0.0500$ m/s $\mathbf{103.923}$ m
$1$ 日 $0.2449$ m/s $12218.805$ m

検算 3.2:初期速度が $0.1$ m/s ずれていた場合。

時間 位置誤差
$1$ 分 $6.00$ m
$1$ 時間 $360.00$ m
$1$ 日 $8640.00$ m

観察 3.3 一分の時点では、速度のずれが一番大きい。$6.00$ m 対 $0.224$ m 対 $0.177$ m、最初に目立つ誤差と、最後に効く誤差が違う。

観察 3.4 一日の時点では順序が逆になる。$366031$ m 対 $12219$ m 対 $8640$ m、順位が入れ替わっている。

4. 芯:三つの冪が、同じ時間の中でひらく

検算 4.1:一分から一時間($60$ 倍)で、誤差は何倍になるか。

誤差の種類 育ち方 $60$ 倍の時間で
速度のかたより $t^1$ $\mathbf{60.00}$ 倍
白色雑音 $t^{1.5}$ $\mathbf{464.76}$ 倍
加速度計のかたより $t^2$ $\mathbf{3600.00}$ 倍

観察 4.2 これが本稿の芯である。同じセンサの同じ不完全さが、位置には三つの別々の冪で届いている。$60$ 倍と $3600$ 倍の差は $60$ 倍、どの冪で届くかが、装置の良し悪しより効いている。

検算 4.3:かたよりの項と雑音の項が等しくなる時刻。

等級 交差する時刻
$10 \mu g$ $\mathbf{96.2797}$ 秒($1.6047$ 分)
$1$ mg $0.0096$ 秒
$10$ mg $0.0001$ 秒

観察 4.4 最良の等級ですら $\mathbf{96}$ 秒で追い越される。それ以下の等級では最初から $t^2$ が支配している。雑音が問題になる時間帯が、そもそも存在しない。

観察 4.5 ここが論文312 の裏面である。312 は「平均する時間を延ばしても、ある所から良くならなくなる」と書いた。その「ある所」が、ここでは $96.2797$ 秒である。

何を見ているか 冪
論文312 平均が効く区間 $\tau^{-1/2}$(下がる)
論文312 効かなくなった後 $\tau^{+1/2}$(上がる)
本稿 積分した後の位置 $t^{1.5}$ と $t^2$

観察 4.6 積分が冪を $1$ ずつ持ち上げている。$\tau^{-1/2}\to t^{1.5}$、定数 $\to t^2$、アラン分散の谷底が、位置では谷底でなくなる。

5. 分離子:誤差が育つか、揺れるか

設定:ここまでの誤差は全部育った。育たないものが一つある。

観察 5.1 シューラー同調である。高度の誤差が重力の見積りを変え、それがまた高度を変える。この輪が閉じると、誤差は育たずに振動する。

検算 5.2:

$$T_S=2\pi\sqrt{R/g}=2\pi\sqrt{6371000/9.80665}=\mathbf{5064.35}\ \text{秒}=\mathbf{84.4058}\ \text{分}$$

観察 5.3 $84.4058$ 分は、地表すれすれの円軌道の周期でもある。同じ $\sqrt{R/g}$ である。論文300 の基準に当てると同根であり、翻訳が構成できる。

観察 5.4 分離子、誤差が自分に戻ってくる輪があるかどうか。

輪は 誤差は 時間依存
無い 育つ $t^1, t^{1.5}, t^2$
在る 振動する $\mathbf{t^0}$(有界)

観察 5.5 冪が $0$ になるのは、装置が良くなったからではない。系が閉じたからである。同じ装置のまま、誤差の育ち方だけが変わる。

観察 5.6 正直に書くべき点、シューラー同調は水平方向にしか効かない。鉛直方向の誤差は逆に指数で発散する。同じ装置の中で、方向によって冪が違う。

観察 5.7 最後に一つ、冪指数は装置の等級に依らない。$10 \mu g$ でも $10$ mg でも$t^2$ である。論文320 が「分岐比は地図の形に依らない」と書いたのと同じ形をしている。金で買えるのは係数であって、冪ではない。

6. 点呼と結び

  1. $10 \mu g$ で一時間 $635.471$ m(検算2.1):$t^2$ で育つ。
  2. 一日で $36603$ km(観察2.2):赤道の $0.91$ 倍。
  3. 千倍の装置が三十二倍の時間(観察2.5):$t^2$ の逆は $\sqrt{ }$。
  4. 雑音は一時間 $103.923$ m(検算3.1):$t^{1.5}$。
  5. 一分と一日で順位が逆(観察3.4):冪が違うから。
  6. $60$ 倍・$464.76$ 倍・$3600$ 倍(検算4.1):同じ $60$ 倍の時間で。
  7. $96.2797$ 秒で交差(検算4.3):最良の等級ですら。
  8. 積分が冪を $1$ 持ち上げる(観察4.6):312 の谷底が消える。
  9. シューラー周期 $84.4058$ 分(検算5.2):$t^0$、育たない。
  10. 冪は等級に依らない(観察5.7):買えるのは係数だけ。

結び:論文312 は「平均する時間を延ばしても、ある所から良くならなくなる」と示した。本稿はその裏面を測る。推定航法では、同じ一つのセンサ誤差が、位置には三つの別々の冪で届く。加速度計のかたよりは二回積分されて $t^2$ になり、$10 \mu g$ の等級でも一時間で $\mathbf{635.471}$ m、$1$ mg なら一日で $36603$ km、赤道の $0.91$ 倍である。そして千倍良い装置が稼げるのは三十二倍の時間でしかない。$t^2$ の逆は平方根だからである。白色雑音は $t^{1.5}$ で一時間 $103.923$ m、初期速度のずれは $t^1$ で $360$ m、一分の時点では速度のずれが最大で、一日の時点では順位が完全に逆転している。同じ $60$ 倍の時間で、三つは $\mathbf{60}$ 倍・$\mathbf{464.76}$ 倍・$\mathbf{3600}$ 倍にひらく。どの冪で届くかが、装置の良し悪しより効いている。かたよりが雑音を追い越すのは最良の等級ですら $\mathbf{96.2797}$ 秒で、それ以下では雑音が問題になる時間帯がそもそも存在しない。積分が冪を $1$ ずつ持ち上げ、アラン分散の谷底が位置では谷底でなくなる。そして育たない誤差が一つある。シューラー同調では誤差が自分に戻る輪ができ、周期 $2\pi\sqrt{R/g}=\mathbf{84.4058}$ 分で振動して有界にとどまる。冪が $0$ になるのは装置が良くなったからではなく、系が閉じたからである。分けるものは一つ、誤差が自分に戻ってくる輪があるかどうか。そしてそれは水平方向にしか効かず、鉛直方向は逆に発散する。最後に一つ、冪指数は装置の等級に依らない。$10 \mu g$ でも $10$ mg でも $t^2$ であり、金で買えるのは係数であって、冪ではない。

参考文献

  1. Titterton, D. H. and Weston, J. L. (2004). Strapdown Inertial Navigation Technology, 2nd edition. Stevenage: Institution of Engineering and Technology.
  2. IEEE Std 952-1997 (R2008). IEEE Standard Specification Format Guide and Test Procedure for Single-Axis Interferometric Fiber Optic Gyros.
  3. Schuler, M. (1923). Die Störung von Pendel- und Kreiselapparaten durch die Beschleunigung des Fahrzeuges. Physikalische Zeitschrift, 24.
  4. Groves, P. D. (2013). Principles of GNSS, Inertial, and Multisensor Integrated Navigation Systems, 2nd edition. Boston: Artech House.
  5. 山岸勇輝 (2026). デシベルは比であって、量ではない [論文276]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22170073
  6. 山岸勇輝 (2026). 一つの数が、予報の限界を決めている [論文289]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171367
  7. 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  8. 山岸勇輝 (2026). 平均する時間を延ばしても、ある所から良くならなくなる [論文312]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22174709
  9. 山岸勇輝 (2026). カオスへの道は、写像が持っていない数を持っている [論文320]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209089
  10. 山岸勇輝 (2026). 大気の厚さを決める長さが、大気が残るかどうかも決めている [論文321]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209154

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「同じ一つのセンサ誤差が、位置には三つの別々の冪で届く」[論文322]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22209240

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山岸勇輝 (2026). 同じ一つのセンサ誤差が、位置には三つの別々の冪で届く [論文322]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/322 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22209240

Yamagishi, Y. (2026). One and the Same Sensor Error Reaches Position by Three Different Powers [Paper 322]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/322; DOI: 10.5281/zenodo.22209240

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