【論文323】三原色の「三」は、光の性質ではない

要旨

色を再現する装置は、どれも原色を三つ使う。本稿が問うのは、その「三」はどこから来たのかである。答は、光からではなく、受容器の個数からである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、入力の次元は選べる。$1$ nm 刻みなら $\mathbf{301}$、$0.1$ nm 刻みなら $3001$(第2節)。

第二に、出力の $3$ は選べない。錐体が三種だからである(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。$\mathbf{298}$ 次元が核に落ちる。見えない光の集合が $298$ 次元ある(第3節)。

第四に、画面はその核を使っている。どの分光分布も再現していない(第4節)。

第五に、$L$ と $M$ の頂点は $\mathbf{30.0}$ nm しか離れていない(第4節)。

第六に、分離子は「軌跡が曲がっているか」であり、それは線型性の外にある(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。三色説、メタメリズム、CIE 表色系、色域が三角形になることはいずれも標準的である。視覚科学を作らない。使うのは一つの線型写像と、その核の次元だけである。知覚を扱わない。色の見えの現象(対比・恒常性・順応)には立ち入らない。本稿は受容の段だけを見る。感度曲線に精度を主張しない。$420$ / $534$ / $564$ nm は文献の代表値であり、定義の異なる値も使われている。色覚異常を分類しない。二色型・異常三色型の細目には立ち入らない。機器の性能を評価しない。色域の面積は規格の原色から計算した幾何量であって、画質ではない。既刊との関係:論文316 は同じ整数が三つの数え方から返ると示した。本稿の $3$ は数え方ではなく写像の階数であり、返ってくる先が一つしかない。論文315 はどの次元が特別かは問い方で変わると示した。本稿の $3$ は問い方で変わらないという、反対側の例である。論文306 は基本単位の個数が約束だと示した。原色の個数は約束ではない。ここが本稿と 306 を分ける。論文276 はデシベルが比であって量ではないと示した。色度も比であり、明るさを割った後に残るものである。論文321 は一つの長さが二つの問いに答えると示した。本稿は一つの階数が、見える範囲と作れる範囲の両方を決めるという同じ型である。加えたのは入力と出力の次元を数で並べたこと、核の次元を $298$ と明示したこと、$L$ と $M$ の間隔を $30.0$ nm と示したこと、色域が三角形にとどまる理由を凸性に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:目に入る光は、波長ごとの強さ $S(\lambda)$ という関数である。目が出すのは三つの数である。

$$(L,M,S)=\left(\int S(\lambda)\bar{l}(\lambda)d\lambda,\ \int S(\lambda)\bar{m}(\lambda)d\lambda,\ \int S(\lambda)\bar{s}(\lambda)d\lambda\right)$$

観察 1.1 これは線型写像である。関数の空間から $\mathbf{R}^3$ への写像であり、三本の内積しか取っていない。残りは全部捨てられる。

問い:三原色の「三」は、どこから来たのか。

2. 入力の次元は選べ、出力の $3$ は選べない

検算 2.1:可視域 $400$–$700$ nm を刻んで数える。

刻み 入力の次元 出力 比
$1$ nm $\mathbf{301}$ $3$ $100.3$
$0.1$ nm $3001$ $3$ $1000.3$
$0.01$ nm $30001$ $3$ $10000.3$

観察 2.2 左の列は測り方であり、右の列は身体である。刻みを細かくすれば入力の次元はいくらでも増える。それでも出てくる数は三つのままである。

観察 2.3 本当の入力は無限次元である。$301$ という数は我々が刻んだから出た数であって、光の性質ではない。数えられる側と数えられない側が、この表の左右にある。

検算 2.4:受容器の種類と、要る原色の個数。

種類の数 例 要る原色
$1$ 桿体だけ(夜の見え) $1$
$2$ イヌ・ネコ・多くの哺乳類 $2$
$\mathbf{3}$ ヒト・旧世界ザル $\mathbf{3}$
$4$ 多くの鳥・一部の魚 $4$
$12$ シャコ $12$

観察 2.5 どの行でも、二つの数が一致している。原色の個数は選ばれたのではなく、受容器の個数に等しい。鳥のテレビは四原色でなければならない。

観察 2.6 ここが論文306 と分かれる場所である。306 は「基本単位の個数は約束である」と書いた。原色の個数は約束ではない。測り方を変えても $3$ のままである。

3. 芯:$298$ 次元が核に落ちる

設定:$\mathbf{R}^{301}\to\mathbf{R}^3$ の線型写像を考える。

検算 3.1:階数・退化次数の定理から

$$\dim(\text{核})=301-3=\mathbf{298}$$

観察 3.2 これが本稿の芯である。核の中の零でないベクトルは、すべて「目に見えない光の差」である。足しても引いても色が一切変わらない分光分布の差が、$\mathbf{298}$ 次元ぶんある。

観察 3.3 ある色と同じに見える光の集合は、点ではなく $298$ 次元の平面である。これがメタメリズムである。「同じ色」は「同じ光」ではまったくない。

観察 3.4 刻みを細かくすると、核はもっと大きくなる。$0.1$ nm 刻みなら $2998$ 次元、見える次元は増えず、見えない次元だけが増える。

観察 3.5 これは欠陥ではなく、資源である。次節でそれを使う。

4. 画面は、その核の上に立っている

設定:$\mathrm{RGB}$ の画面は、狭い帯を三本出しているだけである。

観察 4.1 画面は、どの分光分布も再現していない。木の葉の分光分布と、その写真の分光分布は$\mathbf{R}^{301}$ の中でまったく違う。$\mathbf{R}^3$ の中で同じ点に落ちているだけである。

観察 4.2 核が無ければ、画面は存在できない。もし写像が単射なら、同じに見せるには同じ光を作るしかない。$298$ 次元の逃げ場があるから、三本の帯で足りる。

検算 4.3:錐体感度の頂点(文献の代表値、単位 nm)。

種類 頂点 隣との差
S $420.0$ 、
M $534.0$ $114.0$
L $564.0$ $\mathbf{30.0}$

観察 4.4 $L$ と $M$ は $\mathbf{30.0}$ nm しか離れていない。$564$ nm の$5.3191\%$であり、$S$ と $M$ の間隔の $1/3.8$ しかない。三つは等間隔ではまったくない。

観察 4.5 赤と緑を分ける仕事を、$30$ nm しか離れていない二つがやっている。差が小さいほど差分は雑音に弱い。赤緑の色覚異常が最も多いのは、ここに由来する。

観察 4.6 $3$ は「便利な設計」ではない。もし設計なら等間隔に置くはずである。$114$ と $30$ という不揃いが、そうでないことを示している。

5. 分離子:軌跡が曲がっているか

設定:原色を三つ選ぶと、作れる色は色度図の中の三角形になる。

検算 5.1:規格の原色から三角形の面積を計算する(CIE 1931 $xy$ 上、本稿で計算)。

規格 三角形の面積
sRGB $\mathbf{0.112050}$
Rec.2020 $0.211867$
比 $1.8908$ 倍

観察 5.2 規格を良くしても、三角形のままである。$1.8908$ 倍に広がっても辺は三本のまま、増えるのは面積であって、頂点の数ではない。

観察 5.3 分離子、単色光の軌跡が曲がっているかどうか。

軌跡が 凸包は 三原色で
直線 三角形になりうる 全部作れる
曲線(実際) 三角形にならない 作れない色が残る

観察 5.4 これは技術の話ではなく、形の話である。軌跡上の三点が張る三角形は必ず凸包の内側にある。どんな実在の原色を三つ選んでも、全部は覆えない。

観察 5.5 核は線型性から来て、色域の限界は凸性から来る。同じ写像の、違う性質である。論文300 の基準に当てると別根であり、片方から他方は出ない。

観察 5.6 正直に書くべき点、本稿は受容の段しか見ていない。実際の色の見えは周囲・順応・記憶に強く依存する。$\mathbf{R}^3$ に落ちた後に、まだ長い処理がある。

観察 5.7 最後に一つ、我々は光の $3/301$ しか見ていない、のではない。$298$ 次元ぶん見ていない、というほうが正しい。そして見ていないおかげで、画面が成り立っている。捨てているものが多いことが、再現を可能にしている。

6. 点呼と結び

  1. $1$ nm 刻みで $301$ 次元(検算2.1):出力は $3$。
  2. 入力の次元は測り方(観察2.3):光の性質ではない。
  3. 原色の個数=受容器の個数(検算2.4):鳥は四原色。
  4. 306 と分かれる(観察2.6):原色は約束ではない。
  5. 核は $298$ 次元(検算3.1):見えない差の集合。
  6. 刻むほど核が増える(観察3.4):見える次元は増えない。
  7. 画面は何も再現していない(観察4.1):同じ点に落ちるだけ。
  8. $L$ と $M$ は $30.0$ nm(検算4.3):$S$–$M$ の $1/3.8$。
  9. sRGB の面積 $0.112050$(検算5.1):Rec.2020 で $1.8908$ 倍。
  10. 曲がっているから覆えない(観察5.4):技術ではなく形。

結び:色を再現する装置はどれも原色を三つ使う。その「三」は光の性質ではない。目に入るのは波長ごとの強さという関数で、$1$ nm 刻みなら $\mathbf{301}$ 次元、$0.1$ nm 刻みなら $3001$ 次元になるが、出てくる数はどこまでも三つのままである。入力の次元は測り方であり、出力の $3$ は身体である。受容器が一種なら原色は一つ、二種なら二つ、鳥は四種だから四原色でなければならない。原色の個数は選ばれたのではなく、受容器の個数に等しい。階数・退化次数の定理から核は $\mathbf{298}$ 次元、足しても引いても色が変わらない分光分布の差が $298$ 次元ぶんあり、ある色と同じに見える光の集合は点ではなく $298$ 次元の平面である。刻みを細かくすると、見える次元は増えず、見えない次元だけが増える。そして画面は、その核の上に立っている。木の葉と写真は $\mathbf{R}^{301}$ の中でまったく違い、$\mathbf{R}^3$ の中で同じ点に落ちているだけである。写像が単射なら、同じに見せるには同じ光を作るしかなかった。錐体の頂点は $420.0$ / $534.0$ / $564.0$ nm で、$L$ と $M$ は $\mathbf{30.0}$ nm しか離れていない。$S$–$M$ の間隔の $1/3.8$ であり、赤と緑を分ける仕事をこの $30$ nm がやっている。$3$ が設計なら等間隔に置いたはずで、$114$ と $30$ の不揃いがそうでないことを示している。そして三原色では全部は作れない。sRGB の三角形は $\mathbf{0.112050}$、Rec.2020 で $1.8908$ 倍になるが辺は三本のままである。分けるものは一つ、単色光の軌跡が曲がっているかどうか。軌跡上の三点が張る三角形は必ず凸包の内側にあり、これは技術の話ではなく形の話である。核は線型性から来て、色域の限界は凸性から来る。同じ写像の違う性質であり、片方から他方は出ない。最後に一つ、我々は $298$ 次元ぶん見ていない。そして見ていないおかげで画面が成り立っている。捨てているものが多いことが、再現を可能にしている。

参考文献

  1. Stockman, A. and Sharpe, L. T. (2000). The Spectral Sensitivities of the Middle- and Long-Wavelength-Sensitive Cones. Vision Research, 40(13).
  2. Wyszecki, G. and Stiles, W. S. (1982). Color Science: Concepts and Methods, Quantitative Data and Formulae, 2nd edition. New York: Wiley.
  3. Maxwell, J. C. (1860). On the Theory of Compound Colours. Philosophical Transactions of the Royal Society of London, 150.
  4. ITU-R Recommendation BT.2020 (2015). Parameter Values for Ultra-High Definition Television Systems.
  5. Cronin, T. W. and Marshall, N. J. (1989). A Retina with at Least Ten Spectral Types of Photoreceptors in a Mantis Shrimp. Nature, 339(6220).
  6. 山岸勇輝 (2026). デシベルは比であって、量ではない [論文276]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22170073
  7. 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  8. 山岸勇輝 (2026). 「基本」単位の個数は、約束である [論文306]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172149
  9. 山岸勇輝 (2026). どの次元が特別かは、問い方で変わる [論文315]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208139
  10. 山岸勇輝 (2026). 同じ整数を、三つの別の数え方が返す [論文316]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208229
  11. 山岸勇輝 (2026). 大気の厚さを決める長さが、大気が残るかどうかも決めている [論文321]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209154

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「三原色の「三」は、光の性質ではない」[論文323]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22209319

YOI 323第1版・2026年8月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 三原色の「三」は、光の性質ではない [論文323]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/323 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22209319

Yamagishi, Y. (2026). The “Three” in Three Primaries Is Not a Property of Light [Paper 323]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/323; DOI: 10.5281/zenodo.22209319

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