【論文324】万能の探索が無いことは、問題をどう数えるかの帰結である

要旨

ノーフリーランチ定理は「すべての問題で平均すれば、どの探索も同じ」と言う。本稿が問うのは、その平均は何の上で取られているのかである。答は、ほとんど構造を含まない集合の上である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、構造を使う探索は、構造があれば速い。$N=16384$ で$\mathbf{186.18}$ 倍(第2節)。

第二に、その速さは対数で、乱択は線型である。$17\to44$ 対 $32\to8192$(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。同じ探索が、構造の無い関数では乱択に負ける。$\mathbf{0.9645}$ 倍(第3節)。

第四に、平均される集合の中で、構造は $\mathbf{10^{-113.79}}$ しかない(第4節)。

第五に、定理は正しく、そして測度の話である(第4節)。

第六に、分離子は「何を最大にするか」ではなく「何の上で平均するか」である(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ノーフリーランチ定理、三分探索の計算量、コルモゴロフ複雑性の計数論法はいずれも標準的である。定理を証明しない。本稿は定理の内容を数で見せるだけであり、証明にも一般化にも立ち入らない。定理を反駁しない。定理は正しい。本稿が言うのは、その主語が何かということだけである。帳尻を測ったとは言わない。測ったのは二つの算法の一つの対であり、全算法・全関数にわたる厳密な収支は定理のものであって、本稿の測定ではない。探索算法を設計しない。遺伝的算法・焼きなまし・ベイズ最適化には立ち入らない。実問題の分布を主張しない。現実の問題がどの測度に従うかは、本稿では決めない。既刊との関係:論文311 は「正しい上界と、予測に使える上界は別である」と示した。311 は何を最大にするかの話で、本稿は何の上で平均するかの話である。目的関数と測度という、別の場所に立っている。論文186 は代理を強く最適化するほど目標が悪くなる場合を示した。186 は目標と代理の乖離、本稿は問題集合の測り方であり、どちらも「最適化が効く前提」を問うている。論文315 はどの次元が特別かは問い方で変わると示した。本稿はどの算法が優れているかは問題の測り方で変わるという、同じ型である。論文320 は分岐比が地図の形に依らないと示した。本稿の $186.18$ 倍は形に強く依るという、反対側の例である。論文323 は三原色の三が受容器の個数から来ると示した。どちらも「その数はどこから来たか」を問う。加えたのは三分探索と乱択を五つの規模で走らせたこと、構造がある側と無い側で符号が逆転することを測ったこと、一山の関数の割合を $10^{-113.79}$ と数えたこと、分離子を測度に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:$N$ 個の点それぞれに値がついた関数を探索する。評価回数を予算とし、最大値を見つけたい。

観察 1.1 ノーフリーランチ定理は、すべての関数について一様に平均すれば、どの探索も同じ成績になると述べる。これは正しい。

問い:では、その「すべての関数」とは何か。

観察 1.2 定理は算法について何かを言っているように読めるが、実は問題の集合について言っている。主語がどちらかで、意味が変わる。

2. 構造を使えば、構造がある所では速い

設定:一山の関数(単峰)に、三分探索をかける。二点を測れば頂上のある側が分かるので、区間が縮む。

検算 2.1:厳密な最大値に到達するまでの評価回数(本稿で計算、各 $4000$ 試行)。

$N$ 三分探索 乱択($N/2$) 比
$64$ $17.000$ $32.0$ $1.88$ 倍
$256$ $24.000$ $128.0$ $5.33$ 倍
$1024$ $30.000$ $512.0$ $17.07$ 倍
$4096$ $37.000$ $2048.0$ $55.35$ 倍
$16384$ $\mathbf{44.000}$ $8192.0$ $\mathbf{186.18}$ 倍

観察 2.2 三分探索は $100.00\%$ の試行で厳密な最適に届いた。どの規模でも外さない。単峰であることが分かっていれば、これは保証である。

観察 2.3 増え方が違う。三分探索は $17\to44$(対数)、乱択は $32\to8192$(線型)、規模を $256$ 倍にして、比は $1.88$ 倍から $186.18$ 倍にひらいた。

観察 2.4 比は上限なく育つ。論文303 が「指数が相手なら何倍かでなくどの $n$ で交差するかを書け」と言った場所と同じ形である。ここでは交差はなく、ひらき続ける。

3. 芯:同じ探索が、構造の無い所では負ける

設定:今度は値を一様乱数で与える。同じ三分探索を、同じ予算でかける。

検算 3.1:到達した最大値の平均(各 $20000$ 試行)。

$N$ 予算 三分探索 乱択 比
$64$ $23$ $58.6623$ $60.8210$ $\mathbf{0.9645}$
$256$ $30$ $242.2745$ $247.2238$ $0.9800$
$1024$ $37$ $984.5823$ $996.7134$ $0.9878$

観察 3.2 これが本稿の芯である。符号が反転している。構造がある側では$186.18$ 倍勝ち、無い側では$0.9645$ 倍に負ける。同じ算法である。

観察 3.3 負ける理由が分かる。三分探索は区間を狭めることに評価を使うが、値が乱数ならその区間に意味が無い。狭めた分だけ、見ていない領域が増える。

観察 3.4 これがノーフリーランチの帳尻が見えた姿である。構造での利得はどこかで払われている。定理はその収支が厳密にゼロだと言う。

観察 3.5 正直に書くべき点、本稿は帳尻を測ったのではない。測ったのは二つの算法の一つの対であって、全算法・全関数の厳密な収支は定理のものである。本稿が示したのは向きであって、量ではない。

4. 平均される側の集合は、ほとんど構造を含まない

検算 4.1:$N$ 点の関数のうち、単峰なものの割合。

$N$ 全関数 単峰なもの 割合
$64$ $10^{115.60}$ $64$ $\mathbf{10^{-113.79}}$
$256$ $10^{616.51}$ $256$ $10^{-614.10}$

観察 4.2 $10^{-113.79}$ である。宇宙の原子の数の逆数より、はるかに小さい。一様に一つ引いたら、単峰であることは実質的に起こらない。

検算 4.3:もっと弱い意味の構造でも同じである。$N=64$ の関数一つを書くには $384$ ビット要る。

$k$ ビット縮められる そういう関数の割合(上限)
$8$ $3.9062\times10^{-3}$
$32$ $2.3283\times10^{-10}$
$128$ $2.9387\times10^{-39}$
$256$ $8.6362\times10^{-78}$

観察 4.4 $k$ ビット縮められる対象は、多くとも $2^{-k}$ しかない。これは数え上げだけから出る。$2^{n-k}$ 個の短い記述しか無いのだから、それ以上は入らない。

観察 4.5 「構造がある」とは「短く書ける」ということである。そして短く書けるものは、定義からしてほとんど無い。一様測度の下では、構造は測度ゼロに近い。

観察 4.6 定理は正しく、そして測度の話である。一様に平均すればどの算法も同じ、その平均を支配しているのは、誰も出題したことのない関数たちである。

5. 分離子:何を最大にするかではなく、何の上で平均するか

観察 5.1 分離子、問題の集合にどの測度を入れるか。

測度 結論 正しさ
一様 どの探索も同じ 正しい
構造に偏る 構造を使う探索が勝つ 正しい

観察 5.2 二行は矛盾していない。同じ算法・同じ関数・同じ予算で、測度だけが違う。結論の違いは、算法の性質ではなく、問いの立て方から来ている。

観察 5.3 ここが論文311 と分かれる場所である。

何を動かすと結論が変わるか 圏
論文311 何を最大にするか 目的関数
本稿 何の上で平均するか 測度

観察 5.4 311 は効率と仕事率という二つの目的を並べた。本稿は目的を一つに固定したまま、問題の集合を替えている。論文300 の基準に当てると別根であり、翻訳は構成できない。

観察 5.5 論文300 は「値の一致だけでは同根と見なさない」と書いた。本稿の反転も同じ規律に服する。$186.18$ 倍と $0.9645$ 倍が同じ算法から出ることの理由が、区間の意味の有無として名指せている。

観察 5.6 正直に書くべき点、現実の問題がどの測度に従うかを、本稿は決めない。一様でないことは示せても、何であるかは示せない。そこは経験の領域である。

観察 5.7 最後に一つ、「ただ飯は無い」は、食堂の話ではなく、献立表の話である。定理が数えている献立の $\mathbf{10^{-113.79}}$ しか、我々が食べたことのある料理は載っていない。そして我々が実際に払っているのは、載っていない料理への代金である。

6. 点呼と結び

  1. $N=16384$ で $186.18$ 倍(検算2.1):単峰なら。
  2. $100.00\%$ で厳密最適(観察2.2):三分探索は外さない。
  3. $17\to44$ 対 $32\to8192$(観察2.3):対数と線型。
  4. 構造が無いと $0.9645$ 倍(検算3.1):同じ算法が負ける。
  5. 区間に意味が無いから(観察3.3):狭めるほど損。
  6. 測ったのは向きであって量ではない(観察3.5):収支は定理のもの。
  7. 単峰は $10^{-113.79}$(検算4.1):$N=64$ で。
  8. $k$ ビット縮まるのは $2^{-k}$(観察4.4):数え上げだけから。
  9. 測度だけが違う(観察5.2):算法の性質ではない。
  10. 311 とは圏が違う(観察5.3):目的関数と測度。

結び:ノーフリーランチ定理は「すべての問題で平均すれば、どの探索も同じ」と言う。定理は正しい。本稿が問うのはその平均が何の上で取られているのかであり、答はほとんど構造を含まない集合の上である。一山の関数に三分探索をかけると、$N=16384$ で $\mathbf{186.18}$ 倍速く、$\mathbf{100.00\%}$ の試行で厳密な最適に届く。評価回数は $17\to44$ と対数で増え、乱択は $32\to8192$ と線型で増えるので、規模を $256$ 倍にすると比は $1.88$ 倍から $186.18$ 倍にひらき、上限なく育つ。ところが同じ三分探索を、値が乱数の関数にかけると乱択に負ける。$\mathbf{0.9645}$ 倍であり、符号が反転している。区間を狭めることに評価を使うのに、その区間に意味が無いからである。これがノーフリーランチの帳尻が見えた姿である。ただし本稿が測ったのは二つの算法の一つの対であって、厳密な収支は定理のものである。示したのは向きであって、量ではない。そして平均される側を数えると、$N=64$ で単峰な関数は全体の $\mathbf{10^{-113.79}}$ しかない。もっと弱い構造でも同じで、$k$ ビット縮められる対象は多くとも $2^{-k}$ しかなく、これは数え上げだけから出る。「構造がある」とは「短く書ける」ことであり、短く書けるものは定義からしてほとんど無い。分けるものは一つ、問題の集合にどの測度を入れるか。一様なら「どの探索も同じ」で正しく、構造に偏るなら「構造を使う探索が勝つ」でやはり正しい。二行は矛盾しておらず、違いは算法の性質ではなく問いの立て方から来ている。論文311 が「正しい上界と予測に使える上界は別である」と書いた場所とは圏が違う。311 は何を最大にするか、本稿は何の上で平均するかであり、目的関数と測度は別根で、翻訳は構成できない。最後に一つ、「ただ飯は無い」は食堂の話ではなく、献立表の話である。定理が数えている献立の $\mathbf{10^{-113.79}}$ しか我々が食べたことのある料理は載っておらず、我々が実際に払っているのは、載っていない料理への代金である。

参考文献

  1. Wolpert, D. H. and Macready, W. G. (1997). No Free Lunch Theorems for Optimization. IEEE Transactions on Evolutionary Computation, 1(1).
  2. Schaffer, C. (1994). A Conservation Law for Generalization Performance. Proceedings of the Eleventh International Conference on Machine Learning.
  3. Li, M. and Vitányi, P. (2019). An Introduction to Kolmogorov Complexity and Its Applications, 4th edition. Cham: Springer.
  4. Igel, C. and Toussaint, M. (2005). A No-Free-Lunch Theorem for Non-Uniform Distributions of Target Functions. Journal of Mathematical Modelling and Algorithms, 3(4).
  5. 山岸勇輝 (2026). 代理を強く最適化するほど、目標が悪くなる場合がある [論文186]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22105530
  6. 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 比ではなく、対数を報告せよ [論文303]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172026
  8. 山岸勇輝 (2026). 正しい上界と、予測に使える上界は、別のものである [論文311]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22174391
  9. 山岸勇輝 (2026). どの次元が特別かは、問い方で変わる [論文315]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208139
  10. 山岸勇輝 (2026). カオスへの道は、写像が持っていない数を持っている [論文320]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209089
  11. 山岸勇輝 (2026). 三原色の「三」は、光の性質ではない [論文323]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209319

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「万能の探索が無いことは、問題をどう数えるかの帰結である」[論文324]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22209395

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 万能の探索が無いことは、問題をどう数えるかの帰結である [論文324]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/324 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22209395

Yamagishi, Y. (2026). That No Search Is Universal Follows from How the Problems Are Counted [Paper 324]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/324; DOI: 10.5281/zenodo.22209395

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