【論文339】彗星の尾は一本ではなく、別の力に引かれた二本である

要旨

彗星は太陽の反対側に尾を引く。本稿が問うのは、その尾は一本かである。答は、二本あり、引いている力が別であるである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、輻射圧と重力が釣り合う粒径を計算すると、半径 $\mathbf{0.2296}$ μm である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。その境目の前後で、同じ太陽が引く力から押す力に変わる(第2節)。

第三に、比 $\beta$ は粒径に反比例する。$10$ 倍大きい粒は $10$ 分の $1$ しか押されない(第2節)。

第四に、イオンの尾は太陽風に引かれ、傾きは $\mathbf{5.7106}$ 度にとどまる(第3節)。

第五に、太陽風が半分の速さなら、傾きは $11.3099$ 度になる。尾の向きが、風速を測る道具になっている(第3節)。

第六に、分離子は「電離しているか、いないか」である(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。輻射圧と重力の比 $\beta$、太陽風による電離ガスの掃き出し、ダスト尾の湾曲はいずれも標準的である。彗星核の物理を作らない。昇華、放出速度、核の構造には立ち入らない。触れるにとどめる。シンダインとシンクロンを計算しない。ダスト尾の形を粒径と放出時刻から再現する計算には入らない。境目の粒径と、力の向きだけを見る。磁気流体力学を扱わない。磁力線のドレープや切断現象(尾の断裂)には立ち入らない。個別の彗星を扱わない。特定の天体の観測記録は主題にしない。標準的な数値で計算する。ポインティング=ロバートソン効果を扱わない。長期の軌道進化には入らない。既刊との関係:論文328 は同じ楕円が三ヶ月ずれていたことが原因の違いの証拠になったと示した。そこでは同じ形の二つを位相で分け、本稿では同じ尾に見える二つを傾きと湾曲で分ける。どちらも「見た目が同じで別物」の型である。論文300 は同根か別根かは判定できると示した。本稿の二本は、判定に掛ければ別根である。論文325 は虹の角度に水滴の大きさが入っていないと示した。本稿はその逆で、ダストの尾では粒径がすべてを決める。入らない場合と、それしか入らない場合の対である。論文337 は太陽系の果てが五つあると示した。そこでも本稿でも、一つの名前が複数の物理量を覆っている。加えたのは$\beta=1$ の粒径を密度を明示して計算したこと、境目の前後で力の向きが逆転することを数で示したこと、イオン尾の傾きを太陽風の速さから出し、風速を変えたときの応答も出したこと、分離子を「電離しているか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:彗星が太陽に近づくと、核から気体と塵が噴き出す。どちらも太陽の反対側に流れ、尾になる。

観察 1.1 写真をよく見ると、尾は二本ある。一本は青くまっすぐで、もう一本は白く湾曲している。同じ核から同時に出ているのに、形が違う。

観察 1.2 太陽が及ぼす力は二つある。重力(引く)と輻射圧(押す)である。どちらも距離の二乗に反比例するので、比 $\beta$ は距離に依らない。

観察 1.3 本稿の測り方を先に固定する。ダストの密度を $\rho=2500$ kg/m$^3$、輻射圧効率を $Q=1$(完全吸収)、太陽光度を $L=3.828\times10^{26}$ W とする。$\beta$ は密度に反比例するので、密度の仮定を明示しないと粒径は決まらない。

問い:二本の尾は、何によって分かれているのか。

2. $\beta=1$ の粒径は、半径 $0.2296$ μm である

設定:半径 $s$ の球形の粒について、輻射圧は断面積 $\pi s^2$ に、重力は体積 $\frac{4}{3}\pi s^3$ に比例する。比を取ると

$$\beta=\frac{3LQ}{16\pi G M_\odot c\,\rho\,s}$$

となり、$\beta$ は $s$ に反比例する。距離が消えるのは、両方の力が $1/r^2$ だからである。

検算 2.1:$\beta=1$ となる粒径を求める(本稿で計算)。

量 値
$\beta=1$ の半径 $\mathbf{2.296358\times10^{-7}}$ m $=\mathbf{0.2296}$ μm
同 直径 $0.4593$ μm

観察 2.2 自己検査、通説では境目はサブミクロンとされ、計算値 $0.2296$ μm はその範囲に入る。密度を $1000$ kg/m$^3$(氷)に変えれば境目は $2.5$ 倍になるので、この数は密度の仮定つきである。

検算 2.3:粒径ごとの $\beta$ を並べる(本稿で計算)。

半径 [μm] $\beta$ 実効的な力
$0.05$ $\mathbf{4.5927}$ 斥力が勝つ
$0.1$ $2.2964$ 斥力が勝つ
$\mathbf{0.2296}$ $\mathbf{1.0000}$ 釣り合う
$1.0$ $0.2296$ 引力が勝つ
$10.0$ $0.0230$ 引力が勝つ
$100.0$ $0.0023$ 引力が勝つ

観察 2.4 これが本稿の芯である。同じ太陽が、粒の大きさだけで引く側にも押す側にも回る。$0.2$ μm の粒は太陽から飛び去り、$1$ μm の粒は太陽に落ちる。

観察 2.5 $\beta$ は $s$ に反比例するので、$10$ 倍大きい粒は $10$ 分の $1$ しか押されない。$0.229636$ 対 $0.022964$、大きい粒ほど重力に従い、彗星の軌道に沿って残る。

観察 2.6 だからダストの尾は、粒径ごとに散る。小さい粒は遠くまで押し出され、大きい粒は核の近くに残る。一本の尾に見えて、粒径で並んだ連続した帯である。

3. イオンの尾は、太陽風に引かれて $5.7106$ 度傾く

設定:気体分子は太陽紫外線で電離し、イオンになる。イオンは太陽風の磁場に捕まり、風とともに流される。

検算 3.1:彗星が軌道速度 $v_c$ で動いているとき、太陽風(速さ $v_{sw}$)に対して尾は傾く(本稿で計算)。

太陽風 $v_{sw}$ [km/s] 彗星 $v_c$ [km/s] 傾き $\arctan(v_c/v_{sw})$
$400$ $40$ $\mathbf{5.7106^\circ}$
$200$ $40$ $\mathbf{11.3099^\circ}$

観察 3.2 $5.7106$ 度は小さい。イオンの尾はほぼ正確に反太陽方向を指す。彗星がどちらへ動いていようと、尾は太陽から離れる向きにまっすぐ伸びる。

観察 3.3 この傾きは、光行差とまったく同じ形をしている。観測者(彗星)の速度と、届くもの(太陽風)の速度の比の $\arctan$ である。論文328 が扱った光行差 $\tan\alpha=v/c$ の、$c$ を $v_{sw}$ に替えただけである。

観察 3.4 太陽風が半分になると、傾きはほぼ二倍になる。$5.7106$ 度から $11.3099$ 度へ、つまり尾の傾きを測れば、太陽風の速さが読める。尾は、その場に行かずに風速を測る道具である。

観察 3.5 ダストの尾は、これとは別の理由で曲がる。ダストは磁場に捕まらないので、放出された時刻の軌道速度を保ったまま $\beta$ に応じて押される。一本一本の粒が別の軌道を描き、全体として湾曲した扇になる。

観察 3.6 二本の曲がり方の違いを表にする。

何に引かれるか 曲がる理由 粒径への依存
イオンの尾 太陽風 彗星の運動($5.7106^\circ$) 無い
ダストの尾 輻射圧 粒径ごとの $\beta$ すべて

4. 同じ尾に見える二つを、論文300 の基準で分ける

検算 4.1:論文300 の三基準に当てる。

基準 結果
恒等式を保つ対応があるか 無い。電磁的な曳航と輻射圧は別の式
同じ量が現れるか 現れない。$v_c/v_{sw}$ と $\beta(s)$
変数を動かして一致し続けるか しない。粒径を変えるとダストだけ動く

観察 4.2 三行とも別根を指している。粒径を変えてもイオンの尾は一切動かず、太陽風の速さを変えてもダストの尾は一切動かない。独立に動かせる二つである。

観察 4.3 色も違う。イオンの尾が青いのは一酸化炭素イオンの発光、ダストの尾が白いのは太陽光の散乱による。発光と散乱という、光の出方まで別である。

観察 4.4 正直に書くべき点、本稿の $\beta$ は完全吸収($Q=1$)を仮定している。実際の $Q$ は粒径と波長の比で振動し、粒径がミクロン以下では $1$ より小さくも大きくもなる。$0.2296$ μm は桁を示す値であって、精密な境目ではない。

観察 4.5 論文325 との対をなす。325 は虹の角度に水滴の大きさが入らないと書いた。ここではダストの尾の形が、粒径だけで決まる。入らない場合と、それしか入らない場合の対である。

5. 分離子:電離しているか、いないか

観察 5.1 分離子、その物質が電荷を持っているか、持っていないか。

電荷 従うもの 尾の形
イオン 有り 磁場(太陽風) まっすぐ
ダスト 無し 輻射圧と重力 湾曲

観察 5.2 分離子は、物質の種類ではない。同じ分子が、電離すればイオンの尾に行き、電離しなければダストと同じふるまいをする。一つの電子の有無が、行き先を決めている。

観察 5.3 分離子は動かせる。太陽から遠ざかって紫外線が弱まれば電離が止まり、イオンの尾は消える。ダストの尾だけが残る。二本は、独立に消せる。

観察 5.4 ダストの側にも、もう一段の分離がある。$\beta>1$ の粒は太陽系から放り出され、$\beta<1$ の粒は軌道に残る。同じダストの尾の中で、半径 $0.2296$ μm を境に運命が分かれている。

観察 5.5 正直に書くべき点、実際には第三の尾(ナトリウム尾)が報告されている。本稿は二本だけを扱う。「二本である」は主要な二本についての言明であり、尾の種類を数え尽くしたものではない。

観察 5.6 最後に一つ、尾が太陽の反対を向くという事実は、太陽風の存在の証拠だった。彗星がどちらへ動いても尾が反太陽を向くことから、太陽から何かが吹き出していると推論された。探査機が行くより前に、尾の向きが風を測っていた。

6. 点呼と結び

  1. $\beta=1$ の半径は $0.2296$ μm(検算2.1):密度 $2500$ kg/m$^3$ の仮定つき。
  2. $0.05$ μm で $\beta=4.5927$(検算2.3):斥力が勝つ。
  3. $\beta$ は粒径に反比例(観察2.5):$10$ 倍で $10$ 分の $1$。
  4. イオン尾の傾きは $5.7106$ 度(検算3.1):ほぼ反太陽方向。
  5. 光行差とまったく同じ形(観察3.3):$c$ を $v_{sw}$ に替えただけ。
  6. 太陽風が半分なら $11.3099$ 度(検算3.1):尾が風速計になる。
  7. 論文300 の三基準とも別根(検算4.1):独立に動かせる。
  8. 発光と散乱で、光の出方も別(観察4.3):色が違う理由。
  9. 電子一つの有無が行き先を決める(観察5.2):物質の種類ではない。
  10. $0.2296$ μm を境に運命が分かれる(観察5.4):ダストの中でもう一段。

結び:彗星は太陽の反対側に尾を引くが、その尾は一本ではなく、別の力に引かれた二本である。一本は青くまっすぐ、もう一本は白く湾曲している。同じ核から同時に出ているのに、形が違う。ダストを決めているのは、輻射圧と重力の比 $\beta$ である。どちらも $1/r^2$ なので比は距離に依らず、$\beta$ は粒径に反比例する。釣り合う粒径は半径 $\mathbf{0.2296}$ μm(密度 $2500$ kg/m$^3$ の仮定つき)で、その前後で同じ太陽が引く側から押す側に回る。$0.2$ μm の粒は太陽から飛び去り、$1$ μm の粒は太陽に落ちる。だからダストの尾は一本に見えて、粒径で並んだ連続した帯である。イオンのほうは太陽風に引かれる。電離した分子は磁場に捕まり、風とともに流れる。彗星の運動による傾きは $\arctan(40/400)=\mathbf{5.7106}$ 度にとどまり、尾はほぼ正確に反太陽方向を指す。これは光行差 $\tan\alpha=v/c$ の $c$ を太陽風の速さに替えただけの形であり、論文328 が扱ったものと同型である。太陽風が半分の速さなら傾きは $11.3099$ 度になるので、尾の傾きは行かずに風速を測る道具である。論文300 の三基準はどれも別根を指す。粒径を変えてもイオンの尾は動かず、太陽風の速さを変えてもダストの尾は動かない。色さえ別の理由で、イオンは発光、ダストは散乱である。分けるものは一つ、その物質が電荷を持っているか、いないか。分離子は物質の種類ではない。同じ分子が、電離すればイオンの尾へ、しなければダストと同じふるまいへ行く。一つの電子の有無が行き先を決めている。そして分離子は動かせる。太陽から遠ざかって紫外線が弱まれば電離が止まり、イオンの尾だけが消える。正直に書いておく。本稿の $\beta$ は完全吸収を仮定しており、実際の効率は粒径と波長の比で振動する。$0.2296$ μm は桁を示す値であって精密な境目ではない。また第三の尾(ナトリウム尾)も報告されており、「二本である」は主要な二本についての言明である。最後に一つ、尾が太陽の反対を向くという事実そのものが、太陽風の存在の証拠だった。彗星がどちらへ動いても尾が反太陽を向くことから、太陽から何かが吹き出していると推論された。探査機が行くより前に、尾の向きが風を測っていた。

参考文献

  1. Biermann, L. (1951). Kometenschweife und solare Korpuskularstrahlung. Zeitschrift für Astrophysik, 29.
  2. Finson, M. L., Probstein, R. F. (1968). A Theory of Dust Comets. I. Model and Equations. The Astrophysical Journal, 154.
  3. Burns, J. A., Lamy, P. L., Soter, S. (1979). Radiation Forces on Small Particles in the Solar System. Icarus, 40(1).
  4. Alfvén, H. (1957). On the Theory of Comet Tails. Tellus, 9(1).
  5. Brandt, J. C., Chapman, R. D. (2004). Introduction to Comets, 2nd edition. Cambridge: Cambridge University Press.
  6. 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 虹の角度に、水滴の大きさは入っていない [論文325]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209848
  8. 山岸勇輝 (2026). 同じ楕円が三ヶ月ずれていたことが、原因が別だという証拠になった [論文328]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22210340
  9. 山岸勇輝 (2026). 太陽系の「果て」は五つあり、最小と最大は 5106 倍ひらく [論文337]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22681940

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「彗星の尾は一本ではなく、別の力に引かれた二本である」[論文339]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22682041

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 彗星の尾は一本ではなく、別の力に引かれた二本である [論文339]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/339 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22682041

Yamagishi, Y. (2026). A Comet’s Tail Is Not One Tail but Two, Pulled by Different Forces [Paper 339]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/339; DOI: 10.5281/zenodo.22682041

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