要旨
候補が増えれば、最良を当てるのは難しくなるように思える。本稿が示すのは確率がゼロに落ちないことと、見送る割合と当たる確率という別々の量が同じ定数に収束することである。$n=10$ でも $n=10^{6}$ でも、約 $0.3679$ である。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、最適な見送り数は $n=100$ で $\mathbf{37}$、$n=10000$ で $\mathbf{3679}$ である(第2節)。
第二に、見送る割合 $k/n$ は $0.300000\to0.370000\to0.368000\to0.367900$ と $1/e$ に近づく(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。当たる確率 $p$ も $0.398690\to0.371043\to0.368196\to0.367911$ と、同じ $1/e$ に近づく。二つは別の量である(第2節)。
第四に、$n=10^{6}$ でも確率は $\mathbf{0.367880}$ で、落ちていない(第3節)。
第五に、$20$ 万回の乱数実験が理論値と $\mathbf{0.000203}$ で一致した(第3節)。
第六に、分離子は「最良を当てるか、良いものを取るか」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。秘書問題、$1/e$ 則、最適停止の解はすべて既知である。最適停止の理論を作らない。一般の停止問題や、変分不等式には立ち入らない。一つの古典問題の数だけを見る。採用を論じない。人事や配偶者選択への適用は主題ではない。形が同じであることを言うにとどめる。目的関数を変えない。「最良を当てる確率」だけを最大化する。順位の期待値や効用は別の問題であり、答も違う。情報の仮定を変えない。相対順位しか見えず、候補は一様ランダムな順で来て、引き返せないとする。$1/e$ の由来を証明しない。極限の導出は既知であり、本稿は有限 $n$ での数値を並べる。既刊との関係:論文364 は選択だけで平均が上がり幅が縮むことを示した。ここでは選択の規則そのものを最適化する。論文387 はいつ出るかが場所の外で決まることを示した。ここでもいつ止めるかが問題である。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。$k/n$ と $p$ は、その基準で別根でありながら同じ極限をもつ。論文379 は「二倍」に三つの答があることを示した。ここでは一つの定数が二つの役を負う。加えたのは、四つの $n$ で最適 $k$ と確率を数に出したこと、$k/n$ と $p$ が別々に同じ $1/e$ へ行くことを並べたこと、$n=10^{6}$ で $0.367880$ を出したこと、$20$ 万回の乱数実験で $0.000203$ の一致を確かめたこと、分離子を「最良か、良いものか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:$n$ 人の候補が一様ランダムな順で来る。相対順位だけが見え、引き返せない。 最初の $k$ 人を無条件に見送り、以後、それまでの最良を超えた最初の一人を取る。
$$P(n,k)=\frac{k}{n}\sum_{i=k+1}^{n}\frac{1}{i-1}\qquad(k\ge1),\qquad P(n,0)=\frac{1}{n}$$
$P$ は、取った一人が全体の最良である確率である。
観察 1.1 $k$ が小さすぎると、早すぎる相手を取ってしまう。$k=1$ なら二人目でほぼ止まる。$k$ が大きすぎると、最良を見送ってしまう。
観察 1.2 だから内点に最適がある。両端が悪い。論文385 と同じく、二つの単調な効き方の積である。
観察 1.3 直感では、$n$ が増えれば確率はゼロへ落ちるはずである。百万人から一人を当てる。本稿はそれが起きないことを数で示す。
問い:候補が増えると、当たる確率はどうなるのか。
2. 見送る割合と、当たる確率が、同じ数に行く
計算 2.1:各 $n$ での最適な見送り数と確率(本稿で計算)。
| 候補数 $n$ | 最適 $k$ | 見送る割合 $k/n$ | 当たる確率 $p$ |
|---|---|---|---|
| $10$ | $3$ | $0.300000$ | $\mathbf{0.398690}$ |
| $100$ | $37$ | $0.370000$ | $\mathbf{0.371043}$ |
| $1000$ | $368$ | $0.368000$ | $\mathbf{0.368196}$ |
| $10000$ | $3679$ | $0.367900$ | $\mathbf{0.367911}$ |
| 極限 | 、 | $\mathbf{0.3678794412}$ | $\mathbf{0.3678794412}$ |
観察 2.2 これが本稿の芯である。右の二列が、別々に同じ数へ収束している。片方は「何人見送るか」という手続きの割合、もう片方は「当たる」という結果の確率である。
観察 2.3 二つは別の量である。単位も意味も違う。それでも $1/e=0.3678794412$ という一つの定数が、両方の役を負っている。
観察 2.4 $n=10$ では両者が離れている。$0.300000$ と $0.398690$、差は $0.098690$。有限では別物であることが見える。
観察 2.5 $n=10000$ では差が $0.000011$ になる。$0.367900$ と $0.367911$、$n$ が千倍で、差は約 $9000$ 分の $1$ に縮む。
観察 2.6 論文300 の基準で別根である。一方は $k$ の選び方、一方は最良が来る位置の分布、同じ極限をもつことは、同根であることを意味しない。
3. 百万人でも落ちない
計算 3.1:大きな $n$ と、乱数実験(本稿で計算)。
| 条件 | 値 |
|---|---|
| $n=10^{6}$、$k=\lfloor n/e\rceil$ | $\mathbf{0.367880}$ |
| $n=100$、$k=37$(理論) | $0.371043$ |
| $n=100$、$k=37$($20$ 万回の実験) | $\mathbf{0.370840}$ |
| 差 | $\mathbf{0.000203}$ |
観察 3.2 百万人でも $0.367880$ である。$n=10$ の $0.398690$ から、わずか $0.03$ しか下がっていない。候補が十万倍になっても、確率はほとんど動かない。
観察 3.3 直感は外れる。「百万人から一人を当てるのは無理だ」。三回に一回以上、当たる。
観察 3.4 乱数実験が理論値と $0.000203$ で一致した。$20$ 万回、二項分布の標準偏差 $\sqrt{p(1-p)/T}=0.00108$ の範囲内で、閉じた式と独立に確かめられた。
観察 3.5 ずれの向きも一定していない。実験値のほうがわずかに小さい。系統誤差ではなく、統計揺らぎの大きさである。
観察 3.6 全体の最大は $n=2$ と $n=3$ の $0.500000$ である。そこから $n$ について非増加で $1/e$ へ落ちる。落ち幅は全部あわせて $0.1321205588$ しかない。二人から百万人まで、確率は二分の一と三分の一のあいだに収まっている。
4. 最適でなくても、そう悪くない
計算 4.1:$n=100$ での $k$ に対する確率(本稿で計算)。
| 見送り $k$ | 確率 $p$ | 最適比 |
|---|---|---|
| $1$ | $0.051774$ | $0.1395$ |
| $10$ | $0.234841$ | $0.6329$ |
| $\mathbf{37}$ | $\mathbf{0.371043}$ | $\mathbf{1.0000}$ |
| $70$ | $0.251179$ | $0.6770$ |
| $99$ | $0.010000$ | $0.0270$ |
観察 4.2 $k=10$ でも $k=70$ でも、最適の六割以上はある。$0.6329$ と $0.6770$、山は平らで、多少ずれても効く。ただし三分の二($0.6667$)を超えるのは $k=70$ のほうだけである。
観察 4.3 左右は対称ではない。$k=1$ で $0.1395$、$k=99$ で $0.0270$、見送りすぎのほうが、見送らなすぎより悪い。
観察 4.4 $k=99$ の $0.010000$ は $1/n$ である。最後の一人を機械的に取ることになる。偶然と同じ確率で、規則が何の役にも立っていない。
観察 4.5 論文385 と同じ形である。論文385 では二つの単調な項の積が内点に最大をもった。ここでも同じで、端点はどちらも悪い。
5. 分離子:最良を当てるか、良いものを取るか
観察 5.1 分離子、一位でなければ価値ゼロなのか、二位でも十分なのか。
| 目的 | 最適な見送り | 大きい $n$ での確率 |
|---|---|---|
| 最良を当てる | $n/e$ | $1/e$ に留まる |
| 順位の期待値を良くする | 別の規則 | 本稿の外 |
観察 5.2 目的が変われば答も変わる。本稿は「一位を当てる確率」だけを最大にしている。二位を取っても零点、という極端な採点である。
観察 5.3 $0.3679$ という数は、この採点表に固有である。採点を変えれば、$1/e$ は出てこない。定数のほうを先に覚えると、問題を取り違える。
観察 5.4 引き返せるなら、問題ではなくなる。全員を見てから選べばよい。難しさは候補の数ではなく、不可逆性から来ている。
観察 5.5 正直に言えば、$0.367880$ も $0.370840$ も、一様ランダムな順という仮定の下の値である。順に偏りがあれば全部変わる。動かないのは、$k/n$ と $p$ が別々に同じ定数へ行くことである。
観察 5.6 最後に一つ、「難しさは規模とともに増える」は、いつでも正しいわけではない。ここでは規模を十万倍にしても確率が $0.03$ しか落ちない。増えるのは見送る人数であって、失敗する率ではない。
6. 点呼と結び
- 最適 $k$ は $3$・$37$・$368$・$3679$(計算 2.1):四つの $n$ で。
- $k/n$ は $1/e$ へ(計算 2.1):$0.300000$ から $0.367900$。
- $p$ も同じ $1/e$ へ(観察 2.2):$0.398690$ から $0.367911$。
- 二つは別の量(観察 2.3):単位も意味も違う。
- $n=10$ では差が $0.098690$(観察 2.4):有限では別物と分かる。
- $n=10^{6}$ で $0.367880$(計算 3.1):落ちていない。
- 実験と理論が $0.000203$(計算 3.1):標準偏差 $0.00108$ の内側。
- $k=10$ でも $k=70$ でも六割以上(観察 4.2):山は平ら。$0.6329$ と $0.6770$。
- $k=99$ で $0.010000=1/n$(観察 4.4):規則が効いていない。
- 難しさは不可逆性から来る(観察 5.4):候補数からではない。
結び:候補が増えれば、最良を当てるのは難しくなるように思える。百万人から一人を当てるのは無理だ、と直感は言う。最初の $k$ 人を見送り、以後それまでの最良を超えた最初の一人を取る。$P(n,k)=(k/n)\sum_{i=k+1}^{n}1/(i-1)$ で、最適な見送り数は $n=10$ で $3$、$n=100$ で $\mathbf{37}$、$n=1000$ で $368$、$n=10000$ で $\mathbf{3679}$ である。見送る割合と、当たる確率が、別々に同じ数へ収束する。$k/n$ は $0.300000\to0.370000\to0.368000\to0.367900$、$p$ は $0.398690\to0.371043\to0.368196\to0.367911$。片方は「何人見送るか」という手続きの割合、もう片方は「当たる」という結果の確率であり、単位も意味も違う。それでも $1/e=\mathbf{0.3678794412}$ という一つの定数が、両方の役を負っている。$n=10$ では $0.300000$ と $0.398690$ で差が $0.098690$ もあり、有限では別物であることが見える。$n=10000$ では差が $0.000011$ になる。論文300 の基準では別根であり、同じ極限をもつことは同根であることを意味しない。そして確率は落ちない。$n=10^{6}$ でも $\mathbf{0.367880}$ で、$n=10$ の $0.398690$ からわずか $0.03$ しか下がっていない。候補が十万倍になっても、三回に一回以上は当たる。$20$ 万回の乱数実験は $0.370840$ で、理論値 $0.371043$ と $\mathbf{0.000203}$ の一致、二項分布の標準偏差 $0.00108$ の内側であり、閉じた式と独立に確かめられた。最適でなくても、そう悪くない。$n=100$ で $k=10$ なら $0.234841$、$k=70$ なら $0.251179$ と、どちらも最適の六割以上はある(比は $0.6329$ と $0.6770$ で、三分の二を超えるのは後者だけである)。山は平らで、多少ずれても効く。ただし左右は対称でなく、$k=1$ で $0.1395$、$k=99$ で $0.0270$ と、見送りすぎのほうが悪い。$k=99$ の $0.010000$ は $1/n$ そのもので、規則が何の役にも立っていない。分けているものは一つ、一位でなければ価値ゼロなのか、二位でも十分なのか。本稿は「一位を当てる確率」だけを最大にしており、二位を取っても零点という極端な採点である。$0.3679$ という数はこの採点表に固有で、採点を変えれば $1/e$ は出てこない。定数のほうを先に覚えると、問題を取り違える。また引き返せるなら問題ではなくなる。全員を見てから選べばよい。難しさは候補の数ではなく、不可逆性から来ている。正直に言えば、$0.367880$ も $0.370840$ も、一様ランダムな順という仮定の下の値であり、順に偏りがあれば全部変わる。動かないのは、$k/n$ と $p$ が別々に同じ定数へ行くことである。最後に一つ、「難しさは規模とともに増える」は、いつでも正しいわけではない。ここでは規模を十万倍にしても確率が $0.03$ しか落ちない。増えるのは見送る人数であって、失敗する率ではない。
参考文献
- Ferguson, T. S. (1989). Who Solved the Secretary Problem? Statistical Science.
- Lindley, D. V. (1961). Dynamic Programming and Decision Theory. Journal of the Royal Statistical Society, Series C.
- Gilbert, J. P., Mosteller, F. (1966). Recognizing the Maximum of a Sequence. Journal of the American Statistical Association.
- Freeman, P. R. (1983). The Secretary Problem and Its Extensions: A Review. International Statistical Review.
- 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『選択だけで平均は上がり、幅は縮む』[論文364]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697530
- 山岸勇輝 (2026). 『「二倍の温度」には三つの答があり、比が 2 になるのは一つだけである』[論文379]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22698802
- 山岸勇輝 (2026). 『撚りは繊維を荷重方向から傾けるだけなのに、撚らない糸の強度はゼロである』[論文385]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699091
- 山岸勇輝 (2026). 『いつ出るかは、その場所の中では決まらない』[論文387]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699131
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「候補が百万人でも、最良を当てる確率は 0.3679 のまま落ちない」[論文388]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699147
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 候補が百万人でも、最良を当てる確率は 0.3679 のまま落ちない [論文388]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/388 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699147
Yamagishi, Y. (2026). With a Million Candidates the Chance of Picking the Best Stays at 0.3679 [Paper 388]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/388; DOI: 10.5281/zenodo.22699147
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